第二十八話 人格(アイ)のカタチ
□■国境地帯・上空
「ライン、ハルト……?」
「はい。私が『兄』と、『機械』と、『政治』の担当。『ラインハルト』です」
クラウディア……否、ラインハルトと名乗った存在はそのような言葉を繋げた。
そしてラインハルトと名乗る彼女に……恐ろしいことに《真偽判定》は反応しない。
間違いなく、眼前の存在は自らを『ラインハルト』と規定しているのである。
「どういう意味かしら?」
アルティミアの当然の問いに、ラインハルトは答える。
「どこからお話したものでしょうか。そうですね、まずは共通の認識から詰めていきましょう」
そう言って、ラインハルトは手綱を握ったままの左手で自らの心臓付近を指し示す。
「このクラウディア・ラインハルト・ドライフは比類ない才を持っています」
「……そうね」
「一つはあらゆる技術を身につけることができる才能」
特殊超級職を除くあらゆるジョブに適性を持つアバターを与えられた<マスター>と違い、ティアンにはジョブに対する適性が存在する。
向き不向き。それは言ってしまえば才能の違いであるが、ことクラウディアはその才能において他者と隔絶していた。
「クラウディアは望めば何でも出来るようになりました。何にでもなれました。槍を手にとって【衝神】となったのは偶然であり、あるいは他の超級職を修めることもできたでしょう。この身が【機械王】でもあることがその証左です」
「…………」
あの学園で出会った時点で、ラインハルトがクラウディアであったのならば。
それは【機械王】もまたクラウディアであったということだ。
戦闘職の【衝神】と生産職の【機械王】、その二つを同時に極めている時点で尋常のティアンではありえない。
「……さっき、『一つは』と言ったけれど」
「はい。クラウディアにはもう一つ才能がありました。それこそが、私という存在の理由です」
そう言って、再びラインハルトは左手で自らを指す。
「その才能とは、自らを改造する才能です」
「改造……?」
「クラウディアは必要に応じて自らの内面を自由に改造できました。付け加えると、肉体的に改造を加えたのはほんの一年前です」
「……そうね。私の知るクラウディアは、切り落とした後にも動くような奇怪な腕ではなかったわね」
学園では共に寮の入浴場に入ったことが幾度もあったが、少なくともその頃は生身であったはずだ。
「流石に皇国の特務兵達や彼らに雇われた<超級>を相手取っては、クラウディアといえども無傷では済みませんでした。<遺跡>で見つけた煌玉人の残骸とデータから作った義肢を試す良い機会にはなりましたが」
戦闘用の義肢をキリキリと音を立てて動かしながら、ラインハルトは特に気にした様子もなくそう言った。
「話を戻しますが、ラインハルトはクラウディアが必要に応じて自らの内面を改造し、作り上げた人格です」
そしてやはり何の躊躇いもなく、ラインハルトはそう告白した。
「多重人格……と言うよりは仮想人格です。魂はクラウディアのもの一つであり、用途に応じて使い分けるための人格が私です」
「……仮想人格」
「感情に重きを置くクラウディアと違い、私は感情を排して思考し、クラウディアと皇国のための方策を練るのが役割です。今のクラウディアに、そういった思考は向いていません」
それは先刻の講和会議で提示した罠の如き条約も、クラウディアの仮想人格であるラインハルトの練ったものであるということだ。
また、仮想人格の利点は他にもある。
同一人物であっても思考や価値基準の違いから、単独では導き出せない結論にも到達できる。<マスター>の世界にある、『三人寄らば文殊の知恵』という言葉のように。
「……クラウディアの仮想人格、ね」
人格を自ら作るということが出来るのかは疑問を抱いたが……、しかしそれもあらゆる技術に秀でるクラウディアならばありえるとアルティミアは考えた。
『なぜクラウディアにそんなことができるのか』は理解できなかったが、そうであると認めることは出来た。
そして、これまでのラインハルトの口振りからすると、『なぜ』という答えはクラウディア自身も知らないかもしれないとアルティミアは考えた。
「私という存在については、ご理解いただけましたか?」
「……ええ。……ラインハルトを名乗っているのは、亡くなった本物のラインハルトに近い人格を……クラウディアが自ら生み出したということかしら?」
なぜ作られた人格が『ラインハルト』と名乗っているのか。
その理由を亡くなった兄への思いからだと考えたアルティミアの問いは、
「いえ、全くもって違います」
『ラインハルト』にあっさりと否定された。
「そもそも亡くなったラインハルト・クラウディア・ドライフは、クラウディアとも今の私ともまるで違う普通の子供でした。こんな機械染みた人格ではありません」
その自虐はラインハルトなりの諧謔だったのかもしれないが、……あまりにも平坦すぎる表情と声音で笑う要素は一切見出せなかった。
「付け加えれば、二卵性だったので顔も似てはいても瓜二つではありません。しかしそのことについては誰からも指摘されませんでしたね。双子というだけでクラウディアと同じ顔であることに疑いを抱かれませんでした。私がラインハルトとして顔を出し始めたのが爆弾テロから数年後、成長期を省いてこの顔を見せた結果かもしれませんが」
アルティミアもまた学生時代にラインハルトの顔がクラウディアと瓜二つ、と言うより同一であったことには疑問を抱かなかった。
しかしそれは、あのクラウディアとこのラインハルトの纏う雰囲気があまりに別物であるからだろう。
「それと、死んだラインハルト・クラウディア・ドライフの魂が宿っているといった死霊術関連の事案ではありえません。専門家……【冥王】の診断を受けましたから。この体に魂は一つきりです。それに彼の魂は爆弾テロの現場でまだ彷徨っていたそうですから。【冥王】にはそちらの処理もお願いしました」
幼くして亡くなった本物のラインハルトに些かの興味もなさそうな口調で、仮想人格『ラインハルト』はそう言った。
「それなら……どうしてラインハルトなの?」
「それは名前の由来ですか? それとも、この人格の由来ですか?」
「……両方よ」
アルティミアの言葉に、ラインハルトは頷いて答え始める。
「名前についてですが、最初にラインハルト・クラウディア・ドライフが生きていることにしようと考えたのは母方の祖父、先代のバルバロス辺境伯でした」
アルティミアはそれを予想外だとは思わなかった。
公的な人物の一人二役など、彼女だけではなしえない。少なくとも近しい誰かの協力は必要だ。
そして両親と兄を亡くしたクラウディアにとって、それは祖父であり、庇護者であった先代辺境伯以外にはありえない。
「理由は、クラウディアの安全のためでした」
自らの顔を指差しながら、言葉を述べる。
「当時から既に、皇国は内部で皇位を巡っての諍いが起きていました。これは父方の祖父……先代の皇王が推奨していたようなものです」
第一皇子と第二皇子。
有力な派閥を率いる両者のどちらも皇太子として立てないまま、競わせ続けていた。
【エデルバルサ】事件後のエミリオの確保も含め、先代の皇王は皇国の増強のために手段を選ばない人間であった。
「皇子やその息子達による暗闘。その中で、第三皇子派というものは小さいですが、存在していました。バルバロス辺境伯家や、いくつかの地方貴族を中心に構成されていました」
しかし第三皇子が次期皇王となる線は薄かった。
恐らくは第一皇子と第二皇子のどちらかが皇王となり、第三皇子は皇弟として新たな公爵家になるか、あるいは息子であるラインハルトが母方の実家である辺境伯家を継ぐことになるのが自然だった。
それでも、第一皇子と第二皇子が暗闘により共倒れすれば、次の皇王として立つ確率は存在し、それゆえに支持者もいたのである。
「ですが、爆弾テロで第三皇子であった父とその嫡子であるラインハルト・クラウディア・ドライフが亡くなりました。そうなると、第三皇子派は瓦解します。そうなったとき、元第三皇子派が他派への手土産に妹を脅かす危険があると、辺境伯は考えたのでしょう」
ゆえに、辺境伯はとある決断をした。
「だからラインハルト・クラウディア・ドライフを『まだ生きている』ことにして、辺境伯家で療養中と言い、第三皇子派の瓦解を防ぎました」
第三皇子の子であるラインハルトは生き残っており、まだ目は残っていると第三皇子派の者達に告げたのである。
「……よく隠し通せたものね」
「綱渡りです。真実を知る者は極一部。そして、《真偽判定》を持たない者に嘘の情報や、病床のラインハルト・クラウディア・ドライフに扮したクラウディアの言葉を伝える。その者は捏造された情報を聞かされて真実と思い込み、思い込んだままさらに他の者に伝える。偽の情報で《真偽判定》をすり抜けるには、本心から信じこんでいる必要がありますから。この工作以降、《真偽判定》を受けないように祖父自身はずっと邸宅に篭りきりだったようですが」
そうしてラインハルトの死を隠し、キリのいいタイミング……次の皇王が決まった頃に『療養生活を続けていたが、ついに亡くなった』と発表するつもりだった。
その頃にはクラウディアの身の安全を確保する算段もついていると考えて。
ただし、そこで一つの問題が生じる。
「そうして隠蔽を始めて四年程度は隠せていたようですが、テロから四年経っても療養が終わらず、他の皇族の前に姿を現さないことを不審がられました」
それは当然と言えば当然の出来事だった。
むしろよく四年も引き伸ばせたとさえ言える。
「皇族達の前でラインハルト・クラウディア・ドライフの生存を証明する必要がありました」
「……既に死んでいる人間の生存を証明?」
「だから、本心から信じ込む必要があったのです。自分がラインハルト・クラウディア・ドライフであると、信じ込む存在が必要だった」
そうして、話は『理由』に繋がる。
「そのための私……『兄』の『ラインハルト』です。私は皇族達の前で、本心から『私がラインハルト・クラウディア・ドライフだ』と名乗り、生存を証明しました」
「…………」
《真偽判定》をすり抜けるほどに、自らを騙し切る仮想人格。
それを人為的に作り上げる行為は、最早自己暗示という域を凌駕している。
「でも、アナタは……」
「ええ、当時は本当に自分を『ラインハルト・クラウディア・ドライフ』と認識していました。ですが、今は仮想人格であることを自覚しています。皇王になって隠す必要もなくなったので、クラウディアが繋げました」
ラインハルトは至極あっさりと、自らが偽りと自覚したことを告げた。
「けれどアナタと学園で一度会ったときは、まだラインハルト本人だと信じ込んでいました。あの頃はまだ『ラインハルト』として行動し始めたばかりで、『私』の方には自覚もないままに一人二役で生活していましたからね」
クラウディアの方は自覚していたため、フォローやアリバイ作りに回っていた。
特に、ラインハルトが【機械王】としての作業を行う際に、クラウディアだけが手伝いとして加わるというのはその最たるものである。
なにせ、体は一つしかないのだから。
「誤算だったのは、整備士系統についてです」
「整備士系統?」
「どこで話が膨らんだのか、『ラインハルトは療養中に【整備士】として修行を重ね、卓越した実力を持っている』などという話になっていました。火のないところに立った煙。あるいはどこかの派閥が実物との落差で貶めるために流したものだったのかもしれません」
「……まさかとは思うけれど」
「はい。私が【機械王】であるのはそのためです。貶められ、そこから暴露に繋がっても困るので、一通り修めました。そのころには条件を達成して【機械王】になっていました。お陰で、様々な雑事を任されてしまいましたが」
そんな理由で超級職を複数獲得してしまう。
まして、皇王となった今は特殊超級職【機皇】にも就いているだろう。
改めて、クラウディアはあるべきでない才能の持ち主であった。
「名前の理由はその程度です。そして人格の理由ですが……」
そのとき、初めてラインハルトの表情に『悩み』というものが浮かんだ。
その理由は……。
「結論から言えば、私の人格が元々のクラウディアに近いものです」
「?」
その言葉の意味を、アルティミアは理解できなかった。
あるいは、アルティミアにだけは理解できない事柄だった。
「アナタが知るクラウディアは、どんな人格ですか?」
「……天真爛漫で、感情に溢れて、私を振り回すけれどどこか可愛くて」
「貴族の令嬢のテンプレートのような口調の、クラウディアでしょう?」
「ええ。初めて会った日からそうだったでしょう?」
確認するように問うアルティミアに、ラインハルトはやはり頷いて。
「はい。あの日からクラウディアはそのように人格を改造しましたから」
「…………え?」
「アナタと仕合っていたときまで、クラウディアの人格は今の私とほぼ同一でした。それが、アナタと出会って変わった」
答えを理解し切れなかったアルティミアに向けて、ラインハルトは言葉を続ける。
「初めて友達になりたいと思った相手を見つけ、一目惚れをして、不躾な言葉で話しかけてしまったことに悩み、『このままでは嫌われる』と初めての怯えを得た」
それはクラウディアにとって初めての出来事。
脳髄が、あるいは魂が抱えた……感情という名の巨大なバグ。
しかし、だからこそ彼女はそれが愛おしかった。
「それからクラウディアは貴女も知っているように額を打ちつけて、一〇秒ほど掛けて……今のクラウディアに人格を大きく改造しました」
「…………」
「ベースは爆弾テロに遭う前、皇女の一人であるクラウディアと友人になろうとしていた貴族令嬢の誰かでしょう。友達になろうとする人間を、クラウディアはあのくらいしか知らなかったはずですから。貴女と友達になるために、それをトレースして組み込み、人格を改造した。あれが初めての人格改造ですが、出来てしまった」
規格外のクラウディアも、それまで自らの人格を改造することに意義を見出してはいなかった。
自らの人格改造が『可能である』ことは知っていたが、改造する必要を認めていなかった。
ゆえに男性でも女性でもない機械のような人格で、日々を消化するように過ごしていた。
しかし、彼女が自らを変える必要に駆られたのが……嫌われてしまうかもしれないという焦りを覚えたのが、アルティミアとの出会いだった。
人はそれを不安や恐怖と言うのかも知れないし……初恋と言うのかも知れない。
「それからはあの人格がクラウディアのデフォルトです。『私』は、後から『ラインハルト』の人格を作る際にかつては使い慣れていたこのタイプの人格を掘り起こしただけです」
ゆえに、先刻切り替わった際に初めて会ったときのクラウディアを想起したのは当然の帰結だった。
そして、ある意味ではラインハルトが『兄』……人格のカタチとしては古いということでもある。
出会いで生まれた大きな感情のうねりがバグとなって自らの人格を作り変え、今はそれを補佐するようにかつての冷静であったころの己を仮想人格としている。
冷静に補佐する仮想人格と、愛を抱いたクラウディアが、肉体というマシンの中で並列に起動している。
それが皇王、クラウディア・ラインハルト・ドライフという存在であった。
「これが私達、『クラウディア』と『ラインハルト』です。どう思われましたか、アルティミア」
「…………」
クラウディア・ラインハルト・ドライフの秘密を告白され、彼女に大きな変化を与えた要因であると伝えられたアルティミアは、
「――安心したわ」
――クラウディアも、ラインハルトも、想像しなかった言葉を述べた。
「……………………え?」
しかし彼女の言葉に噓はなく、彼女の本心そのもの。
あるいは嘘か嫌悪であれば、もっと冷静でいられただろう。
「……安、心?」
「ええ。安心よ。本当に、アナタが『ラインハルト』として話しはじめてから終始気圧されていた気がするけれど、ようやく安心できたわ」
「なぜ、安心などと……? 恐ろしくはないのですか? この、私達が……」
疑問と……そして不安という感情を僅かに浮かべた『ラインハルト』。
その問いかけに、
「いいえ、もう少しも怖くはないわ。だって……」
アルティミアは、
「クラウディアはクラウディアだって、よく分かったもの」
一切の嘘も気負いも虚勢もなく、そう言い切った。
「私に嫌われることが怖かったのが、改造の理由って言ったわね。そういう大胆だけど本当は臆病なところ、ずっと変わってないわよ。クラウディア」
「なに、を……それに私は……」
「何時だったかしら。私に抱きついた後で油の匂いを気にして飛び退いたこともあったわね」
「…………」
「何時だったかしら。吟遊詩人からとびきり怖い話を聞いて、夜中に私のベッドの横で枕を持ってウロウロしていたこともあったわね」
「…………」
「嫌われるのが怖い。けれど仲良くしたい、傍にいたいと思い続けている。アナタはそういう可愛い友人で……」
アルティミアは真っ直ぐにラインハルトを――クラウディアを見つめて、
「私の親友よ。今も、昔も、変わりなく」
そう、断言した。
全ての告白を聞き届けた上での……アルティミアの結論がそれだった。
依然変わりなく、親友であるという……本心の言葉こそが。
「……え?」
気づけば、ラインハルトは……クラウディアは……泣いていた。
涙を零すその顔は、……はたして二つの人格のどちらであったか。
……いや、どちらでも変わりない。
クラウディア・ラインハルト・ドライフの心からの涙が……そこにはあった。
そんな彼女を、アルティミアは優しい目で見つめている。
同時に、ある疑問を呟いた。
「……それにしても、本当に何もかも話してくれてしまったわね」
皇国最大の秘密とも言うべき事柄を、『ラインハルト』のクラウディアは話し切ってしまった。
皇国内ですら、知っている者はティアンと<マスター>合わせて五人しかいないというのに。
「どうして全部話してくれたのかしら?」
「……聞かれたからです」
沈黙していた『ラインハルト』はポツリとそう言って、
「クラウディアは、愛するアナタに嘘はつきたくない」
感情を振り絞るように、そう言った。
その言葉に、アルティミアは納得する。
『そういえば講和会議でも嘘は一度もつかず、問われた答えも無言では終わらせなかったわね』、と。
そんな彼女に対し、『ラインハルト』は言葉を重ねる。
「そして、嘘を言ったつもりもない」
「……そう」
彼女が何を言いたいのか、アルティミアには分かっていた。
既にお互いの気持ちは伝え合っているのだから。
「クラウディア・ラインハルト・ドライフは皇王となりました。皇王であるならば、国を生かすために如何なる悪辣も非道も実行する必要がある。そして……もう一つ」
彼女はアルティミアを真っ直ぐに見据え、
「私達は貴女をここで倒して、連れ帰り、自らのものとします」
アルティミア自身を奪うと、改めて彼女は告げる。
「王国を欲するのは皇王として皇国を生かすため。ですがもう一つの目的……貴女を欲するのはただの我欲です。私達にとって誰よりも特別なアナタを手に入れたい、最期まで傍にいてほしいという、この身のたった一つの我欲です」
皇国を救うためのあらゆる策謀とは別個の、個人としての我欲……願いがそこにある。
「そして……我欲であるからこそ、こちらも止める気はありません。だから……」
そうして『ラインハルト』は再び槍に額をつけて、
「だから……仕合いましょう! 果てるまで、決着がつくまで、永遠を手に入れるための一瞬を、ここで仕合って決めてしまいましょう!」
再び顔を上げたとき――そこには感情の塊である『クラウディア』としての顔があった。
「ええ」
そんな彼女に、かつてのようにアルティミアは応じる。
「けれど、負けてはあげないわ。妹達のためにも……地上で戦う彼らのためにもね。ここからは本気で……殺すつもりで戦うわ」
先刻までの交錯は、全てを凌がれた。
それは、クラウディアの卓絶した技量のみによるものではない。
触れれば切断……加減できぬ必殺剣を振るうアルティミア自身が、親友を殺さぬように斬撃の狙いを急所以外に狭めていた。
しかし最早、アルティミアはその縛りを自らに課さない。
己に全てを打ち明けてくれた親友に、自らも全てを尽くすと決めた。
そして、親友ならば――その上で生き残ってくれるだろうと信じた。
「だから、死なないでね――クラウディア!!」
「ええ! 本気で、無論本気で……シアイましょう! ――アルティミア!!」
そして――二人は再び動き出す。
お互いの心を伝え合った後に、それでも譲れない願いのために再び刃と矛を交える。
言葉は最早不要。
隠し事など最早皆無。
決着までは、全力で。
お互いの心は一つに。
幾度も重ねた二人の仕合は、此処で真の仕合へと至った。
To be continued
(=ↀωↀ=)<最終的に百合ともクレイジーサイコレズとも違う場所に着地した気がする
( ꒪|勅|꒪)<……これ、馬達はどんな気分で背中に乗せてんだろうナ
余談
クラウディアの人格改造の流れ:
・誕生~九年前
今のラインハルトに近く機械的だが、両親の存命中はまだ子供なのでそこまで大きい問題にはならない。
基本的に「大人しい良い子」止まり。
・九年前~六年前
人格変わらず。「家族を亡くした爆弾テロによって心を閉ざしてしまったのか」と、周囲に心配されるが元からこんなもの。時々祖父の要請で兄の振りをしつつ、淡々と公務や学業をこなす。
・六年前(アルティミアとの出会い)
人格改造。今のちょっと感情過多なクラウディアとなる。鍛錬場から笑顔でアルティミアと出てきたクラウディアに辺境伯家驚愕。
アルティミアと共に皇都に戻るが、ここでも「何があった!?」と驚愕される。
一部に影武者かと疑われるが、もちろん本物。
・五年前
ラインハルトの生存証明の必要が生じたので、かつて使っていた人格をベースに仮想人格『ラインハルト』を作る。この頃から常時一人二役。
・一年ほど前
皇王即位前後で『ラインハルト』との情報共有。現在の状態となる。
余談:
皇国の生きている人間でクラウディアの秘密を知っている者は四人。
ギフテッド・バルバロス元帥:軍部のトップ。また、叔父でもある。(ただし彼の妻子は知らない)
ノブローム・ヴィゴマ宰相:政治のトップ。クラウディアの教師であり、先代辺境伯が信頼できる相手として共に本物のラインハルトの死亡を隠蔽した者。
ベヘモット:友人。
フランクリン:《叡智の解析眼》が装備による欺瞞を突破し、ステータスが見えてしまったため。(口止め済み)
皇国に属さない者でも【冥王】など少数は知っている。