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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩編 三ページ目

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382/716

死出の箱舟・■■の■ その三

(=ↀωↀ=)<三周年記念三日連続更新三日目ー


(=ↀωↀ=)<次回は四日後ですー

 □【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス


 乗船二日目。今日はマニゴルドさんの商談が行われる。

 交渉相手は次に停泊する都市で乗船するらしい。

 今は遅めの朝食も兼ねて、マニゴルドさんとの打ち合わせ中だ。


「そういえば、今度の珠の詳細って分かってるんですか?」


 最初のヘルマイネでは雷の珠。次のコルタナでは蛆の珠と……【冥王】ベネトナシュの持っていた水を土に変える珠があった。

 これまでは持っていることは分かっていても、どんなものを持っているかまでは分からなかった。

 ただ、今回は交渉で買い取るという話なので、あちらが珠の詳細を伝えている可能性はある。

 そして案の定、私の質問にマニゴルドさんは頷いた。


「ああ。非人間範疇生物(モンスター)人間範疇生物(ティアン)に変える<UBM>が封じられているらしい。それも必ず美男美女になる人化だそうだ」

「……すごく限定的な効果ですね」


 というか、その能力の大本である封印された<UBM>は何でそんな能力持ってるの?


「珠の元々の持ち主は奴隷商人で、人化させたモンスターを販売していたそうだ。まぁ、格安の【リトル・ゴブリン】を美男美女にして売れば、差額はそれなりに大きいからな。亜竜以上では基本的にモンスターの方が高いため、商売としては大した規模にならなかっただろうが」

「元々の持ち主……ってことは今回商談するのは別人ですか?」


 マニゴルドさんは首の肉に皺を作りながら頷いた。


「その人化、タイムリミットがあったそうだ。三日もすると元に戻る。当然、買い手は激怒し……他の奴隷商人にも飛び火した。結果としてその奴隷商人は奴隷市場を荒らした制裁で、どこぞの放ったヒットマンに殺されたそうだ」

「それはまた……」

「同業者でなく買い手の報復かもしれんな。ヤッてる最中にゴブリンに戻ったらそりゃあ怒る。トラウマものだ」

「…………」


 コメントのしづらい話だなぁ……。


「で、俺に……というかカルディナ議会に『この珠を引き取ってくれ』と打診してきたのは、その商人の元部下だ。商売していた町から逃げるときのどさくさで珠を持ちだしたものの、持て余す上に持ってるだけで狙われかねない。だから、さっさと金に替えたいそうだ」

「なるほど」


 ……コルタナの市長の例を見るに、あの珠は持っていると騒動の種になるからその判断は正解だと思う。


「マニゴルドさんは買い取ったらどうするんですか?」

「議会に届ける。それが今回の俺の仕事だからな。……倒して特典武具にすると黄河が五月蠅いから、なるべく無事に届けなきゃならん。勝手に盗まれてバラまかれた間抜け共に、口出ししてほしくもないんだがな」


 そう言って、マニゴルドさんは苛立たしげに葉巻を取り出した。

 横に立っていたイサラさんが指で(・・)吸い口を挟み切って(・・・・・・・・・)、ライターで火をつける。

 一瞬だったけど、断面は千切った風ではなく平面だった。……そういうスキルを使うジョブなのだろうか。


「市長交代や復興のゴタゴタでコルタナのオークションが長期間中止になり、俺にまで影響が及んでいるというのに……」


 一服して、マニゴルドさんは溜息と共に煙を吐いた。

 今のカルディナの状況は、本来の窃盗事件とは無関係だったのに巻き込まれてしまった被害者とも言える。

 商業の中心地だったコルタナなど、市長の死亡と街の大穴で長期間の機能不全を余儀なくされている。

 それもあってマニゴルドさんは立腹なのだろう。


「……まぁ、黄河の方は議長が交渉中だ。上手くすれば、枷が外れてこっちで処分していいことになる」

「でも、エロのたまなんてじゅようないよね?」


 ……キューコ、人化の珠はそういう用途限定じゃないと思うけど。


「いや、人類が続く限りエロの需要は途切れん。ぶっ壊していいなら俺が欲しい」

「昨日から思ってましたけど公の場で発言があけすけすぎませんか!?」

「エロデブにひく」

「懸念は、十中八九AR・I・CAの奴も欲しがるという点だな」

「師匠ならやりそう!?」

「エロばかり……しねばいいのに」


 美男と美女作り放題とか師匠なら喉から手が出るほど欲しがる……!

 まさか、そんなアホみたいな話で<超級激突>起きないよね……?


「それは置いといて、だ。珠を壊していいなら、カルディナが一連の騒動で被った被害も取り返せる。だから議長には交渉で勝ち取ってほしいところだ」

「特典武具が何個かあっても、コルタナの被害とは引き換えにできないと思いますが……」


 所詮は個人で使用できる武器や素材。

 それが少しあったところで、カルディナ最大の商業都市が機能不全に陥った現状は取り返せない。


「いや、十分ペイできるさ。最終的には新規の交易路が大量に獲れるからな」

「?」


 交易路?

 珠の中に、この砂漠の行き来に影響を及ぼすようなものがあるんだろうか?


「こっちからも聞いておきたい。【エルトラーム】号の構造はもう覚えたか?」


 話の流れを変えるように、マニゴルドさんが私の請け負ったアルバイト……護衛に関する質問を寄越してきた。


「はい。ひとまず昨日の内に船内を見回って構造を把握しておきました。立ち入り禁止の動力ブロックや貨物室以外は一通り」

「ご苦労」

「見回っていて改めて思いましたが、この【エルトラーム号】はかなり大きいですね。稼働にはどのくらいのMPが必要なんでしょうか?」


 <Infinite Dendrogram>には魔力(MP)があり、魔法がある。

 魔力は熱エネルギーや電気エネルギー、風力エネルギーをはじめとして様々なエネルギーに置換可能な扱いやすい無色のエネルギー。

 そのため、<Infinite Dendrogram>では科学技術も魔力を応用した形式が主流となっている。

 カルディナの砂上船、そしてグランバロアの動力船もドライフの<マジンギア>と同じように人がMPを注いで動いている。

 このように大きな船であれば予めMPを保存できるタンクが設置されているケースもあるが、大本は人力と言える。

 そして巨大になって重量が増すほどに、必要なMPは莫大なものとなる。

 この船で言えば少なくとも、【ホワイト・ローズ】の比ではない。そう思って尋ねたのだけど……。


「いや、この船は人のMPは使っていない。<遺跡>から出土してレストアされた、先々期文明の大型船用の動力炉だ。希少品だな」

「へぇ……」


 本当に珍しい。

 優れた技術を持つ先々期文明が魔力を自ら生み出す動力炉を作成したことは知っていたけれど、実物を見たのはレイの【白銀之風】以来だ。

 この船を動かすほど大型の物だと初めてかもしれない。


「でも、レストアなんてできるんですね」

「ああ。それ専門の技術者がいる。この船の動力炉をレストアしたのは専門家の中でも特に名が知れている人物だ。何十年も活動を続けている技術者で、名前は確か……クリス・フラグメント、だったはずだ」

「そんな人が……」


 ドライフでなく、このカルディナにそんな優れた技術者がいたんだ。

 クリス・フラグメントか……。


「もっとも、所在不明の変人らしい。先々期文明のアイテムをレストアしてきては、狙いすましたようにそれを欲した相手に売りつけることを繰り返している。今回も、カルディナ最大の運輸会社に大型船舶用の動力炉を売りつけたそうだ。その動力炉はメンテもほぼ不要の高性能。おまけに船体の改善案の設計図まで込みで売りつけたらしい」


 一息つくようにマニゴルドさんはまた葉巻を一服した。


「物資輸送と客船を兼ねた超大型砂上船の建造。需要があるからこれまでも何度も計画されては、その度に動力面がネックになって潰れてきた。しかしまさか、その問題をクリアするほどの動力炉まで直して持ってくるとは驚きだ。……俺に売ってくれてもよかったんだがな」


 【ホワイト・ローズ】の買い取りを持ち掛けてきたときと同じ顔で、マニゴルドさんはボソリと呟いた。


「でも、先々期文明の動力炉か……。この船を動かすほど大きなものでなくても、それがあれば……」


 【ホワイト・ローズ】の問題も解決できるかもしれない。

 多重発動した防御系スキルや神話級合金の装甲を動かす出力のために、私のMPでは稼働時間がとても短くなってしまう。

 でも、【ホワイト・ローズ】の動力炉を今のMP変換式から、先々期文明の自発式に交換できればその問題はクリアできる。


「物欲しそうな顔だが、気をつけろよ。クリス・フラグメントは有名なレストア技術者だからな。名前を騙ってガラクタを売りつけようとする奴はカルディナにもいくらでもいる。特に、用途の多い動力炉はな」

「……気をつけます」


 《真偽判定》持ってないし……気をつけよう。


 そういえば……前に姉さんやメンバーのみんなから聞いた話だけど、<叡智の三角>でも一回だけ先々期文明動力炉を取り扱ったことがあるらしい。

 それは、【マーシャルⅡ】の量産成功を評価して内戦前の皇国軍からの依頼だったらしい。

 希少な保存状態良好の動力炉が提供されて、それを使って<マジンギア>を作ったそうだ。

 しかも予算に限度がなかったとのことで、メンバーのみんながやる気を出し過ぎ……高コストの装備や機能を満載してしまった。

 結果出来上がったのは、採算度外視という言葉すら生温い機体。

 私の【ホワイト・ローズ】と師匠の【ブルー・オペラ】は姉さんが【マーシャルⅡ】をベースに独力で作った試作機だけど、それは<叡智の三角>が総力を結集した実験機だった。

 量産前提の【マーシャルⅡ】ではなく、オンリーワンのスーパーロボット(・・・・・・・・)としての<マジンギア>。


 記録写真でのみ見たことがある……黄金の機体(・・・・・)


 ただ、その機体も内戦のゴタゴタで紛失してしまった。破壊されたわけではないけど、どこかに持ち出されてそのまま行方不明らしい。

 姉さんもメンバーのみんなも「もったいない」と言っていたっけ。

 ……その機体、今はどこにあるのだろう。





 ◆◆◆


 ■停泊都市某所


 【エルトラーム号】がこの日の夜に停泊する予定の街の一角にある地下倉庫。

 表向きはとある商会に貸与されているその施設に、大勢の集団が集まっていた。

 何百と並ぶ彼らは、一様に同じ軍服を身につけている。

 それは……ドライフの軍服であった。


 整列する彼らの前には大型の<マジンギア>が鎮座し、その機体を背に一人の男が立っている。


「諸君。我々は、このカルディナに拠点を移して以来、最大規模の作戦を実行する」


 軍人達の前に立つのは、豪奢な軍服に幾つもの勲章を貼りつけた男。

 まだ二十代後半という年頃の彼の名は、カーティス・エルドーナ。

 エルドーナ侯爵家の次男であり、元ドライフ皇国軍少将。

 だが、彼は家柄だけでその地位に就いた男ではない。

 なぜなら彼は、超級職。

 操縦士系統超級職【超操縦士オーヴァー・ドライバー】。

 さらに貴族の子弟を集めた第一機甲大隊を指揮し、新たな兵器である<亜竜級マジンギア>……【マーシャルⅡ】の運用を任されていた男でもある。

 だが、その地位は過去の話だ。


 今の彼は――ドライフ正統政府の代表である。


 彼を含め、ここにいる軍人はドライフ正統政府の本隊とも言える者達だった。


 ◆


 エルドーナ侯爵家はグスタフ第一皇子の生母……皇后の実家である。

 グスタフ第一皇子、そしてその息子であるハロンは、先代皇王が死した後の最有力の皇王候補だった。

 二人のどちらかが皇王となれば、皇后の弟であるエルドーナ侯爵は次期皇王の叔父か大叔父になるはずだった。

 しかしその展望は二人の死とラインハルトの継承で崩れ、他の大貴族同様にそれを許さなかったがために内戦に発展。

 次男カーティスが指揮官を務める第一機甲大隊を中心とした軍閥、第一皇子派の特務兵、さらに“常緑樹”のスプレンディダを雇い入れて戦いを挑んだ。


 しかしエルドーナ侯爵が内戦の最中に病――ラインハルト暗殺失敗による心労とされる――で倒れ、元より内戦に消極的であった長男は父を亡くした後にラインハルトに服従した。

 結果を言えば、エルドーナ侯爵家はラインハルト……新皇王に完敗したのであった。


 しかし、それを認めなかったのが第一機甲大隊を率いるカーティスである。

 カーティスは兄である新侯爵の言葉も聞かずに、志を同じくする部下と共に出奔。

 今はカルディナでドライフ正当政府を率いている。


 『いつかラインハルトを打倒する』という目標を、心の底から(・・・・・)誓いながら。


 ◆


 地下倉庫に集まった部下達に向けて、カーティスは作戦概要を説明する。

 既に全員が理解しているが、こうして全員の前でトップであるカーティスが説明するのは一種の儀礼的なものだ。


「これより乗り込む【エルトラーム号】には、我々が得るべきものがある。それは先々期文明の作りし大型船用動力炉だ!」


 このカルディナで……そしてドライフですら希少な物品。

 それこそが、彼らの今求めているものだ。


「これは先々期文明の正当な継承者である我らにこそ相応しく、そして動力炉もまた正しき主の手に戻ることを望むだろう」


 聞く者が聞けば鼻で笑うだろうが、しかし居並ぶ軍人達の顔に浮かぶのは一種の高揚であった。


「将来的には、ドライフ奪還のための兵器を建造することすら可能! そう! グスタフ第一皇子とハロンを謀殺した邪知暴虐の偽皇王! ラインハルトを倒すための剣となるのだ!」


 カーティスの心からの怒号に、軍人達が呼応する。

 彼らの中には大貴族ゆえの既得権益の消失を恐れ、恨み、私欲と保身ゆえにカルディナに落ち延びた者も多い。

 だが、それ以上に……敬愛していた第一皇子とその息子の復讐を誓って活動している者もいる。

 今呼応したのはそうした面々であり、そしてカーティス自身の考えも半分は(・・・)彼らと同じだ。


「今回は我らの正義を理解してくれた協力者の手引きがある! ベルリン中佐率いる別動隊も未来のために物資の確保に動いてくれている! 同士に報いるべく、我々も未来のための切り札を手に入れようではないか!」

「「「おおおおおおおおお!!」」」

「ラインハルト、許すまじ! 我らの正義が力を得るために! 【エルトラーム号】を襲撃する!」

「「「イエス・サー!!」」」


 ドライフ正統政府の軍人達が一斉に敬礼し、カーティスもそれに応える。

 そうして彼らは彼らの正義――【エルトラーム号】の乗員乗客にしてみれば大犯罪――を実行するために動き出した。


 ◆


「…………」


 部下達が動き出し、地下倉庫から出ていくのを見届けてから……カーティスは背後を振り返る。

 そこには、それまでずっとそこで鎮座していた機体……彼の専用機があった。


「……まずは、一つずつだ。我が【グローリー(・・・・・)】の槍を振るい、ドライフ正当政府の力をつけ、いつかは……諸悪の根源たるラインハルトを打ち倒す」


 黄金にして竜頭(・・・・・・・)の<マジンギア>――【インペリアル(皇国の)グローリー(栄光)】の冷たい装甲に額を押し当てながら、カーティスは独り言を呟く。


「だから、待っていてくれ。…………ィア」


 そうして誰かの名前を呼んで暫し俯いてから……彼は顔を上げた。

 そして【ガレージ】に機体を格納し、踵を返す。


 彼が、自らで為すべきと信じていることを為すために。


 To be continued

( ꒪|勅|꒪)<……なア


( ꒪|勅|꒪)<なんか、関わる勢力多くないカ?


(=ↀωↀ=)<そうですね


(=ↀωↀ=)<目的込みでざっとこんな感じ


・ユーゴー:護衛のアルバイト

・<セフィロト>(マニゴルド):珠の商談と輸送

・<ゴブリン・ストリート>:あるものの強奪

・ドライフ正当政府:【エルトラーム号】の動力炉

・<IF>:データ蒐集+α


( ꒪|勅|꒪)<…………


( ꒪|勅|꒪)<これちゃんと一冊分で終わるよナ?


(=ↀωↀ=)<少なくとも今年中には終わるはず……


(=ↀωↀ=)<しかしあえて言うと


(=ↀωↀ=)<蒼白Ⅲはめちゃくちゃ筆が進みます


( ꒪|勅|꒪)<更新頻度でそうじゃないかと思ったヨ



○【超操縦士】と【撃墜王】


(=ↀωↀ=)<わりと真っ当にレベルアップして辿り着くのが【超操縦士】で


(=ↀωↀ=)<【撃墜王】の方が特殊な条件の派生超級職です


(=ↀωↀ=)<とりあえず「オーヴァー・ドライバー」ってカタカナ読み好き


(=ↀωↀ=)<漢字はちょっとしまらないけど

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