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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第六章 私《アイ》のカタチ

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303/716

第十八話 管理AI VS 管理AI 後編

( ̄(エ) ̄)<五巻発売記念連続更新クマー!


( ꒪|勅|꒪)<……中書きとあとがきで散々チェシャに出番がないことネタにしたのニ


( ꒪|勅|꒪)<こんなに出番あると逆に違和感あるナ

 □■とある装備の逸話


 かつて、王国の位置する西方中央部は乱世の中にあった。

 小国群による度重なる戦争。

 その渦中で生まれた【覇王】という規格外の強者による巨大国家の誕生。

 そこから始まった【覇王】、【龍帝】、【猫神】による三強時代。

 三強時代が【覇王】の封印と【龍帝】の死、【猫神】の失踪で幕を閉じた後の、再びの戦乱。

 後に【聖剣王】がアルター王国を建国するまで、この地から戦乱が消えることはなかった。

 そして戦乱の中では多くの兵器が生まれ、多くの戦術が編み出された。


 【死兵】を用いた特攻戦術もその一つ。

 爆弾を抱えた【死兵】奴隷を敵陣に突っ込ませ、守りを強行突破する戦術。

 しかしこの戦術には幾つもの欠点があった。

 HPがゼロになった後も動ける《ラスト・コマンド》であるが、それも手足が残っていればの話だ。

 戦場で死ぬほどのダメージを受ければ、動けなくなるほどの欠損を受けることはいくらでもある。

 抱えていた爆弾に引火してバラバラになった……などという笑えない笑い話もある。

 特攻戦術を使う国も、流石に「これはまずい」と考えた。

 奴隷を死なせることに倫理的な呵責はなくとも、資源的な損失は感じていたのだから。

 より効率的に、【死兵】の死を無駄なく利用して敵を殺さなければならないと考えた。

 『人の死を無駄にしてはいけない』などと、いっそ性質の悪いジョークのような話だったが、当時の士官達は大真面目だった。


 彼らに解決方法を提示したのは、一人の錬金術師だった。

 彼は超級職ではなく、ただの【高位錬金術師(ハイ・アルケミスト)】だった。

 超越的なスキルを持っていた訳ではなく、先々期文明の名工フラグマンのように人智を越えた大天才だった訳でもない。

 サブジョブとして【大死霊(リッチ)】を持っていたことだけが彼の特徴だろう。

 しかしそのビルドゆえか、……あるいはそんなビルドにするような人格ゆえか、彼は怨念の取り扱いが上手かった。

 怨念……呪いを含んだアイテムを作ることにかけては、当時の錬金術師の中でも最上位であったが……評価はされない。

 彼が作るものが、装備したものに【出血】と【呪縛】と【衰弱】を強いる【CBRカースド・ブラッディー・リジェネレートアーマー】など、通常用途の使用に耐えないものが多かったからだ。

 使用者を苦しませることにのみ特化したアイテム作成者。

 拷問器具の受注を主な仕事としていた彼だが、あるとき己の運命を劇的に変える発明をした。

 それは【石と金は等価ストーン・イコール・ゴールド】という、首輪の形をしたアイテムだった。

 錬金術師らしいと言うべきか、あらざると言うべきかを個々人の判断に委ねる名称のアイテムであったが、機能としては単純だ。

 装着者の絶命と同時に、最も身近にいる生物に呪いを飛ばす。それだけのもの。

 しかし死と引き換えの呪い――《無理心中》は凄まじく、格上の相手であろうと絶命か……そうでなくとも重篤な後遺症を齎す。

 石ころの如き奴隷の命で、金塊の如き敵の猛者の命を取ることも可能。【死兵】の無駄死にもなくなる。

 最も身近な相手を呪うのならば、【死兵】の間で呪殺が連鎖するのではないかという危惧もあったが、それは錬金術師が《無理心中》の対象外となるアクセサリーも開発したことで問題ではなくなった。

 特攻戦術を用いる士官達は、これで完璧だと錬金術師を褒め称え、早速実戦に投入しようと量産を決定した。


 しかし、【石と金は等価】が実戦に使われることはなかった。

 量産を決定した日の夜に、開発者である錬金術師と士官達が全員、何者かに殺されたからだ。

 加えて、幾つかは完成していた試作品と、開発のための資料も消え失せていた。

 結局、詳細を知る者がいなくなって資料もなくなったため、この発明は歴史の闇に消えていった。

 一体誰が関係者を殺し、完成品を持ち去ったのかも含めて……。



 なお、これは関係のない余談であるが、件の錬金術師……人馬種(・・・)の錬金術師は怨念の取り扱いに関しても資料を残していた。

 そちらは首輪の開発とは無関係な場所に保管されており、後年に彼の子孫が見つけることになる。

 その子孫は資料を元に死霊術師の道を進み、オリジナルの死霊魔法を開発していくのだが……それはまた別の話である。



 ◇◆◇


 □■国境地帯・森林部


 クロノの爆弾によって四人のトムが絶命した直後、彼らが装備していた首輪――【石と金は等価】が起動する。

 放たれた四つの呪いが、最も身近な生者であるクロノへと向かう。


「……!」


 クロノは爆弾を呪いの塊へと投じるが、爆発の中にあってそれらが影響を受ける様子はない。

 クロノは即座に、それが自身を追尾し続ける呪いの類であると理解した。

 同時に、爆発等のエネルギーや物理攻撃には反応を示さないものである、とも。

 クロノの速度と比すれば、浮遊してくる呪いはあまりに遅く、逃げ切ることは容易い。


(だったら……!)


 ぶつかる寸前にどこかの誰かを盾にして、擦り付けてしまえばそれで無力化できる。


「……ッ!?」


 だが、それはできない。


 ――もしも君が僕を倒さないうちに王国のティアンに手を出すようなら

 ――君のアバターを停止するようにアリスに話を取りつけてある


「……あいつ!!」


 クロノは理解する。

 トムのあの発言が自分を倒せと言うだけのものではなく、この呪いからの逃走を封じるためのものだった、と。

 もしも仮にティアンに出くわして呪いを擦りつけようとすれば、その時点でクロノの動きは停止して呪いの餌食になる。

 <マスター>ならば……とも思ったがこの付近にいるのは護衛の<マスター>ばかり。

 自然、近くには護衛対象のティアンがいる。

 ならばモンスターでも……と考えたが、気配がない。


(逃げた……いや、違う!)


 元より然程強いモンスターが多い地域ではなく、弱いモンスターは先刻からの爆音で逃げているのだろうと考えて、否定した。

 空気には、僅かに樹木のそれとは違う匂いが混ざっている。

 恐らくは何らかのアイテムが散布され、モンスターを除けていたのだろうとクロノは察した。

 この場所に呼び出したのはトム自身であり……即ちこの仕掛けが彼の手によるものであることの証左でもある。

 昼前にこの議場についたときではなく、昨晩……レイ達がアルティミアと相談をしているうちに単身でこの国境地帯まで訪れ、この森林に仕掛けを施していたのだ。

 分身を使えるトムならば王国の護衛から気づかれずに抜け出ることも、手分けして準備をすることも容易だ。

 全ては今日、ここにクロノを呼び出し、この状況に追い込むために。


(最初から、狙っていたのか……!)


 まるでそれが経験の差とでも言うように、トムはクロノを罠に嵌めていた。

 そして、罠はそれだけではない。

 逃走するクロノの周囲で、地面や樹木が弾け、空中に撒き散らされる。

 それを回避するためにクロノは軌道の変更と、減速を余儀なくされる。


「ッ!!」


 小さな石や木片。普通ならば何ということもないもの。

 しかしそれは、音速の二六倍で動くクロノにとってのそれは……体を貫通する脅威になりえる。

 ゆえにクロノはぶつからぬように軌道を変えるか、ぶつかっても耐えられる程度に速度を落とさねばならなかった。

 だが、速度を落とす度に呪いの塊は距離を詰める。

 その距離は次第に近づき、


「…………!」

 ――彼我の距離はゼロとなった。


 呪いの炸裂を示す黒い輝きが迸る。

 呪いは四度輝き、その効力を発揮した後に雲散霧消。

 直後に……クロノは地面へと倒れた。


 ◇◆


「…………」


 倒れるクロノを見て、隠れていた最後のトムが姿を隠したままクロノへと近づいていく。

 そのトムは【ノーバディ・ウィスパー】と共に、かつて【石は金と等価】と共に回収していた呪い避けのアクセサリーを身につけていた。

 呪いの対象をクロノから逸らさないために分身も使えなかったが、結果は成功。


(呪いは、確実にクロノに着弾した)


 クロノが制止し、地面に倒れこんでいるのがその証左。

 四発もの呪いは致命だったのか、その体からは光の塵が立ち上りはじめる。


(強引な手段ではあったけれど、これでクロノの暴走を止められたのなら……?)


 だが、トムは不意に違和感に気がつく。

 光の塵が立ち上っているが、クロノ自身の死体が中々消えない。

 管理AIのアバターといえど、消滅とリソース回収は<マスター>のそれと変わらないはずであるのに。


「――そこか、トム・キャット」


 直後、倒れていたはずのクロノの姿が掻き消えて――姿を消していたトムの周囲に無数の爆弾と【ジェム】が浮遊する。


「クッ!?」


 咄嗟に退避しながら、トムは自身の失敗を悟った。

 クロノの退路を塞ぐために設置しておいた爆弾で作った小石や木っ端の壁。

 地面に落ちたそれらが、姿の見えないトムの接近を報せるものとなっていたことに気がついたのである。

 無数の爆弾は姿を隠したままのトムの位置を正確に捉えていたわけではない。

 大まかな位置だけを頼りに、アイテムを連続で投じてその周辺を爆破せんとしたもの。


(けど、呪いは直撃したはず……! どうして無事に……?)


 回避行動をとり、分身を生じながらトムはその疑問について考えた。

 だが、答えが出る前に爆弾が一斉に起爆し……分身の全てが爆散する。


「……ッ!!」


 トムの内の一体だけはその連続爆発の中でも生存する。

 だが、そのトムも無事ではない。

 絶命を避けるために両手足を犠牲にして防御したため、もはや自力で動くのも難しい状態にまで追い込まれている。

 そんな状態のトムの眼前に、減速したクロノが立っていた。


「お前が僕を知っているように、僕もお前を知っているよ。お前の増殖分身は、存命中の分身の中で最も健常な状態の分身をベースに行われるから。……一体しかいないお前が両手足に傷を負っていれば、これから出てくる分身も同じだ」


 分身はまだ出せる。

 だが、その分身も今のトム同様に両手足が使用不能なほどのダメージを負っているため、戦闘行為は不可能に近い。

 改めて残りの【石と金は等価】を身につけることすら難しいだろう。


「……一体どうやって、あの呪いを回避してみせたんだい?」


 そう、問題はそれだった。

 確実に呪いはクロノに当たっていたはずだ。

 あれを無力化するような……それも四発も耐える装備は、それに特化した特典武具でもなければ難しい。

 その上、ジュリエットの遺した呪いによってクロノは装備を変更できない。

 ゆえに決して防げないはずであり、それゆえの問いだったが……クロノの答えは先刻まで自分が倒れていたところに視線を移すだけだった。

 しかし、それが全ての答えでもあった。

 クロノの倒れていた場所には……光の塵を立ち上らせながら消えていくものがあった。

 それは……。


「鳥の……死骸?」


 四羽の小鳥に似たモンスターの死骸が、地面に落ちていた。

 恐らく先刻は倒れたクロノ自身の体の下に置かれていたためにトムが気づけず、クロノ自身のアバターの消滅と誤認させられる要因となったもの。

 《無理心中》は最も近距離の生物に呪いを飛ばす装備スキル。

 それゆえに、人間範疇生物でなくとも自身より手前に配すれば盾に使える。

 だが、そもそもそれを防ぐために、野生のモンスターは予めトムが除いていたはずだ。

 ならばあの小鳥のモンスターは……どこから現れたのか。


「……マスターは本物の空に憧れて、鳥の歌も好きだった」


 そんなトムの疑問に答えたのは、クロノ自身の言葉だった。

 それは、過去を思い出す声音。

 末期の瞬間。【無限幻想】の見せた偽物の自然の中で、空を見つめ、小鳥の歌を聴いていた己の<マスター>をクロノは思い出す。


「だからそれに倣って、僕も小鳥を何羽か……【ジュエル】に入れて飼っていた(・・・・・)だけだ」

「……!」


 元より、クロノ自身がモンスターを飼っていた。

 それを着弾の寸前に【ジュエル】から解き放ち、呪いの対象を自分から逸らした。

 皮肉なことだ。もしも【ジュエル】から出したのが戦闘用のモンスターであれば、トムもすぐに異常に気づけただろう。

 小さく無力な小鳥だからこそ、呪いが外れたことにも、クロノがその死骸の消滅を自身のものと誤認させていることにも気づけなかった。


「……悪いことをしたと言うべきかな」

「いいさ、仕舞っているだけだったからね。……正直に言えば、僕には小鳥の鳴き声の良し悪しなんて、分からなかったから」

「…………」


 クロノの声は、『<マスター>の好むものを理解できなかった』という悔しさのようなものが隠しきれていなかった。

 だが、クロノはその感情を切り替え、冷たい視線でトムを見下ろす。


「……これで終わりだ。トム・キャット。何も出来ない分身を出して時間を稼ぐならそうすればいい。またばら撒いて、出てくる全てを燃やしてやる。君に随分と削られたけれど、まだそのくらいには残ってる」


 そう言って、クロノは両手をポケットから出す。

 懐中時計を握った両手の指の間に、幾つもの【ジェム】を挟みながら、トムを見下ろす。


「…………」

「さよなら、【猫神】トム・キャット」


 そう言って、クロノは【ジェム】を倒れたトムの上に撒いた。


 To be continued

( ̄(エ) ̄)<今回のエピソード、地味に五巻収録の『衣替え』ともリンクしてるクマ


( ̄(エ) ̄)<そんなわけで五巻発売中クマ!


( ꒪|勅|꒪)<宣伝乙

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― 新着の感想 ―
たしかにこういう主人公以外の話も需要はありますが、多すぎる気がしますね。 多分今はプロとなってるみたいなので編集さんから言われてるでしょうが、基本的に物語というのは主人公のみの一人称で進めるものです。…
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