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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩編 三ページ目

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エピローグD 心

(=ↀωↀ=)<今年最後の更新です


(=ↀωↀ=)<二話目なのでまだの方は前話から

 □ユーリ・ゴーティエ


「……お金ってどうしてなくなっちゃうんだろうね、ソーニャ」

「その台詞、この前は私が言わなかったっけ?」


 月曜日の朝、私は食堂でソーニャに愚痴をこぼしていた。


「え? ユーリってデンドロでは羽振り良かったんじゃないっけ?」

「それはもう過去の話だから……」


 レイに分けてもらったゴゥズメイズ山賊団討伐の報奨金、あれがついになくなった。

 ニアーラさんに《ジェノサイド・コンドル》を使ってもらうために、私の持っていた一〇〇〇万リルを渡したためだ。

 けれど、手元にはそこそこのお金が残っている。報奨金がなくなっても、暫くは大丈夫のはずだった。

 でも、それは<マジンギア>の修理には全然足りない。

 元から高級品の<マジンギア>、しかもわたしの機体はワンオフ機の【ホワイト・ローズ】。

 それが……なんだかもう言葉にできないくらい壊れてしまっている。

 無事なパーツが一つもないくらい。

 既製品のパーツは全部交換しないといけない。

 それだけでも大変なのだけど、問題は【ホワイト・ローズ】オリジナルのパーツ。

 生産時点で姉さんがある程度の自動修復機能を施してくれていたけれど……あまりにも壊れ方がひどくてそれじゃ直りきらなかった。

 ……だから、完全修復にいくらかかるのか見当もつかない。


「何かお金ゲットする当てとかないの?」

「収入は入る予定だけど……どのくらいかはわかんない……」


 マニゴルドさんの護衛の報酬が貰えるはずだけど、詳しい金額は聞いていなかった。

 『報酬は満足できるだけ用意しよう』と言ってくれてはいたけど、それが【ホワイト・ローズ】の修理代に足りるかは分かんない……。

 それに、マニゴルドさんとは連絡が取れなくなった。

 あの事件の後は疲れ切っていたからすぐにログアウトしたし、移動の船が来たときもログアウト場所をそちらの船に移しただけで、ほとんど話せていなかった。

 それから昨晩ログアウトするまで、マニゴルドさんとは会えていない。

 マニゴルドさんはみんなが脱出した後も独りで船に残って何かを調べていたそうだけれど、そこで連絡がとれなくなってしまったらしい。イサラさんも心配していた。

 あの人なら無事だと思うけど……あんな事件の後なので少し心配にもなる。


「はぁ……」


 本当に大変な事件で、【ホワイト・ローズ】も大破して散々だった。

 けれど、得るものもあった。

 わたしが討伐した、【骸竜機 インペリアル・グローリー】。


 その特典武具として、【機竜心核 インペリアル・グローリー】という名の……動力炉(・・・)が手に入った。


 パーツのスペックを確認すると、スキルが二つ備わっていた。

 一つは《永久機関・死生》というもの。何だか物騒な名前だし、スキルを読むのに特殊なスキルが必要らしくて説明に読めない部分も多かったけれど、効果としては自らMPを産出する動力炉ということだった。

 そう、<UBM>になる前の【インペリアル・グローリー】が積んでいたものと同じ。

 生産するMP量の増減がどうなったのかは分からないけれど、これを搭載すれば【ホワイト・ローズ】が悩まされ続けたエネルギー問題を解決する目処が立った。

 ちなみにもう一つのスキルは《機心》というものだったけど、こちらは説明文が全く読めなかったので今は保留。

 

「…………」


 動力炉が手に入ったことは、とても嬉しい。

 けれど、それは機能面だけではなくて、もう一つ理由がある。

 それは、名前が遺ったこと。

 <叡智の三角>のみんなが、創意工夫を凝らして作った【インペリアル・グローリー】。

 その名前が、特典武具となってからも残っている。

 無駄ではなかったようで、それが少しだけ嬉しかった。

 それに、あの特典武具は自分が最後まで諦めなかった証のようにも思える。

 ……あのときの、彼のように。


「むぅ。お金がないと言いながら、ちょっと幸せそう。これは何か贅沢で楽しいお金の使い方をしたのかな?」

「してないよー……」


 ……一〇〇〇万リルで爆撃機を自爆させるのって贅沢で楽しいことなのかな?


「あ。そろそろ朝食の時間も終わりだね。一時間目はニーナ先生の社会だし、早めに教室に入らなきゃ」


 私が急いで食器を片付けようとすると、ソーニャに「待った待った」と制止された。


「今日の一時間目は図書館での自習になるって連絡あったよ?」

「どうして?」

「ニーナ先生がお休みしてるんだって」

「え!? ご病気でもされたのかな……」


 そうでもなければ、あの真面目なニーナ先生が授業をお休みするとは思えない。


「分からないけど。……ふっふー、もしかしたら男の人とデートかもしれないよ?」

「えぇ……それはないと思うけど……」


 ニーナ先生ほど真面目で厳しい人が、デートのために仕事を休む。

 うん……、ちょっと考えづらいね。

 ……でも。


「でも、そうだったら……素敵だね」

「だよね! 情熱的ぃ!」


 わたしとソーニャは恋愛話を想像して、ちょっとだけはしゃぎあったのだった。

 

 ◇


 ちなみに、その日の午後。デンドロにログインするとなぜかすごく痩せて美形になったマニゴルドさんが待っていた。

 謎の変身を遂げたマニゴルドさんから「修理代は全て持つ」と言ってもらえたので、【ホワイト・ローズ】は九死に一生を得たのだった。



 ◇◇◇


 □カルディナ某所


 事件から内部の時間で四日経った日のこと。

 エルドリッジの姿は、カルディナのとある都市の雑踏の中にあった。

 そこは、カルディナの都市の一つではあるが、【エルトラーム号】の停泊地ではない。

 <ゴブリン・ストリート>の面々は、事前にこの都市にセーブしていた。

 何かが起きてメンバーの誰かがデスペナルティとなったとき、決まった日時にここで合流することになっていた。

 船の停泊地でないのは、事の流れで捜査の手が彼らに及ぶ可能性を下げるためだ。


「…………」


 雑踏の中、合流場所に向かいながらエルドリッジは先の戦いについて思う。

 フェイに勝って欲しいと願われて、ニアーラに勝利を信じられて。


 けれど、エルドリッジは負けたのだ。


 エミリーに対しては終始有利に戦いを運んでいたが、ラスカルの乱入によってあっさりと敗れ去った。

 言い訳のしようもないし、する気もない。

 あれは決闘ではなく、PK同士の殺し合いだったのだから。

 乱入や不確定要素はあって当然だった。

 ゆえに、彼は敗北した。その事実は揺らがない。


「…………」


 度重なる<超級>への敗北。

 己を信じてくれた二人を裏切るような結果。

 これまでの彼であれば……あの船に乗る前の追い詰められた状態ならば、今度こそ心折れていただろう。



 だが、不思議と……今の彼に敗北の自責はなかった。



 それはきっと、今までと違い……自分の全てをぶつけて戦ったという確信があるからだ。

 初手で敗れ続けた、戦いにすらならなかったこれまでの<超級>との遭遇。

 だが、今回は違う。

 今回の彼は……戦ったのだ。

 己の勝利のために、全てを尽くして。


 自分の全てを使って敗れたという結果(・・)ではない。

 自分の全てを使って戦えたという過程(・・)が、彼の心に強く残っている。


「次は……」


 自然、彼の唇は一つの言葉を紡ごうとする。

 けれど彼がその言葉を口にするより早く、合流場所のテラスが視界に入った。

 待ち合わせ時間よりも早いがニアーラとフェイは既に到着しており、二人でお茶を飲んでいた。


「オーナーまだっすかねー。ところで、ニアーラって今日お仕事いいんすか?」

「……初めて、私用で休みました」


 そんなことを話している二人に、エルドリッジは声をかける。


「ニアーラ、フェイ。待たせたな」

「オーナーっす!」

「オーナー、おはようございます」

「ああ。…………」


 エルドリッジは二人に自身の敗北をどう伝えるべきかを悩んだ。

 『期待を裏切ってすまない』と謝るべきかと考えていたが、それよりも早くフェイが言葉を発する。


「オーナー! 勝ったんすね(・・・・・・)!」


 フェイは、一切の疑いなく……エルドリッジにそう言い切った。


「……どうして、そう思う?」


 エルドリッジは敗北したというのに、フェイがなぜ勝ったと思ったのかが分からなかった。

 けれどフェイは胸を張って、その理由を口にする。


「顏っす!」

「顏?」


 エルドリッジが自身の顔に手を触れると、フェイは笑顔でこう言った


「オーナーの顔、王国にいたときみたいっす! 自信満々っす!」

「――――」


 自身では気づかなかったことだ。

 <超級>に負け続けて沈んでいた時も含めて、そんなにも自分の顔は変わっていたのかと……エルドリッジはようやく気づいた。

 そして、『目に見えて分かるほどに自信を失っていた自分にも、二人はついてきてくれたのだな』と考えて……少しだけ涙腺が緩んだ。


「……ニアーラは、どう思う?」


 涙声にならないように気をつけながら、エルドリッジはニアーラにも問うた。


「そうですね」


 ニアーラは問われてから少し考えて……。


「私も、今のオーナーが……好きです(・・・・)


 別の意図をちょっぴりと混ぜて、そう告げた。


「あ!? ずるいっす! アタシも! アタシも好きっす!」


 ニアーラに抜け駆けされて、フェイも慌てたように思いを告げる。


「……二人とも、ありがとう」


 エルドリッジは自分を慕ってついてきてくれた二人に、また目元が熱くなり、右手で両目を覆った。

 その反応に二人の方は、『あ、これやっぱり男女間の好きだと思われてないな』と察した。

 けれど、それでも良かった。

 ずっと思いつめた顔をしていたエルドリッジが、今は晴れ晴れとした顔をしている。

 これからも三人で活動できることを、二人は素直に喜んでいた。


「それじゃオーナーがどうやって勝ったか聞かせて欲しいっす!」

「いや……負けたんだよ。俺は負けた」


 エルドリッジは涙をぬぐい、フェイの発言を訂正する。

 そして……。


「だが――次は<超級>が相手でも勝つぞ」


 笑いながら……そう言った。

 一切恥じることもなく、かつての自信……かつて以上の自信と共に、二人に力強く笑いかける。

 そんな彼に対し……。


「「はい!」」


 二人もまた……笑顔で応じた。


 ◇


 <ゴブリン・ストリート>は<超級>に負け続け、心は折れていた。

 再起を期して乗り込んだ【エルトラーム号】の戦いでも敗れた。

 けれど、彼らは……今確かに再起を果たしたのだった。


 彼らの心は、既に立ち上がっている。


 Episode End

(=ↀωↀ=)<エピローグの順番は色々考えたのだけど


(=ↀωↀ=)<<ゴブリン・ストリート>のエピローグを最後に置くことにしました


(=ↀωↀ=)<多分、一番すっきりします



(=ↀωↀ=)<今後の予定


(=ↀωↀ=)<十二月分のコメント返しは年明けてからになります


(=ↀωↀ=)<また、先にお知らせしたように書籍作業のため


(=ↀωↀ=)<一月はしばらく更新お休みする予定です


(=ↀωↀ=)<来年は色々と奮起する年ですが


(=ↀωↀ=)<頑張って書いていきたいと思います


(=ↀωↀ=)<それでは読者の皆様


(=ↀωↀ=)( ̄(エ) ̄)( ꒪|勅|꒪)<よいお年を―

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