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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第六章 私《アイ》のカタチ

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第九話 講和会議へ

(=ↀωↀ=)<新作ラノベ総選挙2017の一位受賞記念の緊急不意討ち更新


(=ↀωↀ=)<昨晩作者が夜なべして書いたストックを放出だー!

 □【聖騎士】レイ・スターリング


 講和会議前日。俺達は王都の騎士団詰所の練兵場に集まっていた。

 護衛に参加する<マスター>はここに集合し、アズライトや講和会議に参加する文官と合流する手筈になっている。

 だが、所定の集合時間まであと一〇分というところになって、奇妙なことに気づいた。


「レイ、これは……」

「……少なすぎる」


 練兵館には三七人の<マスター>が集まっている。

 俺達……<デス・ピリオド>がレイレイさんと、折悪しく参加できなかった霞達を除いて五人。

 しかしそれ以外の三二人は女化生先輩と月影先輩、そしていずれも『三日月と閉じた目』のマークを装備につけた……<月世の会>のメンバーだ。

 その二つのクランのメンバーしか、この場にはいない。


「……狼桜の姿も見えませんね」

「んー、有名どころのランカーもほとんどいませんねー。ボクの情報だと予定人数の三分の一くらいです」


 そう、先日参加すると聞いていた決闘ランカー達もこの場にいない。


「何かあったのか?」

「レイさん。ボクがひとっ走り<DIN>まで行って情報受け取ってきましょうか?」


 何があったのかを確かめる必要はあったので、マリーに頼むべきか……。

 そう考えていると、騎士や文官を伴って練兵場に見知った人物が三人現れる。

 まず、俺達をここに集めたアズライト。

 次に、かつて狼桜に襲撃された時に顔を見た覚えがある俺と同年代くらいの<K&R>のメンバー……たしかトミカという名前の女性。

 そして最後の一人は……全身に自然回復を促す【薬効包帯】を巻いた仮面の男性。


 決闘ランカーの、ライザーさんだった。


「ライザーさん!?」

『レイ君……、君達は無事だったか……良かった』


 複数の傷痍系状態異常にかかっているのか、ライザーさんは歩くのも難儀そうであり、騎士が肩を貸している。


「その傷は……」

「彼の傷。そしてこの場にこれだけの人数しか集まっていない理由について、私の方から話させてもらうわ」


 アズライトはそう言って、練兵場に集まった俺達に事情を話し始めた。


 その内容は驚くべきものだった。

 昨晩ログイン中だった<マスター>が連続して襲撃を受けたらしい。

 襲撃を受けたのは全員が護衛依頼を受けていた<マスター>。

 ライザーさんも襲撃を受け、相手の置き土産の爆発物で死に掛けたものの、【救命のブローチ】が発動したこともあってギリギリで生存できたそうだ。

 その後は回復アイテムで生きながらえ、付近の住民に国教の教会まで運ばれて治療されたらしい。

 トミカの方は狼桜と共に襲撃を受けたものの、彼女だけは辛くも王都まで逃げ延びた。

 また、国境付近の村でも夜のうちに戦闘音が聞こえ、待機しているはずの<マスター>の姿が見えなくなったらしい。

 そしてライザーさんとトミカの証言によれば、襲撃犯は同一人物であったらしい。

 兎の耳を生やし、金属製のブーツを履いた少年。

 その特徴が述べられたとき、俺の隣にいた兄が声を上げた。


『……【兎神】、クロノ・クラウンだな』

「知っているのか、兄貴?」

『ああ。俺がまだ<超級>じゃなかった頃に戦ったことがある。準<超級>を始めとした、第六形態の<マスター>を狩り続けているPKだ。……あいつなら、<マスター>を何十人と闇討ちしてみせても不思議じゃない』

「……兄貴が戦ったときは、どうなったんだ?」

『決着がついていたのか、ついていなかったのかも分からん。俺も相当にダメージを負ったが、こっちが罠に嵌めた後は追撃がなかった。ただし、それがデスペナルティだったのか、退いただけだったのかは今も不明だ。あれから会ってもいないしな』


 ……<超級>でなかったとはいえ、兄を相手にそこまでやる相手。

 そのときから強くなっているとすれば、それは恐ろしい強敵であるように思えた。


『だが、手の内はある程度割れてる』


 そう言って、兄が知る限りの【兎神】の能力や戦法、そして攻略法(・・・)……と呼べるかは難しいものまでを聞くことができた。

 ただ、兄からの情報を整理すると、恐らく俺との相性はあまり良くはない。

 兄を除けば……先輩やマリーならばあるいは、といったところだろう。


『……っとあいつの戦力についての情報はこんなところだが、戦力以外でもヤバイ情報があるクマ』

「ああ。それ、ボクもどこで言おうか迷ってました」


 兄とマリーはそう言って、続く言葉をどこか言いにくそうに発言した。


『【兎神】クロノ・クラウンは……皇国に所属するPKだ』

「……あと、今回の講和会議に皇国側の護衛として交ざってます」


 それはつまり……。


「こちらの護衛を削いだのは、皇国の指示ということ?」

『かもしれないが……独断の可能性もある。なにせ、普段から第六の<マスター>を狩って回っている奴だ。護衛依頼で王国側の<マスター>の動きがある程度絞れたから、良い機会だと襲撃を仕掛けたのかもしれん。以前も第六の<マスター>を狙うことそのものが目的で、他に何をする訳でもなかったからな。むしろ、「護衛依頼を受けていることに違和感がある」とさえ言えるぜ。しかし、仮に襲撃そのものも皇国の指示なら……』

「皇国は、王国側の護衛を減らす必要があったということね」


 ……講和会議そのものの雲行きが怪しくなったな。


『……だが、皇国の思惑だとするなら露骨に過ぎる。襲撃者を護衛メンバーに抱え込んでいることには違和感しかない』

「その件は皇国側の使節団に《真偽判定》を絡めて問いかけてみましょう。指示を出したのなら、それで分かるわ。それよりも今の問題は……」

『減った護衛をどうするか、だな』

「ええ。仮に罠だった場合、対応力に大きな違いが出てしまうから」


 罠だとすれば、ライザーさん達を打倒した【兎神】を含む皇国側のメンバーが牙を剥くだろう。


「お兄さんはその【兎神】が襲ってきても対応できますか?」


 ルークの問いに、兄は沈黙した。


『……九割方、勝てる手はある。だが、俺はそっちには対応できない。もしも皇国との戦闘になるなら、俺は……【獣王】と戦うので手一杯だろうさ』


 ……そうか。

 皇国側にいるのは【兎神】だけじゃない。皇国に雇われた多くの<マスター>、それに“物理最強”とまで言われる【獣王】や、あの悪魔軍団を率いる【魔将軍】も護衛メンバーとして参加しているとマリーが言っていた。

 兄が【獣王】を相手取るのなら、【兎神】や【魔将軍】は俺達で戦わなければならない。


「…………」


 今回、【紫怨走甲】の貯蔵は十分。デメリットはリスキーだが《瘴焔姫》は使える。

 加えて、【黒纏套】のチャージも完了している。

 カウンター・アブソープションのストックも万全。

 ジョブも【死兵】のカンストを終え、汎用スキルである《看破》を取得するために【斥候】のレベルも上げた。

 メインジョブは、それらの汎用スキルを含めた現在持っている全ジョブスキルが使用可能な【聖騎士】に戻している。


 何よりネメシスの第四形態……上級への進化もあった。


 準備と言うのならば、かつてないほどに準備はできている。

 しかしそれでも……「問題がない」とは口が裂けても言えない。

 どこか……心にへばりついて離れようとしない不安がある。

 その理由が何かは……俺自身にも分からなかった。


 ◇


「まだ戦闘になると決まったわけではないけれど……厳しいわね」


 やはり護衛メンバーを【兎神】に削られたままの現状はまずく、このまま講和会議に向かうことは問題があるとアズライトは言う。

 そんなとき、女化生先輩が手を上げた。

 それも和装らしい静々とした感じではなく、授業中に上げるような勢いの良さで。


「……なにかしら?」

「戦力足りひんのやったら、<月世の会(うち)>から何十人か追加で呼んどこか? 借金の棒引きは増やしてもろうけど」


 その申し出に、アズライトはこめかみに手を当てながら何事かを考え抜き……。


「…………お願いするわ」

「おおきにー♪」


 結局、苦虫を噛み潰すような表情で女化生先輩の提案を受けていた。

 背に腹は代えられないということだろう。

 ……しかし<月世の会>は宗教組織であるものの、だからこその廃人集団。

 所属する上級戦力の数で言えば、各国でもぶっちぎりだと聞いている。

 こういうときには頼りになる集団だ。


『扶桑月夜、私からも頼みがある』

「なんやのん? ライやん」


 そのとき、ライザーさんは女化生先輩に頭を下げた。

 ライザーさんを呼ぶときの「ライやん」という呼び方に、少しの意外さを覚えた。


『私を君のスキルで治療してくれ……! このまま一人、臥せっているわけにはいかない……!』

「…………」


 ライザーさんの声には悲痛さが混ざっていた。

 それはきっと、デスペナルティになってしまったビシュマルさんを始めとした決闘ランカーの仇を討ちたいという思い。

 そして何より王国を守るために戦いたいという思いからのものだろう。

 そんなライザーさんの懇願に、女化生先輩は頷いた。


「ええよ。治したる」

『恩にき……』

「でも、護衛にはついてきたらあかんよ」


 ライザーさんの頼みを了承してから……きっぱりと扶桑先輩はそう言った。


『なぜ……』

「それ、あんたが一番わかっとるやろ? あんた、<エンブリオ>が完全に壊れてるやん。うちの《聖者の慈悲》は体の傷を治せても、破壊された<エンブリオ>までは治せへん」

『だが、この身一つでも……!』

「<エンブリオ>のない<マスター>がどれだけの戦力になると思うとる? しかも、あんたは<エンブリオ>前提のビルドやろ。それでついてこられても足手まといや」

『…………』


 ライザーさんは俯くが、反論の言葉はない。

 ……扶桑先輩の言葉は厳しく、冷たいようにも思える。

 けれど、普段の扶桑先輩よりもずっと真面目に、言葉を発しているのが分かるから。

 俺には何も言えなかった。


『…………分かった。ついていくことはしない。それでも、治してくれ』

「理由も、一応聞こか?」

『有力な<マスター>のほとんどは、講和会議の護衛に赴く。王都に残るはずだった<月世の会>の予備人員まで出るなら尚更だ。……ならば、その間に王都を守る戦力も、今は足りないはずだ』

「…………」

『護衛についていけないのならば、自分にできるところで力を尽くす、それだけだ』

「…………ほんに、<バビロニア戦闘団>のメンバーは頑固な人が多いわ」


 扶桑先輩はそう言って溜め息を吐き、それから「《聖者の慈悲》」と宣言してライザーさんの傷を癒した。


『ありがとう……。この対価は』

「要らへん。あんたらには借りがぎょーさんあったから、それを少し減らしたことにするわ」

『……恩にきる』


 そう言って、ライザーさんは深々と頭を下げた。

 扶桑先輩はそれからあえて目を逸らしているようだった。

 それは、今までに見たことがない扶桑先輩だった。


「…………」

「月夜様がああした態度を取ることが不思議ですか?」

「……月影先輩」


 気づけば、俺の後ろにはいつの間にか月影先輩が忍び寄り、小声で話しかけてきていた。

 扶桑先輩はこちらの動きに気づく様子はなく、通信魔法のアイテムで本拠地と連絡を取っているようだった。


「……そう、ですね。先輩なら……なんというか、もっと容赦のない感じだと思いましたけど」

「月夜様は彼らに……<バビロニア戦闘団>に借りがあると思っていますからね」

「借り?」

「あの【グローリア】の事件でのことです」


 かつて王国を襲った【三極竜 グローリア】。

 討伐の当初、<月世の会>は王国との交渉が長引き、戦線に参加していなかった。

 その間に、王国の都市を守るために戦線に立ったのが第二位のクランだったライザーさんの所属する<バビロニア戦闘団>。

 けれど、結果として<バビロニア戦闘団>は敗れ、本拠地である都市も失い、クラン自体も崩壊してしまったのだという。

 ティアンとの交流が深いクランでもあったため、その敗戦で失ったものが大きすぎたのだ、と。

 それに関して、「最初から<月世の会>が参戦していれば……」という声もないではなかった。

 また、扶桑先輩自身も普段はそんな素振りは見せないが、そのときのことは気にしているらしく……先ほどの行動もそれが理由であるらしい。


「…………」

「意外ですか?」

「……はっきり言えば、そうです」


 普段からは想像もつかない。

 けれど……そうか。

 あの日のトルネ村で俺の傷を治してくれたのも、扶桑先輩だった。


「月夜様は、月のようですからね」

「え?」

「見え方ごとに……魅力ある御方なのですよ」


 そう言う月影先輩は、扶桑先輩を見ながら穏やかに微笑んでいた。


 ◇


 一〇分ほどして、練兵場には五〇人もの<月世の会>の<マスター>が追加で並んでいた。扶桑先輩が連絡してから駆けつけるまでの速さは、流石トップクランと言うべきだろう。


「これで、護衛の戦力の大半は補填されたわね」

「うちのメンバーも結構強いから頼りにはなるえ。……まぁ、一人一人は決闘ランカーと比べたら格落ちするのは否定せーへんけど」


 かつての封鎖テロで<K&R>を相手取った時、《月面除算結界》の効果圏内で狼桜がメンバーを倒して回っていたことを思い出した。

 やはり個人戦闘に特化した決闘ランカーの実力は、普通の<マスター>とは比較にならないのだろう。


「できれば、もう一人くらい決闘ランカーがおるとええんやけど……。あ、カシミヤってまだログインしとらへんの?」


 扶桑先輩の問いかけに、トミカは首を振った。 


「オーナーはまだ……。今日明日はログインできるかわからないと言っていたので、多分こんなことになってるのも知りません……」

「そか。ほならログインしてきたら連れてきてほしいんやけど」

「はい! きっと、オーナーなら姐さんの仇をとってくれるはずですから……!」


 カシミヤか……。

 フィガロさんがログインできない今、決闘ランカーの中では最有力だったけれど……参加できるかは現状では未知数。

 カシミヤ以外に残っている決闘ランカーも……一人だけいる。

 でも、あの人はきっと……。


「――決闘ランカーをお捜しかなー?」

 そのとき、練兵場に聞き知った……けれど来るはずのない人の声がした。


 声に振り向けば、そこには頭上に巨大なネコを乗せた青年が立っていた。

 その人のことを、俺はもちろん知っていた。


「トム、さん?」

「【猫神】トム・キャット……?」


 俺とアズライトの声が重なる。

 トムさんは周囲の視線を受けながら、アズライトの前に歩いていく。


「カルチェラタン以来だねー、陛下。ところで、飛び入りで護衛に参加はできるかなー?」

「ええ……。けれど、アナタには一度断られたはずだけど……」

「……少し事情が変わってねー」


 どこか曇りかけたトムさんの表情。

 変わった事情が何かを考えて……昨晩起きたばかりの襲撃事件を連想した。


「それはもしかして……【兎神】の?」


 俺がそう言うと、トムさんは驚いた様子で俺を見た。


「……ああ。彼とは少し因縁があってねー。彼が、護衛に参加する王国の<マスター>を闇討ちしたことは知っているよー。彼が皇国側に護衛としてついていることもねー」


 トムさんは、何かを決意するように拳を握り締めていた。


「だから、もしも皇国と戦うことになるのなら……クロノとは僕が闘うよ」

「トムさん……」


 トムさんと【兎神】の間に何があったのかを、俺は知らない。

 運営側と噂されるトムさんが、この護衛に参加するほどの事情があるのかも、知らない。

 けれど、トムさんが普段は前髪に隠しているその目が……真剣な輝きを見せていることは俺にも理解できた。


「……決まりね」


 アズライトは練兵場に集まった<マスター>達を見回して……頷いた。


「このメンバーで、講和会議に向かうわ」


 アズライトの宣言の後、俺達は講和会議へと出発した。









 ◇◇◇


 【聖剣姫】アルティミア・アズライト・アルター。及び文官三人。

 【女教皇】扶桑月夜と【暗殺王】月影永仕朗。<月世の会>のメンバー八〇人。

 【猫神】トム・キャット。


 そして、<デス・ピリオド>のメンバー。

 【鎧巨人】バルバロイ・バッド・バーン。

 【絶影】マリー・アドラー。

 【亡八】ルーク・ホームズ。

 【破壊王】シュウ・スターリング。

 【聖騎士】レイ・スターリング。


 総勢九二名は、講和会議の開かれる国境地帯へと向かう。

 その地で何が起きるかを、未だ知らないままに……。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<ちょっと本編で臨時出張行ってきます


( ꒪|勅|꒪)<行ってらっしゃイ


( ꒪|勅|꒪)<はいいとしテ……


( ꒪|勅|꒪)<……ネメシス進化してんのかヨ!?


(=ↀωↀ=)<うん


(=ↀωↀ=)<転職後のレベル上げ期間中にね


(=ↀωↀ=)<そのときの描写は後に回想でー

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[一言] お兄ちゃんに代理ぶにゃあされた腹いせ説
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