第十九話 いっしょに――
□龍について
【龍帝】蒼龍人越……ツァンロンは自分が生まれた時のことは覚えていない。
誰だってそうであるように、赤子の頃の出来事など記憶にはさほど残らない。
それは【龍帝】として生まれた身でも変わらない。
彼が最初の記憶で覚えているのは、赤い視界だけ。
何が見えていたのかは分からない。
その赤色の意味を、理解してもいなかっただろう。
◇
物心がついたときに……彼は自分が兄や姉、そして父から疎まれていることを悟った。
彼が【龍帝】であることは宮中でも秘されている。
知っているのは皇帝とその実子、ごく一部の側近のみ。
何も知らない家臣達はツァンロンを第三皇子として扱う。
乳母は【龍帝】であることを知っていたが、それでも彼をよく世話していた。
しかし、家族は違う。
彼の家族は、まるで敵を見るかのように彼を見る。
その理由が彼には分からなかった。
【龍帝】が特殊超級職であり、皇帝と同等かそれ以上に黄河にとって重要な存在だということは教わったが、それが疎まれる理由とも思えなかった。
だからだろうか。
ある程度物事も覚えた時に、ツァンロンは直接父に聞いたのだ。
「どうして僕を疎むのですか」、と。
その後に彼が見たのは、見たこともない表情で彼を殴りつけた皇帝の姿だった。
【龍帝】とのステータスの差もあり、傷つくのは皇帝の拳だけだった。
それでも手を砕きながらも……皇帝である父は彼を殴った。
まるで溜め込んだ全てを吐き出すように。
そして、こう言ったのだ。
「お前が! 愛する妻の命を奪ったからだ‼」、と
それを聞いて、ツァンロンは理由に納得しかけて……しかし疑問を抱いた。
ツァンロンの母が彼を生むときに死んだのは知っている。
しかし、出産に伴う死とは珍しいものではない。
そうして生まれた子に向ける感情にも様々なものがあるだろう。
しかし、その理由と比して、皇帝が彼に向ける憎悪がより根深いものであり、愛情というものが一片もないことを彼は察した。
それは決して親が子に向けるものではない。
まるで、愛する者をバラバラにして殺した下手人でも前にしているかのようだった。
「……………………あ」
そこまで考えて、ツァンロンは答えに辿り着いた。
母はツァンロンを産むと同時に死んだ。
そのツァンロンは、【龍帝】として生まれた。
そして【龍帝】は先代のレベルを引き継いでいる。
特化型の超級職さえ凌駕するステータスを持って、生まれる。
それこそ――出産の時点で。
それが原因であり、答えだ。
ツァンロンの母は、出産に伴う病などで死んだ訳ではない。
本当に、ツァンロンがバラバラにしたのだ。
腹の中にいた【龍帝】の赤子が外へもがき出ようとして……その過剰すぎる力で母体を引き裂いたのだ。
父である皇帝が、そして兄姉が彼を疎む理由の全てがそれだった。
あるいは、彼らはツァンロンによってバラバラにされた妻と母の姿を見たのかもしれない。
彼らにとってツァンロンは家族を奪った憎い相手。
人間ですらない生まれながらの化け物。
しかし同時に黄河の象徴にして最高戦力であり、排することは絶対にできない。
それゆえに、彼らはずっと我慢していたのだろう。
だが、ツァンロンの不用意な発言で何かが切れてしまったのだ。
あるいは彼を殴るときに、皇帝は自分が死ぬことも覚悟して殴ったのかもしれない。
きっと己の妻を殺した化け物に返り討ちにされることを考えていた。
だが、ツァンロンにとって皇帝は父であり、殺そうとは欠片も思わなかった。
しかし同様に欠片も思わずとも……ツァンロンは母を殺して生まれたのである。
この日、ツァンロンも皇帝も死ぬことはなかった。
しかし、ツァンロンと家族の関係は……この時点で修復不可能なものとなった。
◇
それからツァンロンは皇子として、【龍帝】としての公務を続けた。
祭事や式典では【龍帝】としての姿となり、異形となったツァンロンの顔を隠す面を被って参加した。
皇子としても年齢相応には教育を受け、公務を行った。
しかし、家族との時間はツァンロンにはなかった。
彼を育てる乳母や共に育つ乳兄弟はいた。
しかし本当の父と兄姉は、皇帝が拳を振り下ろした日を最後にツァンロンと一切接することはなかった。
暴力を振るうことはないが、言葉をかけることもない。
公務で接する必要があるときのみ、最低限の会話をするだけの関係だった。
ツァンロンもまた、彼らに触れようとは思わなかった。
過大な力を持つゆえに……不用意に触れれば母のように殺してしまうかもしれなかったから。
そんな風に家族と触れられない彼が曲がりなりにも愛情や友情の実在を知ることが出来たのは、事情を知りながらも彼を育てた乳母【天仙】や、何も知らないが彼の面倒をよく見る乳兄弟がいたからだろう。
しかしそんな彼女達相手でも、ツァンロンは触れることを恐れていた。
彼が他者と心置きなく触れ合えたのは、結界の敷かれた闘技場での決闘だけだった。
決闘の場で彼は皇族の、そして【龍帝】の力を示すために戦った。
相手を砕いても、試合が終われば元に戻る闘技場は、化け物として生まれた彼が誰も殺さずに済む世界だった。
彼の体は決闘に際しては【龍帝】としての本当の姿を晒していた。
屈強な体躯と龍の特徴を色濃く残す容姿。面で顔を隠されていたこともあり、誰も彼を幼い皇子だとは思わなかった。
そして彼は幾度も決闘の舞台に立ち、黄河最強の決闘一位の座にも容易く到達し、皇族の威光と黄河帝国の象徴である【龍帝】の力を示した。
けれど、彼の家族がそれを褒めることは一度もなかった。
そして決闘を通して力の制御を学んでも、彼が家族に触れることは……一度もなかった。
◇
あるとき、彼は先代【龍帝】紅龍人超から次代の【龍帝】……ツァンロン宛てに残された手紙を読んだ。
そこには『我らの力は過大なのだ。努力すらなく、只々選ばれて得る力。自分で積み重ねるまでもなく、破格に過ぎる。それゆえに、君は幼子の内に大きな過ちを犯しているかもしれない。血に塗れた生まれであるかもしれない』と、まるでツァンロンがこうなることを知っていたかのような文面も書かれていた。
あるいは、先代もまたそのような生まれ方をしたのかもしれない。
手紙には『罪に囚われるな』と書かれていたが、しかしそれは自分には難しいとツァンロンは考えた。
どうしても、どう足掻いても、母殺しの罪は鎖となって彼の人生を繋ぎ止めてしまっていた。
◇
そんな彼の日々に変化が生まれた。
それは<マスター>の増加だ。
不死身にして、特異な力を持つ者達。かつて先々代【龍帝】と渡り合った【猫神】の同類。
ツァンロンにとって初めての、彼以外の規格外が数多く現れたのだ。
やがて決闘の場でその規格外の一人、【尸解仙】迅羽との試合を行った。
結果はツァンロンの勝利だったが、彼は自身と渡り合える人間……対等に接することが出来る人間と初めて会ったのだ。
それゆえに、彼は迅羽によく懐いた。
ようやく年相応に甘えられる相手を得たように。
もっとも……甘える相手の正体が同年代の少女であったことは、彼もいささか驚いたが。
◇
今年になって、彼は皇帝である父から公務として王国に見合いに行くように告げられた。
見合いというより、婚姻が前提であるかのようだった。
なぜ第一皇子や第二皇子ではなく、疎まれる自分なのか。
その理由はツァンロンには分からなかった。
しかし、公務でありそれに逆らう気もなかった。
異国の地で自身の正体と力を隠すために、先々代の遺した宝物庫から適した<UBM>の珠を捜して討伐し、無力な子供となった。
そして護衛を務める迅羽に守られながら、彼は王国を訪れた。
それからは<流行病>に罹るなど予定外のこともあったが、大過はなく。
そしてつい先日、ツァンロンは自身の見合い相手であるエリザベートと顔を合わせた。
エリザベートは天真爛漫で、よく笑う子だった。
皇子である彼と、王女である彼女。立場は近いのに、どこか自分と大きな違いがあるように感じた。
けれど、そんな彼女の笑顔は、彼を理由として泣き顔になってしまった。
彼女の姉が告げた、黄河への嫁入り話。それは戦争が始まりそうな王国で、エリザベートを守るための選択でもあった。
しかし彼女はそれに抗い、姉や妹を置いて自分だけ王国を離れることを否定していた。
そうして姉妹は言い争ったが、ツァンロンは姉妹の関係が自分と兄姉の関係とはまるで違うことはすぐにわかった。
お互いに言い争ってはいても、お互いを思うがゆえのものであることが傍から見ていて分かったからだ。
愛し合う家族の存在。
ツァンロンはそれこそが自分と彼女の違い……自分の持たざるものなのだろうと察した。
愛し合い、一緒に生きる家族など……彼には一人もいないのだから。
それは彼にとってあまりにも眩しく、同時にそんな姉妹が自分を原因として言い争うのは心が苦しかった。
彼女達を引き裂いて、愛のない黄河へと連れていくことも。
だから翌日、ツァンロンはそのことをエリザベートに謝りたくて彼女の下を訪れたのだ。
その後、迅羽らの計らいによって、愛闘祭で彼女と見合いを兼ねたデートをすることになった。
それは彼にとっては想定外だったが、しかしエリザベートのことをもっと知りたいと思っていたのも事実であり、彼はデートに応じた。
エリザベートと並んで、祭りで賑わうギデオンの街を歩いた。
「やっぱりきょうはおまつりだからカッキがあるのじゃー。コウガのおまつりはどんなふうなのじゃ?」
「すみません。僕はこんな風に市井を歩けるのは王国に来てからなので……。大祭のときはいつも壇上から見下ろすだけでしたから」
【龍帝】としての面を被り、人ならざる姿で民衆を見下ろす置物になること。
ツァンロンにとって祭りとはそういうものだった。
「なんだかたいくつそうなのじゃ」
「そうですね。そうかもしれません」
退屈、と言えば退屈だったのだろう。
黄河にいた頃にツァンロンが楽しいと感じたことは数少ない。
そしてその数少ない時間も、乳母や乳兄弟、迅羽とともにあるときだけだ。
それ以外の時間は義務のみで生きていたのだろうと、改めて自分を振り返った。
祭りの中で、様々な面を売る屋台を見かけた。
その中には彼が黄河で着けている面……【字伏龍面】に似せたものもあった。
本来は金属に対して強引に自身の魔力を流し、変形させて顔を隠すためのものだが、売り物のお面は彼の物よりも見栄えが良かった。
「ツァンロンも選んだのじゃ? む、なんだか怖いお面じゃのぅ」
怖いお面と言われて、咄嗟に返す言葉も思いつかなかった。
己の異形を隠すための面ですら恐ろしいならば、その素顔はより恐ろしく、彼女にとって受け入れづらいだろう、と。
同時に、『自分が化け物であることも明かさずに、彼女を妻として黄河に連れ帰るべきなのだろうか?』と改めて悩んだ。
しかし悩みながらも、天真爛漫なエリザベートに惹かれていく自分を……ツァンロンは理解していた。
そうして見合いを続ける内にツァンロンは疲れ、体を休めることになった。
本来の彼であれば百里を駆けようと疲れることはないが、今の彼は【自戒封巻】によって子供同然だったために息が上がっていた。
しかし休憩中に、エリザベートに服の内側に巻いた【自戒封巻】を見られた。
「それはケガか、ビョウキなのか?」
「そう、ですね。病のようなものです。この黒い包帯は、生まれもったハンデを抑えるための処置です」
その言葉は嘘ではない。
自分が人間として生きられないハンデ……【龍帝】としての力を抑えるためのものだ。
自分が【龍帝】で良かったと思うことなどツァンロンにはなく、ハンデでしかない。
「……すみません。お見苦しいものをお見せしてしまいました」
「あやまることではないのじゃ! ビョウキのなにがみぐるしい! 生まれもったビョウキが、なんだと言うのじゃ! そんなことをわたしがいやがると思ったらおおまちがいなのじゃ」
その言葉に、ツァンロンは胸が詰まりそうだった。
彼女は本当にツァンロンが何らかの病気を持っていたとしても、それを見苦しいとは言わないのだろうと分かったから。
あるいは、自分の正体を明かしても……受け入れてくれるかもしれない、と考えた。
しかし結局は躊躇い、彼は彼女に真実を話さなかった。
それから彼女の姉妹に対する思いを聞いた。
姉妹を守るために、嫁入りの覚悟をしている彼女の思いを聞いた。
「ツァンロンとともにコウガに行けば、わらわはあねうえをささえられるし、テレジアをまもれるかもしれないのじゃ」
そこに続く言葉を、彼女の覚悟を聞きかけて……しかしツァンロンはそれを保留にしてもらった。
彼女の覚悟を聞く前に、自分も真実を話す覚悟をしなければならないと思ったから。
化け物であることを、彼女に明かす覚悟を。
◇
そして今日、ツァンロンとエリザベートを炎の猛威が襲い、彼が彼女に真実を言葉で告げるよりも早く、彼は彼女の前で正体を晒すことになった。
化け物であることを知られることに、恐怖はあった。
それでも、躊躇いと後悔はなかった。
そうしなければ守れないと知っていたから。
『己の守りたいと思ったものを守れ。
己のなしたいと思ったことをなせ。
己の意思で何かを行うことを恐れるな』
かつて読んだ先代の手紙に遺された言葉を思い出しながら、彼は己の惹かれた少女を守るために……自らの正体を晒した。
◇◇◇
□■地下避難区画
フュエルの魔法の構築に伴い、余剰の熱波はさらに火勢を増す。
《竜王気》越しですら、ツァンロンの龍鱗の皮膚が熱を帯び始めている。
(この魔力と熱量……、相手の息の根を止めたとしても爆発は避けられない……!)
魔法の発動と絶命による暴発。どちらであっても同じことだ。
この熱量が解き放たれれば、この地下の避難区画全体が一瞬で熔解する。逃げた者達も、絶命は免れない。【ブローチ】があろうと、押し寄せる熱波に全身を焼かれて即座に死ぬ。
それどころか王城も王都も、溢れ出る熱気で壊滅的な被害を受けるだろう。
それを防ぐには、爆発前にフュエルをどこか遠くに運び去るか、熱量そのものをこの場で抑え込まなければならない。
だが、地下深い避難区画からフュエルを移す術はない。
(防げるのか……、僕の《竜王気》で……)
これが先々代の【龍帝】であれば、無数の術法によって如何様にも対処できただろう。
だが、それは先々代のみの特殊な技術。
先代も、そしてレベルは最も高くとも未熟なツァンロンも、使うことはできない。
身体能力として身につけた《竜王気》では、この爆発の先触れに過ぎない熱波を防ぐのが限界だった。
それでも《古龍細胞》を持つ【龍帝】であれば、防御に集中すれば爆発の中心地にいても生存することは可能だ。
しかしそれでは、彼以外は誰も助からない。
(けれど、その爆発を防げなければこの王都も……彼女も……!)
限界であってもやるしかない。
(……生命力を魔力に変換して、《竜王気》の出力を最大にする)
それが、自身の生命を削ることになったとしても。
彼が覚悟を決めて、臨界に達しつつあるフュエルと向かい合った時……。
『……!』
背後に、気配を感じた。
ほとんどの人間はこの避難所から退避したはずなのに、それでも一人……彼の後ろに誰かがいる。
それは……。
「ツァン……」
彼が最も守りたいと思った少女……エリザベートに他ならなかった。
『エリザベート! どうしてまだここに!?』
《竜王気》で阻んでいるとしても周囲の気温は徐々に上がっている。そう時もかからず《竜王気》越しでも人命を奪うに足る熱量になるだろう。爆発すれば言うまでもない。
しかしそれでも、エリザベートはツァンロンの後ろに立っていた。
「ツァン、ツァンも……いっしょににげるのじゃ!」
その言葉に、彼は悟る。
この少女は一人で炎の中に残った彼を心配して、戻ってきたのだと。
化け物としての姿を晒した自分の身を……彼女は案じてくれたのだと。
そのことに心が緩みかけるが、しかし彼は歯を食いしばった。
そして彼は……面を外して彼女を見る。
それは人の顔ではなく、龍としてのものでもない。
人と龍が混ざった……相対する改人同様に醜い姿だ。
その素顔をエリザベートに見せながら、ツァンロンは言う。
『僕は【龍帝】……化け物だ』
化け物であることを、自らの口で述べる。
『化け物だから、君とは違うんだ。だから、君は早くここを離れて……』
エリザベートを拒絶する言葉を彼が口にして……、
「――バケモノなんかじゃない!」
そんな彼の言葉こそを、エリザベートは否定した。
ツァンロンはそんなものではないと、彼が抱えた自責と負い目を吹き飛ばすように。
「ツァンは、わらわのともだちで……」
ツァンロンは【龍帝】であるかもしれないが、バケモノではない。
自分の友達であり、
「こんやくしゃで……これからかぞくになるのじゃ‼」
『――――』
生涯を共に歩むと決めた相手なのだと……彼女ははっきりと口にした。
「だから……! まだ、はなしたいことも、ききたいことも、たくさんあるのじゃ! だから……だから……! いっしょに……」
胸に詰まる感情ゆえか、迫る炎の恐怖ゆえか、涙に混じった声からは続きが出ない。
けれど、彼には聞こえた。
――いっしょに生きよう、と。
その声なき言葉が、ツァンロンには聞こえたのだ。
『…………』
ツァンロンは、彼女に背を向ける。
それから、外した面をもう一度着け直した。
……その時、彼の顔を覆う面の隙間から流れた涙は、熱気の中で消え失せた。
けれど、彼の心には……消えることのないものが生まれた。
「殿下! エリザベート殿下ぁ!」
その時、フィンドル侯爵が避難所の入り口から戻ってきて、エリザベートを残った片腕で抱え込んだ。
『フィンドル侯爵、エリザベートを頼みます』
「……はい!」
エリザベートを逃がす役目を、彼に託して……ツァンは炎へと向き直る。
「ツァン……!」
『……必ず、君のところに戻る。だから、ここは任せてほしい』
「…………、うん!」
そうして彼は約束をして、避難所から退避する彼女達を背中で見送った。
駆け去っていく足音を聞きながら、彼は言葉を発する。
『……【炎王】』
呼びかける相手は、眼前で炎の塊へと変じつつあるフュエル・ラズバーン。
『さっきまでは、命を賭してでも君を止めるつもりだった』
自分の全魔力と全生命力で、爆発を抑え込もうとしていた。
『でも、今は違う。君に僕の命はあげられない。僕の命は、彼女のものだ。僕は君の炎を止めるし、僕の命も守り抜く』
守るべきものは増えた。
『総取りで悪いけれど、一つだって譲れない!』
彼自身の命を……愛する人との約束と、未来のために守り抜く覚悟を決めた。
『僕は……自分でそう決めたんだ‼』
そして、彼は全てを飲み込む破滅の炎に向かい合う。
『…………』
炎は……目も耳も残っていないフュエルはもはやその言葉を聞いてはいないだろう。
だが、何かを感じ取ったのか、微かに形を残した口元を歪めて……笑った。
そして、
『――《超・新・星》』
完成した最終奥義の名を――唱えた。
To be continued