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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Ⅵ-Ⅶ King of Crime

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第十二話 【遊迷夢実 ドリームランド】

(=ↀωↀ=)<活動報告の方でエイプリルフール企画があります


(=ↀωↀ=)<今日の日付変わるころに解答編です

 □【呪術師】レイ・スターリング


 かれこれどれくらい夢の中を歩いただろうか。

 夢の道の周りにカラフルな雲が密集していることもあり、進んだ距離が分かりづらい。

 ガルドランダや斧に見せられた夢の前例からすれば、夢の中の時間と外部の時間は同じではない。

 恐らくは夢の中の方が早く進むはずだ。


「というか、そうじゃないと今は体の方が死にかねない」


 この空間では各種ウィンドウさえ呼び出せないので確認できないが、体の方が【スラル】に襲撃されているかもしれない。

 最悪、夢の中を彷徨っているうちにデスペナルティ……ということもありえる。


「……でも、今は進むしかないか」


 起きようと強く念じても、自分を攻撃しても、目覚めることはできなかった。

 眠りに落ちる前に【快癒万能霊薬】や《逆転》さえも無効化されていた。

 強固な眠りの原因がこの道の先にあるのかは分からないが、それでも状況の変化を望むならば少しでも前に進まなければならない。


「前向きねー……」


 夢の中の同行者であるガーベラは、何だか死にそうな顔をしているがついて来ている。

 彼女の表情がそこまで暗い理由は、夢に囚われた事だけではない。

 この夢の中に彼女の<エンブリオ>……ガードナーがここにおらず、しかもどういう理由か武器さえも取り出せなかったからだ。

 うちのネメシスはいるのに、なぜ彼女の<エンブリオ>はいないのか。

 不明なことは多い。


「うぅ……戦う力もないし……デスペナになってあそこに逆戻りかも……」


 遠方でセーブしたのだろうか?


「まあまあ。体の方はともかく、夢の中なら俺が戦うから任せてくれ」


 敵が出るかは分からないが、今回は夢の中にネメシスもいるので戦うことはできるはずだ。


「でも、索敵だけは手伝ってほしい」

「索敵……」

「さっき事情を聞いたとき、狩人系統をいくつか取ってるって言ってただろ?」

「ああ、うん……。まぁ、分かったわ……」

「助かる」


 ここまで訳の分からない空間だとどこから何が飛び出してくるかも予測がつかない。

 警戒する人間は多いに越したことはない。

 そうしてまた先に進み始めて、ふと気になった。


「そういえば最初見たときに大怪我してたけど、何があったんだ?」


 あのときってまだ【怠惰魔王】は襲撃してなかったはずだしな。

 一体何があってあんな大怪我をしていたのか。


「……………………」


 ガーベラは天を仰ぎ、何事かを考えていた。

 それはどう説明するか悩んでいるようだったが、なぜか足が震えている。

 ……そうして、彼女は悩んだ末に答えを返してきた。


「……ど、ドリルに巻き込まれて」

「あんな森の中でドリルに⁉」


 どういう経緯でそんなことに⁉

 まさかここでも<遺跡>が出土したのか⁉


「だ、だいじょぶだいじょぶ……ただの<エンブリオ>との接触事故だから……」

「怖い事故だな……」


 想像しただけで血の気が引くぞ。

 ドリルの<エンブリオ>もそりゃいるだろうけど……。

 そういえばハンニャさんのサンダルフォンもドリルっぽくなるな。

 まぁ、ハンニャさんはギデオンにいるだろうから関係ないけど。


「御主も色々あったが、ドリルに巻き込まれたことはないのぅ」

「そうだな。体が砕け散ることは最近何回もあったけど」

「えぇー……」


 ガーベラが引いていた。

 だが、【獣王】やら斧やらで、近頃は頻繁に体が砕ける。

 ネメシスの進化に変な影響が出ないか少し心配だ。


「……うちのオーナー以外にもいるのね、よく体が砕ける人」

「?」


 オーナーってあの女の人か?

 あの人の体が砕ける?

 ああ、でも女化生先輩並に回復能力あるならいけるか。女化生先輩もフィガロさんに切り飛ばされた腕を治したりしていたし。


「のぅ、レイ、ガーベラ。あれは何だと思う?」


 そんなことを話しているとネメシスが右側……曲がりくねった道の外を指差した。

 そこにはいつの間にか、長方形型の雲が浮いている。

 明らかに不自然な形であり、俺達の注意はそちらに向けられる。

 すると、その雲が光り……あたかも街頭テレビのように映像を映し始めた。


『…………』

 そこに映っていたのは……一体のバクだった。


 正確には、バクの着ぐるみを着た人物だった。

 見覚えはないが既視感はある。

 言うまでもなく、うちの兄だ。


「……そういえば、前に兄貴からも聞いてたっけな」


 兄が知る限り、着ぐるみを常用している<超級>は兄やフィガロさん以外に四人いる。

 その内の一人がレジェンダリアにいるとも聞いていた。

 名は確か……ZZZだったはずだ。



『こんにちは。ぼく、ド○えもん』



 だが、映像のバクが名乗った名前は全然違った。

 というか、ツッコミどころしかない名前だった。

 率直に言って、駄々滑っている。


「いや、猫の着ぐるみを着て言えよ。せめて狸」

「馬鹿なんじゃない……?」

「……こちらでも度々聞く名前だのぅ、ド○えもん」


 三者三様の反応を返すと、自称ド○えもんはうんうんと頷いた。


『ええ、そうです。ぼくはド○えもんではありません。ZZZです。【怠惰魔王】です。やったね。うわぁーい。でもどら焼きは好きー。こっちにもあるからいいよねー』


 バクは譫言のように寝惚けた口調でそう言った。

 まるで徹夜続きのような、どこかバランスの悪い精神状態のようにも感じられる。

 だが……。


『ところで《真偽判定》を持っている人がいたら確認するけど、機能した?』

「…………え?」


 ガーベラが首を傾げ……ハッとしたように目を見開く。

 狩人系統の【罠狩人】は罠を設置するジョブであると共に、罠を見破るために《真偽判定》もスキルレベルは低いが持っていると聞いた。

 ならば、あの明らかな偽名に対して……《真偽判定》は効かなかったということか。


『はいはーい。それも含めてこれから夢の世界(ドリームランド)のルール説明です。説明面倒ですが、いくつかのスキルの発動条件なので説明しないとだめです。誰かに任せたいなー。でも説明は僕しかできない縛り……めんどいよーめんどいー。同時中継でもめんどいー……』


 バク……ZZZはどこかから取り出した枕に顔を埋めながら、面倒くさそうにしている。

 だが、仕方ないというように話を再開しはじめた。


『まず、この夢の世界では、感覚系のスキルが機能不全を起こしますよー。まぁ、夢ですからね。素の感覚で頑張ってください。夢なので痛覚と味覚と嗅覚はないですけど。もう食べられないよと食べる必要ないです。味しません。でも触覚はあります。視覚もあります。聴覚もあります。だけどエッチな夢じゃないです。の○太さんのエッチー』


 何がだ。

 ツッコミを入れようにも、早口で隙が無い。

 面倒くさがっているわりにがっつり話してる。

 あるいは、面倒だからさっさと終わらせようとしているのか。


『次に、意思のないものは持ち込めません。まぁ、完全器物でも<エンブリオ>なら大丈夫ですが、普通の装備品はあるように見えるだけで存在できません。逆裸の王様です。服かと思ったら地肌に触れますよ。の○太さんのエッチーパートツー』


 ……こいつはド○えもんが好きなのか嫌いなのか。


「……いや、だから<エンブリオ>なのにうちの子がいないんだけど?」

『知りませんよパッドさん。じゃあ次々』

「誰がパッドよ!?」

『あ、ごめんね。パッドも今ないんだよね。よかったね。見た目変わらなくて。胸がストーンしなくて』

「……ぶっ殺す!」

「落ち着け! あれは映像だ! 道から落ちるぞ!」


 武器がないので素手で飛び掛かりそうになっていたガーベラをなんとか抑える。

 ステータス的には大差ないらしく、結構苦労した。【瘴焔手甲】のSTR補正無かったら止められなかったかもしれない。

 ……ん? 何か……肌の感触が。


「この夢の中では装備が見た目だけと言うのなら、素肌にホログラムみたいなものではないかのぅ……」

「「…………」」


 そっとガーベラから体を離すと、映像のZZZに振り上げていた拳が俺の顔面に落とされた。解せぬ……。


『注意したばっかりなのにー。あ、そうだ。言うの忘れてたし分かってるだろうけど、君らを眠らせたのはぼくのドリームランドね。眠る条件はドリームランドに触れることー。あの不思議カラーのオーラです。我ながら目が痛いー』


 ZZZはバクの着ぐるみ越しに呆れたような視線を寄越しながら、説明を続行した。


『ドリームランドには射程距離があります。ぼくやぼくの被造物……まー、最近は【スラル】だけど、そいつらが周りからいなくなったら目覚めることができます。さーちあんどですとろーいしてね。ねてるからできない』


 あの【スラル】達は、ドリームランドの力を飛ばすアンテナのようなものか。

 そしてアンテナがある限り力は途切れず、目を覚ますことはできない。

 ……待て、それってどう足掻いても眠ったまま殺されるんじゃないか?


「……フッ。残念だったわね、寝惚けバク。うちのアプリルは(多分)寝てないわ! ロボットだもの! 煌玉人だもの! すごく強いわよ! 今頃は【スラル】とかいうバケモノ共を蹴散らしてるはずよ!」


 だが、ガーベラがZZZに指を突きつけながらそう言い放った。

 先ほどまでのダウナーさは先刻のパッド云々の怒りでどこかにいっているらしい。

 あと自分がどうこうじゃなくて、他力本願なこと言ってるから強気な可能性もある。


『ふーん』


 だが、そんなガーベラの言葉にも……ZZZは特に思うところはないようだった。

 自身の戦術を覆されかねないというのに、一切動じていない。

 何かあるのか?


『最後に、この夢の世界で死ぬとアバターがデスペナになります』

「え!?」


 ガーベラが驚いて聞き返すが、ZZZは構わずに映像の向こうで手を振っている。


『説明終了。それではみなさんさようなら。ぼくはぐっすり眠ります。ぐーぐーすやすやグッドナイト』


 映像は消えて、画面代わりの雲は雲散霧消した。

 後に残された俺達は、何と言っていいのかも分からない。


「……なんかキャンディより捉えどころない奴だったわ」

「キャンディ?」

「…………あ。……え、えーっと……ほら、飴ってうっかり落としちゃうから」


 なんだか目が泳いでいるが……。


「砂がつくと悲しいのでよく分かるのぅ……」

「……お前、落とした飴食ったりしてないよな?」

「…………しておらぬ」


 顔を背けているので、少し怪しい。

 こいつの場合、『飴なら水で洗えばセーフ!』とかやってそうだな。


「それにしても、あのバク……何で説明したの? 手の内を明かすなんてバカのするこ……と……」


 そう言った後、なぜかガーベラはまた頭を押さえて蹲った。

 耳を澄ますと、震えた声で「昔の私のバカぁ……」と言っているのが聞こえた。

 昔、何か失敗したのだろうか?


「まぁ、何で説明したかと言えばそれがスキルの発動条件で、……ここが夢だからだろうな」

「夢だから?」

「周りの景色、さっきよりもハッキリしているだろ?」


 周囲を見れば、周りの雲が……視界の不確かな部分が晴れている。

 それにいつの間にか道も空中に浮いてこそいるものの、真っすぐになっていた。


「多分、俺達がここのルールを説明されたからだ。俺達の頭の中にない情報を新たに教えられたことで、俺達の頭の中でもこのドリームランドが成立し始めたってところか」


 夢は、脳内の情報を整理する際に見るものだと言われている。

 デンドロで見る夢がリアルの夢と全く同じかは分からないが、ドリームランドと名を冠された力が夢の原理を含んでいる可能性はある。

 スキルを使うのに説明が必要、というのはそういうことだ。

 そして俺達にドリームランドの情報を伝えたことで、このドリームランドは本領を発揮し始める。

 恐らくはそういうことなのだろう。

 だが、風景がクリアになった以外は、今のところは変化が見られない。


「……まぁ、何にしても待っていれば起きられるのは分かったわ」

「ああ。さっき言っていたアプリルって煌玉人のことか」


 煌玉人。先日、インテグラからも名前は聞いている。

 フラグマンが手掛け、人工知能を搭載したスタンドアローンの機械人形だと。

 カルチェラタンの<遺跡>から現れた煌玉兵は、煌玉人の量産型として作られたとも聞いた。

 ……しかし、あの一見すると人間にしか見えないアプリルから、どうすれば量産の段階で煌玉兵になるのかは分からない。

 煌玉馬からセカンドモデルよりも外見の差が激しい。


「ええ。さっきの説明が嘘でなければ、アプリルが【スラル】を全部片づけてくれるもの。そしたら起きられるわ。……今更だけど他力本願ねー」

「だが、あっちには神話級金属の【スラル】もいるぞ」


 地竜を模した緋色の【スラル】。あれは間違いなく別格の強さだ。


「神話級金属って言っても、硬いのが利点の相手なんてアプリルのカモだもの……」


 ガーベラは緋色の【スラル】を脅威には感じていない様子だった。

 恐らく、俺の知らない相性の良さがあるのだろう。

 であれば、彼女の言うように待っていても起きられるかもしれない。


「…………」


 だが、奇妙な不安があった。

 本当に、待っているだけで助かるものなのだろうか、と。

 相手は<超級>にして、【魔王】。二つの頂上に到達した手合い。

 それが『眠らない相手がいる』、『神話級金属に対処できる』だけで簡単に攻略されるのだろうか?


「それに……」


 それに、アイツははっきり言っていた。

 『夢の世界で死ぬとデスペナになる』、と。

 つまりは……この夢の中にも俺達を死に至らせる要因があるということだ。


「兎に角、待っているだけじゃまずそうだ。この夢の中で俺達にできることがないかを……」

「レイッ!」


 そのときだった。

 警告するような鋭い声音と共に、ネメシスが大剣に変じて俺の掌中に収まる。

 その動作が意味することを、俺はよく知っていた。


「敵か!」

『ああっ! 上だ!』


 見上げれば、小さな点のような影が見えた。

 雲が晴れて視界がクリアになったからこそ、その落下がはっきりと見える。


「ガーベラは下がってくれ!」

「……言われなくても下がるわよ……!」


 その間にも、上空から落下してくる点は大きくなってくる。

 やがてその形も……色までも、視認できた。

 視認、できてしまった。


「どういう、ことだ……!」


 俺が目視した情報に疑問を持つ間に、それは俺達の前方数十メートルの位置に落下した。

 夢の道が揺らぐことはなかったが、それでも落下地点は幾らか砕け、罅割れている。


『……Gi』


 着地で舞い上がった粉塵の先に……緋色の巨体が見え隠れする。

 落下してきたそれは……剣を生やした竜に酷似している。


「……何で、夢の中(ここ)に?」


 それは紛れもなく――あの神話級金属の【スラル】だった。


 外にいるはずのモノがこの夢の中にも存在し……俺達に狙いを定めていた。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<ストック切れ及びスピンオフ漫画の脚本作業優先のため


(=ↀωↀ=)<次回更新はお休みさせていただきます

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