第三十五話 三人目
追記:
(=ↀωↀ=)<一部の戦闘構成にミスがあったので
(=ↀωↀ=)<該当部分を大幅に直しました
□■国境地帯・議場
【グレイテスト・トップ】を纏ったベヘモットの猛攻は、更に激しさを増している。
見える標的であるレイを追い立てながら、時に頭部の分子振動熱線砲を周囲の影に放ち、隠れた二人を文字通り炙り出そうとしている。
レイはネメシスの第四形態・黒翼水鏡の一部である双翼剣の片割れを左手に持ちながらも、回避に集中する。
【グレイテスト・トップ】を纏った後も継続して装備していた非実体爪による追撃や、レイも巻き込もうとする軌道の熱線砲を辛うじて避ける。
そうするレイの顔には、迫る攻撃によるものだけではない焦りがあった。
『レイ! これで発動から三分だ! ダメージカウンターも心許なくなってきおったぞ!』
念話で呼びかけるネメシスに、レイは応答する。
(具体的には?)
発動中のスキル、《追撃者》は発動時と一分経過毎に同調したステータスと同値だけダメージカウンターを消耗する。
ベヘモットの攻撃を《カウンターアブソープション》で防いだ際に二〇万程度は吸収していたが、除算されてもなお三七五六四という数値を誇るベヘモットのAGIに同調しているために消耗が早い。
分子振動熱線砲で右腕を焼き溶かされてまた増えたはずだが、それもレイのHPから右腕一本分をなくす程度の値しかないためにさほど大きくはない。
『残りは二万少々だ! 次の判定で超えられずに《追撃者》が切れるぞ!』
(おい、数値の減りがおかしいぞ。三七五六四を四回で一五〇二五六……少なくとも一回分は減りが多いぞ!)
『今しがた除算対象がSTRに変わっていたタイミングがあったであろう! その分の判定は時間内の平均で引かれたらしい! そこまで大幅にステータスが変わるような相手と戦っていなかったから知らなかったがの!』
「なるほど……な!」
思わず口に出してネメシスの報告に応えながら、レイは自らを掠める振動波をギリギリで回避した。
そうする間にも、焦燥はさらに強くなる。
(……再び攻撃を受けてカウンターを溜め込むしかない、か!)
『だが、相手の攻撃は《タイガー・スクラッチ》の三連撃……防げるか? 第四形態では《カウンターアブソープション》も使えぬぞ』
初撃とは違い、今は《追撃者》を解除する訳にはいかない。
《カウンターアブソープション》を使用可能な形態になれば、速度差で打つ手がなくなる。
ゆえに、レイの選んだ手は……それではなかった。
(……ブローチで受ける)
『不可能だ! 連撃中の超過ダメージでも砕けるぞ! 何度判定があると思う!?』
レイの現在のHPは二万弱。
二〇万相当のベヘモットの攻撃を受ければ、ブローチの破損判定は最低でも一〇回。
三連撃全てのダメージを耐えるには、一〇%の賭けを二〇回は乗り越えなければならない。
三撃目の前に破損する確率は八七%以上。
乗り越えることに期待する方がおかしい確率だ。
(いや……賭けは二回だけだ)
レイはネメシスの言葉にそう答えつつ……左手の翼剣の柄を口で咥えた。
『レイ!?』
レイは空いた左手を己の懐に差し入れていた。
そうしたレイの動きの間にも、ベヘモットは距離を詰める。
レイの奇妙な動きに警戒を抱くが、それで攻め手を緩めはしない。
『そうか、その手が……。だが、それこそ運否天賦の話だぞ』
ネメシスはレイが行ったことを把握して、その意図を察した。
(百も承知だ。運任せな上に二度は使えない手だが、【ブローチ】も含めてここが使い時だろう)
『分かった。ならばそれに関してはもはや言うまい。それに、現状では最良かもしれん。相手の攻撃を受けて《追撃者》の時間を増すか。時間を稼げばそれだけクマニーサンも……』
ネメシスはダメージを受けた上で、同速を活かして時間を稼ぐべきだと主張する。
しかし、レイは微かに首を振って否定した。
(――いや、ダメージは衝撃即応反撃で叩き返す)
衝撃即応反撃。相手の攻撃を受けると同時に、そのダメージを《復讐するは我にあり》で叩き返すレイの磨いた技術。
しかしそれはダメージカウンターを攻撃に消耗するということだ。
『ッ! ……そうか』
その発言にネメシスは驚いたが、レイの言葉を否定せずに受け入れる。
『だが、それでも倒しきれぬぞ。最良でもあの鎧を砕けるかどうか……恐らくは破壊に至らぬ』
(それでいい。どの道、アイツが作戦を変えて扶桑先輩を狙えば、六〇万近いダメージカウンターがあっても二、三分で切れるからな)
【グレイテスト・トップ】を纏った後も、ベヘモットは月夜を狙ってはいない。
AGIを除算している原因である月夜を真っ先に狙わないのは、彼女の手札を警戒しているのか、あるいは何らかの思惑があってのことか。
しかし、その考えがいつ変わり、月夜を狙うとも限らない。
そうなれば、レイ以外はベヘモットの速度に追いつけなくなる上に、そのレイも上昇した数値消費によってすぐにガス欠となる。
ゆえに、勝利に繋げるにはここで仕掛けるしかないとレイは判断した。
『衝撃即応反撃の後は?』
(双剣で二発撃つはずの第四形態の《復讐》も、今は一発ずつしか使えない。半分残ったカウンターで《追撃者》を継続して、マリーと月影先輩のサポートに回る)
『承知した。……死ぬなよ、レイ』
(まだ、死ぬには早いさ)
そうして、《追撃者》の次の判定のリミットが迫る。
このままではその判定を超えられない。
リミットが過ぎればレイの速度は本来のものに戻り、除算されたベヘモットの姿を捉えることもできなくなるだろう。
しかしそれよりも早く、ベヘモットはレイとの距離を詰めていた。
レイもまた、それに対応して……。
「ッ……」
自ら、足を止めた。
『――!』
静止したレイに、ベヘモットは僅かな驚きを見せるがその動きは止まらない。
右の非実体爪がレイへと振り下ろされ、追従するように二撃分の《タイガー・スクラッチ》も迫る。
そうして一撃目が命中した時、
『……?』
ベヘモットは奇妙な手応えのなさを感じた。
続く二撃目の命中でも、それは同様。
この時点で、おかしいとベヘモットは考えた。
相手のHPを考えれば、超過ダメージの判定で【ブローチ】が砕けていてもおかしくはないはずなのに、と。
だが、その答えはすぐに知れた。
レイの懐から、何かが零れ落ちる。
砕けたアクセサリーのようなそれは……【ブローチ】ではない。
まるで竜の鱗のようなものだった。
それを、ベヘモットは当然知っていた。
(――【身代わり竜鱗】)
被弾と共に砕ける代わりに、被ダメージを一度だけ十分の一にするアクセサリー。
レイもかつては【デミドラグワーム】との戦いで使い、そのときの経験から【ブローチ】同様に用意はしていたもの。
それが二つ分砕けて落ちる光景に、ベヘモットはレイが何をしたかを察した。
(判定回数を……減らした?)
二〇万のダメージを十分の一にしたことで、二万ダメージ。
レイのHPと比較すれば、【ブローチ】の判定は二回で済む。
一〇%を二〇回は超えられずとも、二回ならば常識の範囲で運次第。
(さっきの動作は……)
先刻、左手を懐に入れたのは、アイテムボックスから【竜鱗】を取り出して装備するため。
だが、それでもベヘモットが攻撃するまでに装備する時間は、一つ分が精々であったはずだ。
ならばもう一つはどうしたのか。
元からつけていたということはない。そうであればこれまでの衝撃や微細なダメージでとっくに砕けているはずだ。
ならば……。
(被弾の直前に、《瞬間装着》を……)
手動で一枚、スキルで一枚。
レイが二枚の【竜鱗】を装備したタネを察した時、三撃目がレイに命中する。
これまで砕けて落ちたのは【竜鱗】だけであり……【ブローチ】は健在。
「オォ!!」
三撃目をレイは自らの体で……砕けていない【ブローチ】による無効化で受け止める。
同時に、咥えたままの翼剣がベヘモットのすぐ傍にあった。
『ッ!!』
ベヘモットは、レイがカウンター戦法を使うことは把握していた。
読んだ上で、続く左爪の連撃を用いてカタをつけるつもりだった。
『《復讐するは――』
だが、両者の速度が同速であるならば――
『――我に――』
――続く攻撃のために動いていたベヘモットの左爪よりも――
『――あり》!!』
――被弾と同時に動き出していたレイの刃の方が速いのが道理だ。
レイの【ブローチ】が今度こそ超過ダメージによる判定で砕け落ちると共に、翼剣より放たれた《復讐するは我にあり》がベヘモットの右頸部で炸裂する。
『ッ!?』
固定ダメージの炸裂を受けて、ベヘモットの体が左方へと傾く。
レイが剣を咥えて《復讐》を使うのはこれで二度目であるからか、標的が小さくとも当てることは出来た。
ベヘモットが放とうとした左手での連撃はレイの体を逸れ、既に失くした右腕のあった場所を掻いた。
だが、直撃を受けて態勢を崩しながらも……ベヘモットは健在だ。
「……ッ、まだか!」
翼剣を口から放したレイの言葉に、ネメシスも答える。
『ああ! 砕けておらぬ、やはり半分では足りなかったようだ!』
三連撃で溜めた六〇万前後のダメージカウンターの半分。
それを倍化した一撃を受けても、……【グレイテスト・トップ】の破壊には至っていない。
直撃部分から右半身全体に罅が入ってはいるが、未だにその全身は鎧われている。
元より、この世で最も硬い金属である超級金属。
ベヘモットがレヴィアタンの必殺スキルを使って叩き続け、ようやく破壊に至った強靭の極限。
《復讐》が防御力に関係なく何十万という固定ダメージを与えるとしても、ただの一度で砕ける耐久力ではない。
だが……罅は入った。
「もう一撃当てれば……砕けるな」
ダメージカウンターは、まだ三〇万は残っている。
レイは距離を取りつつ、未だダメージカウンターを消費していないもう片翼の剣に取り替える。
訪れた《追撃者》の四度目の判定をクリアしながら、レイは次の一撃を当てる機会を窺った。
『……』
ベヘモットは態勢を立て直しながら、思考を重ねる。
それは、自らが受けた衝撃即応反撃について。
その技術の存在をベヘモットは知っていたが、対応は出来なかった。
それは無理もないことだ。
ベヘモットと同速の相手が、自らもベヘモットの攻撃を受けながら、重ねてカウンターを放つ。
その動きにはベヘモットも対応できない。
いや、これまではする必要すらなかったのだ。
ベヘモットと同速を出せる相手などほとんどおらず、仮にいたとしてもベヘモットの三連撃を受けて生きていることもなかったのだから。
だが、レイは月夜の除算があった結果とはいえ、自らのスキルでそれを為した。
ゆえに、これは歴戦のベヘモットでも未知の感覚だ。
(【ブローチ】がないから、もうできない? いや、まだできるんだよね)
レイには――《ラスト・コマンド》がある。
自らのHPが尽きていようと、死んだ体を動かして衝撃即応反撃を放ってくるだろう。
レイが【死兵】を選ぶ決め手となった狼桜の助言も、そのコンボを見越してのものだ。
(……侮ってはいなかったけど、想定は超えられた。すごいね、つよいね)
恐らくは、ベヘモットに対してこれまでで最大級の損害を与えたレイに内心での賞賛を向ける。
ベヘモットは同時に、自らについても思考する。
(残りは……三分)
超音速機動により引き延ばされた時間であっても、【グレイテスト・トップ】の装着限界は近づいている。
最早猶予はなく、欠点の露呈どころか敗北すらも垣間見える。
ゆえにベヘモットは、
(保険は、すてよう)
作戦を変更した。
それと同時に――【グレイテスト・トップ】の頭部を月夜へと向けた。
「ッ!?」
その動きは、レイ達にとっては最もして欲しくはないことだった。
現在のレイ達がベヘモットを相手に善戦出来ている最大の要因は、なぜかベヘモットが月夜を狙わなかったことなのだから。
だが、ベヘモットがその方針を変えてしまえば、話は別だ。
『――――』
頭部が展開し、分子振動熱線砲がその標的に月夜を捉える。
そして不可視の熱線が放たれる瞬間、
「――月夜様。失礼いたします」
月影がベヘモットの後方の影の中から飛び出し、自身が執るべき二つの行動を同時に実行した。
一つは影を動かして月夜を掴み、熱線の攻撃範囲から安全圏まで移動させ続けること。
もう一つは、ベヘモットを倒すために自らの切り札を切ること。
月影は自らの武器である黒塗りの双剣を投げ捨てて、自らの素手を晒す。
それがとあるスキルに必要な動作であると、ベヘモットも知っていた。
(……きた)
“物理最強”の【獣王】ベヘモット。
しかし、この戦場でベヘモットが最も恐れた相手が……【暗殺王】月影永仕朗である。
なぜならベヘモットは知っていた。
この戦場で最も自分の死に近い技を持っているのが彼だということを。
【暗殺王】の最終奥義――《相死相殺》はベヘモット相手でも一撃で殺せる。
《相死相殺》は相手が人間範疇生物であれば、接触によって必ず殺せる。
ベヘモットは容姿こそ四足の獣だが、それはあくまでもキャラクターメイキングで作ったアバターのカタチに過ぎない。
人間範疇生物であり、スキルの対象内であり、接触さえすれば殺せる。
(【四苦護輪】の装備スキルは、病毒系や呪怨系による致命状態異常でもレジストできる。だけど、《相死相殺》がそのどちらでもないものだとしたら……、あるいはレジストを超えるほどの威力があれば……分からない)
《相死相殺》のことはティアンの伝聞で残っていたから知っている。
だが、スキルの細かな分析などこれまでの歴史でされたことはない。
なぜなら、《相死相殺》は対価として使用後に自身も死ぬからだ。
しかも、司祭系統の蘇生魔法も効果を発揮しない。
ティアンの歴史の中で誰がこんなスキルの検証をするというのか。
あるいは、<マスター>が【暗殺王】を保有する<月世の会>には、スキルの検証データもあるかもしれないが、ベヘモットには分からない。
(……いや、違う。そうだ。向こうは《相死相殺》の詳細を知ってる。私の【四苦護輪】の情報だって掴んでるはず。それらを知った上で使うのだから……こっちに届くと考えてるってこと!)
その答えに思い至り、ベヘモットは警戒を最大限に引き上げる。
「…………」
対する月影は、愛用している黒塗りの双剣を手放して自らの素手を晒す。
《相死相殺》の使用条件は、素手による相手への接触。
相手の肉体に触れて、諸共に死ぬ。
彼の死は決定済みだ。
だが、彼にとっては大した問題ではない。
ここで打ち倒さねば月夜もまた敗れ去り、彼女の望みも叶わないのだから。
月影はここで命を捨てると決意している。
「…………ッ」
だが、彼の決死の攻撃を果たすためには、クリアしなければ成らない問題があった。
《相死相殺》の発動条件は、相手の肉体への接触。
ベヘモットが全身を超級金属に覆われた状態では、使用できない。
ゆえに、
「一点でいい。砕いてください」
「了解!」
「了ッ解!」
月影の言葉に、二つの声が応えた。
一人は、レイ。
もう一人は、月影と反対方向の影から飛び出したマリーだった。
【グレイテスト・トップ】を罅割れさせ、今も固定ダメージを放つ手段のあるレイだけではない。
彼女もまた、最強の超級金属を砕いてみせると答えたのだ。
<超級>に準ずる力しか持たぬ彼女が、“物理最強”の全力でようやく倒せた超級金属を砕くと言う。
それは知らないからこそ出た言葉かもしれないし、余人が知れば出来るわけがないと言うだろう。
だが、彼女の言葉は――虚栄に非ず。
彼女には撃ち砕く自信が……自負があった。
マリーは必殺スキル使用形態へと変形したアルカンシェルをベヘモットへと向ける。
そして彼女は、自らの切り札を口にする。
――六色使用・必殺弾、と。
◇◇◇
□とあるキャラクターについて
マリーは自らの<エンブリオ>であるアルカンシェルが必殺スキルを得た後、その力を自身の漫画のキャラクターを撃ち出すことに使おうと決めた。
赤と黒の二色で“爆殺のデイジー・スカーレット”。
青と白の二色で“毒殺の白姫御前”。
緑と銀の二色で“貫殺のウルベティア”。
青と黒と白の三色で“圧殺のウパシカムイ”。
赤と緑と銀の三色で“滅殺のファナティーカ”。
そんな風に自らの漫画のキャラクターを、懐かしき子供達を描いていった。
しかし、彼女には一人だけ……描いても撃ち出せないキャラクターがいた。
それは他でもない漫画の主人公……彼女がロールするマリー・アドラー自身だ。
六色の絵の具で彼女を描いても、彼女が《虹幻銃》で動き出すことはない。
何度繰り返しても、駄目だった。
彼女の原稿の中で動きを止めてしまったマリー・アドラーは、<エンブリオ>の力でも動くことはなかった。
彼女は『きっと自分が答えを得るまで、彼女が動き出すことはないのだろう』と諦めた。
それは彼女の心の宿題となったまま、今も残り続けている。
しかしそれは置くとしても、<エンブリオ>としての最大の切り札……六色使用の必殺弾は用意する必要がある。
しかしこの六色はマリー・アドラーの色であり、他のキャラクターでこの六色をふんだんに使った者はいない。余談だが、アバターとしてのマリーの姿には足りていない色もあるが、漫画のマリー・アドラーには足りない色も備わっていた。
彼女がどうしたものかと考えて、リアルに戻って自らの作品を読み返していたとき。
「……あ」
一人だけ、この六色に該当する者がいた。
思い起こした時、記憶の引き出しから中々出てこなかった理由についても納得した。
だが、ある意味ではこれ以上の人選はいないと考えて……マリーは六色使用の必殺弾に彼女を選んだ。
◇◆◇
□■国境地帯・議場
アルカンシェルにとって、そしてマリーにとって六色使用の必殺弾は後先なしの最終手段。
彼女の必殺スキルの制限に則り、使えば全ての“絵の具”が……<エンブリオ>そのものが丸一日使えなくなるデメリットを負う。
しかしそれは同時に――かつて<超級>さえも撃ち滅ぼした彼女の切り札でもある。
今の彼女の全てを費やした最強の必殺弾。
その名は――。
「《虹幻銃》――“神殺し ラ・グラベル”」
銃身から放たれたのは、獣の骨で出来た巨大な剣を担ぎ、両目を緑色の布で隠した女性。
その名は、“神殺し ラ・グラベル”。
彼女の描いた漫画における、最強の殺し屋。
主人公であるマリー・アドラーよりも強いと明言されながらも……雑誌の休刊で戦わぬ内に連載が終了した最強のキャラクター。
ゆえに、作者であるマリーしか知らず、今この必殺弾に模倣した彼女の能力は……。
『――殺』
――ただ一度、武器を振るうのみ。
それは今のベヘモットよりも速く……そして強い一撃。
『ただ強いだけ』と自ら設定していたキャラクターに、<エンブリオ>の六弾種全てのリソースを注ぎ込んだことで実現した一撃。
普段であれば、マリーはこの必殺弾を使わない。
使ったところで【ブローチ】にダメージを吸われ、<エンブリオ>が使えなくなった自分が残るだけだ。
この戦いにおいては、逆に膨大過ぎるベヘモットのHPを削りきることは出来ないため、急所に当てられる瞬間を待ち続けていた。
しかし今、どこであろうと【グレイテスト・トップ】を砕けばいいのならば……これ以上の手はマリーにはない。
<超級殺し>と謳われた彼女の全てを賭けた一撃。
それは――――見事に超級金属を砕いた。
罅割れた頭部の右側から右前足の肘に掛かる部分まで。
【グレイテスト・トップ】を砕き剥がし、ベヘモットの生身を晒した。
彼女の全力の一撃は罅割れていたとはいえ……最強の金属を超えた。
それを目撃しながら――マリーの首は飛んでいた。
一撃を食らわした“ラ・グラベル”も、自然消滅よりも先に体を両断されて消えている。
自らに向かう攻撃を不可避と悟ったベヘモットが、被害を軽くすることよりも“ラ・グラベル”とそれを撃ち出したマリーの撃破を優先したからである。
(【ブローチ】は……。ああ、ルークくんのときと同じ、《タイガー・スクラッチ》の連続攻撃か)
頭部を宙に舞わせながら、マリーはそんな考察をしていた。
(……どの道、全弾使いきった私にできることはないですね。あとは任せますよ、【暗殺王】。……そして、レイ)
そうしてマリーの頭部は……地面につく前に光の塵となった。
◇◆
月影は再び影に潜っている。
今は地肌を晒した状態のベヘモット。
そこに触れられれば、《相死相殺》で道連れにされるだろう。
(問題はない……かな)
乱戦であれば、影からの奇襲を回避するのは困難だった。
しかし今は、もう乱戦にはなりようがない。
既に人数は残り三人。
そして、当たり所さえ間違えなければ耐えられるレイと、直接戦闘力に欠ける月夜の危険度は低く、ベヘモットの奇襲への対応力を下げるほどの力はない。
AGIの除算はあれど、致命打を持つ月影との一対一も同然。
ベヘモットに負ける要素はない。
――周囲に、再び黒と紫の瘴気が立ち込めるまでは。
『……?』
その光景に、疑問を覚える。
(レイは右手をなくしていた。だから、《地獄瘴気》は使えないはずなのに……そうか)
そこまで考えて……ベヘモットは気づく。
事前にレイ達の情報も収拾していたから。
何より……自分と立場を同じくする<超級>がソレに敗れていたから。
(もう一体……いたっけ)
この場にはレイ以外にもただ一体だけ……このスキルを使える者がいると彼女は知っている。
そしてソレは……すぐに見つかった。
ベヘモットの後方……レイの右手の残骸が落ちていた付近。
そこに落ちていたはずの、血の蒸気に塗れた手甲はなく、
代わりに赤銅色の肌をした童女の鬼が――【ガルドランダ】が立っていた。
「<SUBM>の片割れを纏う者……。面白い……ね」
【ガルドランダ】はベヘモットの纏った【グレイテスト・トップ】を見ながら、少し愉快げにそう言った。
To be continued
(=ↀωↀ=)<武器以外の装備を付け替える《瞬間装着》は
(=ↀωↀ=)<基本的には《瞬間装備》と同じで装備品使ってれば習得できます
(=ↀωↀ=)<ただし対象スロットが多いので《瞬間装備》よりも大分遅れての習得になります
(=ↀωↀ=)<レイ君は転職後のレベル上げ期間に覚えました
(=ↀωↀ=)<……ということにして欲しい(by急いで戦闘構成直した作者)




