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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Ⅵ-Ⅶ King of Crime

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第六話 “監獄”の壁

(=ↀωↀ=)<なんとかキリの良いところまでお届けー……


(=ↀωↀ=)<どうにかこうにか二月はお休みせずに更新できました


(=ↀωↀ=)<でも多分、次回はお休みしますー……


(=ↀωↀ=)<あと二、三パート書き下ろさなきゃ……

 □■???


「……始まるようですね」


 無数のウィンドウが浮いた管理AI用の作業スペースの中心で、“監獄”の管理者――管理AI六号レドキングが眼鏡を指で押し上げながらそう呟いた。

 ウィンドウの一つには、知的生命体が片手で数えられる程度にまで減少した“監獄”の外縁付近に立つゼクスの姿が見えている。


 レドキングにも、いつかはこの日が来ると分かっていた。

 ゼクスは機が熟すのを待っていただけ。

 彼が彼の仲間と共にすべきことが外にあり、彼の刑期が一〇〇〇年を優に超えて自然な出所が叶わない以上、脱獄に打って出るのは当然だった。

 レドキングは、この日が来る前に彼と直接話したこともある。

 彼に「“脱獄”をしてもいいのか」と問われ、許可した。

 挑戦は自由である。

 加えて、“脱獄”後に再度監獄に送るような真似はしないとも説明した。

 ここへの収監は、デスペナルティからの復帰セーブポイントがない場合の処置。

 しかしデスペナルティ復帰より後のログイン処理は通常どおり。“監獄”の内外で同じだ。 

 脱獄してからログアウトすれば、またログアウト地点にログインできるだろう。

 脱獄犯に追っ手を出すような真似もしない。

 外部で再度デスペナルティになった場合は“監獄”に戻ることになるが、脱獄に成功すれば再度死亡するまでの一時的な自由は保障される。


「誰も果たしたことがない私の試練。ゼクスは如何に挑むつもりなのでしょうか?」


 もっとも、レドキングもむざむざ逃がす気はない。

 この“監獄”は、通常であれば脱出不可能なのだから。

 その理由は大きく二つ。

 一つはこの空間そのものが外部空間から隔絶されていること。

 一部のプレイヤーの間では「隔離サーバー」などと言われているが、それは半分正しく、半分間違っている。


 “監獄”自体は<Infinite Dendrogram>内に存在する。

 だが、隔離はされている。


 内から外への脱出はレドキングの空間操作能力の一つ、《空間固定》がそれを阻む。

 固定化された空間の壁が存在し、それこそ物理破壊において最強格の【獣王】であろうと突破できない。

 そして外部からの干渉も不可能だ。“監獄”自体は<Infinite Dendrogram>内の特定座標に重なって存在はしているが、触れられない(・・・・・・)

 外部からは観測もできない。仮に“監獄”が存在する場所を外部の人間が通り過ぎたとしても、内部と違って壁にぶつかることすらなくすり抜けていくだろう。

 空間の一部を捻じ曲げ、希釈し、干渉不可能にしているのだ。

 また、ハンニャのように刑期が明ける場合は直接外に出るのではなく、収監前の最後のセーブポイントに移るため、所在地さえも内外に把握されていない。


 そのように隔離された“監獄”から、脱出する術はほとんどない。

 例外は《破界の鉄槌》を用いた【破壊王】と【元始聖剣 アルター】、そしてレドキング同様に空間操作能力を持つ<エンブリオ>だけだ。

 だが、前二つは“監獄”に存在せず、空間操作の<エンブリオ>では突破できない。


 何故なら……最も空間操作に長けた<エンブリオ>が他ならぬレドキングだからだ。


 それが二つ目の理由。

 空間を破壊する能力も、あるいは空間を跳躍する能力も、レドキングによって対応される。

 かつて“監獄”からの脱出を目的に<■■■>によって<超級エンブリオ>へと進化したサンダルフォンも空間操作系の能力だったが、それでもレドキングには敵わなかった。

 <無限エンブリオ>の出力で発揮される空間操作能力と数千年を数える経験。

 <超級エンブリオ>で数年の経験しかない若輩に、同じ土俵で負ける道理がない。



 彼こそは赤の王(レドキング)

 赤き血に染まった囚人達を管理する絶対者である。



「万能の手札を持つゼクスの手口。私にも読み切れてはいませんが……」


 脱獄を宣言されていても、レドキングにはその手段が分からない。

 現在の変形対象ストックなど、ゼクスの手札を把握している訳ではない。

 しかし手札以前に、ゼクス側にはクリアしなければいけない条件が多いため、どうすればそれを実現できるかが不明なのだ。


 まず、前述された空間の壁。

 次いで、ゼクス達が三人であるということ。

 脱出を条件にキャンディと手を組み、メンバーであるガーベラまでも“監獄”に落ちてしまっている以上、一人だけが抜け出してもしょうがない。

 三人揃って脱出するためには、よほど大規模にこの“監獄”の隔離を崩さなければならない。


「今のゼクスでは、それも不可能」


 かつてのゼクスであれば、不可能ではなかった。

 必殺スキルで【破壊王】シュウ・スターリングに変形し、《スプリット・スピリット》で六体に分裂した上で《破界の鉄槌》を使えば強引に突破できたかもしれない。

 だが、今はできない。

 この“監獄”に落ちた戦いでコストに捧げたレベルはまだ回復しきっておらず、その間に【破壊王】はレベルを上げ、既にゼクスの変形の対象から外れている。

 ストックした空間系能力にしても、最もこの“監獄”を脱出できる可能性が高いのはハンニャのサンダルフォンだったが、そのハンニャが既に幾度も脱獄に挑んではしくじっている。

 それは空間系としての実力差と、サンダルフォンの抱えたとある欠点(・・)ゆえだ。

 ゼクスならば《スプリット・スピリット》と併用するという手もあるが、それでも抱えた欠点はクリアされない。

 加えて、<超級エンブリオ>への変身には必殺スキルで五〇〇レベルを捧げる必要があり、さらに《スプリット・スピリット》の反動で最大HPも六分の一にまで落ちる。

 一発勝負に賭けるにはあまりにもリスクが高く、悪手だ。


 では、他の二人はどうか。

 キャンディは……危うい。

 <イレギュラー>である【災菌兵器】を撃破して得た特典も含めれば、あるいはレドキングの檻を破れるかもしれない。

 だが、それはレドキング自身がキャンディのウィルスが蔓延したエリアにいればの話だ。

 レドキング自身がそこにいなければ、キャンディのウィルスは効果を発揮しない。

 あくまで生物に干渉する能力であり、空間に対しては効果を及ぼさない。

 そうでなければ、とっくの昔に【災菌兵器】に逃げられている。


 ガーベラに関しては、どうもこうもない。

 姿が見えず、感知できないとしても、“監獄”という檻の中にいる。

 空間固定に隙間はなく、抜け出すなど不可能だ。

 であれば、何もできない。

 彼女の手札に、レドキングの空間操作を破る手段は一切ないのだから。


「……まずは現状で静観、ですね」


 レドキングは自身をウィルスから隔離された作業スペースに置き、ここから空間操作でゼクスらの脱獄を封じるという構えだ。

 多少は対応速度に遅れが生じるかもしれないが、それでも脱獄を許すことはないと自負している。

 それほどまでに、このレドキングは“監獄”における絶対者である。

 だからこそ、『どのように自分の裏をかくつもりなのか』、と不謹慎にも少しだけ楽しみにしていた。


 しかし数分後、ゼクスのとった行動は彼を落胆させた。


 ◆◆◆


 ■“監獄”


「…………」


 “監獄”の外縁……内外を隔てる空間固定の壁のそばに、ゼクスは立っている。

 見れば、その壁の近くには幾つもの攻撃の痕跡があった。

 地面は所々で融解し、巨大な金属の欠片が散らばっているところもある。

 それは、これまでこの壁に挑戦した者達の痕跡。

 脱獄をかけて破壊不可能の壁に挑み、そして敗れ去って諦めた者達の残滓である。

 ここに壁があることは、誰もが知っている。

 しかし今まで、誰も超えられていないのである。

 唯一、穴を穿つことができたのは<超級>に進化したハンニャのみ。

 そのハンニャをしても、刑期が明けるまで頻繁に挑戦して……脱獄は成功しなかった。


「難攻不落、と言うべきですね。キャッスルではないのでしょうが」


 ゼクスは、管理AIもまた<エンブリオ>であると知っている者の一人だ。

 そのゼクスが推測するに、<エンブリオ>としてのレドキングは恐らくアポストル混じりのワールド。

 空間把握に特化したエンジェルの枕詞もついて、アポストルwithエンジェルワールドといったところか。空間支配・空間把握・空間展開の三段重ねである。


 その推測は正しい。

 だが、ゼクスも把握していないこともある。

 それは、本来のレドキングは恐ろしく器用貧乏な<エンブリオ>だったということだ。

 大幅にリソースを消費する空間系、しかもできうることの殆どを網羅したがために、かつては一つ一つの出力が低くなっていた。

 だが、今のレドキングは<無限エンブリオ>に至っている。

 出力は<超級エンブリオ>ですら比較にならず、その万能性を維持した上で破格の出力を発揮することが可能になっている。

 “監獄”はそんなレドキングが管理し、掌握した空間。

 絶対的に優位に立っているのはレドキング側だ。


 しかし、ゼクス側に有利な条件がないでもない。

 それは、レドキングが脱獄しようとする者を『攻撃しない』という点だ。

 これまでにハンニャが幾度も脱獄を試みたが、それを空間操作能力で妨げはしても、ハンニャ自身を攻撃して止めたことはない。

 サンダルフォンの空間穿孔能力、《フォールダウン・スクリーマー》で空けた穴を修復し、脱出を阻む壁を作り続けたくらいだ。

 攻撃可能であれば、ハンニャを《空間破断》で惨殺するなり、《空間希釈》で窒息死させるなりできたはずだ。

 ゆえに、これもまた管理AIが持つ縛りの一種だろうと、ゼクスは把握している。


 そう、縛りだ。

 空間固定した壁で囲み、外界からも隠してはいるが、脱獄を企む者を排する仕組みは一切なく、規則で禁じてもいない。

 むしろ、管理AIとしては脱獄への挑戦は推奨している。

 何らかの強い目的を得て“監獄”を出ようとする意志がトリガーとなり、<超級エンブリオ>への進化を促す可能性もあったからだ。

 実際に、ハンニャのサンダルフォンはそれで進化を果たした。

 チェシャが扮したトム・キャットが決闘王者への壁となっていたように、レドキングが生み出した“監獄”の壁もまた管理AIの課した試練である。

 だからこそ、この脱獄で試されるのは固定化された空間の壁を破壊し、レドキングによる壁の修復を上回る力を得ること。

 あるいは、レドキングの予想を超える手を打つこと。


「さて……レベル差を考えると確実なのは一回。二回目は厳しいかもしれませんね」


 ゼクスは変身する相手と、これから行うことを頭に浮かべ、実質これが最初で最後のチャレンジになるだろうと覚悟を決める。


「それでも、分の悪い賭けではありませんが」


 そうしてゼクスは空間の壁に向かい合い、


「《我は万姿に値する(ヌン)》――」

 必殺スキルを宣言する。


 莫大なコストゆえに使える回数が限られる必殺スキル。

 その対象としてゼクスが選んだのは……、


「――黒血双脚(シュバルツ・フース)

 ――黒き鉄塔の如き巨大な両脚。



 即ち、レドキングが悪手と考えたサンダルフォンへの変形であった。



 To be continued

(=ↀωↀ=)<レドキングはリソース重いって散々言われた空間系ガン積みして


(=ↀωↀ=)<なおかつ制御能力高くて追加コストも要求しなかったので


(=ↀωↀ=)<ずっと到達形態に対して出力が低い器用貧乏な<エンブリオ>でしたが


(=ↀωↀ=)<<無限>になってようやく出力と釣り合いが取れました


(=ↀωↀ=)<今はその器用さと便利さを活かして仕事も頑張ってます


(=ↀωↀ=)<……まぁ、本人が器用すぎるのが欠点でもあるんだけど

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