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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第六章 私《アイ》のカタチ

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第二話 <戦争結界>

 □【煌騎兵】レイ・スターリング


「そういやさ。さっき講和会議がどうとか言ってたけど、ビースリー達も参加するってことかい?」


 次のジョブが決まった後、狼桜がそんなことを質問してきた。


「ええ。……その口振りだと狼桜も参加を?」

「ああ。アタシもランカーの一人だから打診は来てたしね」


 今回の依頼には、もちろん俺達のパーティ以外の<マスター>も参加する。

 決闘ランカーの知り合いではジュリエットとチェルシー、ライザーさんとビシュマルさんが参加すると聞いている。

 アズライトに聞いた話では女化生先輩と月影先輩も参加するそうだ。何でもハンニャさんの事件で出来た借りの一部を早速返済させる心積もりらしい。

 さらに今回は兄も参加する。最近はギデオンからあまり出たがらなかった兄の申し出を疑問には思ったが、それでも兄が傍にいてくれるならば心強い。

 この時点で、王国側の布陣は強力だ。先輩も『前回の戦争よりも戦力は揃っていますね』と言っていた。

 ただ、不在の人もいる。

 フィガロさんは先日のプロポーズ後にリアルで発作を起こし、入院中のため参加できない。ハンニャさんもフィガロさんにリアルで付き添っているらしく、こちらにログインしている様子がない。

 レイレイさんは元々ログインが不定期な人なので、今回も不在だ。

 結果として、<超級>の参加は五人中二人となった。


「カシミヤは?」

「ダーリンはちょうどその日に家の用事があるらしいからね。時間までにログインできるか分からないみたいさね」


 フィガロさんと並んで王国最強格の個人戦闘型であるカシミヤの不在は痛い。

 だがレイレイさん同様、そのタイミングでデンドロ内にいられないのは仕方のない問題でもある。

 また、トムさんも諸事情で参加できないと言っていた。

 あの人は「運営側ではないか?」という噂が前からあるらしいので、その柵なのかもしれない。


「狼桜が参加となると……私と狼桜、それに<超級殺し>の共同戦線になりますね。……三月の王都を思い出します」


 そういえばここにいる三人は、あの封鎖事件の中心人物だった。

 かつて何らかの陰謀で王国と敵対していた三人が、今度は揃って王国を護るために戦う。

 そう考えると、多少の感慨深さもある。


「残りのアイツ……<ゴブスト>のエルドリッジはどこに行ったのかねぇ」

「あ。<DIN>の方にちょっと情報入ってますよー。あの事件の後は【尸解仙】迅羽、【地神】ファトゥム、【大提督】醤油抗菌、【斬神(ザ・セイバー)無量大数(むりょうたいすう)沙希(さき)と、各地の<超級>と戦いながら転々としていたそうです」

「最後の人は初めて聞いたけど……すごくスケールの大きい名前だな」


 無量大数(一〇の六八乗)って……。


「ボクも最初に聞いたときはそう思いましたねー。ちなみに苗字はともかく名前の沙希は本名だって前に言ってましたよ」

「マリーの知り合いなのか?」

「あっちでの修行時代の知り合いですよ。今は天地の<超級>ですしねー」


 天地か……。大陸挟んで反対にあるせいかあっちの<超級>の話ってあんまり聞かないんだよな。


「“応龍”、“魔法最強”、“人間爆弾”、トドメに“断界”か。……エルドリッジの奴、何でそんなやばい相手にばっかり喧嘩売ってんだい? もうちょっと慎重な奴じゃなかったか?」

「あの事件をきっかけに私達の<凶城>が解散しましたが、<ゴブリンストリート>の方も痛手が大きかったのでしょうね。それをカバーしようとして、敗北を重ねてしまったのでしょう。……自分の苦手な相手とばかり戦ってしまっているのがその証左です」

「彼がいれば、また戦術の幅も広がるんですけどね。得意な相手にはとことん強いタイプですし」


 逆を言えば、それだけの<超級>と戦い続け、挑戦し続けてきた人ということか。

 以前聞いた戦術の件といい、やはり【強奪王】エルドリッジは猛者に違いない。


「まぁ、アイツのことはいいさ。なんにしても、次の仕事じゃお仲間だ。前は殺りあった仲だけど、仲良くしようじゃないか」

「そうですね」

「ああ。よろしく頼む」


 そんなことを話して、握手を交わした。

 狼桜も気の良い人ではあるんだよな……PKで猪突猛進だけど。


 ◇


 □【死兵】レイ・スターリング


 その後、俺はすぐ【死兵】に転職した。【死兵】は転職条件もなく、ほとんどのクリスタルで転職可能な汎用職だったため転職は簡単だった。

 そうして今は、パーティで少し遠出してレベル上げ中だ。

 俺とルーク、【記者】にジョブ変更したマリーと【盾巨人】に変更した先輩、あとの二枠はマリリンとオードリー。レベル上げするときは概ねこんな編成でやっている。


「そういえばマリリンとオードリー、最初に見たときより大きくなってないか?」

『太ったのか?』


 ネメシスの言葉に、マリリンとオードリーは『VAMOO』や『KIEE』と鳴いて抗議する。性別はメスらしいので、「太った」という言葉がNGだったのかもしれない。


「マリリンもオードリーもかなりレベルが上がっていますからね。その内に種族が変わるのかもしれません」


 ルークはそう言ってマリリンとオードリーの首を撫でている。

 そういえば以前、『モンスターは個体によってはレベルアップにともなって種族まで変更されるものがいる』と聞いたことがある。

 モンスターをボールに入れて育てる長寿RPGみたいな話だが、<UBM>の一部はそうしてモンスターが強くなっていった結果であるらしい。

 今は亜竜クラスの二匹ももっと上のクラスになるかもしれないということか。


「二週間後の講和会議までに成長できていれば、僕も戦術の幅を広げられますが……間に合うかは分かりませんね」

「そっか」

「でもレイさんが頑張ってますし、僕も出来るだけ強くなっておきます」

「ありがとうな、ルーク」


 でもレベルではお前が倍以上なんだよ。

 ……俺ももっと頑張ろう。


「ところでレイさん。二週間後の講和会議に焦点を合わせているみたいですけど、話がそこで終わらないのは分かってます?」


 竜車の荷台に座りながらマリーがそんな言葉を投げかけてくる。


「ああ。二週間後の講和会議で何かが起きたなら、そのまま戦争にもつれこむ公算が高いって話だろ?」

「そのとおりです。あ、戦争中の特別仕様……<戦争結界>の話は知ってますか?」

「知ってる。フランクリンの事件の後に調べたからな」


 ◇


 戦争は戦争当事国の国家元首が、同意の上である仕組みを起動することで始まる。

 それは<戦争結界>とも呼ばれ、発動と同時に戦争当事国の領土に、そしてデンドロ全体にある特別仕様を施す。

 その特別仕様は、大きく三つ。


 一つ目は、『<マスター>の戦争当事国でのログイン制限』。

 戦争中、戦争当事国において<マスター>は各国のランキングで三〇位以内の者しか入ることができない。

 戦争中は国境を目印に結界が展開され、ランキング外の<マスター>は締め出される。<戦争結界>の起動時に国内にいたとしても、強制的にログアウトとなる。

 討伐や決闘のランキングは人数が限られるが、クランランキングに入ったクランに戦争期間中だけでも属していれば、弾かれることはなくなる。

 この仕様の狙いは二つある。

第一に、被害の縮小。

 ランキング制限がなければ必然的に戦争に参加する<マスター>は増大し、両国共に戦争で受ける被害も増大する。それを抑えるためというのが理由の一つだ。

 ただしこの仕様では戦争当事国以外のランカーも、戦争当事国に入ることができる。

 実際、前回の戦争においてカルディナがドライフにランカーを送り込んでいる。

 第二の狙いは、犯罪の防止。

戦争に乗じて犯罪を行う<マスター>を弾くためだ。

 例えば有名な<IF>というクランのメンバーのように、国際指名手配されているような<マスター>は国に属しておらず、必然的にランキングにも入っていないため、戦争中は結界によって弾き出される。

 この仕様によって戦争中に各地で犯罪を起こされることを防いでいるのだという。

 これに関しては普段からすればいいのではとも思うが、<戦争結界>を連続起動できる時間に限りがあるらしく、出来ないらしい。


 二つ目の特別仕様は、『内部時間の増大』。

 通常、デンドロ内部はリアルの三倍の時間で経過するが、戦争中は三〇倍(・・・)に加速する。

 これはデンドロ全体に適用されるので、戦争当事国以外の<マスター>にとってはボーナスタイムに近いものであるらしい。

 しかし、一日で一ヶ月の時間が経過するということの意味は非常に重い。

 <戦争結界>を連続使用できるのもデンドロ内の時間で一ヶ月が限度なので、戦争は一ヶ月……リアルの一日の間に決着がつくことが多い。

 同時にそれが意味するのは……「戦争中にデスペナルティになれば、戦争中には再ログインできない」ということだ。

 戦争中は、落ちた時点でもう戦争には戻ってこられない。

 途中で死ねば、もう戦争が終わるまで出来ることはなくなってしまう。


 三つ目の特別仕様は、『勝利条件』。

 起動の際に両国は勝利条件と要求を提示する。

 勝利条件を先に達成した方の勝利であり、敗れた側は相手の提示した要求を呑まなければならない。

 これは以前聞いた最高クラスの【契約書】を上回るものであり、反故にすれば戦争で全土を滅ぼされるよりも惨い結果が待つと言われている。

 もっとも、これは戦争での過剰な破壊を防ぐセーフティのようなものでもあるし、……公平を期するものでもある。

 【契約書】や『勝利条件』の仕様があるためにリアルの戦争よりも騙しや反故が少なく、真っ向勝負になるのがデンドロの戦争であるらしい。あるいは、そのように仕組まれているのか。

 しかし、戦争の肝となる勝利条件の提示には一定のルールがある。

 一方が難解な勝利条件を掲げた場合、もう一方も同等程度の難易度を設定しなければならない、というものだ。

 前回の戦争では皇国が『王都の陥落』という重い条件を掲げたために、王国も『領地内から皇国軍を完全に退ける』という重い条件で合わせなければならなかった。

 結果として、前回の戦争で皇国は旧ルニングス領を奪取したもののカルディナの介入で王都までは届かず、王国は皇国軍に敗れていたために領土から退けるという条件を達成できなかった。両者共に勝利条件を達成できず、ドローで停戦を迎えた。

 しかしこれに関して、『皇国はあるいは最初から次善の策まで考えてこの勝利条件を設定したのではないか』と言われている。

 何らかの理由で勝利できなかったとしても、王都までの途上にある旧ルニングス領を獲得して終わるために。

 余談だが、一方が「<戦争結界>を途中で解除してしまった場合」も自動的に相手側の勝利となるらしい。だから真っ当な勝利条件と、どうやるのかは不明だが<戦争結界>の解除、その両方を狙うこともありえるそうだ。


 もちろん<戦争結界>を起動せずに戦争をすることも出来るだろう。

 けれど、その先に待つのは「どこまで戦争を続けるか」の線引きすら失われた総力戦。

 また、ギデオンでフランクリンが起こした事件や、カルチェラタンで【魔将軍】が起こした事件のように、民間の人々も数多巻き込まれ……犠牲となることが目に見えている。

 それゆえにデンドロの歴史上でも、まるでゲームのような『勝利条件』付の<戦争結界>を使用してきたらしい。

 そして、仮に講和会議で両国が決裂したときは、時期を申し合わせた上で<戦争結界>を使用することになるだろう。


 ◇


「では、戦争になる場合の私達の最大の問題は何だと思いますか?」

「……誰もランカーじゃないことだな」


 仕様の一つ、『<マスター>の戦争当事国でのログイン制限』によってランカー以外は戦争当事国である王国と皇国に滞在できない。

 そして俺達は誰一人としてランカーではないため、このままでは纏めて弾き出されてしまうだろう。

 しかし、今からランク入りするのは難しい。

 モンスター討伐の累計ポイントを競う討伐ランキングは広域殲滅型や古参<マスター>の独壇場。

 決闘はランカーと順位を賭けて勝てばいいが、そもそもランキング最下の三〇位に挑戦するまでに決闘で一定以上の成績を収めなければならない。

 必然、討伐と決闘は時間が足りない。

 そうなると、残された道はクランランキングだけだ。


 クランランキングは、メンバー全員分の『これまで達成してきたクエスト難易度』を集計し、順位付けしているらしい。

 それも単純に集計するのではなく難易度に応じたポイント制で、難易度が高くなるほどポイントも高くなるそうだ。

 たしか、難易度一で二ポイント、二で四ポイント、三で八ポイントと倍々に増えていき……途中省略して、九が五一二ポイント。

 そして最高難易度の一〇のポイントはその都度ごとに変動するが、最低でも一〇二四〇(・・・・・)ポイントであるらしい。


『……のぅ、その数字の法則性からすると一〇は一〇二四ではないのか? 桁が違わぬか?』


 俺もそう思わないでもないが、どうもクエストの難易度の一〇は難易度もポイントも跳ね上がる仕様だそうだ。

 なお、ポイントはクエストをクリアするために関わった人間の人数で割り、それぞれに均等に配布される仕組みらしい。

 ソロで難易度一〇をいくつもクリアすればそれだけでクランランキングに入れるとまで言われているが、そんな人はほとんどいないだろう。

 クランランキングに入るクランというのは、大抵の場合は沢山の人数でクエストをこなしたクランだ。中には精鋭で八や九などの高難易度クエストを解決していくクランもいるらしいが、少数派と言える。

 王国の一位が女化生先輩の<月世の会>であるのも納得だ。人数が最大の上に、そのほとんどがデンドロこそをリアルと考える廃人集団である。むしろ一位でない方がおかしい。

 戦争になりそうな今などは、ランキングに入るためにも一時的なメンバーを募集するクランも多くそれによって順位が変動することもあるが……、それでも<月世の会>の一位は不動だろう。

 ちなみに、ランキングはリアルの一ヶ月、こちらの三ヶ月ごとに更新となるが、次のランクの発表日はこちらの時間で一週間後だ。

 ちょうど戦争に繋がるかもしれない講和会議の前なので、ギデオンの市街でもクランのメンバー募集が増えている。

 なお、前回の皇国では、戦争参加目当ての一時的メンバーは自分の加入したクランが入れなかった場合、見切りをつけてランキング内のクランに移動したりもしたらしい。

 それがアリなので、戦争前にランキング内のクランにさえ入れれば参加は可能だ。


「今から討伐や決闘でランカーになるのは難しいので、戦争になったときはクランに一時加入して参加することになると思います」

「まぁ、それしかないでしょうね。ボクとビースリーでも、実力はともかくモンスター討伐や決闘には精を出していませんでしたから」

「……<凶城>が健在だった頃ならクランランキングの下位には入っていましたが、今はどのランキングにも入っていませんね」


 そうか。<K&R>がクランランキング上位にいるのだから、同格のPKクランだった先輩の<凶城>もランキングには入っているのか。


「会長の<月世の会>に間借りしますか? 頼めば加入させてくれると思いますよ?」

「それは……正直避けたい」


 思いっきり借りを作ることになりそうだし後が怖い。


「他に知り合いでは……カシミヤの<K&R>もランキングに入っていますが、あれは実質的にはカシミヤとそのファンクラブだから難しいですね」


 ……PKクランなの差し引いても、女化生先輩のところよりは良さそうなんだけど駄目か。


「とりあえず、前からチェルシーのクランに間借りさせてもらう話はしてたから、そっちを当たります」

「ああ。<黄金海賊団>ですか。それなら安心ですね」


 <黄金海賊団>は、決闘ランキング八位の“流浪金海”チェルシーがオーナーを務めるクランだ。

 彼女と一緒にグランバロアから渡ってきたクランで、決闘からクエスト、ダンジョン探索まで幅広く活動している。

 クランランキングは一〇位から二〇位の間を行ったり来たりしているので、次のランキングの公示日も十中八九入っているだろう。

 そう思って、模擬戦の合間に一時加入の約束はしていた。


「俺だけでなく、俺の知り合いが希望した時も大丈夫とは言われてるからさ。何とかなると思う」

「そうですか。念のためにギデオンに戻ったら聞いてみてくれませんか?」

「分かった」


 その後、俺達はその日の狩りを日が傾く程度にまで続けて、ちょうど日が沈んだ頃にはギデオンに戻っていた。

 そうして俺は他のみんなと後でよく使う食事処に合流することにして、チェルシーにクラン加入の話をしに行った。


 ◇


 そして目当ての人物であるチェルシーは、行きつけの食堂でアルコールのジョッキを片手にやさぐれていた。


「ウゥゥ……恋愛なんて……恋愛なんてクソだ……」


 普段の豪快で朗らかな彼女とは思えないほど、濃厚な負のオーラを放って俯いている。


「チェルシー……元気出して」


 傍では決闘ランカー仲間のジュリエットが、慰めるように頭を優しく撫でている。

 なお、彼女はリアルが未成年なのでコップにはジュースが入っている。


「ジュリエット。……チェルシーは何があったんだ?」

「……! 其は人が背負った情感の業による諍い」


 声をかけると、俺達の存在に気づいたのかジュリエットはハッとこちらを向く。

 そしていつも通りの喋り方で俺に事情を説明してきた。


「恋愛関係のトラブル?」

「然り。金色の集団の破滅は愛により訪れ、今日という日の黄昏と共に全ては去った」

「……痴情の縺れでクランが崩壊しはじめて、今日の夕方に解散した?」


 俺の確認に、ジュリエットがコクコクと頷いた。

 だが、肯定されても困ってしまう。

 なにせ、<黄金海賊団>が解散していてはこちらの予定も何もあったものではない。


「……チェルシー、一体なんでまたそんなことに?」

「…………それ聞く?」


 チェルシーは顔を上げて、据わった目をした赤い顔を俺に向ける。

 正直、怖い。

 

「あー……でも、そうね。レイには戦争の際のクラン加入の話もしてたし、説明しないのは不義理だね」


 そう言って、チェルシーは溜め息を吐いて説明し始めた。


「事の発端は、クラン内で二十股してた野郎がいたことよ」

「にじゅ……」


 ……それはまた、随分と手を広げすぎたものだ。

 ていうか物理的に可能なのかその多重浮気。


「随分と上手くやってたらしいけど、この前の愛闘祭でついにバレたみたい」


 カップルの祭りだから、デートがブッキングしまくったのだろうか。

 あるいは、女性陣が「あの人とデートに行くの♪」、「え? 彼は私の彼氏なんだけど」、「違うわよ! アタシのカレよ!」みたいに芋蔓式にバレたのかもしれない。

 ……むしろよく愛闘祭までバレなかったものだ。


「そいつは逃げるようにうちを辞めたんだけど、そこから亀裂が広がって……とうとう本日、うちのクランは解散よ」

「それはまた、何と言うか……」


 強豪クランの最後がそれだと思うと、何だか悲しくなる。

 結局は人間の集まりだから、その関係が崩れるとどうしようもないのかもしれないけれど。

 

「それでさ……この件であたしが一番腹を立てていることがなんだか分かる?」

「いや、全く……」


 俺が首を振ると、チェルシーは一層恐ろしい顔になってこう言った。


「――その恋愛絡みのゴタゴタにあたし自身が欠片も噛んでなかったことだよ」

 彼女の言葉には悲哀とも怒りとも区別がつかない感情が篭っていた。


 正直、何と言えばいいのか分からない。

 チェルシーの隣のジュリエットもどこかおろおろとした様子だ。


『……二十人と付き合うようなナンパ男に、アプローチすらされなかったのだな』


 お前それ絶対に口に出すなよ?

 最悪、この食堂ごと液状黄金(ポセイドン)で粉砕されるぞ。

 多分、二十股男もチェルシーの強さにビビッて粉かけなかったんだろうし。


「……恋愛なんてクソだ……」

「チェルシーは……かわいい、よ?」


 再び負のオーラを発しながら俯いたチェルシーの頭を、ジュリエットが優しく撫でていた。

 ……とりあえず、ここはジュリエットに任せるしかない気がした。


 しかし、これは本当に参った。

 頼りの<黄金海賊団>がなくなってしまった今、クランの問題はどうすればいいのか……。


『……あやつの<月世の会>に入るしかないのでは?』


 …………なんてこった。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<ちなみにチェルシーのリアルは


(=ↀωↀ=)<童顔で二十歳の大学生(欧米)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジュリエットの素の言葉、、、! 萌え〜
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