エピローグA 一・三・五
(=ↀωↀ=)<ゴールデンウィークは群馬サファリパーク行った作者
(=ↀωↀ=)<思った以上に動物とバスの距離が近くてびっくり
(=ↀωↀ=)<二匹のクマが木の上でじゃれあう姿を取れて満足
(=ↀωↀ=)<あとウォーキングゾーンではグテーっと寝てるオオカミがワンコにしか見えなくて
(=ↀωↀ=)<オオカミは飼われると犬になる、という歴史がよく分かる光景でした
(=ↀωↀ=)<なお現地までの移動中はスマホのメモ帳に原稿とか特典とかネタ出しとかしてた模様
(=ↀωↀ=)<最近はスマホのメモ帳をメールでパソコンに送れるの便利ね
( ꒪|勅|꒪)<最、近……?
(=ↀωↀ=)<あ、話は変わるけど作者の手元に七巻表紙が来ました
(=ↀωↀ=)<まだ公開できないけど凄まじくカッコいいです
□王都アルテア
ライザーは頬に感じる微かな熱で目を覚ました。
ぼやけた視界を瞬かせて戻し、少しずつ目の焦点を合わせていく。
そうして視界がクリアになると、彼は王都の上空から王城を見下ろしており、その王城からは陽炎が空へと立ち上っている。
それは炎と違って色を持たず、ただ膨大な熱が空気を歪めていた。
熱気は彼にも伝わってくるが、それは人体を害するほどではない。
「あれは……」
「あ! ライザーさん! 目が覚めましたか!」
その声に顔を向ければ、そこには<バビロニア戦闘団>のメンバーであるラングの顔があった。そこでようやく、ライザーは自分が彼のヒポグリフの背で荷駄のようにもたれかかっていることに気づいた。
「……あれから、どうなった?」
「はい! ライザーさんはあの蜂人間の親玉を倒しました。そしたら街中の蜂人間も動きを止めて、俺が空に上がるとちょうどライザーさんが落っこちてきたんでキャッチしました!」
「あの火柱は?」
「分かりません、ちょっと前に出てきはじめて……でも城の中の人達は大丈夫そうです」
「……そうか」
ならばひとまずは何とかなったのだろうと、ライザーは安堵した。
ほどなくして、二人を乗せたヒポグリフは地上……【レジーナ・アピス・イデア】との戦場だった噴水広場に降りた。
街の様子はライザーが飛び立った時と変わりなく、被害も拡大していないようだった。
降下する様子が見えていたのか噴水広場に残っていた者達が彼らに近づいてくる。
「ライザーさん……ご無事……で……?」
霞が声を掛けようとして、しかし何かに気づいて首を傾げた。
それはイオとふじのん、他の者も同様だったらしい。
「どうかしたのか?」
「ライザーさん……ですよね?」
「ああ。なぜ尋ね……ん?」
そこでようやく、ライザーは自分の頭部の違和感に気づいた。
両手で頭を何か所か触り、確信する。
「ああ。仮面がなくなったんだったな」
彼の最大の特徴であったフルフェイスの仮面が、空中での攻防によって砕け散っており、今の彼は(アバターではあるが)素顔の状態だった。
半世紀以上前の特撮ヒーローの変身前のような顔だったが、そもそも顔の造形以前に彼の顔が見えているということに動揺が広がっていた。<バビロニア戦闘団>のメンバーでさえ動揺を隠せない。
「あれがライザーの素顔か……初めて見た」
「あいつ、顔あったのか……」
「…………」
『一体自分は何だと思われていたのだろう』、とライザーは深く疑問に思った。
「ラングさんは驚いて……ないですね?」
空中でマスクなしのライザーを拾った張本人であるラングだけは、彼の顔にも驚いている様子がなかった。
「ああ。前にライザーさんと風呂入った時に見てるからな」
「「「おふろ」」」
ラングの言葉に三人娘は声を揃え、ライザーは『そんなこともあったな』と思い返す。
ラングと一緒にカルチェラタンに赴いたとき、宿の大浴場に入ったときのことだ。
流石に仮面をつけたまま風呂に入るほど非常識ではなかったので顔を見られている。
もっともライザーはポリシーで仮面を着け続けているだけであり、顔を隠しているのは副次的なものなので見られても気にしなかったが。
「……二人でおふろ」
「男同士の裸の付き合い」
「ライランですね! ごちそうさまです!」
「「ライラン?」」
ライザーとラングがイオの意味不明な言葉に首を傾げるのと、ふじのんがイオの脇腹にボディーブローを叩き込むのは同時だった。
「ぐぇふぅ……!? り、理不尽だぁ……! ふじのんもギリギリ危ないこと言ってたのにぃ……!」
「イオは発言が直截的すぎます」
「うぅぅ……! でもコレクションはふじのんの方がえげつな……」
「宣戦布告と受け取りました」
「あわわわわ……ふ、二人とも……やめようよぉ……」
そんな彼女達のやりとりにライザーが苦笑していると、周囲からも笑声が零れだす。
それは広場に集まった……<マスター>以外のティアンの声も含まれている。
事件の後の、穏やかな人々の様子に……改めてライザーは思う。
「今度は……守れたか」
気絶する前に述べた言葉を……もう一度確認するように呟いた。
◆◆◆
■地下避難区画
【炎王】フュエル・ラズバーンによる《超新星》が王城や王都を崩壊させることなく防がれた後、地下には水の流れ込む音だけが響いている。
既に避難していたエリザベート達や消え去ったフュエルはもちろん、気絶した【龍帝】ツァンロンも重傷の身ながら彼を抱えて地上へと移動した【大賢者】インテグラもいない。
壁の穴からは地下水脈が少しずつ避難区画全体へと流れてゆき、《超新星》の熱によって融解した天井の大穴からは数十メテルを経て地上の陽光が少しだけ入り込んでいる。
そんな空間に……全身を包帯で包んだ一人の女性の姿が現れた。
「寸前。もう少しで次のプランまで崩れるところでした」
腰下までを地下水に浸しながら、ゼタはそう呟いた。
フュエル……彼女にとってはラ・クリマの改人である【イグニス・イデア】の暴走。それによってクラウディアから請け負ったプランCまで崩れるところだった、と。
「…………」
内心で、ラ・クリマの手腕に疑問を抱きもする。
今回投入された改人は量産型である【アピス・イデア】以外は、改造の素体となるティアンの人格を残したまま改造されている。
それはティアンとしての戦闘経験をフル活用するには良い手法だ。スタンドアローンでの行動力から見ても極めて重要となる。
ラ・クリマは人格を残さないタイプも作れるが、そちらはラ・クリマ自身や【レジーナ・アピス・イデア】のような司令塔がいなければまともに機能しないからだ。
人員の補強が難しい<IF>にとって、改人は重要な戦力だ。
一時的な戦力ならばローガンの悪魔召喚で代用できるが、それでは今後増えるであろう盤面に対して動かす駒が不足する。
しかし今回のように制御不能になるのであれば、デメリットが勝るのではないかとゼタは考えた。
【イグニス・イデア】のように、『強化した分の魔力で作戦も何もかも関係なく自爆する』などということが頻発すれば問題しか残らない。
(それについて、ラ・クリマにレポートを出す必要がありますね)
問題を起こした【イグニス・イデア】にしても、改造された上で自我があったからこそ、これほどの魔法を編み出した。改人の製造においてメリットとデメリットの天秤は非常に危ういところにある。
もっとも、そのメリットとデメリットの天秤のどちらの皿にも……『ティアンが素材である』という事柄は載せられていなかったが。
「移行。さて、プランCの下準備に移行しましょう」
彼女は水で満たされつつある避難区画の中を、壁に空いた穴に向かって歩いていく。
懐から鯨を模した白いアクセサリーを取り出しながら、流れ込んでくる地下水を見る。
「……豊富。それにしても、本当に水と空気が豊富ですね」
壁から流れ込み、自身の下半身を浸す地下水に触れながら、ゼタはそう呟いた。
それはかつて、彼女が所属していたグランバロアに初めて降り立ったときにも述べた言葉だ。
リアルの彼女にしてみれば、水浴びできるほどの水など望むべくもない。
最初にあの国を選んだのも、それが理由だった。
「…………妬ましい」
それゆえか、少しだけ本心が漏れた。
水と空気がいくらでもある<Infinite Dendrogram>を妬ましく、憎たらしく感じた彼女の本心。
それは、持たざるがゆえの妬ましさと憎らしさ。
彼女にとっての<Infinite Dendrogram>とは、現実逃避に……現実からの避難に過ぎないのだと誰よりも彼女が知っている。
そして同時に、彼女が避難できるからこそここがただのゲームではありえないとも理解している。
「…………」
ゼタは、ゆっくりと頭上を仰ぐ。
天井に遮られて空など見えない。
しかし彼女の心には天井の先にある空と、そのさらに向こう側が見えていた。
「……こちらには……手の届かない世界に手を伸ばした人々はいなかったのでしょうね」
ゼタは誰にも届かない言葉を漏らして、
不意に――――その視界を喪失した。
まるで星のない夜空のような漆黒の渦中に放り込まれ、前後や上下すら定かでない一縷の光もない。
(これは?)
目を見開いても何も映らない闇。
咄嗟にウラノスで圧縮空気の防壁を展開しようとしたが、それよりも早くに軽い衝撃が彼女の体を揺らす。
同時に暗黒が消えてなくなり、彼女の視界が戻る。
そして彼女が自分の体を見下ろすと、彼女の胸の間から異形の腕が伸び……彼女の心臓を掴みだしていた。
一瞬、自らが葬った【尸解仙】迅羽を思い浮かべるが、これは違う。
金属でできたあの義手と違い、この黒い腕は生物的なものだ。
振り向くよりも先にウラノスの圧縮空気弾で後方へと攻撃を仕掛けるが、黒い腕の持ち主は彼女の心臓を握ったまま腕を引き抜いて一瞬で距離を取った。
心臓を失い、ゼタの体が倒れかけるが……ウラノスで空気をコントロールして自らの体を支える。
しかし受けた傷は致命のもの。不意の一撃であり、加えて【ブローチ】を迅羽に砕かれていたために防ぐこともできなかった。
そして自らに致命傷を与えた相手の姿を見る。
「……ウェスペル、ティリオー……」
それはイデア分体の反応がロストしたために死亡したと思われていた【ウェスペルティリオー・イデア】……モーター・コルタナだった。
ゼタの視界を奪ったのは、ラ・クリマが彼に与えた《暗黒結界》によるもの。
しかしそれはおかしい。
改造された体を繋ぎ止めるイデア分体は、既にない。
だというのに、モーターの体は繋がりを保っている。
否、イデア分体に繋がれていた時より、生物としてより洗練された造形だ。
日本のコミックに描かれた……人に悪魔が宿った男のようなその姿。
今の身ごなしと、彼女に一切気づかれずに心臓を奪い去った手腕。
明らかに、それまでのモーターとは別物だった。
「…………」
すぐにHPが尽き、ウラノスのコントロールも限界となってゼタは水の中に倒れ、沈み込む。
ゼタのアバターが水中で消えゆく中で、彼女は考えた。
……やはりラ・クリマには文句を言わなければならない、と。
◇◆
『…………』
ゼタの姿が水中で消えてなくなるのを見届けた。
そしてゼタが跡形もなく消えてなくなり、それが光学迷彩の類でないことを音により確認もした
それから、モーターは口を開かずに言葉を述べる。
『俺だ。元の飼い主は始末した』
『……そう。じゃあ、また用事があったら呼ぶから、しばらくは王都で待機していて』
『……ああ』
今この場にはいない自分の新しい飼い主である少女とそんな会話を交わし、モーターは念話を切った。
そう、今の彼は少女……テレジアによって生かされている。
あの時、テレジアに選択を迫られて……モーターはまた生きることを選んだ。
生きていればそこで終わる以上に最悪なことになる可能性もあった。
しかしそれでも、モーターは思ったのだ。
『自分の人生を、ここで終わらせたくない。俺はまだ何もしちゃいない』、と。
彼は、【炎王】とは違った。
生涯の意味のために死んだ男と違い、自分の生涯の意味にまだ納得も満足もしていなかったから生きることを選んだのだ。
彼はイデア分体の代わりに【邪神】の《眷属変性》を受け入れ、生まれ変わった。
今の彼は人ではなく、モンスターとも違う存在。
人でなくなったゆえに全てのジョブ……超級職【奇襲王】すら彼から離れていったが、しかし同じだけの力はまだその体に残っている。
純粋な戦力で言えば、古代伝説級の<UBM>さえも上回るだろう。
改造で得た力を上回る眷属の力。
しかし彼は力を気に入るつもりも、力に溺れるつもりもなかった。
今の彼が考えることは、たった一つ。
「…………今度の選択は間違えてない、よな?」
人間をやめて改人となり、それすらやめて【邪神】の眷属となった男は、心の底からの思いと共にそう呟いた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<モーターさん再就職
(=ↀωↀ=)<上司はロリ邪神
色々台無しクマ>( ̄(エ) ̄)つ)=ↀωↀ=)<ぶにゃあ……




