第十話 【魔王】の力
■【魔王】について
レドキングを始めとする管理AIが作り上げた<神造ダンジョン>は、三種存在する。
一つ目は、<墓標迷宮>。
この世界を審査する先代管理者の遺した遺物、それを封じ込めるために作られたダンジョン。
二つ目は、“監獄”の<神造ダンジョン>。
“監獄”に収監された<マスター>達にゲームを楽しませるために用意されたダンジョン。名前も定められておらず、様々なダンジョンの要素を混ぜ合わせている。
そして三つ目が、【魔王】の<神造ダンジョン>。
管理AIが管理する前から存在した魔王転職用ダンジョンに、重ねるように作られたダンジョンだ。
先代と今代の管理者による二重構造であるため、極めて高難易度のダンジョン。
しかし、それを制した者は超級職である【魔王】シリーズに転職できると伝えられている。
この【魔王】とは言わば、特別な血筋や才能を要求される特殊超級職の真逆の超級職である。
超級職に要求される様々な才能を無視した超級職だ。
当代一名という条件は他の超級職と同じであるものの、ダンジョンを制した者であれば、誰であろうと就くことができる。
しかし、制覇して【魔王】を得た者は極めて少ない。
三強時代以前に現れ、最終的に当時の【勇者】によって倒された【憤怒魔王】など数えるほどしか出現していない。あるいは、出現しても知られていない。(逆に、数少ない有名例である【憤怒魔王】の逸話は現代においても芝居として上演されてもいるが)
ただしそれは<マスター>の増加……<Infinite Dendrogram>のサービス開始前の話だ。
◆
七つあるという魔王転職用ダンジョンは、複数がレジェンダリア内に存在する。
天地の<修羅の奈落>、カルディナの<貧富の墳墓>、ドライフの<淫魔の宮>、所在地不定の<優越の天空城>を除く三つがレジェンダリアに存在する。
<飢餓の山脈>、<悋気の水底>、そして<安寧の流刑地>の三つだ。
その配置は、管理AI達にもどうしようもない。
元よりレジェンダリアに集まっていたのだから、重ねて作ればそうなってしまう。
レドキング達もバランスが悪いとは感じたものの、仕方がない。
このように配置した意図は、先代の管理者に聞かなければ分からないのだから。
領土内に三つもの魔王転職用ダンジョンがあったとしても、レジェンダリアにとっては特に問題がなかった。
<神造ダンジョン>はそこにあるだけのものだ。
レジェンダリアの中でも僻地にしかなく、しかも自然発生ダンジョンのように内部からモンスターが出てくることもない。
時折【魔王】の力を得るために実力者が向かい、二度と帰らないだけの場所である。
攻略難度の高さゆえか、レジェンダリア内で【魔王】に就いた者も記録上は存在しない。
ゆえに、何もない場所である。
触らぬ神に祟りなし、ということだ。……【魔王】であるが。
しかしながら、状況は変わる。
近年、レジェンダリアにとって不幸なことが二つあった。
第一に、<マスター>の増加。
死しても三日後には帰還する<マスター>の性質。
それによって、ダンジョンの難易度が大きく変わってしまった。
攻略に先代管理者が仕掛けた初見殺しの要素も多く含み、歴史上数えるほどの制覇者しか生きて帰ることができなかった魔王転職用ダンジョン。
しかし、<マスター>は情報を持ち帰れる。
実力だけではクリアできなかった三つの<神造ダンジョン>は、これによって少しずつ丸裸にされていった。
第二に、制覇者。
情報が集まった後は、制覇できるだけの実力があれば制覇できる状況だった。
だが、伊達に<神造ダンジョン>ではなく、それでもまだ難しい。
また、魔王転職という用途の都合か、人間範疇生物がパーティを組むと難易度が桁違いに跳ね上がる仕様であり、ソロ攻略を求められたことも攻略の難化に一役買っていた。
つまり情報だけでなく、ソロでクリアできるだけの実力が必要だったのだ。
<超級>含め、レジェンダリアに属していた<マスター>にそこまでの単独かつ直接的な戦闘力を持つ者は多くなかったのである。
だが、それはあくまで……属する者の話だ。
今現在、レジェンダリア内の三つの魔王転職用ダンジョンは全て攻略されている。
それを為したのは、レジェンダリアにいながらレジェンダリアに属さない者。
――レジェンダリア内の指名手配犯達であった。
新たに生まれた三人の【魔王】全員が、既に指名手配の大罪人であったのだ。
示し合わせたわけではない。
ただ、彼らがそれぞれに攻略した結果、そうなっただけだ。
レジェンダリアは初期プレイヤーが最も多く、同時に最も<マスター>の指名手配犯が多い国である。
国に属する<超級>よりも、指名手配された<超級>の方が多いほどに。
それこそ、三人が【魔王】と化してもまだ余る。
いずれにしても、こうして長きにわたり制覇者の現れなかったダンジョンは攻略された。
レジェンダリアに巣食う怪物達によって、【魔王】の座は狩り尽くされた。
◆
彼らは、自らの縄張りと趣味以外に興味を示さなかった。
レジェンダリア内の自身が過ごしやすい領域に居を構え、そこに暮らす部族を従え、王として君臨していた。
自身の縄張りの中で、時折迷い込むティアンや<マスター>、モンスターを獲物とする。
それは【魔王】と言うよりは、それこそ魔物のように動物的であった。
あるいは、カルディナのマニゴルドのように俗物的でもある。
別々に【魔王】となった彼らは、争うことも協力することもない。
三人の【魔王】、それと彼ら以外の指名手配<超級>は早い段階で不戦の約定を結んでいた。
一つの目的に集うクランではなく、相互不干渉だけをルールとする同盟だ。
相手の縄張りに手を出さず、それ以外で欲しい縄張りを広げていく。
レジェンダリアを舞台にした、闇の陣取りゲーム。
そして生まれたのが<デザイア>と呼ばれる罪人同盟である。
大罪人達は協定を定め、他の<マスター>は彼らを倒せない。部族連合という国の在り方と、レジェンダリアの地域ごとに異なりすぎる環境が、彼らと彼らに従う部族の討伐を困難にしていた。
そしてレジェンダリアの外に興味を示すこともないため、かつてラ・クリマによって<IF>に勧誘されたときも誰一人として話に乗らなかった。
レジェンダリアという秘境に、<IF>にも匹敵する怪物達が蠢いているのである。
最も現実離れした国であるがゆえに、最も闇が深まったと言えば皮肉であろうか。
結果として、国土の中に【妖精女王】をトップとする国家以外に、複数の反抗的な小国家を持つ形となり、混迷の只中にある。
先だっての首相暗殺事件も、これに関係した事件であると噂されている。
この混沌とした現状で、セーブポイントを持つ大都市が【魔王】をはじめとする罪人に落とされていないことだけが救いである。
もしもそうなってしまえば、レジェンダリアの混乱は世界の混乱へと加速するだろう。
いずれ、世界のどこかでそうなるかもしれないが。
◆
そんなレジェンダリアの現状であるが、ゼクス達の脱獄はこれにも影響を及ぼしている。
否、及ぼしてしまった……と言うべきか。
とある【魔王】は、レジェンダリアの北端にのみ縄張りを持っている。
それは、かつて【螺神盤】が根城にしていた緩衝地帯に極めて近かった。
ただ、この【魔王】は【魔王】の中では、飛び抜けて害がなかった。
寝床を構え、衣食住を縄張りの部族や自身のスキルに任せていたものの……それ以外は特に何もない。
縄張りを広げることもなく、外界を侵略することもない。
むしろ、【魔王】としてのスキルを使い、外部からのモンスターを排除する自警団的な活動も行っているので、部族にも慕われている。
指名手配された罪状自体も半ば事故のようなものであり、他の【魔王】よりは軽く、レジェンダリアからもほぼ放置されている。“監獄”に入っても三年足らずで出てくるだろう。
自らの欲求に貪欲な【魔王】や罪人達の中で唯一、現状に満足している【魔王】だった。
この【魔王】の夢は、とても慎ましいものだ。
三倍時間の<Infinite Dendrogram>で、ゆったりと自堕落に寝ていたい。
ただそれだけの夢は既に叶っているのだから、他の罪人のように自らの欲求のために他者を侵害する理由もない。
ただ、ゆっくりと安心して眠れていればそれでいい。
しかしそれこそが、今このときの問題の原因だった。
ゼクス達が脱獄した場所は、王国の最南端。
レジェンダリアの北端に面し、【魔王】の縄張りに近いが、少しだけ外れている。
ゆえに、普段はその【魔王】も、そこで起きたことを気にかけない。
そこで狩りをしようが無関心。<超級>が通りがかっても無頓着だ。
だが、今回は違った。
目と鼻の先に、<超級>が三人も現れたのである。
まして、<超級エンブリオ>の攻撃スキル――《フォール・ダウン・スクリーマー》を長時間放ち続けた後に。
言ってしまえば、『玄関ドアの前で大音量でドリルを振り回し、石材や木材を手当たり次第にギャリギャリ削られている』ようなもの。
喧しく、危険であり、苛立たしい。
無視はできず、安眠は無理というもの。
それゆえに、この【魔王】にとって……ただ平穏に寝惚けていたい存在にとっては、看過し難い威嚇行為に他ならない。
だからこそ、【魔王】は……喧嘩を買った。
レジェンダリア指名手配の<超級>――罪人同盟<デザイア>が一人、“睡眠欲”。
【怠惰魔王】ZZZは、彼らを敵と認定したのである。
ゼクス達三人だけでなく、彼らの近くにいるレイまでも巻き込んだが……構わない。
誰であろうと、<超級>が三人だろうと四人だろうと……関係がない。
ただの一度の敗北もないからこそ、彼は“監獄”ではなく縄張りに君臨している。
――まとめて殺す、と最も温和な【魔王】は決断した。
◇◇◇
□【呪術師】レイ・スターリング
レジェンダリアの方角から大挙して出現したモノは、見覚えのある銀色の光沢の……見覚えのない異形。
それらは、子供の粘土細工よりも拙い見栄えをしていた。
粘土の塊を「これが胴体。手足と頭。完成」とばかりに適当にくっつけたような怪物達。
フランクリンの改造モンスターのような最低限のデザイン性も見えない。
だが、その粘土細工以下の怪物達から伝わる威圧感は、とても大きい。
最低でも亜竜以上のパワーを感じる。純竜にも近いのではないだろうか?
無理やりに翼をつけた飛行型とゴリラに似た陸上型、合わせて五〇は優に超える。
数はフランクリンの“スーサイド”シリーズの一〇〇分の一以下だが、それでも感じるプレッシャーのままの戦闘力を持っているならば危険な手合いだ。
「……でも、これは」
あるいは、それだけならばまだ何とかなったかもしれない。
眼前の光景で最も奇異であるのは、それらの怪物がいずれも玉虫色のオーラを纏っていることだろう。
怪物そのものに感じる威圧感とは別に……それ以上の気配を感じる。
『……テリトリー系列の<エンブリオ>か? それとも、噂に聞くアドバンスか?』
「かもしれない……」
ネメシスの言葉に、頷く。
あのオーラが、<エンブリオ>である可能性はある。
そして、レギオンという線はない。
あれらの頭上には、しっかりと名が記載されている。
――【スラル】、と。
『…………』
形がまるで違うのに【スラル】という一つの名を持った怪物達。
そのうち、翼を持つ一〇体が俺へと向かってくる。
残りの四〇体は、眼下の女性達へと突き進んでいた。
「……ねぇ、すごく不気味なんだけど……これってレギオンの<エンブリオ>?」
「いえ、ジョブスキルの産物でしょう。恐らくは、いずれかの【魔王】の」
『肯定、【怠惰魔王】の《奉仕種族》です』
高度を下げたためか、彼女達の話し声が俺にも聞こえてくる。
だが、【魔王】?
以前にアズライトから【憤怒魔王】の名前を聞いたことはあるが、……何でそんな奴が俺や彼女達を襲う?
「やはり知っていましたか、アプリル。《ランブリング・ツリーウォーク》」
先ほどまで治療を行っていた女性が手にしていた剣を地面に突き刺しながら、スキルを発動する。
直後、地面から幾つもの樹木が生え、それらは根を足のように動かしながら怪物達に向かっていく。
「これでいける……?」
「いえ、ただの時間稼ぎです。このスキル、地面の栄養を使う割に弱いので。インスタント召喚としてはそれなりに使い勝手は良いですが」
見れば、樹木は怪物達によって砕かれている。
やはり、あの怪物達の戦力はかなり高い。
そして俺の方へも翼の怪物達が接近してきた。
「ッ! 《煉獄火炎》」
接近戦ではパワー負けすると予想できたので、シルバーの機動力を活かして中距離から《煉獄火炎》で応戦する。
だが、山林への引火が懸念されるため、下方には撃てない。
また、彼女達がいる以上、《地獄瘴気》も使えない。
……そもそも、あの粘土細工に効くのかも分からない。
「アプリル、今のうちに説明を」
彼女は追加の樹木モンスターを発生させながら、給仕服の女性に説明を促した。
『承知いたしました。【怠惰魔王】の基本スキル《奉仕種族》は無生物をモンスター化するスキルです』
下から聞こえてくる会話は、俺にも聞こえている。
我ながらよく聞こえるよなとは思うが、もしかするとシルバーが気を利かせて聞こえるようにしているのかもしれない。スキル説明には書いていなかったが、ある程度は空気をコントロールできるなら、そういうこともできそうだ。
以前にも原理不明のスキルを使ったことがあるのだし、インテグラとの話でも謎が多かった。
『作り出されるモンスター、【スラル】の性能は素材と使用するSPに依存します。あれらの素材は、ミスリルと推定されます。戦闘力としては、中程度かと』
ミスリル、……なるほど。あの銀色の光沢に覚えがある訳だ。
ルークが連れているリズは【ミスリル・アームズ・スライム】。素材としては近かったのだろう。
リズほど自由な変形はしそうにないが、その形での強度やパワーでは勝るようだ。
「他の特徴は?」
『【スラル】は【怠惰魔王】にのみ従い、他者への譲渡はできません。代わりに、パーティ枠やキャパシティも圧迫しません』
「……え? ずるくない?」
『代償として、【怠惰魔王】のステータスはHPとSPを除けば【魔王】シリーズの中では最弱です。加えて、【怠惰魔王】本人の肉体は戦闘行動を取れません。己の生存に必要なリソースの獲得作業を、作りだした【スラル】に依存します。ゆえに、配下と言うよりは手足と言うのが近いかと』
「……【魔王】なんて仰々しいジョブなのに、要介護者みたいね」
【怠惰魔王】というジョブの情報と、それを知っている彼女。どちらにも驚くしかない。
よく見れば、アプリルと呼ばれている給仕服の女性は球体関節を持っていた。
あるいは、人間ではないのかもしれない。
「…………」
「……オーナー、何考えてるのよ」
「戦闘行動のできない、【生贄】。無生物のモンスターへの変成。それはまるで……」
アプリルの話した内容に、オーナーと呼ばれた女性は何事かを考えているようだ。
だが、その間にも地上の【スラル】は樹木の群れを叩き壊し、距離を詰めてきている。
こちらに迫ってくる翼付きの【スラル】も同様だ。
こいつらは、炎で炙られても己のダメージに頓着しない。元々は無生物であるから、己の生命を守ろうとしていないのだ。
《煉獄火炎》で体を熔かしながら、しかし残った体で俺にぶつかろうとする。
そこには最低限の戦闘技術すら見えず、ただその体をぶつけることしか考えていないかのようだった。
「鉱物由来の無生物とか、GODにとっても面倒くさい奴なんだけどー。……とりあえず、ミスリル分解する奴をばら撒いちゃうゾ♪」
「……世界中の武器屋が泣きそうなもの作ってるわね、あんた」
俺の位置からでは顔が見えない女性はそう言って、彼女の<エンブリオ>らしい透明の巨大鈍器を振り回す。
鈍器からは空気が噴き出すような音と共に、何かが散布されているようだ。
念のために、それがこちらに届かないようにシルバーに指示して《風蹄》によるバリアを張り直す。
だが……。
「……溶けないわよ?」
「あるぇー?」
地上の【スラル】は、ミスリルを分解するという何らかの攻撃を受けても……まるで影響を受けていなかった。
「物質構造が変化してるのか、そもそも届いてないのか。二番だったらあのキラキラオーラが怪しいのネ!」
「アプリル。あれは?」
『データなし。【怠惰魔王】のスキルにあのようなエフェクトを有するものはありません』
あれが【怠惰魔王】のスキルでないとしたら、やっぱり……<エンブリオ>か?
「配下を強化する<エンブリオ>ってこと……? 【魔王】なんていうわりに真っ当なコンボ決めてくるわね……」
そう言って、ボウガンを持った女性は【スラル】を攻撃する。
だが、相手の強度のためか攻撃は徹っていない。
「……やっぱり攻撃力足りないわー。ミスリルには良い思い出ないのよね……。ていうかこれ、オーナーとアプリルしかまともに戦えないんじゃない……?」
「上のワルに押し付けるのってどうなのネ?」
「……名案じゃない?」
さらっと押し付けられようとしている……。
それにワルってなんだ。なぜだか分からないが、彼女達にそう言われることに変な違和感があるぞ。
「皆さん。それと、レイ・スターリング君」
「え?」
不意に、オーナーと呼ばれていた女性が俺にも声をかけてきた。
俺の名を知っているのは、不思議ではない。
今の俺は、名が知られすぎているからだ。
だけど、なぜだろうか。
この女性に名を知られていることは、それらとは全く違うような気がしていた。
「注意を……。恐らく、本命が来ます」
そう言って、彼女は南の方角を指差した。
【スラル】達が群れをなしてやってきた方向から……今度は一つの影だけがゆっくりと迫って来ていた。
「あれは……」
それは頭上に【スラル】の名を戴いてこそいたが、これまで現れた【スラル】とはまるで異なるものだった。
まず、形が違う。
適当に粘土の塊を組み合わせたようなこれまでの【スラル】と違い、その【スラル】の形は整っていた。
二足歩行の地竜、というのが近いだろう。鼻先の角と両腕、そして尾が剣となっているのが特徴か。
少なくともこの造形は、他の個体にはかけていなかった手間をちゃんとかけている。
そして、色が違う。
玉虫色のオーラを纏っているのは同じだが、【スラル】自身の色が緋色だった。
同じ色を、かつてカルチェラタンで見たことがある。
マリオ先生の使っていた、緋色の人形。
トムさんから聞いたアレの素材は……。
「……【神話級金属】か!」
現在の<Infinite Dendrogram>において、特典素材を除けば至高の生産素材。
先刻のアプリルの話によれば、【スラル】の戦闘力は素材と使用SPに依存。
素材は最上級のものであり、造形を見れば使用SPも遥かに多いことが分かる。
間違いなく、これが【怠惰魔王】とやらのエースなのだろう。
かつて戦った【魔将軍】の【ギーガナイト】よりも戦力としては上位に思える。
……だけど、何で俺や彼女達にここまでの戦力を投入してくる?
まさかどこかの白衣の差し金じゃないだろうな?
俺ではなく彼女達が狙いだとすれば、アプリル……【怠惰魔王】についても詳しい彼女の存在が理由か?
『…………』
俺が緋色の【スラル】を寄越した【怠惰魔王】の思惑が分からずに考えていると、緋色の【スラル】も彼女達と俺を順に見回した。
そして……。
『…………Gi』
緋色の【スラル】は、ミスリルの【スラル】の一体をその剣腕で串刺しにした。
「え?」
同士討ち?
どうして突然、……!
「――離れてください」
「――離れろッ!」
俺と、オーナーと呼ばれていた女性の声は同時だった。
だが、その声が届くよりも早く、変化は起きてしまっている。
緋色の【スラル】の剣腕が、緋色よりも赫く……融解した金属のように輝く。
直後、串刺しにされたミスリルの【スラル】が沸騰し――弾けた。
膨大な熱量を受けて、内側から蒸発……爆発したのだ。
「……⁉」
玉虫色のオーラを纏ったミスリルが、手榴弾の破片のように四方八方へと飛び散る。
警告を発した俺達と、丁度そのタイミングで警告が届いた彼女達。
後ろに飛び退いて、顔などの急所を腕で庇う。
「ッ!」
熱量で火傷はするだろうが、距離を取れば爆発そのものの威力は落ちる。
配下の一体と引き換えの爆発攻撃も、致命傷にはなりえない。
――はずだった。
「……え?」
ミスリルの破片が《風蹄》の守りを破り、顔を庇った俺の腕に触れた。
その途端……俺の意識が急速に薄らいでいく。
「これ、は……」
フラフラと、頭が安定しない。視界も定まらない。
それでも、ステータスを見れば……そこにはとある状態異常が表示されかけていた。
――【強制睡眠】、と。
「…………そ、れ……か」
それを引き起こしたものが何か……考えるまでもない。
最初から、それが目的だったのだろう。
あの突撃するだけの、戦闘技術が欠片もない【スラル】はそれだけが目的だった。
ただ、触れさえすればいい。
俺達があの玉虫色のオーラに触れてしまえば……それでよかったのだ。
あのオーラは、触れる者を強制的に眠らせる。
触れれば、それでケリがつく。
眠らせてしまえば、煮るも焼くも【怠惰魔王】の掌の上。
「ねめ、しす……」
『お、う……!』
消えていく意識で、【快癒万能霊薬】を飲み下す。
そしてネメシスに第二形態への変形を指示する。
彼女もまた、意識が消えかけているようだが……それでも第二形態への変形は叶った。
だが……止まらない。
眠りへと、落ちていく。
かつて【ガルドランダ】の瘴気をはねのけた【快癒万能霊薬】でも通じず、第二形態でも逆転できない状態異常。
それが意味することは……。
「<すぺ、りお……」
相手が<超級>であるという答えと共に、俺の意識は闇へと落ちる。
眼下では、給仕服の女性を除く三人も……倒れ伏していた。
意識が消える最後の瞬間、どこかから聞き覚えのない声が聞こえた。
――Welcome to 【Dreamlands】、と。
To be continued
(=ↀωↀ=)<夢の中へ~ごにょごにょ♪
(=ↀωↀ=)<……あとがきでとある歌のネタを書こうとしたけど
(=ↀωↀ=)<著作権問題あるので書けませぬ
(=ↀωↀ=)<歌詞にせずにネタを書くなら
(怠惰)<「行ってみたい?」
( ̄(エ) ̄)<「お前の夢には行きたくない」
(=ↀωↀ=)<でもレイ君達は行くのです
(=ↀωↀ=)<さて、レイ君達がお休みしてしまいましたが
(=ↀωↀ=)<作者がアニメジャパンを見に行くため次回更新もお休みです
(=ↀωↀ=)<最近、休載頻度増えてすみません
○《奉仕種族》
無生物を原料に、【怠惰魔王】にのみ従う【スラル】を生成する。
怠惰なる【魔王】は、生存に自らの手足を使わない。
奉仕種族を生み出し、それに自らの行いを代行させる。
恐るべきは、低位~中位の【スラル】ならばそれを専門とする高位の【スラル】が代わりに作成可能であること。
資源とSPの続く限り、【怠惰魔王】が寝ている間にも奉仕種族は増え続ける。
【怠惰魔王】の縄張りにおいて彼に従う部族もいるが、それと同数以上の【スラル】が治安維持や生産活動などを担っている。
直接戦闘能力が高い傾向にある【魔王】シリーズにおいて、配下を従えるという意味での王らしいスキルである。
代償として【怠惰魔王】は自らの肉体を用いた他者への攻撃ができない。
これは素手や武器による攻撃や、物理・魔法問わない攻撃スキルの行使も含まれる。
ただし、<超級エンブリオ>である【遊迷夢実 ドリームランド】はこれに該当しない。




