第三十三話 二人目
(=ↀωↀ=)<新規に外伝作品の作品ページを作りましたー
(=ↀωↀ=)<下記のURLか作者のマイページからご確認をー
https://ncode.syosetu.com/n4318ek/
□■???
アルティミアとクラウディアの仕合より、暫し時を遡る。
アルティミアはクラウディアを破ったが、その勝利を有とするか無とするかは彼女達の仕合よりも前にある。
敗れたクラウディアが地に落ちたとしても、地上が“物理最強”に制圧されていれば、アルティミアの勝利は無為となる。
それゆえに、地上で行われていたのは結末を左右する戦い。
しかしその中で、一つの事実は既に確定している。
“物理最強”との戦いで、レイ・スターリングはデスペナルティとなる。
アルティミアの仕合の最中にシルバーが消えたことで、それは確定している。
あるいは彼が宣言し、自ら“物理最強”との戦いを決意した時点で確定していたのかもしれない。
弱者が絶対的強者に挑むのならば、敗北のリスクは極度に高くなる。
これもまたそうしたことの一つ。
しかし彼が決意していたがゆえに、未だ確定していないこともある。
デスペナルティが確定だとしても、“最強”に向かい合うことを決意していた彼が“折れる”かは別問題。
結末を左右する焦点は、“物理最強”がレイ・スターリングを倒すことではないのだから。
その意味と結末は……遠からず。
◇◆◇
□国境地帯・議場
レイの左手……砲身形態の【モノクローム】は至近距離からベヘモットの額を照準し、その頭部を貫かんとして《シャイニング・ディスペアー》を照射した。
純粋な威力ならば、恐らくはこの場でも最大級の一撃。
この一撃を決めるために作戦を積み上げ、ルークも我が身を挺してまでここまで導いた。
だが、その一撃は……。
『――ND(きかない、よ)』
奇妙な色の金属の塊に、阻まれた。
「な、に……!?」
まるでベヘモットに置き換わるように出現したソレ。
しかし、未だ通るレイの《看破》は……それこそがベヘモットであると告げている。
全身を包む金属は獣の頭部を持ち、翼を生やし、前足のパーツが後ろ足よりも数段大きく、一見すると上半身だけの怪物にも見える。
装備の変更、《瞬間装着》、あるいは【キムンカムイ】のような可変防具。
様々な可能性が一瞬のうちに脳裏を駆け巡るが、確かなことがただ一つ。
《シャイニング・ディスペアー》は――その金属を貫通しなかった。
レーザーに照射され続ける金属鎧の頭部は、加熱され続けているのに色を変える様子すらない。
あたかも一切の熱量の変化が生じていないかのように。
(【黒纏套】のように光だけではなく、炎熱そのものに対する完全耐性……!)
レイが思い浮かべたのは、かつてビースリーから聞いていた耐性の話。
それは正しく、超級武具【半騎天下 グレイテスト・トップ】の特性の一つは耐性である。
だが、実態は炎熱完全耐性をも上回る。
【グレイテスト・ワン】より引き継いだのは、熱量変化への完全耐性。
超高温であろうと極低温であろうと、ベヘモットの纏う【グレイテスト・トップ】の温度を変えることなど出来ない。
「ッ!」
レイは、自分の手の内がやはり暴かれていたことを悟る。
だからこそ、《シャイニング・ディスペアー》を完封できる装備に切り替えることが出来たのだろう、と。
レーザーの照射はまだ続いているが、ベヘモットは一切のダメージを受けてはいない。
そして――ベヘモットは《シャイニング・ディスペアー》の直撃を受けたまま、ビースリーの重力圏から逃れるように動き始めた。
「馬鹿な」、という言葉は誰の口から漏れたものだったか。
五〇〇〇倍の重力を物ともしないように、全身装備の背中から生えた翼で浮遊している。
しかし、それもまた【グレイテスト・ワン】から引き継いだ機能の一つ。
重力のくびきを外し、自身の周囲を強制的に無重力に変えて浮遊飛行する……《無重翼》の力。
どれほどに重力を足されようと、【グレイテスト・トップ】の翼は囚われることはない。
《シャイニング・ディスペアー》と、狭域展開した《天よ重石となれ》。
【グレイテスト・トップ】がこの場における彼らの切り札を完全に無効化する機能を有していたのは、ただの偶然である。
しかし、ただの偶然であっても……それを理由に状況は大きく変化する。
「会長! 対象をAGIに!!」
自身の重力がもはや意味を成さないことを悟り、ビースリーは月夜へと叫ぶ。
《無重翼》による浮遊飛行そのものの速度は遅く、亜音速にも届くかどうかだ。
しかし、重力圏を脱すれば即座に翼から自らの四足での移動に切り替える。
そうなったとき、《薄明》で除算されていないAGIでは一瞬で全滅する可能性すらあった。
「もうやっとる!」
月夜もそれは察しており、《薄明》の対象をSTRからAGIへと切り替えた。
同時に、マリーと月影はベヘモットに攻撃を仕掛けるために動いている。
レイは未だ照射の止まない《シャイニング・ディスペアー》のために動けず、ビースリーも『脱出されることは分かっていても、着地までの時間を引き延ばすために重力を緩められない』ために動けない。
ゆえに勝負は着地後の仕切り直し、あるいは着地前にマリーと月影の切り札による攻撃に賭けられる。
レイ達はそう考えた。
――ベヘモットはそう考えなかった。
ベヘモットは浮遊したまま反転。
その全身鎧の頭部パーツの一部が、レイとビースリーに向けて展開した。
◇◆
全身鎧、【半騎天下 グレイテスト・トップ】。
召喚獣、【半騎地上 グレイテスト・ボトム】。
上半身と下半身に分割された【グレイテスト・ワン】の特典武具は、その機能も含めて分割されている。
どちらもこの世で最も頑強な超級金属で作られていることは共通だが、それぞれにしかない機能が三つずつある。
下半身、【グレイテスト・ボトム】にしかない機能はMPを溜め込む機能、尾を超高速振動させる機能、そして攻撃魔法への完全耐性。
上半身、【グレイテスト・トップ】にしかない機能は熱量変化への完全耐性、《無重翼》。
そして――頭部から放射される分子振動熱線砲である。
◇◆
接触した分子を強制的に振動させて分子構造を破壊、強制的に気化させる必殺の振動波。
光を発することすらないまま、それは空気中の水分の分子構造を破壊しながら突き進み、風景を歪ませながらレイ達に迫っていた。
「――――」
眼前の空間の歪みによって、それが如何なる攻撃であるかをビースリーは察していた。
そして、鎧を脱いでいる自分ではまず耐えられないものであろう、と。
否、攻撃の性質を考えれば、着ていても死は確実である、と。
(私では……耐えられない)
ゆえに確信する。
自分はここで倒れる、と。
だからこそ攻撃が到達する寸前、彼女は自身の生存を切り捨て、
咄嗟に……自分の傍に立つレイを左肩で押し出した。
ステータス差もあり、レイはビースリーによって押し出される。
直後、不可視の波が彼女達へと到達する。
「ぁ――――」
電子レンジに入れられたように体中が無差別に破裂する。
痛みがカットされていても全身が沸騰する感触を感じながら……HPが一瞬で削られる。
何時しか【ブローチ】も砕け散って、
ビースリーはデスペナルティとなった。
「先、輩……!」
彼女が最期の力で助けたレイは、未だ死んではいなかった。
だが、無事ではない。
ビースリーに突き飛ばされたとはいえ、完全には振動波の効果圏を脱することが出来ていなかった。
その右腕は分子振動の波に巻き込まれ、――融解して溶け落ちている。
ビースリーが消えたすぐ傍で、右手の骨の残骸と共に右の《瘴焔手甲》が蒸気を立ち上らせていた。
「ッ!! まだ、だ!」
既に《シャイニング・ディスペアー》の照射は終わり、【黒纏套】も外套へと姿を戻している。
最早、この戦闘中に再び《シャイニング・ディスペアー》を使うことは出来ない。
切り札の一つを、活路の一つを叩き潰された。
それでも、レイが言うようにまだ決着はついていない。
それは、ベヘモットも同意見だった。
『R2(第二ラウンドだよ)』
ビースリーの死と共に重力場が消え失せて、ベヘモットは再びその四足を地に着けていた。
そして……ベヘモットは即座にレイを狙って突撃を敢行した。
「ッ!」
対してレイも、今もまだ効果を発揮している《追撃者は水鏡より来たる》で同期した同値のAGIで退避する。
右腕を失ったことはバランスを欠くが、幸か不幸か、左の腕を失くしたまま一ヶ月近い時間を過ごした経験のあるレイは、酷似した感覚を体験済みだった。
それでも同じ速度ならば、ルークの時と同様にベヘモットが追いついて仕留めていただろう。
だが、今度はベヘモットの方が今の自分に慣れていなかった。
手に入れてから今まで、隠蔽し続けてきた装備が【グレイテスト・トップ】である。
特に皇国内ではどこにフランクリンのモンスター情報網があるかも知れたものではなく、使用できる機会はほとんどなかった。
ゆえに、【グレイテスト・トップ】を着用した上での高速戦闘は、ベヘモットであっても不慣れだった。後ろ足よりも巨大な前足など、形状的にも慣熟が未だなされてはいない。
そのことをレイもまたうっすらと察していた。
今の装備が、事前にビースリーが調べたベヘモットのデータにも一切なかったものであるからだ。
同時に、さらに思考を重ねる。
(さっきみたいに飛んでいない……! 飛ぶよりも走る方が速いのだから、当然と言えば当然か。飛行は出来ても、そう速い速度じゃなかった。恐らくは亜音速にも届いていない)
あくまで浮遊飛行。超音速で大地を駆けるベヘモットの速度に比べれば、あくびが出るほどに遅いのが飛行速度だ。
仮に同じだけの速度で自由自在に飛べたのならば、既に勝敗は決している。
しかし、そうした問題があるとしても……。
(それでも、装備の性能が高すぎる……。神話級でも足りない……なら、超級武具か? まだ見つかってなかった一体目の……)
《鑑定眼》を持たないレイには装備の名前すら見えていないが、それでも装備の性能から答えに……かつて話だけは聞いていた【グレイテスト・ワン】に辿りついている。
(けど、超級武具だとしても……強すぎる! 炎熱無効に、重力無効、熱線砲に、あの防御力、積み過ぎだ……! 明らかに、フィガロさん達の超級武具よりも性能が高いぞ……!)
剣としての性能と光線の力を有する【グローリアα】。
杖としての性能と限定即死の力を有する【グローリアβ】。
短剣としての性能と威力強化の力を有する【スーリン・イー】。
レイの知る三つの超級武具と比較して、【グレイテスト・トップ】は多機能に過ぎた。
全身装備として多数の装備スロットを消費しているからという理由以上に、強過ぎる。
(……だったら、どこかにデメリットを抱えているはずだ。そのメリットと帳尻を合わせるだけの……!)
そうしたレイの予測は、正しい。
なぜならこの【グレイテスト・トップ】には……一つだけ致命的な欠点があるからだ。
◆
(まずは見えているレイを仕留めて、……またいつの間にか影に潜ってるあの二人はどうやって炙り出そうかな)
実を言えば、ベヘモットは勝負を急いでいる。
自らの勝利までのプロセスを再度構築し直しながら、ベヘモットは心中で呟く。
(――あと、四分一〇秒)
彼女が思考したものは、タイムリミット。
MPを貯蔵する機能を持ち、それに応じて召喚時間を延ばせる【グレイテスト・ボトム】と、この【グレイテスト・トップ】は違う。
【グレイテスト・トップ】は、五分間しか装備できない。
装備スキルの使用にベヘモットのMPやSPは消耗しないが、代わりにリミットを過ぎれば強制的に装備は自動的に解除される。
そして、再装着までには内部時間で五〇〇時間という桁違いのクールタイムを必要とする。
使用を躊躇っていた理由には、それもある。
【グレイテスト・トップ】を使えばこの場での勝利はできるが、欠点が知られれば今後の戦いでそこを突かれるからだ。
ゆえに、ベヘモットは残る四分一〇秒で勝負を決するつもりだ。
多少、身を危険に晒す無茶な攻め方をしたとしても。
『……レヴィ』
レヴィアタンに対し、ベヘモットは心の中で呼びかける。
『ベヘモット!』
レヴィアタンもまた、それに応える。
それは<エンブリオ>との念話には遠い距離だったが、問題ない。
今行っているのは、【獣王】の奥義を用いたものだ。
《獣心一体》。自らと《獣心憑依》しているモンスターとの、距離や障害が意味を成さない意思疎通。
“物理最強”【獣王】の奥義と言うには控えめだ。
しかし獣戦士系統とは本来はそうしたもの。パートナーであるモンスターとの連帯こそを主とするジョブ系統なのだから。
『そちらは……!』
『【グレイテスト・トップ】を使わされた。つよいし、たのしい』
心配そうに問うレヴィアタンに、ベヘモットは心の底からそう答えた。
追い詰められはしたが、追い詰められるということが今では希少だ。
楽しいという感想も湧く。
『ベヘモット……』
『だけど、楽しんでばかりじゃいられないから、ね。わたしは【グレイテスト・トップ】のリミットまでにこっちを倒しきる。だから、それまで耐えて。こっちが終わったら、レヴィと合流して……必殺スキルでシュウを倒そう』
『……承知しました』
そうして彼女達の会話は終わり、それぞれの戦いへと集中する。
彼女達が次に話すのは……決着が付いた後である。
その意味と結末は、遠からず。
To be continued
( ꒪|勅|꒪)<タイムリミット五分とは言うけどサ
( ꒪|勅|꒪)<【獣王】本来の速度なら五分あれば大体の勝負はカタがつくんじゃねーノ
(=ↀωↀ=)<…………うん
(=ↀωↀ=)<ちなみに機能分割とタイムリミット以外に最も劣化したポイントは分子振動熱線砲です
(=ↀωↀ=)<オリジナル(Another Episodes参照)からの威力低下と
(=ↀωↀ=)<攻撃範囲の大幅な縮小がなされています
(=ↀωↀ=)<オリジナルみたいに一撃で純竜一〇〇体殲滅とかできぬ
(=ↀωↀ=)<それでも【獣王】に欠けてた遠距離範囲攻撃技として有効だけど




