エピローグ 彼と彼女、そして……
(=ↀωↀ=)<今年最後の更新、六章後半エピローグですー
追記:
(=ↀωↀ=)<どことはいわないけど、一部の安否確認を修正
□椋鳥玲二
俺がデスペナルティになって少しして、兄からの電話があった。
兄によればアズライトは無事で、王都の方のテロも収まったということらしい。
結局、俺は【獣王】を倒せなかったらしいが、なんでも扶桑先輩が深手を負った【獣王】との間に見事に停戦交渉を行い、今後暫くの【獣王】による王国侵攻を防ぐことに成功したらしい。
あの人、油断ならないし危ない人だけど……土壇場では頼りになるんだよな。今回の戦いでも皇国の戦力を最初に一掃した訳だし。
俺がそう言うと兄は『……んん? ああ、いや、どうだろうな?』と物凄く訝しげな声を出していたが。
また、兄の方の戦いはかなりの苦戦を強いられたらしい。
レヴィアタンに関しては終始五分以上に戦えていたものの、途中から相手が【獣王】の戦力維持に努めて遅延戦闘に入ったために倒しきれなかったそうだ。
加えて、終盤は謎の巨大モンスターが出現し、一対二の状況になったらしい。
その巨大な……何体ものモンスターの特徴を組み合わせたというモンスターが何者の手によるものであるか、俺も兄も薄っすらと察してはいた。
講和会議での戦闘は結果的に皇国側を撤退に追い込んだものの、<マスター>で生き残ったのは兄と扶桑先輩、それと瀕死のトムさん、そして後から駆けつけてくれたカシミヤだけだった。
トムさんは闇討ちの犯人である【兎神】に単身立ち向かったものの敗れ、けれどその直後にカシミヤが駆けつけて【兎神】を倒したらしい。
また、<マスター>の被害は甚大なものの、ティアンはアズライトも文官達も無事だったようだ。
それは本当に良かったと思う。
けれど、王国の被害はまだ判明していない。
兄との電話の後、ネットでも王都の状況についても調べてみた。
情報や動画は幾つも上がっており、無数の人型……特撮の怪人のようにしか見えない者達が王都を襲撃したらしい。
王都の各所では火の手が上がり、死傷者も出ているとMMOジャーナルプランターの記事にも書いてあった。
そして……王城でも激しい戦闘があったらしい。
リリアーナやミリアーヌ、エリザベートやリンドス卿……俺が見知った人々の安否もまだ記事や掲示板には上がっていない。
王城の中には限られた<マスター>しか入れないことがその理由だろう。情報が手に入らないのだ。
それに、エリザベート達に関しては無事ならば無事と王国から発表しそうなものだが……なぜかそれもない。
事件当時ログインしていて、王城にも入れる知り合いの<マスター>というと迅羽だが、彼女のリアルでの連絡先を俺は知らなかった。
「…………」
分からない状況に、俺は焦れた。
デスペナルティが明けるまでの時間が、殊更長く感じる。
それは王都の近況が心配なこともあるが、もう一つある。
俺は、あいつと話さなければならないから。
「……まだかな」
焦燥の感覚と共に、俺はリアルでの二四時間を過ごすことになった。
◇◇◇
□【聖騎士】レイ・スターリング
デスペナルティが明けてログインした場所は、初めてデスペナルティから戻ってきた時と同じあの大噴水だった。
あの日との違いは、まだ日が高いことだろう。
いや、もう一つある。
「ネメシス……」
ネメシスが、紋章から出てこない。
その理由は……俺にも分かる。
【獣王】との戦いの最後の瞬間、俺はネメシスに俺自身を貫かせた。
ネメシスの性格は、分かっている。
俺のすることにいつもついて来てくれるが、同時に俺よりも俺を心配してくれている。
そんなネメシスに、『俺を貫け』と頼んだ。
そのことが彼女にとってどれほどのことかを……考えなかったわけではない。
「ごめんな……ネメシス」
『……ん』
紋章に呼びかけた俺の言葉に、ネメシスは頷くような声で応じた。
あの日のような、『要らん』ではなかった。
やはり俺は、彼女に謝らねばならないだけのことをしたのだと実感する。
「……悪かった」
『それでも……御主は望む可能性を掴むために、手段は選ばんのだろう……?』
「……ああ」
聞こえてきたネメシスの言葉に、噓偽りのない本心で答えた。
『なら、仕方ない。それがレイであり、そんなレイから生まれて、レイを助けるのが私なのだから』
ネメシスはそう言って、紋章から外に出てきた。
その目は少しだけ赤かった。
「【ゴゥズメイズ】や【モノクローム】と戦ったときと同じだ。御主はいつも無茶をするし、自分の身も省みない。御主はいつもボロボロだ。……ビースリーから貰った鎧もなくなってしまったではないか」
「そうだな……先輩にも謝らないと」
先輩から譲ってもらった【VDA】は、【獣王】の攻撃で完全に壊れてしまった。修理も不可能だ。
街にいる間は普段着の服を着ているので問題ないが、近々また装備を替えなければならないだろう。
「しかしな、レイ」
ネメシスは俺に背を向けて、
「御主がそうしてボロボロになったからこそ、守れたものもあるのだろう。だったらきっと、あの戦いで御主の望みを聞いた私の苦悩も……同じように無駄ではなかったのだ」
「ネメシス……」
背を向けたネメシスの表情は、俺には見えない。
見せないように、背を向けたのだろう。
「…………」
そんなネメシスに、俺は何と言おうか悩んで……二つの言葉を発する。
「ネメシス」
一つの言葉は、彼女の名前。
呼びかけに、彼女は振り返らないままに応える。
「……何だ?」
もう一つの言葉は、彼女に伝えたい言葉。
それは『ごめん』ではなく、『ありがとう』でもない。
『もうあんなことはさせない』ではなく、『これからも頼む』でもない。
まして、『愛してる』でもない。
俺の口から出た言葉は、
「――俺と一緒にいてくれ」
どこかに掻き消えてしまいそうな彼女の小さな背中に、……放たずにはいられなかったその一言だった。
「…………」
ネメシスは振り返られない。
俺に背を向けたまま、微動だにしない。
いや、少しだけ……震えている。
「……ば、バカだのぅ。私は、御主の<エンブリオ>なのだから……一緒に決まっているではないか……」
「<エンブリオ>だからじゃない。俺から生まれた存在だからじゃない。俺は、ネメシスがネメシスだから……傍にいて欲しいと思ってる」
<エンブリオ>というシステムによるものではなく、一人の人格として……彼女に一緒にいて欲しいと思った。
誰よりも俺を理解して、共に歩んでくれている彼女に。
「……フフフ、当然だ! 私は、最高の<エンブリオ>だからな!」
「ああ、ネメシスが最高だ」
「…………!!」
彼女の言葉に本心からそう応じると、彼女は固まったように動かなくなった。
「ネメシス?」
「な、何でもない! 何でもないが……、い、今はこのまま紋章に戻る! ではまた後で、なッ!」
そうして、彼女は両手で顔を覆ったまま、紋章に戻っていった。
その態度の理由の全ては分からなかったけれど、どうやら……今後も一緒にいてくれるらしいとは感じた。
◇
俺は王都の街を歩く。
仲間との、俺より先にデスペナルティになった<デス・ピリオド>のメンバーとの合流はまだできない。
チェックしても、まだログインはしていなかった。
実時間で言えば僅かな差なので、デスペナルティが明けるのを待っていた俺が先にログインしたのだろう。
なお、リアルでの兄からの連絡によれば、アズライト達はまだ王都には帰還していない。
その理由は、アズライトの体調不良だ。
どうやら、【衝神】との戦闘で彼女はかなり消耗したらしい。
それでも戦いの後も【衝神】とやりとりをしていたらしいが、皇国側が撤退すると緊張の糸が切れたのか……倒れた。
【聖剣姫】の奥義が理由らしいが……この二日間は動けなかったそうだ。
それでも、【女教皇】である扶桑先輩が看病し、兄が療養中の護衛を務めたので問題はなかったらしい。
兄によると、「この寄生虫に看病されることだけはないと思っていたのに、屈辱だわ」と軽口(本気)を言っていたらしいので、今はアズライトの体調を持ち直したようだ。
デンドロでの昨日に国境地帯を出発し、今日の夕方までには戻る予定だと聞いている。
「…………」
メンバーやアズライト達と合流する前に、王城の状況を確認しようと思った。
噴水の大通りを歩いて、王城へと向かって歩いていく。
「おい、あれ……」
今は戦闘装備ではなく普段着なので、以前ほど俺に気づく人は少ない。
けれど時折、俺の顔に気づく人もいる。
「あれが“不屈”の……」
「【獣王】と引き分けた……」
そんな声が聞こえてくる。
……実際には、引き分けとは言えないし……決して俺一人の力じゃない。
扶桑先輩が【獣王】のステータスを下げ、ルークが俺にダメージカウンターを稼ぐ機会を与えてくれて、先輩と共に追い込んで、マリーと月影さんが超級武具を潰して、その結果が仕留めきれなかったという結果だ。
扶桑先輩が交渉で退かせてくれなければ、みんなの尽力を繋げられなかったところだ。
実際はそうだというのに、まるで俺が【獣王】と正面から戦って引き分けたかのような噂が立っている。
その噂の出所は、ネットに上げられた動画だ。
どこから撮られたものか、俺達の戦闘を隠し撮りした動画が投稿されていた。
加えて、本当にその場で戦ったものでないと気づけない編集が施されており、その内容は俺……そして<デス・ピリオド>を持ち上げているようでもあった。
そのことに、なぜか気味の悪さを覚えた。
◇
街の大通りを抜けて、貴族街の門を潜り、王城へと辿りついた。
アズライトから通行のための許可を貰っていたし、俺の顔を覚えている衛兵の人もいたので、すんなりと王城の敷地に入れた。
「……焼けてるな」
王城の門は、まるで強力な炎で熔かされたように壊れていた。
それだけでなく、壁に穴が空き、尖塔の幾つかが折れて、……そしてどこか黒く焼け焦げていた。
どれほどの戦いが、この王城で行われたのか。
リリアーナ達は無事なのか。
王城の変わり果てた姿に、恐怖を覚えていると……。
「先ほど連絡があり、あと二時間ほどで王都に帰還なさるそうです」
「それは何よりだ。私も久しぶりに殿下に会えるのが嬉しいよ。いや、今は陛下の方がいいのかな?」
聞きおぼえのある声が聞こえて、そちらに振り向く。
そこでは怪我をしているものの……リリアーナの無事な姿があった。
「リリアーナ!」
「え? ……レイさん!」
俺が呼びかけるとリリアーナがこちらを振り向いて駆け寄ってきた。
「よくご無事で……!」
「それはこっちの台詞だよ」
こっちは一回デスペナしてるし。
「ミリアーヌ、それに殿下達は?」
「……無事です。……その、問題もありますけど」
「問題って……」
それが何かを聞こうとしたとき、
「やあやあ、初めまして! 君がレイ・スターリング君だね!」
割り込むように俺の名を呼ぶ聞き慣れない声があった。
「あなたは……?」
顔を見て気づく。
それは先ほどまでリリアーナと話していた人物だ。
それは小柄な女性だった。
ネメシスと同じか、それよりも背丈は低い。
けれどなぜか、幼い訳ではないと思えた。
まるで絵本の魔法使いのようにローブを着て、魔女のようにトンガリ帽子を被っている。
けれどなぜか……その顔には学者のようなモノクルをかけている。
「会いたかったんだよ! かのギデオンとカルチェラタン、二度も<超級>を破って王国の危機を救った君に! いや、今は三度だったかな!」
朗らかな声でそう言いながら、彼女は俺の手をとってブンブンと上下に振った。
好意を声と態度の両方で示している。
けれど、なぜだろう。
態度に反して――この人の瞳からは俺に対しての好意は一切感じられない。
むしろ、目の奥の輝きはまるで獲物を見つけた肉食獣……違う。
処理すべき死骸を見つけた……蟲のようだった。
「おっと、自己紹介が遅れてしまったね! 私は……」
彼女は俺から手を離し、その場でクルリと回ってから大きく会釈する。
そして、彼女は自己を紹介する。
「私は先代【大賢者】の愛弟子であり、今の【大賢者】」
俺が彼女のジョブに驚きを覚えている間に、
「名は――インテグラ・セドナ・クラリース・フラグマン」
より驚くべき単語を含んだ名前で、名乗りを上げた。
「以後お見知りおきを……“不屈”の英雄君」
そうして会釈する彼女の姿に、……俺はどこかで大きな歯車が動き出したような予感がした。
To be Next Episode
(=ↀωↀ=)<……爆弾を投下して七章に続く
(=ↀωↀ=)<次は番外編で王都襲撃を描きますが
(=ↀωↀ=)<過去最大量となった六巻の特典や特装版の仕事
(=ↀωↀ=)<他に諸々の作業が入っているのでそちらに集中するべく
(=ↀωↀ=)<年明けから少しお休みをいただきます
(=ↀωↀ=)<また、再開後の定期更新もちょっと伸びると思います
(=ↀωↀ=)<仕事が落ち着いたらまた間隔を戻すので
(=ↀωↀ=)<申し訳ありませんがお待ちいただけたら幸いです
(=ↀωↀ=)<それでは皆さん
( ̄(エ) ̄)(=ↀωↀ=)( ꒪|勅|꒪)(=`ω´=)≡・ェ・≡(σロ-ロ)(σ■-■)<よいお年を~
(´・ω・`)ゴリーン
人
( ゜ ゜)ノ




