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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Ⅵ-Ⅶ King of Crime

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第五話 インテグラの用件-本題

 □【聖騎士】レイ・スターリング


 彼女(インテグラ)について俺が知っていることは少ない。

 彼女自身と話したのは二回だけ。最初に自己紹介されたときと、今日会う約束をしたときだけだ。

 彼女から聞いたのは名前と、【大賢者】であるということ。

 彼女に関する話は、アズライトとリリアーナから聞いた。

 そこで聞いたのは、次のような話だ。


 二人の幼馴染であること。

 幼少期に家族が彼女を遺して亡くなり、天涯孤独であったこと。

 しかしその後、先代の【大賢者】に才能を見出され、育てられていたこと。

 彼女は若くして徒弟の中で最も才能と実力があると噂されていたこと。

 あの【グローリア】の事件の少し前に、先代の命で旅立っていたこと。

 旅の最中に【大賢者】になったらしいこと。

 先の王都襲撃テロの最中に帰還し、ツァンロンと協力して【炎王】に対処したこと。

 フラグマンの姓を名乗りはじめたのは帰還してからであること。

 今は王城の設備修復に従事していること。


 そのくらいだ。

 彼女達の間には思い出話も多々あるのだろうが、そこまではまだ聞いていない。

 また、フラグマンと名乗り始めた理由も分からない。

 ともあれ、今日の話でそのあたりも聞くことができるかもしれない。


 ◇


 俺は城内にある先代の【大賢者】と徒弟達が使っていたという研究室の扉をノックした。

 すぐに「どうぞ」と声がして、俺が開けるまでもなく扉は室内へと開いていった。

 室内には多くの書架と机があり、机の上には様々な器具、そして大量の紙束が置かれている。

 そんな雑然とした知識の坩堝とも言うべき部屋の中心で、彼女……インテグラは幼い体格に比してかなり大きな椅子に、深く腰掛けていた。

 今日はあのトンガリ帽子を被っていないために、小柄なネメシスよりもなお背が低く見える。

 彼女は読んでいた紙束を机に置き、俺達に声をかけてくる。


「やあ。ようこそ、レイ・スターリング君。それとその<エンブリオ>君。ちょうど手が空いたところだ。良いタイミングだよ」

「ああ。こんにちは。……で、今日は何の用なんだ?」


 俺がそう言うとインテグラは椅子に腰を下ろしたまま、指を振った。

 すると室内にあった椅子が二脚、俺達の方へと独りでに動いてきた。


「ま、用件を急がず、まずは座り給えよ。用件は二つ程度だが、少し長く話すことになるだろうからね」

「……そうか」


 促されて、俺達は近づいてきた椅子に座った。

 するとまた椅子は動き出し、インテグラと話しやすい位置にまで移動していた。

 それだけでなく、室内にあった小さな丸机、ポッドやティーセットまで動き出し、お茶会をセッティングし始めていた。


「……魔法使いの部屋、って感じだな」


 まるで子供のころに見た海外のアニメ映画だ。

 今もローブを着ているし、外で会ったときは魔女然としたトンガリ帽子も被っていたので、俺がこのファンタジー……とも言い切れぬほど混沌とした<Infinite Dendrogram>で会った人々の中では、最も魔法使いらしい人物だ。

 俺が驚きと、そして奇妙な新鮮さに目を見張っていると、インテグラは笑みを浮かべながら、自動で動くティーポッドに紅茶を注がせていた。


「簡単な地属性固体操作魔法の応用だよ。このお湯も熱エネルギーの増幅で沸かした。仕組みが分かれば燐寸(マッチ)を擦るのと大差ないさ」


 彼女がそう言うと紅茶の入ったティーカップが二つ、俺達の方にやって来た。


「でも、見てるとすごく不思議だよ」

「不思議と言うなら、レジェンダリアにもいつか行ってみればいい。あそこは私のやったような魔法仕掛けではなく、生きた家具がもてなすからね」


 それこそアニメ映画……美女と野獣に出てきたようなものだろうか。


「ちなみにこの茶葉もレジェンダリア産。癖はあるが、私の好みのものだよ。気に入ってくれるといいけど……」

「うむ、いただくとしよう」


 ネメシスがそう言って紅茶に口をつけたので、俺も紅茶を飲む。

 リアルでは嗅いだことのない不思議な香気が鼻を通るが、味自体は飲みやすい程度の渋味と甘味があって中々良い味だ。


「おいしいよ。ありがとう」

「それは良かった。さて、それでは本題に入ろうか。用件は二つあるけど、どちらも全く別の事柄なのでどちらから切り出すか迷うところだ。けど……やっぱりこちらからにしようかな」


 インテグラは何か悩みながらそんなことを言っている。

 俺はその間にまた紅茶を啜り、


「君、アルティミアの恋人なのかい?」

「ぶふぅ……!?」


 行儀悪くも口から噴き出していた。


「げほっ、ごほっ……!」


 あまりのことに紅茶が気管支に入った……!


「ち、違う! レイはアズライトの恋人などではない!」

「え? じゃあリリアーナの方かな? 先に会ったのも彼女らしいし」

「そっちも違うわぁ!?」


 俺が咳き込んでいる間に、ネメシスがなぜか顔を真っ赤にしながら猛抗議していた。

 あー、やっと気管支が落ち着いてきた。


「ち、違う。二人とも大事な友人ではあるけど、彼氏彼女とかそういうのじゃあない……!」

「ふむふむ。ちなみに二人の体とか地位に興味は。非常に優良物件だよ? 特にアルティミア」

「ないよ!」


 ていうか、友人兼国王代理を優良物件とか言うなよ!


「……そこまで力強く『体に興味がない』と言われると友人達がかわいそうなのだけど。えー、じゃあ見たこともないのかい? 私達が一緒に入浴したのは数年前だけど、二人ともかーなーり綺麗だと思うよ?」

「見たことなんてな……! …………あ」


 …………あー、うん。

 アズライトのは見たことあるわ。混浴だし、事故だったけど。


「おや、ここで初検知…………え? そっちはあるの? わりと本気で君達の関係が気になってきたんだけど?」

「と、とにかく! 下心とか異性として好き合ってるとか、そういうのはないから!」

「……ふむ。まぁ、分かったことは分かった。これで呼び出した本題は終わりだよ」

「今のセクハラ質問が呼んだ理由だったのか御主!?」


 ネメシスが驚愕しているが、俺も同じ気持ちだ。

 二人の裸に興味があるかとか付き合ってるかとか聞かれるために呼ばれたのか……。


「いやいや、幼馴染として二人の近くに男の影があれば興味を持ってしまうものさ。なにせ、二人ともそういうのとは縁遠かったからね。気になって仕方がない」

「……子供なのにませすぎだろう」


 迅羽とかもそうだったけど、何だかデンドロで会う子供って精神的に成熟しすぎてる気がするな……。


「うん?」


 ただ、俺の言葉にインテグラは不思議そうに首を傾げた。


「君、たしかアルティミアと同い年か、一つ上くらいだろう? なら私の方がいくらか年長だよ」


 え? マジで?

 外見年齢通りかと思って、幼馴染って言っても年齢幅あるなーとか思ってたんだけど……。


「すみません……」

「ははは、冗談さ。別にタメ口でも気にはしないよ。なにせ、私自身が亡くなった師匠以外には敬語を使わないからね。気にしない気にしない。でも年上ってことは覚えておくんだよ?」

「は……いや、分かった」


 しかしネメシスよりも幼そうで、しかもティアンなのに俺より年上だったか。

 レジェンダリアにいるっていうエルフみたいに長寿な人種でもないだろうに。


「……で、実際には何歳なんだ?」

「女性に年を聞くなよ」


 ……たしかに失礼だったかもしれない。


「ではもう一つの用件に移ろう。こっちはおまけみたいなものだけどね」


 マジでさっきの『恋人なのかい?』が本題だったのか……。


「実は君の所有する【白銀之風】を見せて欲しいのさ」

「シルバーを?」

「そう。名工フラグマン……初代フラグマンの創った最後の煌玉馬がもう一つの用件さ」


 最後の煌玉馬、か。カルチェラタンでマリオさんに話を聞いたときは五騎の試作機か、あるいは新機能の実験機という話だったが……後者であるらしい。

 それに初代……ということはやはりインテグラの名乗ったフラグマン姓は偶然の一致ではなく、先々期文明の名工から継いだ名前ってことか。

 ……どう考えても本題はさっきのセクハラ質問じゃなくてこっちじゃないか?


「それはいいんだけど、俺としてもそのフラグマンについて聞きたいことが……」

「私の姓……私と彼の関係のことだろう? それも含めて話すとするよ」


 インテグラはそう言って、自分自身を掌で指し示した。


「まず説明すると、私が過去の名工の子孫という訳ではないよ。師匠もフラグマンだったけれど、やはり血の繋がりはない。単に我々師弟の間で継いできた名前ということさ」

「師弟の間で継いできた名前……武家や芸能で継いでいく名跡みたいなものか?」

「ああ。天地の風習だね。近からず、遠からずかな。私の師匠は【大賢者】であると共に、フラグマンの名も継承していた。私も師匠が死んだから代わって【大賢者】に就き、フラグマンとも名乗り始めたのさ。と言っても、名を継いでも技術は名工と謳われた初代には及ぶべくもないけどね」

「そういうものか」

「だから君の【白銀之風】のことは前から気になっていたんだよ。それこそ、君がこれを手に入れる前からね」

「?」

「初代フラグマンがこれを作ったことは知っていたけれど、仕様や性能に関しては一切情報が遺っていなかったんだ。他の五騎のスペック表はあるのにね」


 それは不思議な話だ。作った記録があるならばスペック表を残せなかった、あるいは記録が散逸したという訳でもないんだろうが……。


「だから、フラグマンの名を継いだ私としては、一度自分の目で確かめておきたかったのさ。それで、見せてもらっても構わないかい?」

「ああ。俺としても、気になってることがあるしな」

「何だい?」

「シルバーのスキル、三つ目がまだ詳細不明なんだよ。だからそれが分かればいいなって」


 煌玉獣の運用を主とする【煌騎兵】となったことで、制作者である初代フラグマンのメッセージは読むことができた。しかしそれは『権限が足りないので詳細はまだ開示できない』というものだ。

 シルバー自身の判断でスキルを限定使用できるようだが、そもそも何をどう使用しているのかも分からない。

 今回インテグラに見てもらって、それが分かるなら僥倖だ。


「了解。それも含めて視てみよう」

「外に移動するか?」

「いや、スペースもあるからここでいいよ」


 了承を得られたので、俺はアイテムボックスからシルバーを呼び出した。

 シルバーは屋外でなく屋内に呼び出されたことが疑問だったのか少し首を傾げていたが、蹄を鳴らすこともなくその場にジッと立っていた。


「それじゃあ見せてもらうよ」

「分かった。シルバー、大人しくな」

『…………』


 シルバーは了承したように、嘶きのような駆動音を発した。

 こうしていると、カルチェラタンでマリオさんにシルバーを見てもらったことを思い出す。


「少し時間がかかるかもしれないが、待っていてもらえるかな? お茶とお菓子はいくら食べても構わないから」

「うむ! 待たせてもらおう! モグモグ……」

「…………」


 既に茶菓子に手を出していたネメシスを見て、伯爵夫人の屋敷でネメシスがクッキーを全部平らげたことも思い出した。

 ……今回は加減しろよ?


 To be continued

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