第九話 ■■の縄張り
(=ↀωↀ=)<あと一週間でAnimeJapan2019
(=ↀωↀ=)<色々公開されるのだろうなと思いつつ、作者もまだ詳しいこと知りませぬ
(=ↀωↀ=)<でも楽しみ
□■“監獄”
「……私の完敗です」
三人がいなくなった“監獄”で、レドキングは静かにそう述べた。
脱獄に至った経緯の説明をアリスから受けて、納得もした。
今はアリスとの通信も切れており、レドキングは一人で思考し、行動を反省している。
「この敗北感は……懐かしいですね」
戦いに敗れて自身の欠点を見直すことなど、<マスター>を失ってからは数えるほどしかなかった。
大失敗で得た教訓と新たな対策、そして形のない懐かしさがこの騒動でレドキングの得たものだった。
「ゼクス。私は君の計画を読み切ることができず、君は私の考えを上回りました。それは、賞賛に値します」
自身を上回った脱獄犯を……看守は素直に褒めた。
職務上は誤りであっても、それは素直な気持ちだった。
「けれどきっと、君も全てを読めているわけではない。だからこそ……すぐに帰ってくるかもしれない」
しかし次に述べた言葉は、負け惜しみではない。
純粋に、そう思っていた。
そう考えるだけの材料が、レドキングにはあった。
「“監獄”の中にいた君にとって、外のことは間接的にしか知りようがなかったはずです」
空間を司るレドキングには、見えている。
彼らに近づく者達の姿が。
それは北……ギデオンから飛んできた一般の<マスター>であるレイ・スターリング。
分類すれば善であり、努めて悪であろうとするゼクスとは相容れない。
だが、そんな彼はさして問題ではない。
彼の兄ならばともかく、今の彼ではゼクスを止められる確率は極めて低い。
だから、彼ではない。
ゼクスがサンダルフォンに変形して空間を穿孔……外界に影響を及ぼし始めた時点で、より恐ろしい存在は動き始めているのだから。
「…………」
レドキングは、“監獄”周辺の映像を確認する。
そこには……しっかりと映し出されている。
“監獄”の南……レジェンダリアの縄張りから迫るモノ達の姿が。
「脱獄は……出てからが本番というストーリーも多いものです」
彼らの脱獄に立ち向かった管理AIは、そうして外部の様子をモニターする。
参加者から観客に立場を変えて、彼らの脱獄の第二幕を観るために。
◇◇◇
□【呪術師】レイ・スターリング
俺は適正狩場である王国の最南端の山林へと向かっていた。
レベル上げの前に、ジョブは【呪術師】に切り替えている。
選んだ理由は、やはりあの斧だ。
斧が纏った膨大な量の怨念から見て、反動ダメージで最も有力であろう候補が呪い関係だった。
それを緩和するために呪術系のスキルだけでなく耐性スキルも得られる【呪術師】を試しに選択したという訳だ。
斧からの反動の軽減に効果があればよし。
駄目なら……下級職の枠が埋まった後で優先的にリセットすればいい。
「御主、このままだと【聖騎士】と【暗黒騎士】を揃えることになるのではないか……?」
「……流れによってはあるかもしれない」
呪術師系統と騎士系統の組み合わせは【暗黒騎士】への道らしい。
ジュリエットが喜びそうな組み合わせだ。
レトロRPG四作目の主人公みたいだから、兄も喜ぶかもしれない。
「組み合わせ超級職が見つかるかもしれんし、良いのかも知れぬがのぅ」
ああ、【僵尸】と道士系の組み合わせでなれる迅羽の【尸解仙】みたいな。
「でも、そのセットで取ってる人は多いと思うぞ。定番だし」
光と闇が一つに、みたいなのは本当によくある話だ。
確実に、先駆者が試しているだろう。
それで見つかっていないのだから存在しないか、ロストしている上に捻くれた条件が必要なのだろう。
「遥か彼方の超級職より目の前のレベルアップということだの」
「ああ。今日中に耐性スキル取得を目指して、レベル上げだ」
取れたら、本拠地の闘技場で効果があるかを確かめてみよう。
ダメだったら明日以降は他のジョブに切り替えてのレベル上げだ。
「……ん?」
飛翔するシルバーが狩場に近づくと、俺の耳に奇妙な音が届いた。
かなり遠くから聞こえてくる微かな……しかし元は轟音であったろう音。
どこからか巨大なモノが唸りを上げて、何かを砕いているような音だ。
ただ、硬いモノを砕いているのか、柔らかいモノを引き裂いているかも分からない。
唸りと共に、聞いたことのない破壊音が遠くから聞こえてくるのである。
気のせいかもしれないが、以前ギデオンで聞いた……サンダルフォンの発した音に似ている気がする。
「行ってみるか」
奇妙な胸騒ぎがあり、シルバーの進路を変更する。
「……また、厄介事に巻き込まれるかもしれぬがのぅ」
そうであれば、なおのこと向かった方がいいだろう。
ここはギデオンともさほど離れていないのだから。
そうして、俺達は音のした方角へと向かった。
◇
音のした場所に辿り着くと、やはりそこでは何かが起きているようだった。
遠目でも、異常は見て取れる。
「あれは……かなりの重傷みたいだな」
女性が一人、血塗れで倒れていた。
その女性を治療する女性が一人。
それと馬や地竜がついていない馬車の傍に給仕服の女性が一人。変わった格好だが、それを言えば四六時中着ぐるみを着ている身内もいるので不思議ではない。
それから木の陰にいてよく見えないが、女性物の衣服も見え隠れしている。
どうやら女性四人組のパーティであるらしく、ここで何事かがあって一人が重傷を負ったらしい。
治療を施しているようだが、遠目でも部位欠損を含む重傷だと分かる。
上級職でも治療は難しく、それこそ【女教皇】の女化生先輩でもなければ……。
「え……?」
しかし、そう思っていた俺の眼下で、血塗れの女性はその体を完治させていた。
驚いた。
女化生先輩以外でもあんな重傷をすぐに治療できる人がいたのか。
あるいは、<エンブリオ>のスキルなのかもしれない。
「あっ」
俺が驚愕と共に見下ろしていると彼女達も俺を見上げる。
そうして、治療を受けていた女性や治療していた女性と目が合った。
ここで踵を返して立ち去るのも失礼かと思い、シルバーを降下させることにした。
それに大怪我をしていたということは、このあたりで何かトラブルがあったのかもしれない。
『…………』
ただ、シルバーは給仕服の女性を気にしているらしかった。何故だろうか?
「……?」
だが、不意に何かが聞こえた。
先刻のように、巨大なモノが発する音ではない。
小さなモノが、大量に動いているような音だ。
「何だ……?」
その音は……南から聞こえてきた。
◆◆◆
■アルター王国南端・国境山林
降りてくるレイの姿に、ガーベラは内心でかなり焦っていた。
(なんでここに……?)
相手が誰であるかは知っている。
かつてガーベラがシュウに罪を被せて挑発しようとした際に、レイのことも調べている。
そうでなくても、ギデオンの事件でかなりの有名人だった。
少なくとも、名前も思いだせない決闘ランカーなどよりははるかによく知っている。
だがまさか、そんな相手がここに居合わせるというのは想定外にも程がある。
(……いや、どーするのよ、これ)
戦えば、必ずと言っていいほどに勝てる。
レイが三人に勝利する確率は、それこそ小数点の彼方にしかない。
だが、戦う時点で今の三人には悪手。
戦えば存在に気づかれ、シュウを始めとした彼女達の敵手と繋がり深いレイはそれを伝えるだろう。
デスペナルティにしても、リアルでの連絡やSNSで三人の情報を伝えるかもしれない。
脱獄したことと、おおよその現在位置。
それが知られることのリスクは極めて大きい。
討伐隊など編成されれば、またデスペナルティになりかねない。
今のゼクスはHPが三分の一になっている上にレベルダウン。ガーベラにいたっては頼みの綱のアルハザードがボロボロなのだから。
そして“監獄”に逆戻りすれば、コストの関係で同じ脱獄手段は行うのが難しい。
ゼクスのレベルが下がっているし、ハンニャとて“監獄”を出た以上、レベル上げくらいはするだろう。
再度の脱獄準備期間で、ハンニャがゼクスのストックを外れる恐れもある。
何より、レドキングが対策をして二度目はないかもしれない。
(逃げるのも……賭けよね)
三人揃ってログアウトすれば、今の危険は回避できるかもしれない。
だが、ログアウトするには非接触状態で三〇秒の時間を必要とする。
その間に、顔を覚えられるかもしれない。
ゼクスは容姿を【聖女】に切り替えているのでバレていないだろうが、キャンディは気づかれる恐れが強い。
そうなれば、このログアウト地点に張り込まれることも考えられる。
ログアウトせず、そのまま逃げようとすれば露骨に怪しまれるだろう。
何かあるのかと追ってくるかもしれない。
しかも、レイは煌玉馬という機動力を持っているので逃げ切れるかも怪しい。
(……それなら一切気づかれないうちに即死させる、……こともできないじゃない……!)
先日の講和会議で【獣王】と戦った際に、【死兵】のスキルの使用が確認されている。
殺しても、一分近くは残留する。
確実に情報を持ち帰られてしまう。
そもそもガーベラから今見えているのは彼一人だが、近くに他の仲間が……それこそシュウやルークがいる可能性さえありえる。
実際には違っても、“監獄”を出たばかりで外界の情報をほとんど持たないガーベラにとっては、当然の危惧だった。
(駄目だわー……、こいつ、今この状況で一番面倒くさい相手だわー……)
殺してもすぐには消えず、得た情報を有力者に渡す伝手もある。
ガーベラとしてはお手上げである。
もうゼクスとキャンディに打開策を期待するしかない。
だが……。
「…………んぇ!?」
横にいる二人を見て、ガーベラは驚愕した。
ゼクスは【聖女】の姿のまま、右手に体を変形させた剣の<エンブリオ>を掴んでいる。
そしてキャンディにいたっては――レシェフを起動させている。
明らかな、戦闘態勢であった。
「ちょ、え? やるの⁉ ここでやっちゃうの⁉」
自分が危惧したことをまさか二人が、少なくともゼクスが気づいていないとはガーベラには思えない。
ならば、自身の意図の及ばぬ深慮遠謀の結果、一見すると短絡的な抹殺に走ったのかもしれない。
「で、でも私ってまだアルハザードのHPが……とりあえず再出撃させて……、えっとボウガン届くかしら……」
「ガッちゃん」
いそいそと武器を構えようとするガーベラに、キャンディが告げる。
「戦うのは……上のGOD達よりワルな服装の奴じゃないのネ」
「え?」
ゼクスも、キャンディも、アプリルさえも既にレイを見ていない。
そしてレイもまた、彼らから視線を外している。
三人と一体は、南の方角を見ていた。
――レジェンダリアとの国境を。
「――縄張り」
「オーナー……?」
そう呟いたゼクスに、ガーベラは少し驚いた。
それは彼の崩れない微笑が、少しだけ歪んでいたから。
スライムである彼の額に汗が流れはしないが……仮に流せたら冷や汗を流したのではないかと思うほどに。
「失念していましたね。ここは元々レジェンダリアとの緩衝地帯で、今も国境が近い……こうなる可能性もありましたか」
「な、何が来るって言うのよ……? 縄張りって……何の?」
狼狽えるガーベラに対し、ゼクスは静かに答える。
その答えはシンプルで、創作ではありふれて、しかし……<Infinite Dendrogram>で彼女が対面したことはない名前だった。
即ち――。
「――【魔王】」
直後、森が騒めき――群れをなした異形が彼らへと向かってきた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<…………
(=ↀωↀ=)<ええ、そうです
(=ↀωↀ=)<デンドロには【魔王】達もいます
(=ↀωↀ=)<前からちょこちょことワードだけは出ていた【魔王】がついに表舞台に
(=ↀωↀ=)<……忘れられてたかもしれないけどね!
(=ↀωↀ=)<【魔王】の詳細については次回以降
(=ↀωↀ=)<そんな訳で次回
(=ↀωↀ=)<VSレジェンダリアの闇
( ꒪|勅|꒪)(その言い方だと変態達の方はレジェンダリアの光みたいなんだが……)




