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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Ⅵ-Ⅶ King of Crime

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410/716

第一話 第一試合

 □【聖騎士】レイ・スターリング


 “トーナメント”は全十日間。一日一回で計十回の“トーナメント”が開催される。

 一回の“トーナメント”の最大参加者は二五六人で、参加者は事前に【契約書】への記入も含めた事前登録を済ませている。

 なお、事前登録してもリアルの都合などで参加できない場合もあるので、既定の時間内に来場しない場合はキャンセルになり、空いた枠は当日抽選で参加者を募ることになる。(他の“トーナメント”に登録していない者に限られる)

 ちなみに“トーナメント”の各試合は四回戦までは超スピードで片づけられる。

 どういうことかと言うと、<超級激突>で見たスローの逆をやる。

 結界の内部時間を加速させ、外側の時間よりも早く決着させる。要するに早送りだ。

 そしてベスト16による五回戦からは賭けを含む従来の興行として行うのだ。

 それまでの試合も興行でやるとなると、時間がかかりすぎて一日では“トーナメント”が終わらないためにこの仕様になっている。

 それでも決勝戦は夜の盛り上がる時間にまで雪崩れ込むことになるだろう。


 このような仕様により、五回戦以降が本選でそれまでの四回戦は予選と言えるが、四回戦までの試合に関してはもう一つルールがある。

 それは対戦相手が実際に相対するまで分からないというもの。

 トーナメント表はランダム配置であり、一回戦の時点で作成はされている。

 だが、公開されるのはベスト16になってからだ。

 理由はいくつかあるが、その一つが情報だ。

 今回の予選中は身内同士の模擬戦などでも使われる遮蔽モードなので、試合の様子や選手の手の内を外から見ることができない。

 ただ、先にトーナメント表を公開していると、自身の対戦相手の名前から手の内を調べることができてしまう。

 有名な選手が相手であれば、対策装備で固めることもできる。炎属性魔法が得意な選手相手に、最初から炎熱耐性の装備で固めていれば確実に有利になってしまう。

 かつて電遊研の部長に、環境情報収集戦(メタゲーム)の重要性を教えられた時のことを思い出す。

 また、高速で試合が進むとはいえ、試合順が後ろの選手の方が調べる時間が増えてしまい、組み合わせ以外の不公平が生まれる。

 それもあって、四回戦まで対戦相手は実際に闘うまで分からない。

 なお、ベスト16が出揃った時点で全体のトーナメント表も公開されるらしい。

 これはベスト16に残った者が有名な選手ではない場合、予選で誰を倒しているかでオッズが変わるからだろう。


 ともあれ、選手側がやることは変わらない。

 誰が相手でも四度勝ってベスト16に残り、その先の本選も優勝を目指すだけ。

 俺も含めて試合を控えた選手は、控室で順番を待っている。

 控室は幾つか用意されており、ベスト16になるまでは絶対に当たらない者同士が配されている。


「…………」


 つまり同じ控室にいるということは、予選ではぶつからないはずなのだが……何だか視線を集めている。


「それは、のぅ。御主、大概有名人だしの」

『キシャー。モシャモシャ』


 ネメシスがそう言うと、同意したのか分からないチビガルが髪の毛を齧った。


「……まぁ、流石にそろそろ自覚はある」


 皇国の<超級>達との戦いが誇張込みで広まってしまい、それもあって警戒されているのだろう。『本選で当たったらどう戦うか』を考えられているのかもしれない。

 だが、俺にしてみればまず予選を突破できるかが問題だ。

 有名であることは、この“トーナメント”ではマイナスにしかならない。

 試合で相対した時点で、手の内がバレている。対策装備を用意する時間がなくとも、有効な戦い方はとられてしまうだろう。

 恐らくは他の選手の大半に地力(レベル)で差をつけられているので、手札を晒してしまっていることは大きな問題だ。

 ただ、それでも俺にとって幸いなことがある。

 それは、これが決闘の舞台の上での試合ということだ。

 どうしても距離の開きようがないため、まだこちらの手札の多くが有効な範囲で戦うことができる。

 ……極論、【ストームフェイス】を装着した状態で《地獄瘴気》を結界内に充満させれば、まぁ有利にはなるだろう。


「……えぐいのぅ」


 本選でやったらブーイングされるかもしれない。瘴気で試合が見えなくなりそうだし。


「毒ガスデスマッチの【聖騎士】は流石にのぅ……」


 大学の同期には嬉々として悪魔の肉を食い千切るバーサーカーだと思われてたし、今更な気もするな。


「……さて、そろそろ順番かな」


 先刻からかなり速いペースで控室の選手が呼ばれている。

 高速仕様だからだろう。短くて一分、長くても五分程度で次の番号が呼ばれている。他に複数の控室があることを考えるとかなりのハイペースだ。

 この分ならば、問題なく午前中に四回戦までを終えることができるだろう。


「レイ・スターリング選手。次の試合です」


 っと、呼ばれた。


「はい」


 闘技場のスタッフさんに応えて、椅子から立ち上がる。


『腕が鳴るのぅ』

『キシャー』


 ネメシスが大剣に変じ、チビガルは名残惜しそうにしながら召喚を解除して【瘴焔手甲】に戻った。

 俺も【ストームフェイス】を装着し、【黒纏套】をフードまでしっかりと被り、万全の態勢で控室を出る。


 控室を出るときに「暗黒卿」とか「悪魔喰らい」とかいう声が聞こえたけど……聞こえなかったことにしよう。


 ◇


「それでは、こちらからご入場ください。対戦相手は既にご入場済みです」

「分かりました」


 案内してくれたスタッフさんは、黒い結界に包まれた舞台を掌で指してそう言った。

 なるほど、入場タイミングもズラすことで本当に相手が分からないようにしている訳だ。


「……さて、鬼が出るか、蛇が出るか」

『鬼は間に合っているがのぅ』


 まぁ、たしかに。

 ただ、この“トーナメント”の景品になっている珠は【鬼面仏心 ササゲ】という<UBM>なので、最終的に行き着けばやはり鬼が出るのだろうけれど。

 そんなことを思いながら、黒い結界をくぐる。

 外からは黒塗りに見えた結界が、内側からは普通に外を見ることができる。薄いガラスを挟んだ程度だ。それゆえに内部は明るく、対戦相手の姿もちゃんと見える。


「お。対戦相手のお出まし……あれ?」

「え……?」


 舞台の上に立っていた対戦相手と俺は、揃って声を上げた。

 なぜなら……顔見知りだったからだ。


「随分物騒な装いになってるけど、レイ・スターリングさんかい?」

「あんたは確か……ラングさん?」


 かつて、【モノクローム】の事件の際に共に空へと上がった<マスター>の一人、ラングさんだ。

 ライザーさんのクランである<バビロニア戦闘団>のメンバーで、【盗賊王】が起こした王都でのテロの時は霞達とも共闘したと聞いている。

 まさか一回戦の相手が彼だとは……。


「ラングでいいぜ。俺もレイと呼ばしてもらうからよ。構わないかい?」

「ああ」

「ありがとよ。へへっ……しかしこいつはまた厄ネタを引いちまったかな」

「厄ネタって……」

「だが、こっちも意気込んで“トーナメント”に出たんでね。戦う前から諦めるってことはねーさ」


 ラングはそう言って馬上槍を《瞬間装備》して、構えをとる。


「こっちも、負けるつもりはないさ」


 俺もまた黒大剣のネメシスを構えてシルバーに騎乗する。

 シルバーも装備品の一種なので、この時点で装備していても問題はない。

 同時に《看破》も使ってみるが、何らかの対策装備を使っているのか、俺のスキルレベルではステータスを見ることが叶わない。こちらも【ブローチ】の代わりにつけたアクセサリーで同じことはしている。

 しかし、現時点のステータスはともかく手の内はバレているだろう。

 懸念通り俺を知っている相手とぶつかってしまった。

 俺の戦闘スタイルや、《カウンター・アブソープション》の回数制限なども知られていると思っていいだろう。

 反面、俺はラングの戦闘スタイルを知らない。

 トルネ村でヒポグリフに乗っていたことは覚えているが、あの戦いでは【モノクローム】の先制攻撃で彼は早々にデスペナルティしてしまったからだ。情報はないも同然。

 強いて言えば、急所に命中したとはいえレーザーの一撃で即死した以上、耐久型ではないのだろうということ。

 ジョブが【疾風騎兵】であることからも、AGI型であるのは確定だ。


『決闘開始まであと十秒』

「…………?」


 けれど、アナウンスが聞こえたタイミングで……疑問を覚える。

 ラングはヒポグリフを駆る【疾風騎兵】。

 キャパシティに収まったモンスターなら、最初から出していても問題ない。

 なのに、どうして彼は俺のように騎乗していない?


『五、四、三』


 だが、俺がその疑問の答えを得るよりも早く、決闘開始のカウントダウンは進み、


『二、一、――ゼロ』


 カウントがゼロとなり、試合が始まり――、


「――《全天周回路(ハレー)》、起動!」


 彼が彗星の名を冠するスキルを起動した瞬間、結界内が蒼い光に包まれ――。


 ◇◇◇


 □中央大闘技場


 中央大闘技場の外では、大勢の人々が並んでいた。

 彼らの多くは午後の本選において座席指定なしの観覧チケットを持つ者である。早くに並び、少しでも良い席を取ろうとしている層だ。

 それよりも高級な座席指定チケットを持つ者達は並んでいないが、それでも中央大闘技場の周囲で開かれている関連イベントや出店を楽しむ者が多かった。

 それゆえ、中央大闘技場の周囲は大変に賑わっている。


「あ、ライザーさんだ!」

『ん? ああ! 久しぶりだな、イオ君』


 そんな賑わいの中で、“仮面騎兵”マスクド・ライザーは、見知った少女と再会した。

 <デス・ピリオド>のメンバーであるイオ。王都で発生したテロの際は、共に事件の解決に動いた仲間でもある。


『他の二人は一緒じゃないのかい?』

「手分けして出店でご飯買ってますよ! うちのオーナーの応援の準備中!」


 質の良いアイテムボックスに入れておけば鮮度も温度もそのままなので、予め買っておくことに問題はない。


『そうか。彼は今日が出場日だったか』

「はい! ライザーさんは今日の“トーナメント”に出ないんですか! 今日って何だかお面になりそうな名前の<UBM>でしたけど!」


 イオが言うように、【鬼面仏心 ササゲ】はそれこそ特典武具で鬼の面になりそうな<UBM>だった。

 しかし、ライザーは笑って否定する。


『だからさ。この仮面は愛着があるからね、新しい仮面になってしまいそうな特典武具は避けているのさ。それに、<UBM>の性質も汎用性は高いが俺にシナジーしているものでもない』

「なるほど! うちのクマさんが着ぐるみ被りで困るのと同じような話ですね!」

『近くはあるかもしれない』


 もっとも、シュウはこれまで一体を除いて全て着ぐるみなので、選ぶも何もあったものではないが。


「じゃあ今日は普通に観戦なんですね!」

『それもあるが、実はうちのクランからも何人か参加しているんだ。ラング……あの事件でヒポグリフに乗った<マスター>を覚えているかな? 彼も参加している』

「あ、おぼえてます! へー! 出るんだ、って……あれ? そういえばあの人って事件で<エンブリオ>使ってましたっけ?」


 イオが噴水広場での【レジーナ・アピス・イデア】との戦いを思い返すと、たしかにヒポグリフに乗った<マスター>がいた記憶はある。

 だが、彼が<エンブリオ>を使っていた記憶がない。武器も、スキルも、騎獣であるヒポグリフも、全て普通のものだ。

 あるいは、外からは分かりづらい<エンブリオ>を使っているのかとも思ったが……。


『使っていないさ』


 それはライザーの言葉で否定された。


『ただ、ラングがあの戦いで手を抜いていた訳じゃない。なぜなら彼の<エンブリオ>は……っと。……まぁ、あのときは使えなかっただけだ』

「?」


 イオは疑問符を浮かべるが、身内の手の内を勝手に晒すわけにはいかないライザーとしては苦笑で返すしかない。

 ただ、彼の<エンブリオ>が、あの局面では(・・・・・・)使えなかったという答えが全てでもある。

 使いどころの限られるラングの<エンブリオ>――【疾走彗星 ハレー】。


 そのTYPEは――。


 ◇◇◇


 □【聖騎士】レイ・スターリング


「これ……は?」


 眩い光が収まると、周囲の光景は一変していた。

 結界の内側にもう一つ、内外を隔てる()ができている。

 それは、巨大な球状の檻。

 夜空のような色合いの金属で出来た檻だった。

 格子の間には同色の金属メッシュが張られ、鼠が通り抜けるほどの隙間もない。

 その内側に、シルバーに騎乗したまま閉じ込められていた。


「…………」


 あるいは、閉じ込められていたという表現は正しくないかもしれない。

 この檻のサイズは巨大であり、それこそ舞台とほぼ同じだけの広さがある。

 身動きに関しては、結界に入った時点と大差ない。

 強いて言えば、球体であるがゆえに足元に傾斜が掛かっていることが違いだろう。

 試しに檻をネメシスで切りつけてみても簡単に弾かれてしまい、切りつけた箇所には疵すらもできていない。

 少なくとも、真っ当な手段での破壊は難しいだろう。


「これは……」


 この檻が<エンブリオ>ならば、そのTYPEは……。


『――――TYPE:キャッスル』


 To be continued

(=ↀωↀ=)<一回戦開始


(=ↀωↀ=)<相手は「出番的にメイデンよりレアなのでは?」とか言われる


(=ↀωↀ=)<キャッスル含みの<エンブリオ>です


( ꒪|勅|꒪)(含み?)

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