死出の箱舟・■■の■ その十三
(=ↀωↀ=)<漫画版21話更新ー
(=ↀωↀ=)<今回はみなさんお待ちかねのあのシーンが入ってます
○お知らせ
(=ↀωↀ=)<複数回の指摘受けて考えた結果
(=ↀωↀ=)<この話からドライフ「正当政府」を「正統政府」にします
(=ↀωↀ=)<過去話は追々修正(数多いから書籍修正かもしれないけど)
(=ↀωↀ=)<「正しい血筋」って意味での「正統」ではないから
(=ↀωↀ=)<「正しく法にかなった存在(を自称する)」って意味で「正当」にしてたけど
(=ↀωↀ=)<何回も言われるくらい分かりづらくても仕方ないからね
□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス
特別ホールを出た後、私達は二手に分かれた。
マニゴルドさんとイサラさんは、操舵を始めとする船のコントロールを担うブリッジに向かった。
守らなければならない最重要ポイントであるし、ホールでのことを把握できていないだろう船長達に現状を説明するためだ。
私とキューコ、それにエルドリッジさんとニアーラさんは、商業ブロックから順に船内の残敵掃討を行う任を担った。
商業ブロックから始めるべきだと言ったのはエルドリッジさんだ。
理由としては『連中が船のインフォメーション設備を使用したということは、商業ブロックは確実に抑えられているということだ』という非常に納得のいくものだった。
そうして今、私達は商業ブロックを目指している。
「ねえ、なにかくしてる?」
けれど唐突に、キューコが先行するエルドリッジさんにそんな言葉を投げかけた。
「キューコ?」
「隠している、とは?」
「なんだかあせってる。わるいことばれないかひやひやしてるみたい」
「…………」
キューコの言葉に、エルドリッジさんは無言だった。
だが、そこはかとなく……首筋に冷や汗が伝っているようにも見える。
「……実は」
「じつは?」
「商業ブロックのモールに、クランのメンバーがいる。彼女のやらかしが心配で急いでいた。こんなときに私情を混ぜて済まない」
「いえ、エルドリッジさんの言うように、商業ブロックに正統政府がいるのは確かです」
他に理由があるとしても商業ブロックには確実にドライフ正統政府がいるから、対処はしなければいけない。
「それに、仲間のことが心配なのは当たり前ですよ」
「そう言ってもらえると、助かる」
エルドリッジさんは本当にホッとした顔でそう言った。
やっぱりクランを大切にする良いクランオーナーなんだろうな。
そうして私達は通路を抜けて、商業ブロックに辿り着いた。
「早速のお出ましだ。来るぞ」
商業ブロックに入ってすぐ、エルドリッジさんが警告を促した。
すると一機の【マーシャルⅡ】――かなりカスタムされた機体と――十人近い歩兵がこちらに接近してくる。
エルドリッジさんはすぐに右手を振るい、ホールでそうしたように相手の機体を奪うスキルを使用した。
けれど……その機体は奪われず、前進を止めもしなかった。
「なぜ……?」
「……相当に高レベルの盗難対策が施された機体だ。《グレータービッグポケット》の判定を二度続けて失敗した。ホールの連中と違ったのは見た目だけではないらしい」
私の疑問にエルドリッジさんはそう答えた。
たしかに、【マーシャルⅡ】に盗難対策のシステム……正確には盗難・強奪系のスキルを阻害するシステムは載せられる。一部のアイテムボックスに用いられているものの応用発展技術だ。
でも、最高レベルの対策はそれ自体が本体に近い素材費がかかるから、そこまで高度なものは<叡智の三角>でもあまり使ってはいなかった。
私の【ホワイト・ローズ】と、師匠の【ブルー・オペラ】くらいのものだろう。
「こうなると、直接戦闘で破壊して進むしかないが……」
エルドリッジさんの顔には少しの焦りが見えた。
それはきっと、この商業ブロックにいるだろう仲間のことを案じているのだろう。
「ここは私に任せて。エルドリッジさん達は先に。キューコ!」
「うぃ、まむ」
私はアイテムボックスから【ホワイト・ローズ】を《即時放出》し、すぐに乗り込む。
キューコも即座に応じて、【ホワイト・ローズ】と合体する。
「……任せた」
「お願いします。……まむ?」
エルドリッジさんとニアーラさんは、そう言って迫る敵とは別方向へと駆け出した。
それを見送って、私も戦闘を開始する。
「キューコ、《地獄門》は?」
『だいじょうぶ。あいつら、ぜんぶふたけた』
迫るカスタム機のパイロットと歩兵、そのどちらもが同族討伐数を持つのならば……問題ない。
エルドリッジさんとニアーラさんは既に対象外に設定してあるし、他の人々の姿も見当たらない。
今ならば使える。
「射程距離は五〇メテルまで狭めて使用」
「おっけー」
「――《地獄門》」
瞬間、五〇メテル以内にいた歩兵達が凍り付く。
ある者は手足の一部を、ある者は体の過半を凍らせている。
判定を逃れた者もいたが、しかし突然の事態に困惑が見える。
その中でもこちらへの攻撃を試みる者はいたが、火薬式銃器の弾丸は全て【ホワイト・ローズ】の神話級金属合金装甲によって弾かれる。
魔力式と違い、誰が使っても威力の変わらない火薬式。携行火器レベルでは威力もたかが知れており、防御にのみ重点を置いた【ホワイト・ローズ】の守りは抜けない。
注意すべきは、ただ一つ。
『あいつのなかみ。まだこおってない』
「そのようだ」
キューコの指摘通り、カスタム機はパイロットが【凍結】の判定を逃れたのか動きの精彩を欠くことなくこちらへの攻撃を仕掛けてくる。
正統政府の<マジンギア>が持つ携行火器の威力は、ホールでマニゴルドさんに向けられたもので見ている。
あれを受ければ、【ホワイト・ローズ】でも完全にノーダメージとはいかない。
だから相手の攻撃を回避し、直撃を防ぐことに重点を置いて起動する。
時間はこちらの味方なのだから。
『じゅうさんびょう』
そして、二度目の判定。
歩兵達の【凍結】がさらに進み、今度はさっき凍らなかったものも凍り始めた。全身が凍った者もいた。
それでも、カスタム機の動きは鈍らない。
「……キューコ、相手のカウントは?」
『……たぶん、はちじゅうくらい』
「…………」
八〇%を二回連続で失敗するのは、確率的にはありえることだ。
だけど、奇妙な違和感……そして悪寒を覚えた。
「……正攻法で戦う」
『うぃ、まむ』
《地獄門》は通じない。理由がどうあれ、そんな気がした。
こちらも携行火器と近接用のアイスブレードを構え、カスタム機に相対する。
――強力なスキルに欠点は付きものだからな。
――ユーゴーとキューコもまだ自覚していない弱点があるんじゃないか?
マニゴルドさんの言葉が、頭の中に木霊していた。
◇◆◇
□■【エルトラーム号】・商業ブロック
サイレンが鳴り響く中で、眠った軍人達がフェイに身ぐるみを剥がされていた。
「ピーピーうるさい通信機っすねえ」
最初は物色中に鳴り始めた通信機に驚いたが、それ以降は何も起きない。また隠れてみたものの、新たな敵が来る気配もない。
なので、フェイは鳴るに任せて放置しながら物色していたが、いつまでも鳴りやまないサイレンが段々と鬱陶しくなってきた。
「あ、そうっす」
フェイは五月蠅いだけのそれを《スティール》し、自分のアイテムボックスに仕舞うことで強制的に静かにした。
「通信機ってあると便利っすからねー。ふふふ、こんなに追加収入ゲットしてるアタシは今回マジで殊勲賞っすね! 食べ過ぎポッコリお腹差し引いてもオーナーの好感度はウナギのぼりっす!」
そんな風に満面の笑みでガッツポーズしていた……が。
直後、砂漠仕様の【マーシャルⅡ】がホバー走行で彼女の視界に現れた。
「ぬぇ!? アタシは発砲も許さないサイレントな仕事だったはずっす! やっぱりさっきのサイレンのせいで……」
『通信機の反応途絶ポイントはここか!』
「…………」
どうやら通信機自体が仲間の現在位置を確認するマーカーだったらしく、それがアイテムボックスに仕舞われたがために急行してきたらしい。
(……あ、これマジヤバいっす)
彼女に砲門を向ける【マーシャルⅡ】は<亜竜級マジンギア>と呼称される。
基本性能をステータスとして計算した際、亜竜に伍するためだ。
だが、それはあくまでも基本性能の話。
搭乗者の《操縦》をはじめとするスキルで性能は向上し、携行する火器の火力は別計算。
それゆえ、<亜竜級マジンギア>はまず間違いなく亜竜よりも強いと言える。
「…………」
そしてフェイが敵う相手でもない。
元よりAGIとDEX以外は伸びないビルドであるし、対人で使える短剣の状態異常攻撃も甲殻や装甲の厚い相手には徹らない。
逃げるにしても、現れたときの速度から見てフェイよりも速い。恐らくパイロットが【疾風操縦士】なのだろう。
何より、<マジンギア>は《スティール》で盗めるサイズでもない。エルドリッジが機体を丸ごと盗めるのは、【強奪王】の《グレータービッグポケット》だからこそだ。
つまり、フェイに打つ手はなく、詰んでいた。
(どどど……どうするっすか!? そ、そうだ!)
追い詰められたフェイは咄嗟に……【強制睡眠】状態だった軍人の体を起こした。
そして……。
「仲間の命が惜しければ攻撃はしないことっす!」
そう言って、首に短剣を押し当てた。
実に小物な悪党のようであった。
(ふふふ、こうすればきっと動きを止めるはず……あるぇ?)
だが、相手の【マーシャルⅡ】は一瞬だけ動きを止めたものの……すぐに砲門の照準を合わせた。
「な、仲間の姿が見えないっすか!?」
『コソ泥に敗れる輩に我らの同胞たる資格なし』
「みぎゃあ!? 過度な粛清は組織崩壊するって地球の歴史とヒーロー番組が実演してたっすよ!?」
相手が地球の歴史やヒーロー番組を知らないという大前提を考えてない発言である。
ドライフ正統政府自体が皇国では粛清対象だったようなものだが。
ともあれ、小悪党じみた人質戦法も意味はなく、フェイは【強制睡眠】状態の軍人と一緒に火砲によって葬られ……。
「コソ泥に敗れれば資格なし? ――ならばお前も無資格だ」
そんな言葉が【マーシャルⅡ】の背後からフェイの耳に届くと同時に……【マーシャルⅡ】が消え失せた。
「……?」
後には、何が起きたか分からないという表情のまま、操縦姿勢で床に落ちるパイロットの姿があったが……。
「隙ありっす!」
瞬く間にフェイのシフス・ゲシュペンストで状態異常の袋叩きにされ、葬ろうとした仲間同様に【強制睡眠】に落ちたのだった。
「ふー! ふー! 正義は勝つっす!」
「……正義、か? 我々は野盗クランだが……」
勝ち誇るフェイの言葉に対し、意味を考えるような声があった。
フェイが振り向くとそこには……。
「ともあれ、間に合って良かった」
今しがた【マーシャルⅡ】を強奪して彼女を救ったエルドリッジの姿があった。
「オーナー! マジ会いたかったっす! 心細かったっすよおおおお!」
フェイは今がチャンスとエルドリッジに抱きつこうと飛び掛かったが、
「それは許可しません」
直前で割って入ったニアーラにキャッチされた。
「……おー、ニアーラにも会いたかったっすー」
「オーナーとの落差がありますね。気持ちは分かります」
そんなやりとりをする二人を眺めながら、『やはり二人とも仲がいいな』などとエルドリッジは思っていた。
「さて、フェイ。無事を確認できたところで一つ尋ねたいんだが」
「好きな食べ物はザワークラウトたっぷりのホットドッグっす!」
「違う」
エルドリッジの言葉と同時に、ニアーラが頭を叩いてツッコミを入れた。
「サイレンが鳴り始めたのは、フェイが何かした後か、前か?」
「…………」
フェイは答えられなかった。『あ。これ正直に言ったら怒られる奴ー』というのが彼女にもよく分かっていた。
「……質問を変えよう。こいつらがサイレンを鳴らしたか?」
「鳴らしてないっす! アタシはサイレントに仕事したっす!」
『今だ! ここでアタシの潔白証明っす!』とばかりにフェイは早口でそう言った
「……そうか。それなら、誤魔化せるか」
フェイの返答に、エルドリッジは少し安堵した。
そんな折、彼らの方へと重く硬い足音が響いてくる。
『エルドリッジさん。ご無事ですか?』
それは純白の<マジンギア>……ユーゴーの【ホワイト・ローズ】だった。
「あ! オーナー! 獲物っす! 次の獲物っすよ!」
「違う、フェイ。あれは今回の同盟相手だ」
「へ?」
フェイはハテナマークを浮かべたような顔だったので、ニアーラがこれまでの経緯を説明し始めた。
そんな二人を横目に、ユーゴーとエルドリッジも言葉を交わす。
「引き受けさせてすまなかったな」
『ええ、エルドリッジさんもメンバーのところに急行する必要がありましたしね』
「ああ。お陰で合流できた。……それよりも」
エルドリッジは【ホワイト・ローズ】の状態にすぐ気がついた。
フレームにまでダメージは徹っていないが、表面装甲は幾らかの傷みが見える。
それは歩兵の火器による小さい傷ではなく、【マーシャルⅡ】の武装によるものだ。
「君のスキル、《地獄門》の対象外だったのか?」
対象外に登録するに当たって、ユーゴーからスキルの説明は受けている。
同族討伐数によって効果が強化され、一〇〇人を超せば確定の【凍結】。
戦争……内戦後の職業軍人相手には有効なスキルであったので、ここまでユーゴーが手古摺るとはエルドリッジも思っていなかった。
『それについて、相談したいことがあります』
◇◇◇
□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス
正攻法での戦闘に切り替えた後、決着はすぐについた。
交戦してさほど経たないうちに……カスタム機のパイロットが【凍結】したからだ。
あれは、四回目か五回目の判定だっただろう。
互いにダメージを与えながら戦っていた最中、急に相手は体の八割が【凍結】して機体が操縦できなくなり、次の判定で全身が凍った。
単純に考えれば、それまでは幸運にも回避できていた判定についに引っ掛かった、と考えられる。
けれど、それだけとは思えなかった。
もしかするとキューコの《地獄門》を封じる要因があるかもしれないと思えた。
「どうですか?」
「…………」
だから私は、エルドリッジさんに戦ったカスタム機を見せた。
凍ったパイロットは既に下ろされ、【凍結】した他の軍人達と一緒に脇に置かれている。
後で官憲に引き渡してから【凍結】を解除することになるだろう。
「この機体、俺のスキルを防いだ盗難対策は最高純度のものが使われている。加えて、通信用の装備が非常に多いな」
「通信用?」
「推測するに、こいつが通信妨害の源であり、連中の通信網のホスト機だ」
商業ブロックは船の中央部付近にあるため、通信をバイパスするには最も効率が良かったのだろう。
正統政府が連携を取るための要。重要な機体であるならば、盗難対策スキルが積まれていたことにも納得がいく。
「…………」
だけど、それでは《地獄門》によって【凍結】しなかったことの理由が分からない。
盗難対策、通信妨害、通信ホスト。いずれも《地獄門》の判定に影響するとは思えなかった。
「以前に<マジンギア>を相手にスキルを使用したことは?」
「クランでのテストで何度か」
姉さん主導での検証実験、だったはずだ。
あのときは【マーシャルⅡ】や【マーシャルⅡ改】に乗ったクラン内の決闘ランカーの人達が【凍結】していた。思えばあれは、ギデオンで決闘ランカー相手に使えるかの実験だったのだろう。
「なら、その時との違いがどこかという話になるな」
「違うってそりゃ違うっすよね? 前にネットで見た【マーシャルⅡ】とかなり違うっす」
カスタム機の傷ついた胸部装甲をコンコンとノックしながら、合流したエルドリッジさんのクランメンバー……フェイがそう言った。
「色が違うし、あと、なんかいろいろ違うっす?」
「砂漠仕様だからな。砂塵の関節部への浸入を防ぐためにカバーをかけ、空気乾燥や夜間の低温に対応するために機体の気密性を上げ、ローラーダッシュの代わりにホバー走行を搭載している。全体的にノーマルよりも金がかかった仕様だ。だからこそ、俺達にとっては助かる」
「詳しいっすねオーナー!」
「獲物の下調べはする。それだけのことだ」
「それにしても、彼らはどうやってここまでの改造を施したのでしょう。国を出奔した軍人達ですよね?」
「前提が足りていないぞ、ニアーラ」
ニアーラさんの言葉にエルドリッジさんはゆっくりと首を振った。
「連中は逃亡兵だが、それ以前に元第一機甲大隊。性能と設定が特殊極まる特務兵を除けば、皇国の最精鋭部隊だ。元から<マジンギア>を扱い、整備し、改造していた連中だ。パワードスーツと戦車に関しては、<叡智の三角>以上のスペシャリスト達だ。そんな連中なら、持ち出した【マーシャルⅡ】を環境に合わせて改造するくらいはできるだろうさ」
「……なるほど」
「俺だって《グレータービッグポケット》が通じなければ面倒に感じる相手だ。こんな風に装甲を叩き割らねば、《グレーターテイクオーバー》でパイロットを狙うこともできない」
エルドリッジさんはそう言って、フェイ同様にカスタム機の胸部装甲に手を触れ……。
「……ところで、ユーゴー。この傷は戦闘中に?」
亀裂のような傷を指差して、私にそう尋ねた。
「はい、こちらのブレードで」
「相手のパイロットが凍ったのは、この傷の後か、前か?」
「え? 後……だったはずですが」
「そうか……。もう一つ尋ねたい。君の<エンブリオ>の情報に関わるが、構わないか?」
問われ、キューコの方を振り返ると……彼女は頷いた。
「はい」
「キューコのTYPEは?」
TYPE?
「今はメイデンwithアドバンス、ですが……」
「テリトリーとのハイブリッドではないな?」
「はい」
クランでもよく『テリトリーみたいなスキルだ』と言われたけれど、キューコはメイデンであることを除けばチャリオッツ系列のみだ。
「なら、こうなるまで効かなかった理由はそういうことか」
「理由が、分かったんですか?」
「ああ。テリトリーが混ざっていないならばな」
「それはどういう?」
テリトリーが混ざっているかどうかが、それほどに重要なのだろうか?
「法則と影響。凍る空間と凍らせる武器。あるいは、冷凍庫と液体窒素か」
「え?」
「結果は同じでも、違うことはある。あとは自分で考えてみるといい」
エルドリッジさんはそう言って、擱座したカスタム機を弄り始める。
「雑にスキルを使うのではなく、効果を検証して詳細を把握するのも重要だ。それが一線級と二線級の境にもなる」
「オーナー良いこと言うっすねー!」
「……うちのクランで一番雑にスキルを使ってるあなたが言いますか?」
「それがフェイらしさであるし、だからこそシフス・ゲシュペンストの能力特性はああなのだろうがな。……よし」
話している間に、エルドリッジさんはカスタム機から一部の部品……盗難対策に用いられるパーツを取り外した。
「授業料代わりにこいつは貰っても?」
「あ、はい」
「感謝する」
そしてエルドリッジさんは腕を振ってカスタム機を強奪し、アイテムボックスに仕舞いこんだ。
「さて、商業ブロックにはもう敵はいないだろう。次は客室の方に向かうべきか?」
「あ! そうだったっす! 忘れてたっす!」
エルドリッジさんの言葉に、フェイが慌てて声を上げた。
「さっき金ぴかでデカくて強そうな<マジンギア>が走ってったっす! 壱号に尾行させてるからどっちに行ったかは分かるっす!」
金色で大型の<マジンギア>……?
それはまるで、<叡智の三角>が以前作った特別機のようだけど……。
「今はどこにいる?」
「えーっと……あっちっす!」
フェイは目を閉じてコメカミに指をあてて暫し集中した後、斜め下を指差した。
その方角は……。
「……動力ブロック?」
「下船しているのでなければ、そうなるな。そして、推測だがその機体は正統政府の首魁だろう。そんな見た目の機体を旗頭にしていると、聞いたことがある」
「向かいますか、オーナー?」
「……できればマニゴルドと合流したいところだ。確実に盗難対策が施されているだろう。手に余りかねない」
私もその意見に頷く。
先刻のカスタム機のように、何らかの要因で《地獄門》が効きづらい恐れもある。
「通信妨害をかけていた機体を排した今なら、連絡が取れないか?」
「やってみます」
マニゴルドさんに預けられていた通信機を起動させて、連絡を取る。
するとすぐに応答があった。
『ユーゴーか?』
ノイズも少なく、繋がった様子だ。
「はい。商業ブロックで通信妨害の原因機体を倒しました。また、エルドリッジさんのクランメンバーから、正統政府の首魁が動力ブロックに向かったという情報も得ました」
『そうか、なるほどな……。こちらはブリッジを奪還した。操船スタッフも無事だ。しかし、動力炉が止められ、今は残存魔力で動いている状態だ。遠からず船は停止する』
「……正統政府が動力炉を止めたってことですか?」
『そう考えるのが自然だが……停止処理が早いのは気になるところだ』
「?」
『まるで、止め方を知っていたようだろう?』
……たしかに。
『まぁ、状況は理解した。俺もそちらに……何?』
そのときだった。
通信機の向こうから、何人もの人々の困惑の声が聞こえてくる。
そして微かな爆発音が聞こえて、それから一秒の差もなく私の耳にも直接……より大きな爆発音が聞こえた。
「これは……!?」
『護衛一番艦、轟沈!』
『二番艦も被弾!』
通信機からはブリッジスタッフのものだろう状況報告が聞こえてくる。
護衛艦とは、【エルトラーム号】の周囲でモンスターなどの警戒に当たっていた船のことだろう。
『……前言撤回だ。俺はそちらにいけそうもない。ユーゴーとエルドリッジで対処してくれ』
「マニゴルドさん?」
商業ブロックから見ることができない船の外で、何が起こっているのか。
私達には分からない。
けれど……。
『二番艦、被害増大……轟沈!』
『三番艦も被弾!』
『四時方向、地平線の彼方より未確認反応急速接近!』
通信機を介して伝わってくる窮状と、
『――ど、ドラゴンです! 機械のドラゴンが、護衛艦に砲撃を……!?』
その言葉が……状況の急転を報せていた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<到着が予定より早いって?
(=ↀωↀ=)<同乗者の肉体強度忘れて超音速機動したポンコツのせいです