第二十一話 【怪獣女王 レヴィアタン】
(=ↀωↀ=)<作者の熟慮の結果
(=ↀωↀ=)<A戦場(VS【獣王】、クラウディア)を先に六章後半としてお出しします
(=ↀωↀ=)<B戦場はその後でね
追記:
(=ↀωↀ=)<感想読んで入れる予定の描写が一部抜けてることに気づいたので
(=ↀωↀ=)<レヴィの特性説明のあたりに文章追加
□■とある<エンブリオ>について
<Infinite Dendrogram>の時間で、九ヶ月近く前のこと。
王国と皇国の間で起きた第一次騎鋼戦争。
戦争直前の戦力分析では、<マスター>の参加率によって圧倒的に皇国が有利……とまでは言われていなかった。
無論、先の【グローリア】事件で疲弊し、戦争において<超級>の協力を得られなかった王国の方が不利という見方ではあった。
だが、『確実に負ける』とまでは王国内でも、周辺国でも思われていなかった。
その理由は……王国に一人の人物がいたからだ。
◇
戦争の当日。旧ルニングス領に王国軍は布陣し、国境を越えて進軍してきた皇国軍を迎え撃つ手筈だった。
その陣から少し離れて、一人の人物が空から戦場を俯瞰していた。
(この戦争は予定通りと言うべきか。否か)
その人物は、【大賢者】。
王家を含めた誰も名は知らず、聞くこともできず、知ることもできない。
しかし【大賢者】というジョブ名が彼を指し示す名前である。
百歳を軽く超えるほどの年齢であり、老人らしく肌には皺があり、髪は全て白い。
しかしそうでありながら、その両目と全身に満ちる力は……『何があっても死ぬことはないのではないか』と思わせるほどに強い。
(皇国が劣化“化身”を多く運用し、逆に王国は運用を控える。これは予定通りだが……皇国側の舵取りが想定外だったな)
空の上で、己の思考を整理するように【大賢者】は心中で言葉を述べ続ける。
それは彼の……古くからの癖だ。
(どの道、ツヴァイアー皇国時代に施した土壌再生ナノマシンの耐用期間は過ぎている。皇国が国内の飢餓に耐えかねて何らかの動きをすることは想定内だったが……)
余人には理解できない言葉もまた彼の脳内に流れ続ける。
(だが、カルディナの動きと皇国の内戦は想定の範囲外だ。カルディナの議長と、皇国の新皇王。想定よりも危険かもしれない)
彼は考える。
この戦争に至る絵図面を描いた一人は自分だ。
王国側に立って皇国と交渉しながら、長い年月を掛けて誘導してきた。
だが、完成した絵には……自分以外に複数人の思惑が重なっている。
それが先に挙げたカルディナの議長と、皇国の皇王。
そして……。
(“化身”共が、どこまで関与しているか……)
【大賢者】にとって不倶戴天の敵の影を戦争の中で探すが、それは未だ見えていない。
関わっているのは確実だが、意図が読めない。
“化身”を探るために戦争を起こさせた【大賢者】としては、それが不満ではあった。
(三強時代のように、大きな戦乱では連中の影が見え隠れする。だからこそ、連中を探るために戦争の準備を重ねてきた。今回は<マスター>の急増後の連中の動きを知るためでもあったのだが……致し方ない。急増後は関与しない、と暫定的な観察結果としよう)
【大賢者】は息を吐き、思考を切り替える。
(ならば、此度は副次の観察。劣化“化身”と【大賢者】の彼我戦力確認を行おう)
眼下を進軍する皇国軍を見下ろしながら、【大賢者】は魔法の行使を開始する。
その魔法には莫大な魔力が籠められているが……行使する彼の額には汗すら浮かばない。
それほどに、彼の実力は凄まじい。
名前と共に彼の魔法で秘されたステータスは誰も窺い知ることは出来ないが、「ティアンでありながらジョブレベルが一〇〇〇を超えているのではないか」とまことしやかに噂され……それは事実である。
彼の合計レベルは一六〇〇近い。
積み重ねた経験と合わせ、紛れもなく王国のティアンでは最強だった。
実際、数年前にも王国で最強の火属性魔法の使い手と名高かったフュエル・ラズバーン師を、赤子の手を捻るように倒してみせた。
然もあらん。カルディナで【地神】が台頭するまでは、彼こそが“魔法最強”。
現時点でも西方最強の魔法職である先代“魔法最強”は、初手から己の奥義を行使する。
「想像せよ。創造せよ。
最も新しく、最も短命な星。
我が頭上より生まれ、地上へと来たれ。
震えや、降れや、哀れなる星。
我が腕の外、遍く全てを塵へと還さん」
【大賢者】が歌うように《詠唱》すると、彼の頭上に直径三〇〇メテルを超える巨大な星が生まれた。
それこそは、《イマジナリー・メテオ》。
闇属性魔法を核に【大賢者】が編み出した最強の広域殲滅魔法。
生み出された星が地上に落下した際の威力は、同サイズの隕石の落下と同等。
しかし生物にしか影響を及ぼさず、その上で彼が敵と認識した者にのみダメージを与える。
即ち、敵味方識別式の広域殲滅大魔法。
戦争においてこれ以上に扱いやすく恐ろしい攻撃手段はなく、なおかつそれを単独で軽々と撃ってみせるのが……王国の【大賢者】だった。
彼はこの恐るべき大魔法を幾度も続けて放つことすら出来る。
もっとも、巨大隕石の落下に等しい魔法を、放ち続ける必要があるかは疑問だったが。
「――《イマジナリー・メテオ》」
【大賢者】の宣言と共に、星は地上へと放たれた。
既にロックオンは済み、進軍してくる皇国軍に向けて星は落ちる。
それは加速し、皇国へと猛烈な速度で落下していく。
皇国軍からは迎撃のための魔法や砲火が放たれるが、しかしそれらは例外なく星をすり抜けて行く。
それこそが《イマジナリー・メテオ》の第二の恐ろしさ。
生物にしか影響を及ぼさない魔法であり、加えて【大賢者】の手によって調整されている。
そのため、生物以外は触れることすら出来ない。
放たれたが最後、止める手段が存在しない。
この魔法とそれを行使する【大賢者】の存在こそ、王国が絶対不利とされなかった理由であり、王国の勝機である。
皇国軍はティアンも<マスター>も問わず、天から落ちる星に絶望したかのような悲鳴が聞こえた。
そして間もなく、皇国軍へと一発目の星が落ちようとして……。
『――GUUOOOOOO』
突如として、皇国軍の中から巨大な何かが出現した。
それは一〇〇メテルを超すほどの巨大な……怪獣だった。
落下する星の真下に現れた怪獣は、
『GAAAAAAHHHHH!!』
その両手を、空気の壁を容易く突き破る速度で振り上げ――星へと突き立てた。
訪れたのは一瞬の静寂と、直後に怪獣の動作によって生じた衝撃波。
そして、
――必殺の《イマジナリー・メテオ》が、木っ端微塵に粉砕された。
落下し、皇国軍を一掃するはずだった星は……一体の怪獣によって砕かれたのである。
「……なるほど」
己の奥義を粉砕された【大賢者】は驚愕も恐怖も浮かべず、ただ納得していた。
『生物にしか触れられない星ならば、星を砕ける生物を相手取ればこうもなるか』、と。
同時に、『劣化“化身”にも【大賢者】の力は通じないらしい』、と。
(やはり、“化身”と戦うならば決戦兵器を完成させるほか無し、か。可能ならば一号を完全な状態で……ふむ)
冷静に分析をしていた【大賢者】は、己の頭上に影が差したことに気づいた。
それは己の星を砕いた怪獣の影。
空までも跳躍し……自身を圧殺せんと降って来ようとしていた。
(……私はここまでだな)
短距離転移の魔法を使う時間は無く、防御魔法も紙同然であろうと即座に判断した。
ゆえに、【大賢者】は自分の生命を諦めた。
『クリスタル。ここまでの私の思考はモニターしているな』
『ハイ』
『では、後は任せる。今回の分析結果も含め、次に継げ』
『承知しました。一時のお休みを、九人目のフラグマン様』
『ああ。さらばだ』
彼が通信魔法で誰かと最後の会話を交わした直後。
怪獣の巨体に巻き込まれながら、【大賢者】は地上へと落下し、人と分からぬほどに砕け散った。
この日、王国で【大賢者】と呼ばれていた男は……確実に絶命した。
◇
そうして、第一次騎鋼戦争は王国の敗北で終わった。
百年を生きた【大賢者】は死に、騎士の頂点であった【天騎士】も死に、国王さえも死に果てた。
この戦いでは皇国の<超級>はいずれも名を上げた。
だが、その中でも最も畏怖されたのは星を砕き、【大賢者】を仕留めた【獣王】である。
それが“物理最強”。
【獣王】ベヘモットと、その<エンブリオ>である【怪獣女王 レヴィアタン】。
皇国の最強戦力にして、最も皇王に近しい<マスター>と<エンブリオ>。
それゆえ、皇国に勝とうとするならば……決して避けては通れぬ壁として立ちはだかる。
そして戦争の数ヵ月後、――王国の<マスター>達はこの一人と一体に相対していた。
◇◆◇
□■国境地帯・山岳部
それは低く、けれど巨大な轟きだった。
地平線の果てから果てまでを揺らすような、空気の振動。
まるで巨大な爆弾でも爆発したかのようなその音は、しかし火薬によるものではない。
巨大な何かを打ちつけあうような、激突音。
重なる土砂崩れの音が小さく聞こえるほどのそれは、二つの巨影によって為されていた。
講和会議の舞台であった議場から一〇キロ以上離れた地平線の先で、二つの巨影が激突する。
第一の巨影は、機械の巨神。
全身に火力の発射機構を備えた、兵器の一つの終着点。
しかし今は拳を握り締め、武術家の如くその力を振るう存在。
巨神の名は、バルドル。
【破壊王】シュウ・スターリングが<超級エンブリオ>の、戦神艦迫撃決戦形態。
第二の巨影は、怪獣の女王。
背にヤマアラシの如き棘を生やした、太古に滅びし恐竜が如き姿。
なれど四肢は如何なる怪物よりも隆々とした、暴力の権化。
女王の名は、レヴィアタン。
【獣王】ベヘモットが<超級エンブリオ>の、単独全力戦闘形態。
共に一〇〇メテルを超す巨大な両者は、山岳を破壊しながら互いの手足を叩き付け合う。
バルドルの巨拳が打ち合ったレヴィアタンの右手を砕けば、速度と手数に勝るレヴィアタンの左手がバルドルの胴を打つ。
真っ向勝負。純粋な暴力の激突を、神話と見紛う域にまでクローズアップした両者の激突は……地平線の果てまでも世界を揺らす。
(……やはり、単独でも今の俺とは五分に近いか)
バルドルを駆り、レヴィアタンと戦うシュウは相手の手応えに自らの予測が正しいと判断した。
現在のシュウが動かすバルドルと五分、ただそれだけで……レヴィアタンの規格外の程が分かる。
なぜなら、バルドルはかつて【グローリア】と戦ったときよりも遥かに強化されている。
《無双ノ戦神》によって戦神艦迫撃決戦形態へと変形したバルドルの性能は、シュウのSTRに応じたものとなる。
現時点のシュウの素のSTRは約一八万。
最も強化度合いの低いAGIですら九万に達し、ENDは一八万、そしてSTRは倍化して三六万という破格の数値に至っている。
HPも八桁に達し、純粋に殴り合うならば神話級であろうと相手にはならない。【魔将軍】のかつての切り札であった強化神話級悪魔でも対抗できない領域だ。
しかし、レヴィアタンはそのバルドルと……互角に戦っているのである。
<マスター>不在の状態で、必殺スキルを行使したバルドルと、である。
『GAAAAAAHHHH!!』
レヴィアタンの猛攻を受けたバルドルの装甲が軋むが、返す刀でバルドルの上段蹴り――木断がレヴィアタンの首に激突する。
並の神話級であればそれで首が外れてもおかしくはない一撃だったが、レヴィアタンは皮膚を破られながらも首の骨は健在だった。
人外の域どころか神話の域をも超えかねない戦いだというのに、両者の力が拮抗しているためにまるで人間同士の殴り合いのようにすら見える。
(……必殺スキルを使用したこっちと五分。その理由は、<エンブリオ>の方向性か)
戦いながら、シュウは彼我の戦力が拮抗している理由について把握していた。
<超級エンブリオ>である【怪獣女王 レヴィアタン】は、ことステータスにおいて最大のガーディアンだ。
なぜなら、彼女はステータス以外の全てを投げ捨てている。
<マスター>への補正はなく、<エンブリオ>としての固有スキルはなく、メイデンとして新たにスキルを学び覚えることもない。
唯一、<エンブリオ>が絶対に得ることになる必殺スキルだけを有し、他は全てのリソースをステータスに……HP、STR、AGI、ENDという物理的なステータスと肉体のサイズにのみ集中した。
なぜなら、それが彼女の<マスター>の願いの根幹だったから。
何もかもを撥ね退けてしまう純粋で物理的な力を、それで彼女を守る者をこそ求めていたから。
ゆえに、レヴィアタンは最大の力を持つ。
そのステータスの合計は、<マスター>として最大のSTRを誇る【破壊王】が、そのSTRを基準として発動した《無双ノ戦神》さえも上回る。
STRだけはバルドルが勝るだろう。しかし、HP、END、AGIはレヴィアタンが上回っている。
HPは二〇〇〇万を優に超えているであろうし、STR、END、AGIはいずれも二〇万に達しているだろう。
恐らくは、ただ移動するだけで国一つ滅ぼすことも容易い怪物。
それほどの領域に至った最大の理由は、リソースの一点集中である。
無限強化、強制弱体化、空間操作など、<超級エンブリオ>として本来持ちえるはずだった超常の力を一切持たず、ただステータスにのみ注ぎ込んだ結果。
物理的にこれを上回るガーディアンは存在しない。
メイデンの特性である強者殺しに相反するようだが、違う。
これもまた、強者殺しの一つの極致。
誰よりも強大であれば、あらゆる強者を殺せるという暴論の権化である。
むしろ、互角であることに驚愕すべきはバルドルである。
【破壊王】のバルドルは純粋ではない。
広域火力、弾薬製造、水陸両用移動、変形と多くの機能を抱えたがゆえに強化幅は小さく、純粋なステータスにのみ特化したレヴィアタンに必殺スキルを使ってもなお届かない。
多機能に過ぎるバルドルが、必殺スキルを用いたとはいえ純粋な力の権化に対抗できている方が、むしろ異常であった。
(異常なのは……<エンブリオ>ではなくその<マスター>)
人ならざる姿で暴力を振るいながら、レヴィアタンは内心で感心していた。
この姿になった自分とこれほどに打ち合えた存在など、彼女の知る限り二つしかないのだから。
(速度ではこちらが倍以上速いというのに、動きを読んで被害を抑えつつ打ち込んでくる。しかしそれは木っ端の技ではなく、純粋な力の最適な活用。なるほど、瞠目するとはこの事か)
レヴィアタンはそのことに驚くと共に、楽しみすら覚えていた。
互角ではあるが――むしろ彼女の方がダメージは多いと言うのに。
(このままいけば、今の俺でも勝てるが……)
シュウはこのまま戦った場合の彼我のダメージと結果を予想する。
総合ステータスで、バルドルはレヴィアタンに劣っている。
だが、相手に最も劣るAGIをシュウ自身の格闘センスと先読みで補い、逆に相手に勝るSTRでの打撃を的確に打ち込んでいる。
バルドルのボディにもダメージは蓄積しているが、より多くを受けているのはレヴィアタンだ。
この先、戦いの要所でバルドルに内蔵された各種兵装を使用すれば、より優位に戦闘を運べるだろう。
だが、レヴィアタンには現状、今よりも戦術の幅を増やす術はない。
なぜなら――レヴィアタンには単独で使用できるスキルが一つとして存在しない。
レヴィアタンは<エンブリオ>の中でも最大のステータスを持つ。
だが、あえて言おう。
レヴィアタンは<エンブリオ>で最大のステータスを持つが、決して最強ではない。
なぜなら、<エンブリオ>や<UBM>の強さとは固有スキルの強さ。
世界すら捻じ曲げかねない特異能力を前に、ステータスが極端に高いだけでは見劣りもする。
しかも通常のスキルさえ有していないのならば、ただの物理攻撃しかできないということだ。
古典的なRPGで言えば、ステータスがMAXでも『たたかう』しか使えるコマンドがないようなもの。手の打ちようはいくらでもある。
ゆえに最大のステータスを持っていても、最強には決してなり得ない。
「……ッ」
しかしこの戦場、押されているのはレヴィアタンであったが――焦燥を覚えているのはシュウだった。
シュウにしてみれば、一秒でも早くレヴィアタンを倒さなければならないのだから。
そうでなければ、最悪の結果になることを……シュウは知っていた。
『あちらは木っ端ばかりです』
怪獣の姿のまま、くぐもった声でレヴィアタンが言葉を述べる。
『ですが、あなたを抑えるためにベヘモットもギデオンから動けませんでした。きっと久しぶりの思いきり動ける機会を楽しんでいることでしょう』
「……そうかい!」
シュウはレヴィアタンの言葉に応じながら、バルドルの打撃を打ち込む。
『こちらもこんなに戦える機会は……本当に久しぶりです。ベヘモットの遊びが終わるまで、こちらも楽しみましょう』
ダメージを負いつつも、しかし倒されるまでにはまだまだ体力が有り余っているレヴィアタンは……笑っていた。
対照的な二人。
だが、その理由は同一。
【獣王】ベヘモットこそが、シュウの焦りの、レヴィアタンの余裕の理由。
【獣王】の<エンブリオ>であり、最大のステータスを持つレヴィアタンは、しかし最強ではない。
だが、彼女達に与えられた二つ名は……“物理最強”。
それが意味することはただ一つ。
最強の名が与えられたのはレヴィアタンではなく――。
To be continued
(=ↀωↀ=)<さらっと黒幕の一人の自白があった気がする……
(=ↀωↀ=)<あと三年目の最初の話が
(=ↀωↀ=)<主人公のレイ君不在でまたもクマニーサンだった件について
( ̄(エ) ̄)<♪~




