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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Ⅵ-Ⅶ King of Crime

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第七話 <戦争>と“トーナメント”

(=ↀωↀ=)<書籍五巻の書き下ろしに関係あったりなかったり


(=ↀωↀ=)<あと今回はほぼ説明回です。

 □【聖剣姫】アルティミア・A・アルター


 私はギデオンの迎賓館に設置した執務室で、王都にいるインテグラからの定期連絡を受けた。


「そう。レイは今日中にはこちらに着くのね。分かったわ。ありがとう」


 そう言って、私は通信魔法を切る。

 インテグラからの連絡は王都での作業の進行に加え、レイがこちらに来るという情報もあった。


「この分なら明後日の“トーナメント”には余裕をもって間に合いそうね。」


 “トーナメント”は王国所属の<マスター>による犯罪行為の防止、そして他国との<戦争>を想定して行う催し。

 それが必要になったのは……クラウディアからの提案が原因でもある。


「…………」


 アイテムボックスから、一枚の【誓約書】を取り出す。

 それはあの講和会議の日、クラウディアが私に預けたモノ。


 ――一切の罠も嘘もない、戦争の申し込み(・・・・・・・)ですわ。


 彼女が提案した<マスター>のみが参加する<戦争>。

 王国と皇国の拗れ、縺れ、絡んだ因果を決着させるための最終手段。

 不死身の<マスター>でのみ行う……死人が出ない戦争だと彼女は言っていた。

 それはこれまでのテロや、前回の<戦争>と比べれば犠牲のない戦いかもしれない。

 けれど……お父様の遺した言葉に真っ向から逆らう提案でもある。

 それゆえの忌避と……レイ達のみを過酷な戦場に送り込むという行為に後ろめたさを覚え、私は未だクラウディアとのホットラインを繋いではいない。

 あちらからも連絡はない。

 けれど彼女ならきっと……この沈黙の間に新たな手を打っているはず。

 可能性として高いのは、<超級>をはじめとする有力な<マスター>の増員。<マスター>のみの戦争という彼女の提案が通るならば、実力者の数がその勝敗を決するでしょうね。

 実際に、諜報部からはコンタクトを取ろうとしていた無所属の<超級>の消息が分からなくなったという連絡も受けているから。

 見失ったのは、諜報部の長であるフィンドル侯爵が未だ快復しておらず、諜報部の動きが滞っているのが理由かもしれないけれど、可能性としてはこちらが探れない範囲……皇国内に移動した可能性が高い。

 だから少なくとも、クラウディアは何か<戦争>に向けて準備をしている。

 私が彼女の提案を承諾すると予想して……。


「…………」


 ……彼女の提案した<戦争>を受けるべきではという思いは日に日に強まっている。

 その理由は隣国での出来事……カルディナとグランバロアの武力衝突。

 都市の壊滅までも起きてしまった二国間の<戦争>ならざる争い。

 <砂海事変>とも呼ばれ始めているこの事件は、一つの問題を示唆している。

 それは、『国家がバックについた<マスター>は止まらない』ということ。

 カルディナとグランバロアの衝突では双方の<超級>に死者も出ている。

 けれど彼らは三日も経過すれば復活し、再び武力衝突する。

 <マスター>はセーブポイントの使用権さえ維持していれば、体が完全に消し飛ぼうと……向こうの世界から何度でも戻ってくる。

 一応は、重大事件の犯人は国際指名手配とし、全ての国でセーブポイントを封じることになっている。

 けれど、その国際法も……他国からの評価や外交関係の悪化を無視するならば批准する必要がなくなる。

 だから国家がセーブポイントの使用権を保証し続ければ、何度でも特攻紛いの戦闘やテロを仕掛けられる。

 生み出されるのは無限の地獄。

 それがグランバロアと……ドライフ皇国の現状。

 現在の皇国は……ほぼ全ての外交関係が破綻している。

 失うものは何もなく、それゆえにMr.フランクリンやローガン・ゴッドハルトといった……王国内でテロを起こした<マスター>のセーブポイント使用権も維持し続けているもの。


「…………」


 それを封じる手は、限られている。


 まず、講和による解決。

 けれど、これは先日失敗してしまっている。

 あれによって国内の貴族の間でも、皇国と講和をすべきではないという意見が大きくなっている。

 講和の提案をしてきた皇国が講和の条件に罠を仕込み、同時に王都でテロを起こしたのだから無理もないことね。


 次に、彼らのバックにつく国家をなくすこと。

 皇国を滅ぼして、セーブポイントの所有権も王国に移す。

 何百年も前、この西方が戦国時代だった頃は頻繁に行われていた陣取り合戦。

 どういう理屈かは分からないけれど、他国の領土を占有するとセーブポイントも占有した国に移譲される。

 まるで何者かが判定しているかのように、移り変わる。

 敵国を滅ぼし、制圧し、所有権を自国に移す行いは数百年前には当然だった。

 セーブポイントの所有権は<マスター>が増加する前はさほど意味はなく、領土のおまけ程度だったらしいけれど。<マスター>が増加した今は大きく事情が異なり……場合によっては領土そのものより重要かもしれない。

 理論上、皇国全土を制圧すれば皇国の<マスター>の復活は止まる。

 けれど、これにも懸念がある。

 それは皇国に制圧されているはずの旧ルニングス領のセーブポイントの所有権が、未だ王国にあること。

 あるいは、<マスター>の増加で判定の仕様が変わったのか。

 皇国を制圧しても……易々と移譲されない恐れもある。

 そもそも、皇国全土の制圧を目指せば完全に全面戦争。最悪の結果に突き進むことになる。

 仮に決着しても、後の時代まで禍根を遺すことになる。

 現状は、絶対に選べない選択肢。


 最後に……クラウディアの提案した<戦争>による解決。

 ルールなき武力衝突ではなく、戦闘範囲や勝利条件を定めた上で戦い、勝敗による取り決めを【誓約書】で順守させる。

 加えて、クラウディアの提案で<マスター>のみの……死者が出ない<戦争>。

 比較すれば最も実現可能で、最も被害が少ないのがこの選択。

 勝てば多くが解決して、負ければ王国はなくなる。


「……平時であれば選ぶわけもない選択だけれど、今となっては唯一の選択にさえ見えるわね」


 周辺国家の情勢から私がこの選択に傾きかけるのも、クラウディアの目論見通りなのかしら?

 ……でも、まだ決めはしない。

 どれほどか細くても、交渉で解決できればそれが最もリスクがないはずだから。


「……万が一のために準備は進めるけれど、ね」


 目を通しながら明後日から十日間行われる“トーナメント”は、その最たるもの。

 <UBM>への挑戦順(・・・)を掛けた“トーナメント”はこのギデオンで行われる催しで……端的に言えば<マスター>を王国に紐付けるためのモノ。

 そのルールは、次のとおり。


『その一、参加資格者は王国に所属する<マスター>のみとする』


 これはある意味では当然の処置。他国の<超級>が取得に来ることを防ぎつつ、可能であれば他国から<マスター>が移籍してくることを期待する。


『その二、参加者は“トーナメント”後の三年間は他国に移籍不能』


 有力な<マスター>の外部への流出を防ぐために必要な項目。何より、<UBM>を撃破してすぐに他国に移籍されては目も当てられない。


『その三、参加者は王国内で懲役一年以上に類する犯罪行為を行った場合、全てのセーブポイントが使用不能となる』


 ある意味では最も重要で、参加者の王国内での犯罪行為を禁ずる。

 軽犯罪では適用されないけれど、重大犯罪では別。フランクリンの事件で起きたような他国への寝返りテロなどの防止も兼ねている。

 全てのセーブポイントが使用不能、という文言は<マスター>増加後の契約で見られるようになってきた。『死亡する』ではさして<マスター>の縛りにならないことが判明したことがその要因。

 また、犯罪行為の判定は、冤罪を避けるため捜査によって有罪と判断された場合に限られている。


 参加に必要なものはこの条件の【契約書】にサインするだけで、参加費も必要ない。

 ここまでの三つは王国の<マスター>の広い参加を促し、同時に彼らの王国内での犯罪を防止するためのものだから。

 そして次の第四ルールが、<戦争>に備えたモノ。


『その四、参加者は順位に応じて<UBM>への挑戦権を得る。また、『三年以内に王国が関与した<戦争>への参加意向』の【契約書】にサインした場合、副賞として希少武具の選択獲得権も得る。選択順は“トーナメント”の順位に応じる』


 簡単に言えば、三年以内に発生する王国の<戦争>に参加すると、挑戦権だけでなく副賞も付く。

 【契約書】の内容自体は、王国で三年以内に発生した<戦争>で参加可能な直近のものに参加するというもの。この参加可能は『現在地』、『時期』、『クエスト状況』で判断され、手が空いていないものは除く形になる。

 <マスター>は<戦争>のタイミングでこちらの世界にいるかも不明。だからこそ、こうした緩めの契約になっている。

 “トーナメント”は参加者で文字通りのトーナメント戦を行い、順位決定後に一位から順番に珠から解放した<UBM>と戦闘出来る。

 場所はギデオンの中央大闘技場。かつてMr.フランクリンがテロを起こした時のように、会場から出られない結界を展開して<UBM>の逃走を防ぐ仕組みを取る。

 そして一位――正確には一位とそのパーティが挑み、それが敵わなければ二位以降が順次挑む。

 もっとも、このやり方でも最終的に誰がMVPになるかは分からない。

 “トーナメント”の一位が敗れたとしても、与えたダメージや戦闘での活躍次第で特典を入手する可能性もある。

 そればかりは、自分の前に戦う者達がどれだけ奮戦するかにかかっているのだから。


 だからこそ、MVPを逃したときのために副賞が重要になる。

 副賞はこの王国に伝わる強力かつ希少な武具。いずれも購入すれば最低でも一〇〇万リルはするという代物。

 MVPを逃しても、“トーナメント”の上位から順にこの副賞を選択する権利が与えられる。

 それを目当てにして、参加者の増大も見込んでいる。

 参加人数は一つの“トーナメント”につき最大で二五六人に区切っているから、副賞は一〇人生まれるだろうMVP獲得者を除いて合計で二五五〇個は必要になる。

 上等な武具がそれだけの数あるのかと聞かれれば……あると答えるしかない。


「……全部レイが用意したものね」


 以前から彼はギデオン伯爵のところで仕事をしていた。

 それは彼の【紫怨走甲】の《怨念変換》で呪いの武具の怨念を吸収し、解呪するというもの。

 かつて偶然にも彼が【CBRアーマー】という装備に行ったことを、他の呪いの武具にも繰り返していたらしい。

 通常の解呪はMPや術者の力量によって解呪の数に限りや不可がある。

 けれど、呪いの源の怨念そのものを無尽蔵に吸収する《怨念変換》は、際限なく解呪できてしまう。言うなれば彼は洗浄役だ。

 結果として、彼は【紫怨走甲】の怨念を蓄積でき、ギデオン伯爵……王国側は解呪された上等な武具を大量に入手できる双方に利益のある仕事だったと聞いている。

 なお、彼はバイト代として幾つか武具が貰えることになっているので、“トーナメント”が始まる前に見繕う予定になっている。

 ……もっと早く選んでいてもいいと思うのだけれど、これまでは彼女(ネメシス)の審査が厳しくて決まらなかったらしい。

 そういえば、先日彼と話した時に、「……しかし改めて考えると呪いの武具ありすぎだろう、ギデオン。つーか王国」と不思議がられた。

 けれど、それには理由がある。

 王国の建国から呪いの武具は、決闘都市ギデオンへ集積する決まりになっていたから。


 始まりは……業都と呼ばれていた王都で【邪神】を倒した後にまで遡る。

 祖先の遺した伝承によれば、業都は元々が【覇王】の本拠地であったために大量の武具が集められていたらしい。

 戦国時代には業都を手に入れた者達がその武具を使おうとしたらしいけれど、宝物庫が厳重すぎて入手できなかった。

 しかし、最後に業都を制した【邪神】のみは宝物庫を開けることができてしまった。

 結果として【邪神】の眷属は強力な武具で武装していたと伝わっている。あるいは、武具そのものがモンスターと化して襲ってきたこともある、と。

 祖先達が【邪神】とその眷属を滅ぼした後も、武具は残った。

 けれど【邪神】の影響か、それとも戦乱の時代のためか……ほとんどの武具は呪われてしまっていた。

 新たに都を造ろうという地に、呪われた武具を大量に置いておくのもまずいと考えた祖先達は、正妃の実家であり、当時から決闘のメッカであったギデオンに武具を移した。

 ギデオンには昔から戦いの末に呪われた武具を収納する特殊な保管室があったからだ。

 かくして呪われた武具はギデオンに納まり、その後も様々な武具がギデオンに安置されて……今に至る。

 ……というような説明をレイにしたとき、「……ギデオンで妙に事件起きてるのそのせいじゃないか?」と言われてしまった。

 否定するのも難しい仮説ね……。

 元は【邪神】に呪われた国。怨念などは武器にしか遺っていないはずだけれど、あるいは何かの因果が王国の地に……あるいは血に遺っているのかしら。


「……ともあれ、準備は整ったわね」


 “トーナメント”も明後日から始まる。

 それが済めば、国内の戦力増強や<マスター>との連携も固くなる。

 今後のテロや、あるいは起きうる<戦争>への備えも、ある程度は完了する。


「…………」


 ……けれど、どうしてかしら?

 何か……胸騒ぎがする。

 ギデオンの諜報網を担当する忍者達からも、複数の国家に跨って重大情報を扱う<DIN>からも、何の情報も入っていない。

 皇国側の動きも、件のフリーの<超級>以外には聞こえない。

 それなのにどうしてか……何か恐ろしいことが起こる気がしてならない。


「……私はレイほど勘のいい性質ではないのだけれど」


 まるで、何か重大なモノを見落としている気がする。

 この世界を盤面として見たとき、誰も彼もが失念している駒が……どこかに残っているような気配がある。


「……何事も起きなければいいけど」








 ◆◆◆


 ■“監獄”


 ギデオンにおいてアルティミアが得体の知れない不安を感じていたのと、ほぼ同時刻。

 何処かにある“監獄”において一つの異変が起きていた。

 “監獄”内にある、名もなき都市。

 囚人達が住まうこの空間に……しかし生命の気配はない。


 その日、“監獄”の住人は極僅かな例外を除いて死に絶えていた。


 To be continued

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ゴゥズメィズの怨念変換便利すぎる MP無限に貯められるのほんとイカれてるな…
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