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拾話 ガール・ミーツ・ガール

(=ↀωↀ=)<今回から一旦視点を移します


(=ↀωↀ=)<レイ君の話の続きはその後でね


追記:

(=ↀωↀ=)<ちょっと漏れがあったので冒頭にちょっとだけ追記(【大賢者】絡み)


(=ↀωↀ=)<それとあとがきにも追記

 □彼女達について


 それは今から六年前のこと。

 アルター王国の第一王女であるアルティミア・A・アルターは、皇国に向かう竜車に揺られていた。

 彼女は今、留学の途上にある。

 アルター王国とドライフ皇国。当時は友好国であった二国は、近年では留学による交流を行っていた。

 数年前にも、皇国第一皇子の長子であるハロン皇子が王国に留学している。

 しかし、アルティミアは留学が単なる交流ではなく、他にも理由があると分かっていた。


(嫁入りの前準備ということね)


 王国と皇国は、長く良好な関係を続けている。

 それゆえに今後は王国と皇国の婚姻による同盟強化、あるいは併合も視野に入っている。

 今回の留学はその準備も兼ねているのだろうとは分かっていた。

 父王からは聞かされていないが、アルティミアの教師であり、王国の相談役である【大賢者】からは遠回しにそう聞いている。

 今の皇王は老齢であり、その皇子達もアルティミアの父と同年代であるため、婚姻相手は皇子達の息子となるだろう。

 その相手がハロン皇子であるか、あるいは第二皇子の長子であるゲーチス皇子であるかは未定だ。

 だが、あと六年もすれば両者のどちらかの妻に収まるのではないかと予想していた。

 そのことについて、この時点のアルティミアには特に思うことはない。

 王女であるなら嫁ぐ相手が選べないことなど、この世界では普通のことだ。


(けれど、私が他国に嫁ぐとなればエリザベートは泣きそうね。……今回の留学でも大分泣かれてしまったわ)


 この六年後、本人より先に妹の嫁入りで一波乱あることをこの時のアルティミアは知る由もない。


(……そういえば皇国には、他にも私と同年代の男性皇族がいたはずだけれど)


 それは第三皇子の息子。

 しかし彼は公的な場にはほとんど姿を見せたことがなく、その知名度も群を抜いて低い。

 その理由は、長く病床にあるためだという。


 数年前に第三皇子とその妻、そして息子と娘が爆弾テロに遭った。

 第三皇子と妻は死に、息子もまた重傷を負った。

 その後遺症によるものか体を自由に動かせないそうで、彼は今も母の実家であるバルバロス辺境伯領で療養中であるらしい。

 なぜ辺境伯領なのかと言えば、件のテロが皇位争いに絡むものである公算が高く、皇都にいては再び命が狙われる恐れがあるからだ。

 そんな事情で彼は公の場には何年も姿を見せておらず、代わりにテロで唯一無事だった彼の双子の妹が皇族としての諸事をこなしているらしい。


(バルバロス辺境伯領……ね)


 留学前に学んだ皇国の情報を思い起こしながら、アルティミアはちらりと竜車の窓の外を見た。

 そこから見える風景こそが、バルバロス辺境伯領である。

 皇都に向かう旅程ではこのバルバロス辺境伯領……辺境伯の邸宅に数日逗留することになっている。


(もしかすると、件の第三皇子の子供達とも顔を合わせることになるかもしれないわね)


 アルティミアがそんなことを考える間も竜車は進み、数刻ほどして辺境伯の邸宅に辿りついた。


 ◇


 辺境伯の邸宅では、老齢のバルバロス辺境伯が自ら門前でアルティミア一行を出迎えた。

 アルティミアに同行していたのは、旅の中で彼女の世話をする侍女達と、護衛である近衛騎士団、そしてその長である【天騎士】ラングレイ・グランドリアである。

 王国最強戦力の一角が同伴していることには理由がある。

 それは今から二〇年以上前に起きた神話級の<UBM>、【エデルバルサ】の襲来に起因する。

 当時、王国と皇国の国境に現れた【エデルバルサ】によって王国の使節団が壊滅するという事件が起きており、万が一にも同じ轍を踏まないように戦力を引き連れての旅路となったのである。

 それでも神話級相手では厳しいが、煌玉馬を有するラングレイと同行しているならば少なくともアルティミアが王国まで逃れることは出来る、という判断である。


 竜車を降りたアルティミアはバルバロス辺境伯と挨拶を交わし、二、三の話もした。

 そうして彼女達は邸宅の中に案内され、数日を逗留する貴賓室に通された。

 貴賓室にくつろいでから、彼女は少し疑問に思った。


(なぜ辺境伯は私……いいえ、王国に申し訳なさそうにしていたのかしら)


 見た限り、出迎えやもてなしの不備も見当たらない。

 しかし、彼女から見て辺境伯は明らかに何か後ろめたい……そして申し訳ないことを抱えているようであった。

 悪意はなかったが、それは気になった。


 実際、このときのバルバロス辺境伯はアルティミア達に後ろめたい思いを抱いていた。

 その理由は先の【エデルバルサ】の襲撃の際、全滅したと思われた使節団の中で、一人の赤子――エミリオ・カルチェラタンが生き延びていたことにある。

 しかしエミリオは偶然によって【エデルバルサ】の特典武具を手に入れてしまい、その重要さから皇王の命令で王国に帰すことが出来ず、辺境伯の養子として育てることになった。

 それゆえ、辺境伯は王国の王女であるアルティミア達に申し訳ないと考えていた。

 アルティミアがここに逗留すると決まった時、真実を話すことも考え、悩んでいた。

 しかし結局、皇王が存命中の今は言い出すことも出来なかった。

 皇王の意思に背いて話せば、辺境伯家だけでなく今は養子であるエミリオ、そして自分達が保護している第三皇子の子にも累が及ぶかもしれなかったからだ。

 それゆえ、辺境伯は口をつぐんだ。

 心労のためか、彼は五年後に皇王の代替わりを見届けてから、エミリオ・カルチェラタン……今はギフテッド・バルバロスに辺境伯の地位を譲って亡くなることになる


「……あれこれ考えていても仕方ないわね。今日の鍛錬をしましょう」


 結局、辺境伯の態度の理由はアルティミアには分からなかったので、少し気分転換に鍛錬をすることにした。

 先立って辺境伯邸の鍛錬場の場所は聞いている。(聞かれた方は不思議そうな顔をしていたが)

 アルティミアは護衛の近衛騎士達に一言告げてから、鍛錬場へと向かった。


 ◇


 そうしてアルティミアが入った鍛錬場には、先客がいた。


「…………」


 アルティミアと同年代の少女が、室内用なのか二メテル弱程度の長さの槍を振るっている。

 それ自体はおかしいことではない。

 鍛錬場なのだから、鍛錬をする者がいるのは当然だ。

 しかしここでの問題は……その少女の槍が極まりすぎていた(・・・・・・・・)ことだろう。


 少女の槍には音がない。

 風を切る……空気の壁にぶつかり、掻き分けるようなロスがない。

 最適に、最良に、最高に、一切の無駄がない文字通り流れるような槍捌き。

 柄に這わせた指の運びも、踏み込みの一つも、全身の関節と筋肉の駆動すら、一糸の乱れもない。

 少女は長い金髪をしていたが、その髪の動きにすらも無駄が見えず、まるで自然の風か清流のようであった。


「…………」


 それは演舞ではない。

 ただ、実践的な動きを繰り返しているだけだ。

 そうでありながら……恐らくはあらゆる演舞よりも美しい槍の舞がそこにあった。

 けれど、アルティミアは……。


「機械仕掛け……」


 その美しい舞を見て、ポツリとそんな言葉を呟いてしまった。


「…………」


 彼女の言葉に、槍の少女は静止した。

 アルティミアは「しまった」と思ったが、口に出した言葉は戻せない。

 だって、思ってしまったのだ。

 一切のロスがなく、自然の動きの権化とも言える少女の槍の舞。

 けれどそこには、感情すらも見えなかった。

 一切の無駄(感情)がないその槍の動きを見て、アルティミアが思い出したのは機械仕掛けのオルゴールだった。

 かつてハロン皇子が王国に来訪した際に彼女に贈った、音楽に合わせてクルクルと人形が回るオルゴール。

 彼女にはどうしても、そのオルゴールと目の前の少女が同じものに見えていた。

 心が動かされるほどに美しいけれど、それそのものには心が入っていないから。


 あるいは、世界で彼女だけがそう思ったのかもしれない。


「…………」


 槍の少女は静止したまま……顔だけをアルティミアに向けている。

 その視線は、値踏みするように……ではない。

 まるで機械が解析でもするかのような目で、アルティミアを見ていた。

 それから視線を僅かに落とし、アルティミアが鍛錬用に刃を落とした剣を携えているのを見て……。


「仕合いましょう?」


 前置きも何もなく、少女はそう言ったのだった。


「ええ」


 アルティミアも、少女の提案に即応した。

 アルティミアは、彼女が自身の発言に腹を立てた……のではないと理解していた。

 恐らくはこれほどの才覚に溢れた少女であるから、気づいたのだろう。

 アルティミアが【聖剣姫】……生まれながらに剣の才を継承して生まれてきた存在である、と。


 剣の才を継いだアルティミア。 

 槍の才の化身とも言うべき少女。

 アルティミアは少女の名前すら知らない。

 けれどそれが自然とでも言うように、惹かれるように、二人は鍛錬用の槍と剣を向け合う。


 どちらが先だったのか。

 二人は動き出し――二人にとって最初の仕合を始めた。


 ◇


「……私の負け、ね」


 一時間後、鍛錬場の壁に背を預けて荒く息を吐きながら……アルティミアはそう言った。

 しかしそれは少女の才がアルティミアの才に勝った……という話ではない。

 少女がその槍の才を使いこなす中で、アルティミアは自身の才を半分も使えなかったのがこの結果の理由だ。

 【聖剣姫】としての力は、【アルター】がなければ発揮されない。

 その【アルター】は王国の至宝の一つであり、皇国に持ち込むわけにはいかず、彼女の手元にはない。

 また、彼女の剣技も【アルター】の絶対切断能力を前提とした剣技であり、通常の剣では本領を発揮できない。

 ゆえに剣の師であるラングレイから学んだ海賊剣術の流れを汲む剣技で挑んだが、結果は少女の体に刃が触れることすらなかったのである。


(けれど、そういった事情もなく、純粋に才を比べても……勝てたとは言えないわね)


 それほどまでに、少女の才覚は異常だったのだ。

 攻防の両面において、一切の隙がなく、一切の無駄もない。

 そのためか、一時間の仕合を終えても……少女は息の一つも乱してはいなかった。


(この子、もしかしたら師匠よりも……)


 今の年齢でアルティミアの剣の師である【天騎士】ラングレイさえも超えているかもしれないと、アルティミアは考えた。

 そのとき、


「いいえ。(わたし)はまだ【天騎士】には至りません」


 まるで彼女の内心を読み取ったように、槍の少女はそう言った。


「え?」

「かの騎士は守る力であり、私は槍を繰るだけの力。ゆえに比較は出来ず、武技で勝っていたとしても、存在として勝っているわけでは……失礼。少々お待ちください」


 少女は機械のように平坦な声音で言葉を連ね、それからその口を閉じて……。


 ――自分の額を槍の柄に叩きつけた。


「なっ!?」


 アルティミアが驚愕と共に目を瞠る中、少女は額を柄につけたまま微動だにしない。

 ゴツンと音がするほどに強く叩きつけたために、中身がどうにかなってしまったのかという疑念すらも湧く。

 それから一〇秒も経って……。


「……お待たせいたしましたわ! 失礼な態度をとってしまってごめんあそばせ!」

「え、え……?」


 ……少女はまるで異なる口調と声音、そして態度でそう言ったのだった。

 目をキラキラと輝かせながら、少女は更にまくし立てる。


(わたくし)、鍛錬に集中するとどうにも陰気になってしまいますの! 不躾なことも言ってしまいますし……何より挨拶もしないままいきなり仕合を申し込んでしまったこと、本当にお詫びいたしますわ!」


 そう言って頭を下げる少女には、先ほどはなかったはずの無駄(感情)がこれでもかと溢れていた。

 けれど、体の動きの無駄はないままだったため、今の少女と先の少女が同一人物であることはアルティミアにも理解できていた。


「え、ええ……。私こそ鍛錬の邪魔をしてしまってごめんなさい」

「いいのですわ! むしろ感謝したいくらいですわ! 一人での練習より、仕合の方が良い経験になりますもの!」


 少女はニコニコと、天真爛漫な笑顔で言い切った。


「何より、同年代でこんなに武技を競える相手なんて初めてですもの! 私、とっても嬉しいですわ!」

「……そう」


 その気持ちは、アルティミアにも少し理解できた。

 生まれながらに【聖剣姫】であったアルティミア。

 同年代に彼女のような運命を背負ったものは他にはない。

 ラングレイの娘であるリリアーナや、【大賢者】の愛弟子であるインテグラといった友人はいたが……それでも少しの孤独は常に抱いてきた。

 けれど、少女はきっとアルティミアに近いものだ。

 全く別の運命ではあるが、そのベクトルと総量はきっと……似通っている。

 だからこそ……二人は僅かな言葉を交わすと共に打ち合ったのだろう。


「あ! ごめんあそばせ! 私ったらまだ名乗りもしないで……」

「こちらこそ、ね。私の名前はアルティミア・A・アルター。アルター王国の王女で、ここに五日ほど逗留させてもらうことになっているわ」

「存じていますわ! 私の名前はクラウディア・L・ドライフ! お父様は第三皇子だったから皇族の末席ですわ!」


 それを聞いてアルティミアは彼女――クラウディアが亡くなった第三皇子の子供……療養中の息子ではなく、公的な活動を行っている娘の方であると知った。

 同時に、一つ気に掛かった。


「私のことを知っているの?」

「ええ! 私、学園では貴女のお世話係(チューター)を勤めることになりますの!」

「アナタが……?」


 皇女の一人がその役目を務める、ということがアルティミアには少し気になった。

 それが王女であるアルティミアへの配慮なのか、それともクラウディア、引いては皇国側に何らかの事情があるのか。


「だから、これからも頻繁に仕合ができますわ!」


 クラウディアはとても嬉しそうに、感情を前面に出してそう言い切った。


「これからも……?」

「あ、ご、ごめんあそばせ……。私ったら了解も取らずに勝手なことを……」


 アルティミアの反応に、クラウディアは少し怯えるような声音になった。

 その姿は、先刻の槍の才能の権化とも言うべき姿とは少し離れている。

 けれど、年頃の少女らしいクラウディアが……アルティミアには少し微笑ましかった。


「いいえ。謝る必要はないわ。私も嬉しいもの」

「え?」

「仕合は私も望むところよ。学園での三年間、よろしくね……クラウディア」


 アルティミアはそう言って右手を差し出した。

 その握手は、友達になろうという彼女からの申し出だった。

 クラウディアは、その右手をジッと見つめて。


「……ええ! もちろんですわ! アルティミア!」


 輝くような笑顔で、握手を交わした。


 ◇


 それからの三年間で、二人は一番の親友になった。

 武技を競う仕合だけではなく、日常の生活も二人で一緒に過ごした。

 学生らしく試験に頭を悩ませて、お互いの好きな本を紹介しあって、年頃の少女らしく街への買い物にも一緒に出かけて。

 そうする二人は王女と皇女ではなく、【聖剣姫】と【衝神】でもなく、ただの友人同士だった。

 そうしてアルティミアが留学期間を終えて帰国した後も、文通による交流を重ねもした。


 そんな二人は皇国の政変、そして王国との戦争で交流を断たれ。


 今日の日に講和会議で再会して。


 今一度、仕合う。


 お互いの守るべきもの、欲するもののために……。


 アルティミアは、かつての仕合では一度も使わなかった【アルター】を携え。


 クラウディアは、機械の体と数多の特典武具を身につけて。


 久方ぶりの……あるいは最後になるかもしれない仕合を。


 剣舞の如く、槍舞の如く、――遥か天空で繰り広げる。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<というわけで次回からアズライトVSクラウディアです


(=ↀωↀ=)<王国最強のティアンVS皇国最強のティアン


( ̄(エ) ̄)<元帥が最強って前に言ってなかったクマ?


(=ↀωↀ=)<戦力としての最強は元帥ですが


(=ↀωↀ=)<個としての最強はクラウディアで、戦った場合はまずクラウディアが勝ちます


(=ↀωↀ=)<三章のフランクリンの話と似たような感じになるのだけど


(=ↀωↀ=)<個人戦闘型と広域制圧型が戦った場合


(=ↀωↀ=)<個人戦闘型は防衛戦ではまず勝てません


(=ↀωↀ=)<しかしそれは前にも書いたように


(=ↀωↀ=)<『守れない』であって、『倒せない』ではありません


(=ↀωↀ=)<相手の軍団を切り抜けて首をとることはできます


(=ↀωↀ=)<で、元帥の場合は元帥が死ぬと配下の人形も全停止します


(=ↀωↀ=)<そんな訳で戦果を比べれば元帥が皇国で間違いなくトップですが


(=ↀωↀ=)<元帥とのタイマンだとクラウディアが勝ちます


(=ↀωↀ=)<広域制圧型最強と個人戦闘型最強って分けてもいいと思うけどね


( ꒪|勅|꒪)(それだと広域殲滅型最強もいそうだな、皇国ティアン)

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