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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Ⅵ-Ⅶ King of Crime

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357/716

プロローグ 自分と世界、正義と悪

(=ↀωↀ=)<今日は七夕ですね


(=ↀωↀ=)<生憎の空模様ですが、皆さんが短冊に込めた願いは何ですか?


(=ↀωↀ=)<作者の願いは『最後まで続けられるくらいデンドロがヒットしますように』です


(=ↀωↀ=)<それはそれとして新章開始です


(=ↀωↀ=)<章タイトルがこういう表記なのは


(=ↀωↀ=)<本編であると同時に、Episode Superiorとも混ざっているからです


追記:

(=ↀωↀ=)<……いっけね(過去の一周年話との記述の矛盾に気づく)


(=ↀωↀ=)<こっちは直せないので昔の方をちょっと修正してきます


(=ↀωↀ=)<あとバルドルの表記揺れも修正

 □■二〇四四年六月


 ――轟音が鳴り響く。


 それは<Infinite Dendrogram>の時間で今から二年近くも前、王国とレジェンダリアの境にある山中の森……だった場所(・・・・・)で起きていた。

 昨日まで存在した古い森林も、今は見る影もない。

 まるで空爆でもされたかのように木々は吹き飛んでいる。

 そして、その元凶である大破壊は今も続いている。

 大地を揺らし、空にまで響く音に、しかし森の生物は逃げもしない。

 当然だ。

 戦い(・・)が始まって既に一時間。

 森に生きるモノは既に逃げ出したか、死んでいる。


 今この森に立つ者は――二つの巨影。


『――オォ!!』


 反響する声と共に巨影の一方が動く。

 それは鋼の巨神――全高一〇〇メテルにも及ぶ巨大な人型のロボットだった。

 大地を揺らしながら亜音速で疾走し、一息に跳躍する。


 跳躍の先にはもう一体の巨影――奇怪なオブジェが立っている。


 それは、奇怪な円盤の連なり。

 直径一〇〇メテルはあろうかという円盤が三枚、円柱の如き軸で大地に貫かれている。

 その姿は、傍目にはまるでチベット仏教のマニ車のように見える。

 しかし不気味なことに、円盤にはそれぞれ生物の顔が付随していた。


捻花(ネジレバナ)ァ‼』


 跳躍が円盤に到達する瞬間に、鋼の巨神は螺旋の右掌底を放つ。

 鋼の巨神の質量と出力で放たれるそれは間もなく円盤を掴み、勢いと膂力をもって捩じ切るだろう。

 だが、円盤はその一撃を見切り、


『――《空間回転》』

 最上段の円盤の一言で――鋼の巨神の右腕を逆に捩じ切った。


『……木断ッ‼』


 右腕ごと攻撃を潰された鋼の巨神はそれでもなお動き、空中で姿勢を変えて飛び廻し蹴りに移行する。

 あるいは最初からそれを見越した二段構えか、その一撃の重さは先刻の掌底を上回るだろう。

 しかしそれが直撃するよりも早く、


『――《地形回転》』

 鋼の巨神の直下の地面が、畳返しのようにひっくり返る。


 捲れ返った地面は、鋼の巨神の巨体をさらなる質量によって弾き飛ばす。


『ッ!』


 鋼の巨神は弾き飛ばされながらも空中で回り、落下の衝撃を抑え込む。

 だが、着地と同時にその動きが鈍る。


『警告。エネルギーセル、残量なし。迫撃決戦形態フル・オフェンスモード、維持できません。三〇分セルの再生成まで、非戦闘状態で二四時間。他の戦闘用残弾も僅少』


 鋼の巨神……<エンブリオ>の必殺スキルに必要な資材が尽きたと、機械音声は告げる。

 同時に、鋼の巨神はその姿を別の形に……本来の形である戦艦へと戻し始める。


『だったら変形解除と同時に全兵装から火力を叩き込む! 全弾Bタイプだ!』

『了解』


 主の声に応じ、<エンブリオ>は全兵装の弾頭を変更する。

 そして完全に戦艦へと戻った瞬間、そのエンジンを全力で吹かして移動する。

 直後、戦艦のいた地面が再び畳返しのように捲れ返った。


『バルドルッ! ありったけ叩き込め‼』

『了解』


 木々の残骸を圧し折りながら爆走する陸上戦艦の如き<エンブリオ>が、主の声に応じて己の内蔵兵器の全てを放出する。

 幾百幾千の砲弾とミサイルが、円盤を目指して飛翔する。

 その有様を円盤の三つの顔は目視して、


『『『――――オロカ』』』


 ゆっくりと回る三枚の円盤それぞれに張り付いた顔は、笑みを浮かべる。


『――《空間回転》』


 最上段の円盤が呟いた言葉の直後――全ての火力は向いた方角を反転させ、撃ち放った戦艦自身に跳ね返る。

 それこそは円盤がもつ三大回転が一つ、《空間回転》。

 空間そのものを自在に回す(・・)力。

 今も戦艦の放った攻撃に対し、一八〇度空間を回すことでそのまま返した。


『チィ……!』


 戦艦の主が舌打つと共に、動力機関を全力で稼働させての回避を試みる。

 だが、その回避行動の最中に。


『――《地形回転》』


 二段目の円盤の顔がそう唱える。

 するとまるで回転卓のように――円盤の軸を中心に周囲の大地が回った(・・・・・・・・・)

 それこそは三枚の円盤の第二の回転、《地形回転》。

 先刻までの畳返しに留まらず、自らの軸が付き立った地点から半径一〇キロメテルは自在に回せる。


 そしてこの回転は、回避せんとした戦艦を地形ごと火力の只中に引き戻していた。


『……‼』


 直後、戦艦は爆炎に包まれた。

 搭乗者が船外に逃れた様子もなく、諸共に炎の中である。

 それは生存など不可能な状況であると、円盤にも分かった。

 やがて戦艦は炎の中で燃え落ちたのか、消えていった。


『『『ヨウヤク、死ンダカ』』』


 三枚の円盤の顔は巨大な爆炎を見下ろしながら、クツクツと笑った。

 小癪にも《空間回転》の間合いの外に身を置き続けた相手だったが、最後は勝負を焦って自らの大火力で滅び去ったのである。


『先ニ死ンダ、黒イ男トイイ、手古摺ラサレタ』

『手傷モ、負ッタ』

『コノ対価、人間共ニ、支払ワセン』


 三枚の円盤――【螺神盤 スピンドル】はこの地に古くから住まう古代伝説級の<UBM>である。

 長くこの一帯を根城とし、周辺地域の人々を支配していた。

 そして器物でありながら肉食であるこの<UBM>は生贄を要求し、それを捕食することを楽しみとする怪物であった。

 この怪物を討伐せんと、これまでに多くのティアンが立った。

 中には、戦闘系の超級職や遠く天地から訪れた武芸者もいた。

 だが、全ては【螺神盤】の前に敗れ去った。

 それほどに、この円盤の怪物は強い。

 <UBM>を管理する者が見れば、『限りなく神話級に近い古代伝説級』と評するだろう。

 それこそ、他の<UBM>をあと一体でも倒せば神話の領域に到達する。


 しかし今日、そんな大怪物をたった二人だけで討伐しようと訪れた者達がいた。


 結果はその者達の惨敗。

 一人は円盤の第三の回転、《生命回転》――細胞分裂のサイクル加速による細胞過剰増殖で破裂し、残る一人も今しがた自ら放った砲火によって消え失せた。

 結局、今回も彼ら……【螺神盤】の勝ちだ。


『疲労シタ。癒スタメニ、今日ハ、タラフク喰ラオウ』

『村一ツ、潰ソウ』

『ソレガ、イ、イ』


 しかし今後の楽しみの算段をしている内に、三段目の円盤の言葉が途切れる。

 一定だった円盤の回転も、まるで錆びついたかのようにぎこちない。


『『ドウシタ?』』

『…………』


 一段目と二段目が尋ねても、三段目は答えない。

 やがて円盤は完全に停止し、円盤に取り付けられた顔も白目をむき、口を鯉のようにパクパクと開閉させて……。


「――さようなら」

 その口から全く違う声を発して――内側から砕け散った。


 なんとも呆気なく……古代伝説級最高峰の怪物は三分の一が死んだ。


『ナ……ン……ダト!? 弟ヨ……弟ヨ……ドウシタ……!』

『何トイウコトダ! 誰ダ! 誰ガ……コンナコト……許サレテナルモノカ!』


 生まれてから連れ添い続けた存在との離別に、一段目と二段目は衝撃を受け……。


「ああ。兄弟関係だったのですね。御愁傷様です。それは貴方方にとって、とても悪いことだったのでしょうね。そして許されざる罪(・・・・・・)なのでしょう」

『『!?』』


 三段目の砕け散った顔の中に、何者かが立っていることに気づいた。


「でしたら――この私はとても満足です」

 何者か――黒髪黒瞳以外の特徴が薄い青年は、穏やかに微笑みながらそう言った。


 それは、第三の円盤が破裂させて殺したはずの人間だった。


『『貴様……死ンダハズデハ⁉』』

「飛び散ったくらいでは死なない体なもので。シュウが派手に引きつけてくれたおかげで、この私は容易く貴方方の弟さんの中に入れました」


 異常な発言をごく自然な様子で口走りながら、黒髪の男は一段目と二段目を見上げる。

 強大な怪物の三分の一を殺しておきながら、それを誇る様子も興奮する様子もなく、蔑む様子も怯える様子もない。

 まるで夕暮れの海を眺めるような穏やかな顔で、黒髪の男は佇んでいる。


『オノレ……オノレオノレ‼ 殺シテクレルゾ‼』


 一段目の円盤は激昂し、《空間回転》の回転座標を男そのものに設定する。

 数瞬後には、黒髪の男は空間ごと捩じ切られるだろう。

 だが……。


「この私に構っていると危険ですよ?」


 黒髪の男はそう言って、今も燃え盛る炎を指差した。


「――《ストレングス・キャノン》」

 その瞬間、炎を突き破り――光の砲弾が飛翔する。


『ナ、ニ……!?』


 そして、事は決する。

 一段目の円盤が空間の回転座標を再設定するよりも早く、二段目の円盤が地形を回転させようとも無意味に、光弾は一段目の円盤に急接近。


「――くたばりやがれ」

 炎の中からそんな言葉が聞こえると同時に、一段目の顔面を莫大な威力で消滅させた。


『ゲェ……ガァ…………』

『兄者ァ……!!』


 一段目が断末魔の、二段目が嘆きの声を上げる。

 そして【螺神盤】とは対照的に、一人の男は不敵な笑みを浮かべながら炎の中に立っていた。

 男は左腕に装着した大砲の<エンブリオ>を消しながら、残り一枚になった【螺神盤】を見上げる。


「案の定、回転が間に合わなかったな。ま、一時間もやり合ってたんだ……てめえらの対応速度も把握済みだ」


 そう言った男の声は……戦艦の中から聞こえたモノと同じだった。


『莫迦ナ、オ前モ死ンダハズデハ……』

「生憎とBタイプのBはブラフ(Bluff)のBだ。威力なんざろくにねえ見掛け倒しの特殊効果弾なんだよ」


 その言葉が正しいと証明するように、男は炎の傍でも熱そうな様子の一つも見せない。


「……ま、着ぐるみは燃えたがな。見掛け倒しだが、最低限は燃えるらしい」


 下半身だけ燃え残った着ぐるみに溜息を吐きながら、上半身裸の男はそう言った。


『オノレ……! 弱小ノ人間如キガ、我ノ兄弟ヲ……!』

「……一つだけ教えてやるが、てめえらの敗因はそれだぞ」

『ナニ……?』

「この山奥で神様面して格下相手に無双や生贄要求ばかりしてたから、危機感も戦闘勘も腐ってたんだろうな」

『何ヲ言ッテ……!』


「――何で兄弟の仇を二人(・・)も前にしてベラベラ喋ってんだよ」


 そこまで言われて二段目の円盤はようやく黒い男の姿がないことに気づき


「《シェイプシフト》――【破壊者】の左腕(リンクス・アルム)力の巨砲(マハト・カノーネ)


 彼の死角では、左腕を己の物ではない腕と砲に変えた黒い男がいた。

 それは、戦艦の男の腕と砲に瓜二つだった。


「改めて――さようなら」


 最後の砲撃が放たれ……あっさりと【螺神盤 スピンドル】の最後の一枚は消滅した。


 ◇


 【螺神盤 スピンドル】。触れることすらタブーとされ、付近の村々から生贄を捧げられ続けた恐ろしい怪物は、そうして二人の人間に討伐された。

 けれど、一目で今の二人を人間と分かる人はいないかもしれない。

 一人は【螺神盤】を倒してすぐにアライグマのようなキグルミに着替えていて、シルエットでは新手のモンスターに見える。

 そしてもう一人は……黒い男から黒くて丸い葛餅のようなスライムになっていたので、いよいよ人間には見えない。


『……勝ったクマ』

「そのようですね。ああ、特典はこの私が貰ったようです」

『ま、決め手はそっちだったから仕方ねえクマ』


 二人……シュウ・スターリングとゼクス・ヴュルフェルは、ほんの数分前の死闘が嘘のように気軽に言葉を交わす。

 しかし最期こそあっけないように見えたが、実際はそれほど楽な戦いではなかった。

 彼らが相対した【螺神盤】のスペックは非常に高く、仮定として『もしもこの二人のどちらかが【螺神盤】の力でもう一方と戦えば、恐らくは【螺神盤】が勝つ』という程には強い存在。

 二人が勝利した要因は、これまで勝ちすぎていたゆえに【螺神盤】の戦闘勘が鈍り、さらには二人を甘く見ていたこと。

 そして、二人だったから(・・・・・・・)に他ならない。

 二人が交互に敵の気を引き合い、相手の作った隙に円盤を順に仕留める。

 そうした連携がなければ、鈍っていても【螺神盤】は二人に勝利していただろう。

 この二人をして、一人では勝てないほどに【螺神盤】は恐ろしい相手だった。


 もっとも、この二人はそんな連携の打ち合わせなど一度もしていない。

 単に『こいつならこのくらいはやるはずだ』という信頼……あるいは警戒でお互いの動きを察し合っただけだ。

 そのくらいには、お互いを知っている二人だ。


『…………』


 もっともシュウは、隣で葛餅になっているゼクスを見て『こいつ、疲れ果てると人間の形を保てないのか』と知らなかった新情報に少し驚いてもいたが。

 ゼクスの<エンブリオ>はTYPE:ボディのヌン。スライムが基本系であり、普段の姿も変形の結果。今は……形を整えることもできないほどに消耗している。

 あるいは今がこの犯罪者を“監獄”送りにする絶好の機会かもしれなかったが、今のシュウにも打つ手はない。

 切り札の第一形態含めて弾薬が尽きているので、物理攻撃が効かないゼクスに通じる攻撃手段がないからだ。

 あるいはこの時よりリアルの時間で一ヶ月後、【破壊王】のジョブに就いた後のシュウならば話は違ったかもしれない。

 しかしこの時はそうではなかったのだ。


「この私が特典武具をいただいてしまってすみません」


 自分を見下ろすシュウの視線をどう解釈したのか、ゼクスはそんな言葉を放った。


『構わねークマ。こっちはちっさい子供が生贄ワゴンされてるのに腹立ってぶちのめしに来ただけクマ』

「そうでしたね。けれど、きっと感謝はされませんよ」


 周囲の村々は、【螺神盤】に生贄を送ることを許容(・・)していた。

 この地は【螺神盤】の縄張りであり、他のモンスターが来ることが妨げられていたからだ。

 生贄を要求されることを除けば、危険は少ないとすら言える。

 未だ見ぬ強大なモンスターに村ごと食われる不安を抱くより、定期的に必要経費(・・・・)として子供を食わせた方が安全で良い生活を送れる。それが村々の考えだった。

 それは、【螺神盤】を神に据えた一種の宗教とも言えた。

 実際、シュウが討伐に向かうと口にした時は蛇蝎を見るような視線と、数限りない悪罵を浴びせられた。

 生贄を求める怪物を討伐することこそが、村にとっての大罪(・・)だった。

 ゼクスの方は、だからこそ(・・・・・)討伐に乗り出したわけだが。


「あの<UBM>を倒したことで将来的な死者は増大するかもしれません。きっとこの事件に関与した人は、誰もシュウを正しいとは思っていません。それこそ、生贄の子供を出した家さえもね」

『だろうな』


 しかし、シュウはケロリとしたものだった。


『俺は俺の望むままに動いて、俺にとってはそれが正しかった。けど、大勢の村人にとっては正しくなかった。それだけだろうさ』

「……少数派でも怖くはないと」

『多数派になるために意見を曲げたら、自分も、自分の正しさも、なくなっちまうさ』

「それがシュウの正義、ですか?」

『……正義なんて大仰な言い方はしねえよ。俺は、俺が望む可能性を諦めないってだけだ。でもそれだけは……誰に否定されようが曲げねえよ』


 もう残骸すら残っていない【螺神盤】の立っていた地を見ながら、シュウは言葉を続ける。


『今回は『子供の生贄要求するクソ円盤をぶっ壊す』ことを望んで、それを実行した。だから罵倒されようが……討伐したことはこれっぽっちも後悔してねえさ』


 そう言って、シュウは着ぐるみの内側で笑った。


『ま、王国とレジェンダリアの知り合いに連絡して、縄張りが空白化したこの辺りの警備網を敷き直してはもらうけどな。そのくらいの後始末はするさ』

「…………」


 シュウを見上げながら、ゼクスは考える。

 きっとシュウにとって他人の評価などさほどの意味もない……ただの副次産物でしかないのだろう、と。

 彼は彼自身が望むことをして、その意味も価値も彼にだけ分かればいいのだろう。

 そんな風に、他者に影響を及ぼすが他者によっては揺るがない。

 着ぐるみを着ても、三枚目を演じても、あるいは他者をその実力でねじ伏せても、本質は不変。

 確立した、強い自分自身。

 逆風の中でも己を……自分の正義を貫く者。

 そんなシュウに対し、ゼクスは多くのことを考えて……少しだけ■■した。


「正反対ですね」

『ん?』

「この私は多数派(村人達)望まないこと(・・・・・・)のために討伐に来ました。シュウは少数派(自分)望むこと(・・・・)のために討伐に来ました。行動と結果は同じでも、どこまでも正反対ですね」

『前から俺達はそんなもんだろ。それこそ、俺達の初顔合わせだったテレジアの件からな』


 シュウは、ゼクスの言葉を『今更だ』と言った。


「そうですね。彼女が【邪神】であることをあなたが世間に隠しているのは彼女自身のため、この私が隠しているのは……隠していた方が世界のためにならないからです。本当に、正反対ですね」


 自分が望むこと――自分の正義を貫くシュウ。

 世界が望まないこと――世界の悪を網羅するゼクス。

 この二人はどこまでも正反対で……しかしそれゆえに噛み合うことも多かった。

 正義と正義はぶつかり合うが、正義と悪は噛み合って歯車を回す。

 二人の関係はそんなものかもしれなかった。


『…………』


 だからこそ、だろうか。

 自分の犯罪の邪魔をすることも多いシュウを、ゼクスは決して嫌いではなかった。

 それだけではない。

 王国最悪の犯罪者でありながら、個人の欲求というものをほとんど持たないこの男(ゼクス)に……一つの欲求が芽生えた。


(いつかシュウが超級職になって、この私と条件が五分になったとき……)


 ゼクスはスライムの姿でシュウを見上げながら……自分の欲求を心に抱く。


(この私と、最後まで……)


 その欲求を……しかし今は口には出さなかった。

 彼がそれを口にして、彼に伝えるのはまだ先の話だ。


 ◇


 それから二人は適当な言葉を交わして別れた。

 その後も二人は幾度も遭遇し、世間話をし、小競り合いをし、この日のように共闘しながら日々を過ごした。

 ゼクスはきっと、シュウのことを友人であり、自身にとっての特別であると思っていた。

 シュウもきっと、この最悪の犯罪者のことがそこまで嫌いではなかった。


 けれど、こちらの時間で一年以上の時を経て。

 第一次騎鋼戦争と呼ばれる戦の直前に……二人は激突することになる。

 <マスター>とティアンの誰も知らない戦い。

 鋼の巨神と暗黒の巨神が激突する最大の死闘。


 破壊と罪、二人の王はその時……砕け散るまで戦い続けた


 Open Episode 『King of Crime』

(=ↀωↀ=)<何で七夕に野郎と野郎のエピソードお送りしているのだろう……


(=ↀωↀ=)<あ。次回からは六章後の時系列でレイ君も出ますよ

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