第十四話 【??】――この世界に必要なもの
(=ↀωↀ=)<この土日は外出しているので
(=ↀωↀ=)<誤字などがあっても修正は明日の夜以降となります
(=ↀωↀ=)<また、執筆時間の都合で次回更新は遅れるかもしれません
(=ↀωↀ=)<今回はちょっと場面転換
(=ↀωↀ=)<時系列的には【龍帝】発覚あたりー
□■王城四階廊下
(一体何が起きていやがる?)
魔力を感知できるモーターは、この城が先刻から輪をかけて異常と言える状態にあることに気づいていた。
第一の異常は地下に出現した巨大な魔力の反応。
(【炎王】の爺と並ぶぞ。何なんだこの城は……)
モーターは知る由もないが、それはツァンロン……【龍帝】蒼龍人越の反応だ。
だが、魔力を感知できる……逆に言えば魔力でしか感知できないためにモーターの混乱は大きい。
(バケモノの、巣か?)
先刻自分が漏らした軽口を、自分で『真実』と認めてしまったかのように、彼はそう思考した。
第二の異常は、彼に襲い掛かってきたモンスター群。
明らかに奇怪な姿のそれらを相手に彼は戦い、その全てを撃破した。
だが、撃破した後が問題だ。
倒したモンスターはいずれも光の塵にはならなかった。
絶命と共に、それらは……壊れた鎧、砕けた壁、手折れた花、破れた絵画に変わっていた。
まるでモンスターなどおらず、そこにあったのはただのモノに過ぎず、彼が暴れて壊しただけだと言わんばかりに。
ドロップ品として残った時とは、明らかに気配が違う。
加えて、経験値の類を得られた感触もモーターにはない。
通常のモンスターならば、ありえないことだ。
(幻術の類は……ありえねえ)
他の者ならばともかく、無視界状態でも自在に行動可能な改人……【ウェスペルティリオー・イデア】となった彼に、幻術などそうそう掛からない。
モンスターはいたはずなのだ。
モンスターの法則に従わないモンスターだとしても。
(……そして、目下のところ最大の問題は)
モーターは、自身の正面にある扉を……その先にある魔力の反応を睨む。
そこにあるのは、第三の異常。
かなり強大な……魔力の反応。
(この異常事態の原因が、この扉の先にあるかもしれねえってことか)
この四階をうろうろと移動していた魔力反応は、今は扉一枚を挟んでモーターと相対している。
まるで、待ち構えているかのように。
(嫌な予感しかしねえ……。逃げ出してえが……それもできねえ)
モーターは自身の逃走を阻むものを、体内に未だ存在するイデアの分体を恨む。
このイデア分体はイデアに改造された人間……改人の体を維持する繋ぎだ。
命令に反した行動を取ろうとしたときに、体の主導権を奪い取る首輪でもある。
主導権をとられれば、モーター自身が動かすよりも遥かに劣る動きで、命令の行動を取らされるだろう。
そうなれば待っているのはより高確率な死であり、彼には命令に従う以外の道はない。
(取り除けば死、逆らっても終わり。クソッタレな仕様にしやがって……!)
改造で得た力を気に入ってはいても、デメリットがメリットに勝る。
(ここはゼタの指示通り、この魔力の持ち主に仕掛けるしかねえ)
彼は観念したようにそう考えて、不意に指示を受けたときの会話を思い出した。
『重要。今回の依頼で重要なのは、奇妙な人物に攻撃を仕掛けることです』
『奇妙と言うがな。<マスター>も含めれば街ごと奇妙な奴だらけだぜ』
『重々承知。そんなことは分かっています。ですから、街ごと攻撃すればいい』
『……は?』
『指令。【レジーナ・アピス・イデア】には街全体での破壊活動を命じます。加えて、残りの三人は王城を襲撃。城での破壊活動を行いつつ、怪しい者を攻撃しなさい。攻撃対象の生死は問いません』
『…………正気かよ』
『正気。いたって正気です。それが私達の請け負った依頼内容ですから。付け加えれば私自身の目的のためにも、騒動は派手な方がいい』
『あんたもそいつも……頭の配線がキレてるのか?』
『不確定。正常な精神であるかなど分かりません。私自身も、そして依頼主も。しかし依頼主に限れば、今回の犠牲を厭うまでもないほどに重要な事柄があるのかもしれません。依頼主は、『この世界に必要なもの』と言っていましたが』
『……これからやらかすことが必要経費になるような事柄は、おっかなすぎて聞きたくねえな』
『同意。それゆえに仕事の完遂を望みます』
その後、彼らは襲撃を仕掛け、モーターは特に怪しい魔力を辿ってここにいる。
(奇妙な奴、この扉の先にいるのは間違いなく奇妙な奴だ。……どうやら俺がアタリを引いちまったか?)
扉を開けた瞬間に、勝敗は決する。
それほどの状況であるとモーターは理解し、己のすべきことを心中で確かめる。
(扉を蹴破ると共に内蔵機能の《暗黒結界》を起動。相手が俺を見失うと同時に【奇襲王】の奥義、《サドンデス》をぶちかまして一撃で終わらせる)
《暗黒結界》はラ・クリマが彼に内蔵したもの。一定時間だけ周囲一帯の光や電磁波を吸収し、強制的に視覚を潰す結界だ。
《サドンデス》は相手が自身を目視していない状態でのみ使用可能な【奇襲王】の奥義。
防御力・耐久・耐性無視の三倍撃。命綱であるはずの【ブローチ】さえも発動しない。
それに加えて、襲撃者系統の基本スキルである《スニーク・レイド》の『未発見状態三倍ダメージ補正』も乗る。
改造された今の体で放てば人間など跡形も残らない。
仮に膨大なHPを持つ相手でも、致命部位を消し飛ばすくらいはできる。
『…………』
しかし頭でそう考えても、魂が、経験が、二の足を踏ませる。
目の前にポッカリと大きな落とし穴が口を空けているかのような錯覚。
それでも、物怖じすれば待っているのはイデア分体による強制操作。死に向かう自分の体を見ているだけの時間である。
そうでなければ、扉の向こうの敵から先に仕掛けてくるかもしれない。
ゆえに、モーターに選択の余地はなかった。
(……まぁ、信じるっきゃねえ。俺は超級職、一握りの超越者。おまけに、クソッタレな仕様でもトンでもねえ体を預けられちまってんだからよ)
そして彼は覚悟を決めて……。
『……‼』
彼は無言のまま、しかし覚悟を決めてドアを蹴破る。
同時に、《暗黒結界》を起動し、周囲一帯を闇に包む。
しかしそうであっても、蝙蝠型の純竜クラスモンスターと混ぜられた彼の聴覚は、敵の姿を捉えていた。
(敵は二体……!? そうか、上に乗っていやがるのか!)
両者の距離があまりに近すぎて魔力感知では一人と捉えていたのだ。
――あるいは片方にそもそも魔力の反応がなかったのかもしれないが――。
(下は四足歩行のモンスター、上は……かなり小柄だが人間!)
それを聴覚で把握した瞬間に、モーターは狙いを定める。
(狙いは……上の奴だ!)
『奇妙な人物を攻撃する』というゼタの指令に則り、床や天井で幾度かの跳躍を重ねながら狙いと定めた小柄な人物に肉薄する。
そして……。
(――《サドンデス》‼)
己の心中でスキルを宣言しながら、小柄な人物の首の裏に刃の如き爪を振り下ろした。
◇◆◇
□■師弟の会話
「先々期文明の頃の研究だが、『この世界はジョブを極めて超級職のさらに先にあるものを目指すために存在する』と言われていた」
「超級職の、さらに先……」
「超級を超えた無限……私が知っている基準で言えばそのようなものを目指していた。恐らくこの世界の前の管理者……この世界を創った者達もそうした者達だったのだろう。様々な職能……権能を持つ次元違いの存在と考えられていた」
「この世界を創った者……ですか」
「特定の存在ではなく、ジョブというシステムを信仰するのが当然となっている今の時代では信じがたいかもしれないな」
「師匠の言葉なら信じます」
「そうか。さて、かつての説では『彼らは仲間を増やそうとしてこの世界を創り、しかしあまりに同類が生まれないためにこの世界に見切りをつけてしまった』と述べていた」
「それは……当時の研究者はどうやってそんな説を立てられたのですか?」
「“化身”との闘争の前には彼らのことを記した逸話……神話も多かった。それにあの頃は情報を持つ古龍達も存在していたし、他にも情報の提供者がいたからな。当時の考古学は過去からこの世界の真実を探るロマンに溢れたものだったよ。私の専門は機械の開発だったが、考古学の専門家達と話すのも楽しかった……。今ではそうした事柄ではなく、最初の私が遺した品々が考古学の主な対象なのだから笑うしかないがな」
「……懐かしそうですね」
「ああ。不思議なものだ。今の私は体験していないのに、最初の私の記憶は色褪せることなく思い出せる。この感覚、いずれはインテグラにも分かるだろう」
「……はい」
「しかし、これらの研究と信仰はあの“化身”の侵攻以後は世界から失われた。あの戦いの後には神の存在など【神】シリーズ以外は信じられなくなり、自然と伝える神話も消滅した。元より見切りをつけた者達が、我らの危機だからと都合よく戻ってくるはずもなかったが……」
「…………」
「話を戻そう。この世界を創った者達は基本的な仕組み、ジョブを管理する<アーキタイプ・システム>と人間範疇生物の殺害以外でのリソース供給源となるモンスターを作り上げた。しかし、それら以外に……特例事項も用意していた」
「特例事項……」
「特例事項は二種類があり、一つ目はハイエンドについてのものだ」
「ハイエンド? 純竜などの?」
「近い。最高位の才能を持つ者こそ、ハイエンド。そして人間にも、稀にハイエンドと言うべき者達が生まれる。才能に溢れ、ジョブの器の適性も限界も大きく、容易に達人の領域に達し、【神】シリーズが即座に応えるような破格の才能。ただし、人間のハイエンドはモンスターのそれよりも遥かに希少だ」
「……【大賢者】の適性よりもさらに破格の才能ですか?」
「そうだ。ハイエンドとは“あってはならない”ほどの才能の持ち主だ。歴史上で最も有名なハイエンドは、あの【覇王】だろう。彼がハイエンドだったと知っているのは彼自身と私くらいのものだろうが。……彼と競った当時の【龍帝】も、【龍帝】でさえなければあるいはハイエンドだったかもしれない。ハイエンドは数百年に一人という割合ではあるが、【龍帝】が長命であったために二人のハイエンドが克ち合ったとも言える」
「今のハイエンドはいないのですか?」
「さて……目星はついている。恐らく、という人物はいるが確証がない。あれがあの若さで超級職を複数取得でもすれば、確実だ」
「…………」
「ハイエンドとは、この世界を創った者達にとって『最も見込みがある存在』だ。ゆえに、彼らが才能を発揮し、ハイエンドとして開花したとき……世界は情報を開示する。これが一つ目の特例事項だ」
「情報の開示……?」
「今私が話しているようなことを、<アーキタイプ・システム>がハイエンドに伝えるのだ。実際、私の話には先々期文明のハイエンドから世界に伝えられたものもある。ああ、先に述べた情報の提供者とは当時のハイエンドだ」
「ああ……なるほど」
「つまりハイエンドとはこの世界で最も才能に溢れた者であり、同時に世界の真実を知らされてしまった者でもある。伝えられる情報は“化身”が現れる前の情報であるから、今はいくらかの齟齬も存在するがな」
「世界の真実……」
「ハイエンドが知る世界の真実の中で最も重大な情報こそが二つ目の特例事項……<終焉>の情報だ」
「<終焉>……以前にも少しだけ聞きました」
「あれは文字通りにこの世界の<終焉>だ。倒せなければ世界は消える。あれはな、インテグラ。一種の足切り装置だ」
「足切り?」
「以前にも述べたように、<終焉>はティアンの力で打倒可能な存在だ。先々期文明でも一度倒している。甚大な被害は出たが……勝利できた。あのときは特殊超級職が欠けていなかったし、最初の私が作った兵器や装備もあったからな。フルメンバーという訳だ」
「師匠、すごいです」
「私ではなく、最初の私だがな。しかしな、その結果は決して良いとは言えない話だ」
「?」
「<終焉>には一つの性質がある。一〇〇〇年以上の休眠期間を設けてから降臨するが、降臨の際は……必ず前の<終焉>よりも強い」
「……え?」
「特殊超級職のフルメンバーで、私の兵器もあって、それでもなお甚大な被害を出しての勝利だ。次の<終焉>がどれほどのものか、想像するのも恐ろしい。決戦兵器一号が完成していても届くかどうかだ」
「…………」
「要するに、『高くなるハードルを越えられない程度にも進歩しない世界なら消えろ』と、この世界を創った者達は仰せな訳だ。去った後でもその機能が生きているのだから困ったものだ」
「……足切り、ですね」
「しかし対処法はある。それは知っているな?」
「【邪神】です」
「ああ。【邪神】とは特殊超級職にして、生贄。<終焉>の力の一部を行使する権利を持つが、最後には<終焉>の頭脳体として一体化する者。<終焉>降臨のカウントダウンは、【邪神】の誕生から始まる」
「カウントダウン……」
「【邪神】が生まれてからこの世界で死んだ者のリソースの一部が、少しずつ<終焉>に注がれる。それが一定値に達したときに<終焉>は降臨する。先代の【邪神】は生まれたのが三強時代の後で良かった。そうでなければ、【聖剣王】が【邪神】を倒す前に<終焉>は降臨していただろう」
「…………」
「そう。<終焉>が降臨する前に【邪神】を殺せば、<終焉>のカウントダウンはリセットされる。即ち……」
「この世界に必要なもの――世界の存続に必要なものが【邪神】の命だ」
To be continued
(=ↀωↀ=)<後半はクラウディアがぼかして話してた部分です
(=ↀωↀ=)<全てではないけど
(=ↀωↀ=)<……それにしても最近は毎回重要な話してる気がする
余談:
【伏姫】と【奇襲王】について。
(=ↀωↀ=)<東西の奇襲特化超級職
(=ↀωↀ=)<基本的にステータスは【伏姫】が高く
(=ↀωↀ=)<【奇襲王】は未発見状態での高攻撃力がメインです(そして紙耐久)
(=ↀωↀ=)<奥義についてはこんな感じ
【伏姫】
《天下一殺》:
相手への初撃でのみ使用可能。
同じ相手には一日一回制限。
ただしSP消費は抑えめで別の相手になら連発可能。
ダメージ量重視。
【奇襲王】
《サドンデス》:
相手が自分を見ていないときのみ発動可能。
回数制限はないがSP消費大。
防御力・耐久力・耐性無視。(つまり【ブローチ】も無力)
(=ↀωↀ=)<【ブローチ】で廃れた野伏系統と【ブローチ】無視できる【奇襲王】である




