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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩編 三ページ目

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死出の箱舟・■■の■ その二

(=ↀωↀ=)<まぁ三周年だし三日連続更新くらいはね!


(=ↀωↀ=)<というわけで三日連続更新二日目です


( ꒪|勅|꒪)<ストック大丈夫カ?

 ■<ゴブリン・ストリート>について


 <ゴブリン・ストリート>は王国内でも悪名高いPKクランであり、商人への強盗行為が活動のメインだった。

 他の有名PKクランだった<凶城>や<K&R>がティアンを対象外としていたのに対し、<ゴブリン・ストリート>はティアンへの強盗も躊躇いなく行っていた。

 当然、討伐のために動かれもしたが、それは高レベルの<マスター>を中心とした彼らの戦力、そしてオーナーである【強奪王】エルドリッジによって返り討ちにされていた。

 エルドリッジは個人戦闘力だけでなく分析力にも優れており、そして周囲の情勢を見ての引き時も知っている男。

 それゆえに、<ゴブリン・ストリート>は有名PKクランの一角として名を馳せていた。


 ただし、その名も今は地に落ちている。

 それは五度の失敗によるもの。

 より正確に言えば、その三度目か四度目で決した話である。



 一度目。

 始まりは他のPKクランと同時に行った王都封鎖、及び四人の<超級>による封鎖へのカウンターだ。

 このとき、<ゴブリン・ストリート>は二つの理由から窮地を逃げ損ねる。

 第一の理由は、封鎖へのカウンターがほぼ同時に起こったこと。

 四人の<超級>が別個の理由で、しかし同日にPKの殲滅を実行した。

 そのため、エルドリッジも動きを察知できず、逃げ損ねたのである。

 第二の理由は、そのエルドリッジだ。

 彼は<ゴブリン・ストリート>が“酒池肉林”のレイレイに襲撃された際、リアルでの用事のためにログインしていなかった。

 そのため適切な指示を出すことも、あるいは戦うこともできず、ログインしたときにはクランが壊滅状態だったのだ。

 これが一度目の壊滅である。


 だが、このときの壊滅はまだ決定的ではない。

 外国にセーブポイントを持っていなかったメンバーの大量離脱はあったものの、半数は残っていた。(なお、エルドリッジはクラン内では常々外部にセーブポイントを作ることを推奨していたし、必要とあれば移動の護衛役も務めていた)

 かつ、オーナーであり最大戦力のエルドリッジが敗れたわけではない。

 <超級>に準ずる実力を持ち、「相手の手の内が分かっていれば<超級>であろうと倒しようはある」と普段から述べていたエルドリッジを信じていたのである。

 なので、問題はこの後である。


 二度目。

 ケチがついたのは、カルディナとの国境に狩場を変えた後。

 極めて高級で王国ではほとんど持っている者がいない希少品、移動式セーブポイントの馬車を伴った一団を発見した。

 王国の<マスター>で所有が判明しているのは<月世の会>のオーナーである扶桑月夜、彼らを壊滅させたレイレイ、そしてあの【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェルの三人のみ。

 機能的にも、価値的にも、見逃すことはありえない。

 それゆえ、彼はその一団を襲撃しようとしたのだが……想定外なことに黄河の<超級>である迅羽が同乗していた。

 初見殺しオブ初見殺しの必殺スキルでアウトレンジから心臓を抉られ、エルドリッジはあっさりとデスペナルティになった。

 他のメンバーも返り討ちに遭って<ゴブリン・ストリート>は二度目の壊滅を迎える。

 このあたりで、ちらほらと自主的にクランを離脱する者が出始める。


 三度目。

 折悪しく帰国途中の【地神】ファトゥムを襲撃してしまい、山ごと沈めるという実に贅沢な土葬で三度目の壊滅。

 この敗北の後、“監獄”行きにならなくともクランを離脱する者が大量に出る。

 エルドリッジ自身の信用の失墜か、それとも目に見えてツキがなくなったからか。

 いずれにしろ見放されたのである。

 それでもまだ、ついてきてくれる者達はいた。


 四度目。

 他国……グランバロアに移動。

 船舶を手に入れて海賊業に移行する。

 エルドリッジのスキルは小型船であれば船舶ごと強奪するという荒業も可能であり、勝算があった。

 が、偶然にも【大提督】醤油抗菌と遭遇。爆散して四度目の壊滅。

 ここで残っていたメンバーもほぼいなくなり、【狙撃名手】ニアーラと【大盗賊】フェイの二人だけが残る。


 五度目。

 再び船舶を手に入れて、今度は<南海>でもグランバロアの影響力が薄い天地近くを狩場に設定。

 しかし、偶然にも――もはや必然かもしれないが――イカダで大陸を目指していた【斬神】無量大数沙希に船舶を両断される。


 都合、五度の壊滅。

 全て<超級>に敗れ去ってのものという……かなり異色の経緯である。

 その結果、今の<ゴブリン・ストリート>は赤貧状態だ。

 船舶や死亡時ドロップ以外に装備の修繕や再購入費用もかかり、<ゴブリン・ストリート>は資金的にも限界を迎える。

 船を買う予算もないので仕方なく陸地……カルディナに移り、暫く普通にクエストやモンスター討伐に精を出していた。

 不思議とそうしている間は理不尽な<超級>と遭遇しないのだから、不思議なものだ。

 ニアーラなど、『東方のイディオムに因果応報というものがあるそうです』、などと神妙な顔で呟いていた。

 なお、因果応報は仏教用語であってことわざ(イディオム)ではない。


 このとき、エルドリッジも思い悩んでいた。

 あまりにもワンキルされすぎて、『もしかして自分は全く強くないのではないか?』という疑問が消えなくなったのである。

 以前は敵手の力量を分析し、具体的な対抗策も打ち出すことができた。

 だが、実際に<超級>を相手取るとそんな対抗策など打たせてもらう暇もなく瞬殺されるのである。

 自分はあくまで準<超級>の中で強い部類だっただけで、<超級>にはまるで敵わないザコなのではないか。

 そもそも、強盗は襲撃側が防衛側よりも戦力を持っていてこそ成功する。たった三人のクランでは、リスクの高い強盗稼業を続けるのも不可能ではないか。

 そんなことばかり考えている。


 何より、失敗続きの自分についてきてくれる二人に申し訳なくも思っていた。

 『この二人は<ゴブリン・ストリート>の再興を信じてついてきてくれているのに、信頼されている俺にはそれをなせるだけの実力が皆無なのでは』、と。

 『あるいはあの鎧女のように、クランを解散してしまった方がいいのでは』、と。


 実際のところ、ニアーラとフェイの二人が落ち目のエルドリッジに今もついているのは、クランどうこうではなく恋愛感情(・・・・)が理由である。

 そのため、強盗クランとしての活動をやめてもついていくのだが……二人とも牽制し合って一度も告白していないので、エルドリッジは知る由もない。


 そんな二人の気持ちを知らぬまま、エルドリッジは<Infinite Dendrogram>における自らの進退を悩んでいた。


『二人に、クランの解散を相談しようか。こんな情けないオーナーではなく、他のクランに行った方が二人も活躍できるのでは……』


 実際にそんな話を切り出せば、それをきっかけに二人がついてきた理由を告白し、クラン以外の形での関係が進展していたかもしれない。偶然にも、彼らがかつていた王国では愛闘祭の時期である。

 ただ、そうなるよりも前に……偶然エルドリッジの耳に入ってきた情報があった。


 手に入れたのは―――――が砂上客船【エルトラーム号】に運び込まれた、という情報。


 エルドリッジは耳を疑ったが、しかし事実であれば……と考える。

 金銭に換算すれば、莫大な金額となる逸品。

 ソレを手に入れて売却すればクランの再興の一助となり、自分についているばかりに苦労を掛けてばかりの二人にも報いることができる。

 エルドリッジはそう考えて、ソレを強奪するために【エルトラーム号】に乗り込んだのである。


 ◆◆◆


 乗船から一夜明けて、エルドリッジ達は客船内のカフェテラス(船内の飲食店でも比較的安価な店)に集まっていた。

 昨晩は各自で情報収集に動いたものの、まだ目当てのものがどこにあるかという情報は掴めていない。

 あるいは、まだこの船に載っていない可能性すらあった。

 そうでなければ……彼らがガセネタを掴んだ恐れもある。


「…………」


 もしもガセネタであれば、ここで<ゴブリン・ストリート>が再起する目は潰れる。

 細々とギルドクエストを受けていく以外にできることはなくなるだろう。

 今度こそ、二人に愛想を尽かされるかもしれないと……エルドリッジは恐れていた。


「オーナー、きっと大丈夫ですよ」

「……ありがとう、ニアーラ」


 ニアーラの励ましに、少しだけ気持ちの軽くなったエルドリッジは感謝の意を述べた。


「それにしてもこの船広いっすよー……。マジ豪華客船っす」

「……三等客室のチケットで俺達の予算がほぼ尽きたからな。一番安いこの店でも、三食食えるか分からない」


 非常に世知辛い懐事情に、揃って溜息を吐いた。


「だからこそ、今回の獲物を手に入れる必要がある。終着点であるドラグノマド到着まであと二日ある。それまでに見つけられれば問題ない」


 エルドリッジの言葉に、二人が頷く。


「あと二日は船の旅ってことっすね。あ、そういえば船って移動中にログアウトしても、ログインしたときは元の場所に戻れるっすよね? 海とか砂漠にぼちゃんどすんじゃなくて」

「ああ。床の上……というか船内での相対座標が復帰地点になる。もちろん復帰地点にセーブポイントを選んだ場合は別だがな」

「それができるなら移動式セーブポイントってあんまり価値ないんじゃないっすか? ログアウトしても大丈夫なんだし」


 前にそれ目当てで動いて壊滅しているので少しデリケートな話題だが、エルドリッジは気にした様子もなくその疑問に答える。


「そんなことはない。移動式のセーブポイントが増えることと、船の上のログアウト地点に戻れることは全く別の話だ」


 エルドリッジは船の床を爪先でコツコツと叩きながら、説明する。


「まず、単純な話だが……仲間がどこかの港で降りたらどうする。一人だけ船内に置き去りになるぞ」

「……それは怖いっす。この大砂漠な国ではぐれたら合流できないっす」

「グランバロアの私有船で考えても問題はある。ログアウト中に沈没していても、気づかずに海底にログインしてデスペナルティだ」

「がくがくぶるぶる……」

「これが移動式セーブポイントであれば、セーブポイントの消失で異常に気づけるだろうな」


 そう言いながらもエルドリッジは内心で『……まぁ、移動式セーブポイントが壊れるような事態になっただけで目も当てられない大損失だがな。まだデスペナルティ一回の方がマシだ』と付け足した。


「それに移動式セーブポイントがあれば応用が利く。例えばクランでの活動ならば、街で待機するメンバーも予め移動式セーブポイントにセーブしておく。そして他のメンバーが移動式セーブポイントと共に活動し、物資の不足や急に特殊なアイテムが必要になったとき、街に残ったメンバーがそれを入手してログアウト。そして仲間のいる移動式セーブポイントにログインして届けるといったことも可能だ」

「はぇー」

「だが、俺達のような手合いにはもっと別の使い道がある」

「?」

「アイテムを強奪して即ログアウト。指名手配されていても移動式セーブポイントにログイン。長距離移動で楽々と逃げおおせる、ということもできる」

「あ」

「言っては何だが、移動式セーブポイントは犯罪をするためにあるようなものだ。デスペナルティからの復帰に使えればもっと良かったが……それはできないしな」


 こうした運用法は、移動式セーブポイントを発見した二度目の壊滅後に考えたものだ。

 エルドリッジは自分のアイディアを披露しながらも、『盗り損ねたアイテムの運用法を考えても意味はなかったが』と内心で自嘲した。

 だが、フェイはその計画に拍手し、ニアーラも感心したように頷いている。


「オーナーって本当にワルでカッコいいっすね!」

「フェイ、ここは知的と言うべきでしょう」


 フェイとニアーラの二人はそうしてエルドリッジを褒め称えるが、本人は逆に『……不甲斐ないオーナーなのに気を遣わせてしまっているな』と反省していた。


「褒められるようなことでもない。それに、犯罪思考の<マスター>なら誰でも思いつく使い方だ。特に、あの【犯罪王】(スライム野郎)ならすぐ考えついただろう。なにせ、どこから盗んだか知らないが実物まで持っていたからな」


 エルドリッジは「もっとも、あいつも今は“監獄”の中。使い道なんてないだろうがな」と付け足しながら、不意に明後日の方向に視線を向ける。


「オーナー?」

「…………」


 無言のまま二人をハンドサインで沈黙させ、柱の陰に身を寄せて視線を船内の一点に向け続ける。

 そこにいたのは……美形の顔と丸々と太った体を持った<マスター>だった。


(あの顔と体型、そして紋章は……【放蕩王】マニゴルドか)


 エルドリッジは名の知れた<超級>やランカーの情報は収集し、対策を練っている。

 それゆえ、マニゴルドのことも当然知っていた。


(<セフィロト>のメンバーがどうしてここに? まさか、奴もあれ(・・)が目当て……とは思わないが)


 だが、関係無関係どちらにしても、船内に<超級>がいるのである。


(久しぶりの仕事でこれか……。本当に、因果応報という奴はあるのかもしれん)


 エルドリッジは深く溜息を吐いた。

 『再興の掛かったこの船での仕事。一筋縄ではいかないかもしれない』、と。


 ◆


 彼の予想は正しく、しかし間違っている。

 一筋縄ではいかないどころか――彼がこれまで経験してきた騒動を遥かに超える騒動が、この船旅では待ち受けている。

 彼がそれを知るのは、遠からぬことであった。


 To be continued

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― 新着の感想 ―
エルドリッジかっこいいんだけどなぁ 不運すぎて可哀想
[一言] エルドリッジ、あまりにも不運系主人公過ぎて応援したくなる
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