第十七話 最強と最高
(=ↀωↀ=)<平成最後の更新
(=ↀωↀ=)<連続更新なのでまだの人は前話から
□■【遊迷夢実 ドリームランド】内部
緋色の刃が振り下ろされる瞬間を見ていた全員が、レイの死を悟った。
足を止めたレイ、回避の失敗、ついにしくじった綱渡り。
ガーベラも、ゼクスも、カーディナルAも、……ネメシスさえもレイが直撃を受けたと察した。
なぜなら、カーディナルAの腕は振り下ろされている。
神話級金属の赤熱刃は、まるでケーキ入刀のようにドリームランドの道に深々と差し込まれている。
その刃の軌道にあったレイの体は、両断されてしまっている。
すぐに彼の体は二つに分かれて、無惨に道に転がるだろう。
誰もが、そう思った。
「あいつ、……きゃあ!?」
可愛らしい悲鳴と共にガーベラが飛び退いたのは、その直後。
何かが飛んできて、咄嗟に避けた拍子に出た声だった。
「な、何なのよ……?」
ガーベラは狼狽えながら、自分の方に飛んできたものを見る。
それは……。
「…………え?」
それは――圧し折られた赤熱刃だった。
神話級金属が……市販のカッターナイフのように圧し折れていた。
『…………Gi?』
カーディナルAも、遅れて自らの異常に気づく。
自らの一部であるはずの左の刃を見れば、半ばから失われていた。
残った半分は地に切り込んでいるが、しかし獲物を捉えるはずの刃は残りの半分の軌道上。
ゆえに……。
『――右は、次で終わりだ』
「――分かった」
――両断されなかった敵手は、再度の攻撃に動いていた。
『⁉』
カーディナルAは、咄嗟に左腕で頭部を庇った。
本来であれば全身の防御力は均一であり、急所を庇う意味などない。
そもそも、この身を易々と砕けるはずもない。
だが、疑似的とはいえ生物ゆえの本能が、左腕を敵の攻撃に差し出していた。
直後、破壊音と共にカーディナルAの左腕が砕け散る。
神話級金属であるはずのその身が、氷像のように粉砕される。
『…………⁉』
カーディナルAは、混乱の只中にあった。
だが、敵手の……レイの左手にあるネメシスもまた混乱の中にある。
『れ、レイ……! その、右腕……!』
ネメシスが見たのは、レイの右腕。
それは内側から砕け散っていた。
骨は粉砕され、血管は弾け飛び、筋肉は断裂し、神経は異常を吐き出し続けていた。
もはやレイの右腕は、辛うじて腕の形をなした血袋でしかない。
それでもなお、彼の右手は《瞬間装備》で手にした一本の武器を握りしめている。
――純白の斧を、掴み続けている。
「……随分、あっちよりも反動が軽いじゃないか。二回振ってもまだ俺の右腕が残ってるぞ」
『然り。現在の我は制御が利き、現在は神話級金属を破壊するに足る程度の出力しか発揮していない。対して、現実の我は怨念と呪布により先代使用者に最適化されている。《選刃》は物理と闇属性に限定され、出力も今よりよほど高い。反動の差も歴然だ』
レイと純白の斧――夢の世界ゆえに現実の怨念と呪布を置き去りにした斧は、そんな会話を交わす。
一度振りかぶった時点で右腕が砕け散った現実の斧よりは反動が軽いと言っても、右腕は既に右腕ではない。
それこそ、司祭系超級職でもなければ回復は不可能なほどのダメージだ。
ティアンの戦士であれば再起不能の重傷。嫌悪されても当然のデメリット。
だが、レイはそれでもなお……笑って斧を掴み続ける。
己の体が砕けても、それでも前を見ていた。
いつかの【獣王】との戦いのように。
『れ、レイ……これは、あの斧を?』
「ああ。……ネメシス、右と左で持ち替える。落ちないように、お前の方からしがみついててくれ」
『……うむ!』
レイの言葉にネメシスが応じ、ネメシスは右手に、斧が左手に移る。
同時にネメシスが僅かに形状を変えて、レイの右手に自らを固定させる。
「さて、あの【スラル】を倒せる可能性は出てきたが、左手で振れるのもあと二回か」
神話級金属を砕く斧の力に浮かされもせず、右手の損傷も今は気に掛けず、レイは勝つための思考を回す。
反動ダメージを考えれば二回だが、【出血】などの傷痍系状態異常でHPの継続低下も発生している。
最悪、二度振るう前に命が尽きる。
対して、あちらは左腕を失ってもまだ右腕と尾がある。
同じように庇うだけで、レイは二回の攻撃チャンスを使い切る。
また、これまでは回避する必要がないためにその身で受けてきたカーディナルAだが、斧の攻撃力を見た時点で回避を実行してもおかしくはない。
空振りでも同様に反動ダメージは与えられる。
頭部や胴といった急所を二回振る間に破壊できるかは、賭けだった。
『……Gi』
カーディナルAもレイに対して思考する。
突如として自らに届く攻撃力を解禁したが、それが諸刃の剣ならぬ諸刃の斧であることは一目でわかる。
このまま逃げに転じれば、継続ダメージだけで死ぬだろう。
だが、逆に一度でも攻撃を当てればその時点で勝負がつく。
このときにカーディナルAが考えたのは、最初に使われた《シャイニング・ディスペアー》のことだ。
あの熱線とこの斧、既に二度も隠し玉を出してきた相手。
逃げに徹して時を置けば、さらなる隠し玉を使ってきかねない。
最悪、カーディナルAではなく創造主である【怠惰魔王】ZZZに牙が届く。
それだけは避けねばなるまいと、カーディナルAは守勢ではなく攻勢を決定する。
射程の長い尾を使い、攻防一体の攻撃で仕留めんとする。
「……ところで、斧」
『何か』
「さっき、最適化とか物理と闇属性に限定とか言ってたが、お前ってもしかして……」
お互いに殺傷しうる手段を手にしたことで、殺し合いへとステージが上がったこの瀬戸際に、レイは三度目の質問を斧に行った。
「……じゃないか?」
『然り。ゆえに我が理は『絶対消滅』なり』
「なるほど。だったら……」
斧の回答にレイが一つの活路を見出したとき、カーディナルAが動いた。
伸長した尾刃により、レイの首を落とさんとする。
ここで仕留められれば最善、諸刃の斧を使わせれば次善、回避で体勢を崩しても良し。
どう転んでも、カーディナルAにとっては状況を好転させる一撃。
その結果は、
「――つまり、こういうこともできるってわけだ」
――レイが振るった斧でカーディナルAの尾刃を切り飛ばす、次善の結果となった。
『Gi……!』
好機と見て、カーディナルAが距離を詰める。
右腕の刃を前に刺し出しながらの突撃。
迎撃に斧を振るえばそれでレイには打つ手がなくなり、死に体になった状態を頭部の刃で串刺しにできる。
――しかし、カーディナルAは咄嗟にその足を止めて、後方に飛び退いた。
そうさせたのは、やはり本能。
何かを致命的に間違えたという予感が、カーディナルAにその行動をとらせた。
そして飛び退いたカーディナルAの右手があった場所を、白い斧の刃が空振りで過ぎ去った。
尾で一度、空振りで一度。
これによって左腕で斧を振るえる回数は使い切った――
――はずだった。
「やっぱりいけるな……これ」
だが、レイの左腕は……いまだ無傷でそこにある。
出血もなく、砕けてもいない。
代わりに……左腕全体が黒い布に包まれている。
『……Gi?』
カーディナルAには理解できない。
あれは反動がある、デメリット武器の一種ではなかったのかと。
だが、次いで一つのことに気づく。
それは、先刻断ち切られた自らの尾。
その断面が……赤熱していた。
まるで、初手でレーザーに撃ち抜かれたときのように。
左腕を砕かれた物とは明らかに違う傷、熱量による熔断。
それをなしたのは……。
『――《選刃・光》』
――やはり、純白の斧。
しかし斧の色は白であったが、元の純白とは異なっている。
まるで【剣聖】の《レーザーブレード》のように、白い輝きを刃に纏わせていた。
◇◆
《選刃》。
それこそが【アルター】と並び、傑作となりうる可能性があった斧の力。
あらゆる存在・エネルギーを切り捨てる『絶対切断』の【アルター】。
対して、斧の理は『絶対消滅』。
――正反対のエネルギーをぶつけることで、あらゆる事象を対消滅させる。
斧はティアンや<マスター>にとって未知のモノも含め、全属性の力を使用できる。
あらゆる事象へのカウンターウェポン。
そして相手と対になる属性でなくとも……純粋なエネルギー量で対象を破壊することは可能だ。
光熱によって対象を焼き焦がし、蒸発させる光属性の力もまた同じ。
しかし、それを使えば使い手もまた肉が蒸発するほどの光熱を受けることになる。
デメリットを与える諸刃の力は不可避である。
何者も、自らが振るう武器の仕組みから逃れることはできない。
――だが、受け止めることはできる。
◇◆
「……上手く嵌るもんだな」
レイは自らの左腕を見ながら、そう呟く。
左腕を包む黒布こそは……【黒纏套】。
そう、光を完全に吸収する特典武具だ。
今の二度の使用でも、反動は斧から腕に伝わっている。
だが、【黒纏套】が光属性の反動を受け止め、吸収している。
加えて、左手の【瘴焔手甲】は《煉獄火炎》の放射機構ゆえに高い耐熱性を持つ。
光熱と空間の余熱、その両方を二つの特典武具でほぼ受けきっていた。
即ち、他の属性はともかく光属性の力だけはほぼデメリットなく使用できるということだ。
「これで反動を気にせず戦える」
これでレイとカーディナルAの戦いは五分の状況。
お互いに致死の攻撃力を持ち、先に相手の命を仕留めた方の勝ちとなる。
『どうにも……急に状況が変わりすぎて私も飲み込めぬ』
ネメシスは、斧が現れてからの状況の怒涛の変化に、そんな言葉を漏らす。
自身では破壊することが叶わなかった神話級金属を、斧は容易く破壊しているのも気になる。
レイの武器として何だか彼を取られてしまったような気持ちもあり、若干の妬心が生じ掛けていた。
『……いつか攻撃力で負ける武器が来るとは思っておったが、少しきついものだのぅ』
『最強たらんとして生まれた我が力に若輩の武器が劣るは必定』
『誰が若輩か! 喧嘩売っておるのか白い新入り!』
『若輩は事実であるし、喧嘩とは同レベルの者同士でしか発生せず。理解を求める、黒色若輩』
『言わせておけばー!』
「……右と左で言い争いしないでくれるか?」
二人(?)の言い合いに挟まれて、レイは苦笑しながら窘める。
既視感のあるやりとりを思い出し、『白いの相手だとネメシスってこうなるのか?』と思いもする。
『だが、だがレイよ! さっきからこやつばかり使われておるし! それにこやつが来たせいで進化が止まってしまった気がするのだが!』
「焦るなよ」
ネメシスの中で萌芽しかけた何かが、再び眠りについたことを<マスター>であるレイも感じていた。
だが、それでもいい。
既に、可能性は掴んでいる。
「今の戦いの勝利への可能性も、俺とネメシスの新たな可能性も、もう見えてるだろ?」
だからこそ、今はこの手札で……勝利へと歩を進めるのみ。
『だがのぅ……、その、さっきから斧が最強すぎて……私の立場が……』
「ハッハッハ」
『笑うでないわ!』
『笑止』
『笑止もやめい!』
自らの言葉をレイと斧の両者から笑われて、ネメシスは精神的に涙目になる。
だが……。
「それこそ焦る必要なんかないぞ」
『え?』
「だってよ、こいつが俺の最強の武器だとしても、俺が使う武器なら……」
レイはニッと笑みを浮かべながらそう言って、
「――ネメシスが最高だ、だろ?」
――いつかの言葉を、今度は心から口にした。
『……うむ!』
その言葉に、ネメシスは歓喜と共に応じた。
斧は何も言わなかったが、しかし時間を重ねてきた主と武器のやり取りを、少しだけ羨ましく見ていた。
いつかは自分もかくありたいと思いながら……。
「さぁて、と……」
話を終えて、レイはカーディナルAに向かい合う。
尾を失い、光熱の刃への切り替えで見に回っていたカーディナルAも、既に状況の分析を終えている。
恐らくは、万全の勝ち筋を持った上でレイに向かってくるだろう。
だが、レイもまた万全だ。
「それじゃあ……勝ちにいこうぜ!」
『応!』
『然り』
光を喰らう黒衣に包まれた左手には光熱によって必滅を齎す純白の斧。
血塗れで傷だらけの右手には彼が最も信頼する漆黒の大剣。
鬼の籠手を嵌めた両の手に、己が持ちうる最強と最高を携えている。
そしてレイは……カーディナルAとの最後の攻防に臨んだ。
To be continued
(=ↀωↀ=)<今回のレイ君
(=ↀωↀ=)<特別ゲストというかフライング参戦の斧がいるので
(=ↀωↀ=)<装備的には最終フォーム二歩手前くらい
(=ↀωↀ=)<ちなみに喋る武具勢の一人、ガルドランダですが
(=ↀωↀ=)<夢の中では召喚されてないので会話に加われませぬ
( ꒪|勅|꒪)<……喋らないけど【モノクローム】も意思あるらしいかラ
( ꒪|勅|꒪)<あいつ、四人も装備してやがル……
備考&蛇足
○本来の斧
全属性使用可能。
全属性複合可能。
最大出力未知数。
ただし現在は怨念と呪布で機能制限。
また、それがなくとも出力に伴う反動によって最大出力は理論上発揮不可能。
歴史上、最大出力を試そうとした者もいないわけではない。
だが、出力を上げていく過程で斧のエネルギーそのものに耐えられずに爆散し、振るうことすらできていなかった。
レイVSレイレイの決着が、より高い出力で再現されるようなもの。
レイが扱えている光属性にしても、出力を上げ過ぎれば腕から伝わる反動ではなく、刃が発する光熱の余波で【黒纏套】に覆われていない部分が焼け死ぬ。
どうしても使いづらいが、出力を抑えた状態の光属性でも神話級金属の溶断は可能。
でもやっぱり反動ある時点でレイレイのエデンとは相性最悪。




