死出の箱舟・骸竜の箱 その二一(加筆修正版)
(=ↀωↀ=)<作者サンタからの修正版ですー
(=ↀωↀ=)<後半中心に0.5話分くらい加筆修正しました
(=ↀωↀ=)<最初からこれ書けてればよかったなー……
(=ↀωↀ=)<あ、後半はロボットアニメのOPとか流しながら読むのおススメ
□■【エルトラーム号】・動力ブロック
それは複数の要素の重ね合わせで生まれた。
半永久式の地竜型動力炉。
<エンブリオ>による加工を含む<叡智の三角>の技術と、皇国の財の結集である機体。
【超操縦士】の最終奥義によるありえざる自我の獲得。
それらの複合が、【インペリアル・グローリー】を怪物へと変えていた。
<UBM>と認定されても、【インペリアル・グローリー】の外見に変化はない。
認定型であるために、胸部に空いた大穴を始めとした全身の損傷も、機械であった頃の機能も変わってはいない。
だが、注がれたリソースは出力をさらに一段階引き上げていた。
結果として逸話級と言うには強すぎるほどに……【インペリアル・グローリー】は強大だった。
「…………」
ユーゴーは思う。
今ここで戦えるのは、自分だけだと。
あの紅白の機械竜がやってきたということは、マニゴルドやイサラは敗れているかもしれない。
その紅白の機械竜も既に立ち去っている。
エルドリッジも、エミリーを相手にして余力があるとは考えづらい。
ニアーラも、既に戦闘用の鳥は使い切った。狙撃銃も通じない。
「私達が、やるしかない……!」
何より、これは放置してはいけない存在だ。
今の【インペリアル・グローリー】は、あまりにも似ている。
かつて暴走した、怨念動力構想の実験機に。
かつて死者の怨念と血肉を結集して生まれた<UBM>、【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】に。
変貌した【インペリアル・グローリー】は、限りなくあれらに近いものだ。
死した者の怨念を乗せて、永久機関で動き続ける殺戮の機械兵。
終わらせなければならない存在だと、迷うことなく決断していた。
「【ローズ】……!」
猛攻によって重大なダメージを負った自機を、懸命に立たせる。
キューコもまた、氷結装甲を操って半壊した機体を支えている。
立ち上がれるのかも怪しいほどのダメージを受けた脚部で、【ローズ】は立ち上がる。
あるいは【ローズ】もまた、ユーゴーの意思に応えようとしているのかもしれない。
<叡智の三角>によって生まれた兄弟とも言うべき【インペリアル・グローリー】の暴走を、止めようとしているのかも……しれなかった。
『そんなガガラクタで、ココこの私にに勝てるとデデでも?』
「さて、ね。だけど、君は……放置するにはあまりにも寝覚めの悪い存在だ」
【インペリアル・グローリー】は、機体の挙動を不規則に歪ませながら【ホワイト・ローズ】に向かい合う。
二機の戦力差は絶大。
これまでで最大の力を発揮している【インペリアル・グローリー】。
《地獄門》は通じず、《煉獄閃》は使用済。
もはや優位性など一つもない。
それでも、諦めるという選択肢は今のユーゴーにはない。
(考えるんだ……! 何か、何か勝機になりえるものは……!)
だが、その間にも【インペリアル・グローリー】は仕掛けてくる。
拳を振るい、【ローズ】を破壊せんと乱打する。
特典武具もなく、内蔵兵器も使わない純粋暴力。
カーティスの操っていたような技巧さえも、今は見えない。
『GAGAGAGAGAGAGAGA‼』
だが、その一撃一撃の重さは、皮肉なことにかつての比ではなかった。
腕が振るわれるたびに、神話級金属の装甲が歪み、砕けていく。
「ッ……!」
技巧でも兵装でもない。純粋なSTRが【ローズ】の防御性能を上回っている。
【マーシャルⅡ】であれば一撃でスクラップになっている。
最硬の<マジンギア>である【ローズ】も百撃はもたないだろう。
(反撃の、手段を……!)
しかし、相手は今生まれたばかりのモンスター。
同族討伐数はゼロであるため、《第二地獄門》でさえ通じない。
それでも火器を取り出し、左手で連射するが……【インペリアル・グローリー】は着弾を意に介さない。
胸に空いた大穴から飛び込んだ弾丸がカーティスの遺体を砕いても、気に留める様子さえなかった。
些かの痛痒を覚える事さえなく、【インペリアル・グローリー】は【ローズ】を追撃する。
そして、【ローズ】の頭部を右手で掴み、機体を吊り上げる。
金属の軋む音ともに、【ローズ】の頭部が歪んでいく。
「こ、の……!」
『むー……』
ユーゴーとキューコは抵抗し、左手の氷結ブレードで反撃を試みるが効いていない。
幾度も叩きつけて、しかしブレードの方が圧し折れる。
圧倒的に、攻撃力が足りていない。
『オオ終わワワワりだダ……!』
そして左手……《ミサイル・ダーツ》の発射口を【ローズ】のコクピットに押し当てる。
『…………』
だが、何を考えたか左手の発射口を収納し、貫手を作って振りかぶった。
寸刻の後、鋼の指先が胸部装甲を貫通し、ユーゴーを死に至らしめるだろう。
そうしてトドメが刺されようとした瞬間。
――それを阻むように、幾つもの影が【インペリアル・グローリー】に飛来した。
『Gi?』
それは無数の機械鳥だった。
梟がいた。
群れなす鴉がいた。
鳩がいた。
機体を格納できそうなほどに大きなペリカンがいた。
「これは……!」
それらについての情報を、ユーゴーは聞き知っていた。
ニアーラの【羽翼全一 スィーモルグ】。
戦闘用でないために使われなかった残存機の全てが、【インペリアル・グローリー】の周囲で羽ばたいていた。
『ジャジャ邪魔だッ‼』
大口を開けて【インペリアル・グローリー】を捉えようとしたペリカンを、左腕を振るって一撃で両断する。
『ユーゴー、いま』
「ああ……!」
そのタイミングで、キューコが頭部の氷結装甲を解除し、ユーゴーが機体を操作する。
僅かにできた隙間を使って、【ローズ】の頭部が右手の拘束から逃れる。
その間も、スィーモルグの機械鳥達は数を減らしていく。
元より、戦闘能力に秀でた二機は既にない。
残った機体では、時間稼ぎと視界の攪乱程度にしか使えない。
「…………」
だが、それこそがニアーラの狙いだった。
大穴の縁で、彼女は魔力式狙撃銃を構えている。
そして彼女は、機械鳥の羽ばたきに惑う【インペリアル・グローリー】に狙いを定め……引き鉄を引く。
放たれたそれは、狙撃弾の中でも最も威力を持つ炸裂弾。
翼と翼の隙間をかいくぐり、弾丸は飛翔。
そして――【インペリアル・グローリー】の頭部に飛び込んだ。
頭部と頸部……《ドラゴニック・バーン》の砲身で、炸裂弾が爆発する。
耐熱素材ではあるが、外部装甲の古代伝説級金属ほどの強度は持たない砲身が、その爆発で罅割れていく。
『GIGIGI……』
だが、そんな急所への一撃も致命打にはなりえなかった。
急所の損傷でも【インペリアル・グローリー】は意に介さずに動き、そして跳ぶ。
直後、大穴の縁で狙撃体勢を取っていたニアーラの前に現れる。
「……ふぅ」
眼前のそれを見たとき、ニアーラは自身のデスペナルティを確信した。
そのときになって、『なぜ自分はユーゴーを助けたのだろうか』という疑問も覚える。
自分だけで逃げるなら、簡単に逃げられた状況だと言うのに。
けれど、その答えもすぐに見つかる。
――ニアーラもユーゴーについていって補佐しろ。
敬愛するオーナーから、任されていた仕事を全うしたということ。
そして、もう一つ。
ユーゴーを見ていて、話していて、……なぜか彼女の教え子の顔が浮かんだからだ。
助けなければと、自然に思っていた。
(……性別だって違うのに)
苦笑しながら……しかし自分の行動に悔いはないとニアーラは確信していた。
直後――【インペリアル・グローリー】はその腕を振るって彼女を叩き潰した。
「ニアーラさん‼」
ニアーラは光の塵となって消え、スィーモルグの残存機も共に消える。
邪魔者を消した【インペリアル・グローリー】が、再び動力ブロックに降下する。
『オオ終わワりだダダ……!』
先刻の言葉を繰り返すように唸りながら、黄金の竜頭機は【ローズ】へと歩む。
ニアーラの助力で遠退いた敗北が、また近づいてくる。
両者の差異は歴然。ユーゴーに勝る点はない。
「だとしても……!」
ここで諦めることはできない。
この怪物を放置することが、後にどれだけの禍根を生むかは想像すらできない。
何より……。
「レイは……逃げなかった!」
同じく強大な<UBM>を相手にしても、ユーゴーの知る一人のルーキーは……逃げなかった。相対して、悲劇を覆してきた。
(だからわたしも、逃げる事だけはしない……!)
そして、その決断に迷いもしないとユーゴー……ユーリは決めている。
見えない勝機を掴もうと、打つ手を考え続ける。
『Gi,GAGAGAGA……!』
それでも、強大な竜頭機は一歩ずつ、ユーゴーの死と共に迫ってくる。
竜頭の口腔からは、炸裂弾の後遺症ゆえかスパークが飛び散っている。
「…………?」
不意に、ユーゴーは何かに気づきかけた。
だが、それが形になるよりも早く【インペリアル・グローリー】は駆け出し、【ローズ】の胸部装甲を大きく歪ませる。
振るわれる拳打の雨。砕ける装甲。
繰り返される拳による破壊。
(……さっきから……どうして腕しか使わない?)
その中で、ユーゴーは確信する。
こうなってから、【インペリアル・グローリー】が拳しか使っていないことに。
消え去った特典武具だけではなく、搭載された内蔵兵器の一切を使っていない。
先刻も、《ミサイル・ダーツ》の使用を寸前で止めている。
『GaAaaa‼』
雄叫びと共に、【インペリアル・グローリー】の左手が【ローズ】の右肩に突き刺さる。
「これ、は……!」
圧倒的な攻撃力で神話級金属を破砕した竜頭機の腕。
しかしその腕も罅割れかけている。
それは《ジェノサイド・コンドル》の自爆によるダメージか、あるいはハイリガー・トリニテートを使った【サードニクス】との戦闘によるものだろう。
そのダメージは大きく、恐らくは内蔵している《ミサイル・ダーツ》の発射機構にも影響を及ぼしているだろう。
さっきは寸前でそれに気づき、使用を止めたのだ。
そのことは、二つの事実を示唆している。
(今の【インペリアル・グローリー】は十全に内蔵兵器を使用できない状態にある。そして……自分でもそれを目視するまで気づけていない!)
<UBM>と化した今の【インペリアル・グローリー】の状態の詳細までは、ユーゴーには分からない。
だが、少なくとも生物のように、痛覚で自身の損傷度合いを把握できるわけではないことは明らかとなった。
(相手は<UBM>になっても、機械。だからこそ、痛覚はない。……もしかしたら、それ以外にも何か……?)
何か、重大なことを忘れている。
それを思い出そうとユーゴーは思考を回す。
その間にも、【インペリアル・グローリー】は砕けた尾を振り回し、【ローズ】の胴を薙いだ。
胸部装甲の破損が拡大し……ついには剥がれ落ちる。
外部モニターを含めた内部装甲までも脱落し、ユーゴーは自身の肉眼で【インペリアル・グローリー】の姿を見た。
「……⁉」
『フ、HaハハハハハHahaha‼』
【インペリアル・グローリー】は笑いながら、コクピット目掛けて横薙ぎに拳を振るう。
「!」
ユーゴーは咄嗟に左腕を掲げ、キューコも氷結装甲を腕部に集中する。
激突音が直接ユーゴーの耳朶を叩くのと、体が浮遊感を覚えるのは同時だった。
一秒足らずの空中飛行の末、【ローズ】は背中から動力ブロックの壁に叩きつけられる。
「か、は……!」
肺の空気がユーゴーの喉から漏れていく。
ハーネスによって固定された体はシートから落ちることはなかったが、それでも体はノーダメージではない。
今の一撃で機体の内部機構にもダメージが生じたのか、コクピット内に火花が飛び散っている。
それでも【ローズ】の機体を起こし、【インペリアル・グローリー】に向かい合う。
「…………」
霞む視界で、虚ろになりかける意識で、ユーゴーは敵の姿を見る。
今の【ローズ】と同様に、胸部に大穴を開けた【インペリアル・グローリー】。
その大穴の先には、一人の男の遺体が見えている。
カーティス・エルドーナ。
既に死した者。そして、機体に託した遺志さえも歪み、砕けかけている者。
その遺体は、先の銃撃のダメージもあって大きく損傷していた。
ティアンは死ねば『箱』に入るという。
長旅や行軍で遺体を持ち帰るために、箱型のアイテムボックスを使う。
その『箱』は……言わば棺桶だ。
そしてカーティスにとっては、この【インペリアル・グローリー】こそが『箱』なのだ。
「…………」
彼の死体を直接見て……思うこともある。
ユーゴーにとって、カーティスは倒さなければならない敵だった。
己の目的のためにこの船でテロを起こし、それによって亡くなった者も大勢いる。
この船の事件以前にも、正統政府は数多の被害者を生み出しているだろう。
戦い、結果として致命傷を与えたことに悔いはない。
だが、彼は<叡智の三角>を知っていた。
ユーゴーと彼は敵でしかなかったが、姉と彼はそうではなかったのかもしれない。
そしてユーゴーも彼と直接話をした。
仲間さえも殺傷した彼の行いに怒りを抱いたが、その前に話していたときは<叡智の三角>の趣味人達に困らされたことについて共感もした。
(本当に、みんなは趣味で機体を作りすぎ……、……!)
その瞬間にユーゴーは電流が走るような感覚を覚え、意識が覚めた。
――<叡智の三角>の一員である君ならば知っているのではないかな?
――この【インペリアル・グローリー】の機能制限の解除方法を。
それは記憶の励起。
今に繋がる、会話の記憶。
「もしかしてっ……!」
ユーゴーは、目を凝らしてカーティスを……その手元にあるコンソールを見る。
操縦士系統のスキルで引き揚げられた視力は、そこに書かれた『内蔵武装・現在使用・なし』という文言を見て取った。
「ッ!」
咄嗟だった。
ユーゴーは咄嗟に、あらんかぎりの声を振り絞って……叫ぶ。
「――――《ペイント・ナパーム》‼」
その言葉は――敵機の武装名だった。
その声は、【インペリアル・グローリー】の胸部装甲に空いた大穴から、コクピット……カーティスの手元のコンソールへと届いた。
『Gi……?』
竜頭機が謎の言葉に疑問を覚えて動きが停滞した直後。
竜頭機の尾……砕けたテールバランサーから内部機構が動く音がした。
コンソールには『内蔵武装・使用待機中・《ペイント・ナパーム》』という文言が浮かぶ。
そう、ユーゴーの声に反応して、内蔵兵器が稼働し始めていた。
入力された音声に従い、【インペリアル・グローリー】の体は……尾部の燃料爆薬の使用を試みていた。
『ッ!?』
それは、ユーゴーが思い出した会話の記憶。
生前のカーティスが言っていたことだ。
――知っているならば教えてもらおうか。
――内蔵兵器使用時の音声照合をオフにする方法を。
――武装名を発声しなければ使用できないふざけた制限のことだ。
――音声の主が誰かは問わないから奪われたときのセーフティにもなっていない。
発音者を問わない、武装名の宣言。
<叡智の三角>の技術者が生み出した、意図的かつ趣味的な問題点。
ユーゴーにとって、それが機能するかは賭けだった。
<UBM>へと変じたことで、音声照合までも失われている可能性は高かった。
それでも今、音声照合は従来通りに機能していた。
それは【インペリアル・グローリー】が意思を持つよりも前、生まれたときから設定されていた機能であるがゆえに……今も作動する。
認定型の<UBM>は、在り方までは変わらない。
音響センサーを通ってきた音声には反応しない仕組みもあったが、しかし……今は共にコクピットを晒した状態。
ユーゴーの声は……【インペリアル・グローリー】の機能に届いていた。
『な、ニ……!? To、止まれレレ‼』
だが、止まらない。
内蔵兵器を組み込んだ<叡智の三角>の技術者達は、作動した武装を止めることなど考えてはいなかった。
ゆえに、止まらない。
あるいは……カーティス・エルドーナ本人であれば、この時点でも何かしらの対抗策を打ち出せたかもしれない。
しかし【骸竜機 インペリアル・グローリー】はカーティスそのものではなく……砕けた残滓に過ぎない。
カーティスは既にコクピットの中で死んでおり、今ここにあるのは……骸を収めた黄金の『箱』のみ。
正しい止め方も、奇抜な対処法も、全ては砕けている。
先刻までのように、野獣の如く拳を振るうしかこの『箱』にはできない。
だからこそ、止まることなく《ペイント・ナパーム》が作動する。
先の【サードニクス】との戦闘で破損していたテールバランサーは……尾の先に液体燃料を浸さなかった。
罅割れ砕けたテールバランサーから、液体燃料が四方八方に噴出。
【インペリアル・グローリー】の全身を染め上げ――コンドルの残火で炎上した。
『ガ、あ……アaアアAaアアア!?!!』
破損したコクピットから内部へと染み入った液体燃料が、カーティスの遺体を燃え上がらせる。
そしてそれ以上に、黄金の機体を焼き熔かしていく。
「《ペイント・ナパーム》!」
ユーゴーによって、重ねて宣言される武装名。
液体燃料はさらに吹き出し、あるいはそれを辿って内部機構までも焼き尽くしていく。
『グォOoオォオオAaアAア……‼』
断末魔とも、機械の唸りとも分からぬ音が【インペリアル・グローリー】から響く。
焦熱地獄の亡者の如く燃え上がりながら、しかし黄金の機体は【ローズ】に向けて駆ける。
焼かれながらもまだ止まりはしない。
終わりはしないと……砕けた目的に向けて駆け続ける。
眼前の敵を、己の目的を邪魔する者を滅ぼさんとして……。
最大の力を込めた、あるいは最後になるかもしれない一撃。
だが、振るわれた拳の一撃を白い機体は受け止め――受けきる。
『そんな拳に倒れてはやれない』と、まるで【ローズ】そのものが告げるかのように。
『――――《ドラゴニック・バーン》!』
そして、更なる武装名を……ユーゴーは叫んだ。
直後、黄金の機体は動力炉のエネルギーを熱量に変換する。
だが、重ねた戦闘や大炎上で内部機構は重度の損傷を負っている。
何よりも……ニアーラの炸裂狙撃弾によって砲身は罅割れていた。
熱エネルギーは砲身の罅を広げながら四方に漏出しはじめる。
『GoOOOAAAAAAAA‼』
だが、【インペリアル・グローリー】……逸話級の<UBM>である【骸竜機】は、その爆発を抑え込んでいる。
死に瀕して、己の身体を制御しかけている。
体を消し飛ばしかねない熱量を抑え込み、収縮させようとしていた。
「……!」
そもそも、内蔵武装に止める手段がないと言っても……《ドラゴニック・バーン》だけは別だ。
【サードニクス】の《ブラスト・フレア》との打ち合い、そしてチキンレースへと発展したように……この武装だけは止めるタイミングを選択できる。
装甲の内部から膨大な熱量が荒れ狂うが、それを自らで抑え、捻じ伏せんとしている。
決壊しかけたダムのような状態で、【骸竜機】は耐えていた。
「…………」
今この瞬間が、分水嶺だった。
ここでトドメを刺せなければ、【骸竜機】はこの欠点を克服する。
恐らくは、コクピットの音声照合機能を自ら破壊するだろう。
あるいは、この大炎上とエネルギー漏出で既に機能を失ったのかもしれない。
だからこそ、今しかない。
「往こう、キューコ! 【ホワイト・ローズ】!」
『うぃ、まむ!』
『…………』
ユーゴーの言葉に、今までで最も力強くキューコが応じ、【ローズ】もまた機関を唸らせてそれに応える。
そして彼らは駆けだした。
剥き出しのコクピットで、溢れ出す熱量の中心へと。
かつてのギデオンでの最終決戦のように、氷結装甲がコクピットを覆おうとするが、溢れる熱量にすぐさま融解していく。
流れ込む熱量に、ユーゴーの皮膚が焼けていく。
『ユーゴー……!』
「まだだ!」
ユーゴーは知っている。
炎の中で立ち向かい続けた友人を知っている。
だからこそ、ユーゴーも止まれない。
止まらない。
前進を――選択する。
今度は――迷わない。
「ッ……!」
だが、機体のダメージが限界を超える。
【骸竜機】に破壊されていた脚部が、ついにその機能を失おうとしている。
そして、機体が膝をつく――
「――《ブゥクリエ・プラネッタァァァァァッ》‼」
――その寸前に、ユーゴーは機体のスキルを発動した。
瞬間、脱落していた浮遊盾が【ローズ】へと舞い戻る。
そして【ローズ】は浮遊盾を……唯一残った四肢である左手で握りしめた。
「これで……終わらせるッ‼」
【ローズ】は脚部に最後の力を込めて、跳ぶ。
その反動で、両足が砕け落ちる。
「飛べ……【ホワイト・ローズ】‼」
だが、機体の全出力を載せた跳躍力と浮遊盾の推進力を累て、白薔薇は――飛翔する。
そして真っすぐに揺らぐことなく、機体の全重量を、力の全てを――、
――――黄金の骸へと叩きつけた。
『Gi,Ga,ga……』
それは、弱い一撃であっただろう。
【骸竜機】の拳に比べれば大きく劣る、その程度しかなかっただろう。
だが、ユーゴー達の全てを賭したその一撃は……。
――決壊しかけていた堤を崩すに足る一撃だった。
『Gaaaaaaaaaaaa!!!?』
最後の一押しを受けて、【骸竜機】の口腔から、そして全身から膨大なエネルギーが溢れ出す。
もはや抑えきれないそれは、【骸竜機】の全てを飲み込んで。
――炎の薔薇を咲かせるように、内側から跡形もなく消し飛ばした。
To be continued