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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第六章 私《アイ》のカタチ

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プロローグB-2 Brother & Sister

(=ↀωↀ=)<二話更新の二話目ですー


(=ↀωↀ=)<まだの方は前話からー

 ■ドライフ皇国・皇王執務室


 王国の決闘都市ギデオンにおいて、<超級>である【狂王】ハンニャと【超闘士】フィガロの騒動があった日、皇国元帥ギフテッド・バルバロスは皇王の前にいた。


「以上が、先のカルチェラタン事件の報告です」


 今回、ギフテッドが皇王に呼び出された用件は二つ。

 一つは、先のカルチェラタン事件の最終報告。

 <遺跡>の調査、及び強大な兵器が王国の手に渡ることを避けるべく動いたあの任務の結果について、元帥自身の所見を述べれば失敗の範疇になる。

 決戦兵器【アクラ・ヴァスター】は王国の<マスター>と、【聖剣姫】アルティミア・A・アルターの手で破壊されたことは良い。

 しかし、現在あの<遺跡>で見つかった設備で王国が戦力を拡充しているという報告が上がっている。制御不能の煌玉兵ではなく、煌玉馬のプラントが見つかった、と。

 【猫神】トム・キャットとの交戦や【アクラ・ヴァスター】との戦闘など、緊急事態の連続であったのはたしかだが、それを見逃したのは作戦に当たったギフテッドのミスであるからだ。

 ゆえに、その所見も踏まえて皇王に報告した。

 しかし、それに対する返答は、


「報告は受け取りました、叔父上。それとあまり堅苦しく話さなくても結構ですよ」


 叱責はおろか、坦々として感情の波を感じさせない声音だった。

 彼を叔父上と呼ぶのは、現在のドライフで皇王の職務を担う者……ラインハルトだ。


「叔父上はミスと言いましたが、これはミスではありません。最優先目標である決戦兵器破壊は為されています。決戦兵器の確保あるいは生産設備の完全破壊が最上ではありましたが、それにこだわって最優先目標をしくじるより余程良い。王国の手に残るよりは余程良い」


 ラインハルトの言葉に何と答えたものかとギフテッドが考えていると、


「けれどお兄様、件の【アクラ・ヴァスター】は制御不能の兵器ですわよ? 皇国でも制御出来そうにないのだから、王国では尚更制御できないのではありませんこと? 手に残るなんて最初からありえませんわよ」


 ラインハルトに似ているが……少し異なる声が室内に流れた。


「制御不可能の兵器を制御可能にする。そういった芸当は<エンブリオ>なら可能だよ、クラウディア。前例があるだろう?」

「あ、そうですわね。皇国の地下都市を一つ駄目にしてくれた【器神】を忘れていましたわ」


 ギフテッドとの会話よりも幾分かは感情の波を感じさせる声音で、ラインハルトは彼女――妹であるクラウディアと会話していた。

 ギフテッドは無言のまま、二人の会話を聞く。

 まるで機械のようなラインハルトだが、『昔からクラウディアのことは大切にしていたな』と思い出しながら。


 ギフテッドと二人は親族関係である。

 バルバロス家の養子であるギフテッドにとって二人の母は義理の姉であり、ギフテッドの妻は二人の従姉であるからだ。

 複雑な関係ではあったが、その縁もあってギフテッドは皇国元帥をしている。

 二人にとって、信頼できる軍人など彼しかいなかったからだ。

 叔父であり、【衝神】クラウディアの師である【無将軍】ギフテッド・バルバロスしか。


「ところで叔父様。叔父様はアルティミアにお会いになられたのでしょう? アルティミアは、元気にしていましたか?」


 『なぜその質問を?』と考えたところで、ギフテッドはクラウディアと王国の第一王女が学友であったことを思い出した。


「体調の不良は見られなかった。しかし……」

「しかし?」

「顔を仮面で隠し、アズライトと名乗っていた」

「ぷふー!?」


 何を想像したのか、クラウディアは口を手で隠しながら腹を抱えて大笑いし始めた。


「顔に仮面……! アズライトって……それミドルネーム……あはははははは!」


 余程ツボに入ったのかクラウディアは笑い転げ、着ていた豪奢な執務服が皺になっている。


「そ、そうでしたわ! あの子、『やんごとなき身分の娘が正体隠して世直しする』小説大好きでしたわ! でも実践って……ぷふー! あはははふふー!」

「……クラウディア。笑うのもいいけれど、呼吸が乱れすぎてはしたないよ。それに、クラウディアも彼女のことを笑えないだろう」

「……あ。そ、それもそうですわね」


 見るに見かねて、あるいは聞くに聞きかねてラインハルトが嗜めると、ようやくクラウディアは落ち着いたようだった。


「叔父上との話は私だけで続けるから、大人しくしていてほしい」

「それなら私は戻って……折角なのでアルティミアを想定して模擬戦のイメトレでもしていますわ!」


 クラウディアがそう言い残すと、室内から彼女の気配が消えた。


「さて、話を切り替えましょう、叔父上」

「……ああ」

「カルチェラタンの事件についてはこれで結構です。二つ目の用件に入りましょう。叔父上の方にも情報は行っていると思いますが、王国に五人目の<超級>が加わることになりそうです」

「…………」


 今日という日に、王国のギデオンで起きたとある騒動。

 それは<超級>同士のぶつかり合いという、ともすれば王国に甚大な被害を及ぼすものだった。

 しかし、結果として何事もなく騒動は終結し、両者は和解してしまった。

 そのままの流れで、【狂王】ハンニャが王国に所属する恐れが生じた。

 そうなれば、王国と皇国の<超級>の数は互角。

 他の準<超級>やベテランの<マスター>の数では勝っているが、前回の戦争直後のような……ほぼ確実に勝てる状態ではなくなってしまった。


(ただでさえ、カルディナがいつ介入してくるか不明な状態だ)


 このままぶつかれば、王国と皇国が疲弊したタイミングでカルディナが介入する。

 そうなれば、王国も皇国もカルディナが平らげることになるだろう。

 それは泥沼であり、考えうる限り最悪の想定だった。


「さて、王国と皇国の戦力がこれで五分。加えて、虎視眈々とカルディナも動いている。現状で何が得策だと思いますか?」

「…………」


 カルディナを牽制するために武力を見せながら、速やかに王国を併合する元帥派の初期のプランは最早達成不可能と言っていい。

 【破壊王】がその力を見せた段階で危うい問題ではあったが、【狂王】が加入すればいよいよ戦力の差が縮まりすぎる。


(【破壊王】だけならば【獣王】が押さえ、打倒できる。その間に他の<超級>で一挙に制圧できるはずだったが……それもあちらの頭数が揃ってしまえば不可能)


 同時に、宰相派とフランクリンの失敗もあって王国を降伏させることも不可能になっている。

 元帥派と宰相派、両方が最善だと判断したプランは現時点でどちらも破綻していた。

 ならば残された手は……。


「……ここで、王国との戦争を止めることだ」


 終戦しかない。

 王国と相対しながらカルディナとも戦うことはできない。

 王国の戦力がここまで増えてしまっては、もはや戦争に生路はない。


「その通りです、叔父上」


 ギフテッドの返答に、ラインハルトは頷いた。


「はっきり言ってしまえば、この戦争には既に勝っているのですから」

「……そうだな」


 皇国が戦争に踏み切った最大の要因は、国内の土地が痩せ衰えたことに伴う飢餓だ。

 カルディナや王国との食料取引も止まり、このままでは皇国の民の大多数が餓死するという極限状態こそが最大の要因。

 しかしそれは先の戦争で旧ルニングス領を制圧したことで変わった。

 あの【グローリア】によって住民が全滅した忌まわしい来歴はあるものの、旧ルニングス領の大地は肥沃だ。

 皇国は旧ルニングス領の占領後、すぐさま農耕を始めた。成長の早い作物は既に収穫され、皇国の飢餓を癒す一助となっている。

 ここで収穫できる食料さえあれば皇国の飢餓の危機は去り、皇国側には戦う最大の理由がなくなる。

 ここでの問題は……。


「問題は王国が我々の勝ち逃げ(・・・・)を許すか、ということです」


 土地を奪われたまま、王を含めた多くの人間を殺されたまま、そこで王国が止まるかという話だ。

 皇国からの侵略戦争で殴られたまま、王国側は『戦争が終わるならそれでいい』と全てを諦めるか。


「はっきり言って、半々だと思っていますよ。きっと国王の代理を務める彼女自身は、ここで止めることも考えると思います。ただ、不利益を被ったままの貴族や国民がどう思うか……」

「……それは」

「おや? 何か誤りがありましたか、叔父上?」

「……何でもない」


 ギフテッドは指摘しなかった。

 ラインハルトは第一王女が戦争をここで止めると考えているが、本当にそうであるかは分からない、ということを。

 なぜなら、彼女は父を殺されている。

 彼女に限らず、家族を喪った者が全てを忘れて『止めましょう』と言えるかどうか。

 それは非常に難しく、判断しづらい問題であったが……ラインハルトはそのことを口にしない。

 そうした考えが抜け落ちているか……あるいは間違っていても考慮する気がないかのように。


「それに、ここで止めるにしても……こちらもまだ必要なものを手に入れていませんからね」

「必要なもの、とは」

「国のために必要であったのは、旧ルニングス領。けれど戦争と、私達と、世界のため(・・・・・)に必要なものがまだ手に入っていない」

「…………」


 その言葉に、ギフテッドは思案する。

 『戦争に必要なもの』は分かる。王国の<超級>戦力だ。

 王国を併合して、王国の<マスター>を皇国に加えることもプランには含まれていた。

 そうでなければ、カルディナとの戦争を五分にはできないのだから。

 『私達に必要なもの』は恐らくは王国の第一王女であろうと考えた。

 彼女に対して個人的な思慕を抱いていることは知っている。

 また、王国との併合を諦めないならばやはり必要である。


(だが、『世界のために必要なもの』とは……何だ?)


 そんな話は、叔父であり元帥であるギフテッドすらも聞いたことがない。

 それについてラインハルトが何を考えているのかは……彼にすら分からない。

 昔から周囲とは異なる視座を持っていたのがこのラインハルトであり、それを理解できる者はクラウディアしかいなかったのだから。


「世界のために……何を必要とする?」

「…………」


 ギフテッドの問いに、ラインハルトは暫し思案してから口を開き、


「それは……。すみません、叔父上。急な来客のようだ。席を外していただけますか?」


 何かを話そうとしてから……、それを止めてギフテッドに退席を促した。


「何……?」


 ギフテッドは予め周辺に配していた小型の人形で周囲を探るが、何者の姿もない。

 あるいは『ラインハルトが人払いをしなければならないような相手がこれから来るのだろうか』とギフテッドは考えた。


「二つ目の案件について、王国とは講和を行うことにします。皇国からの条件と要求は後で草案を作って叔父上とヴィゴマ先生(宰相)にお渡しして、相談します。ここは下がってください」

「……ああ」


 その声に促されて、ギフテッドは退室した。

 執務室に人形を残して何者と会談するのかを探ろうかとも考えたが、それは止めた。

 あのラインハルトの態度は、恐らくギフテッドが相手の存在を知るだけでまずいような相手との会談であるのだろうと察したからだ。

 義姉の子であり、家族として二十年近く接してきた相手ではある。

 言わずとも理解できることはあった。


 ◆


 ギフテッドが退室した少し後、執務室の空間が歪み……一人の人物が現れた。



 ◆◆◆


 ■【機皇】■■■■■■・■・■■■■


 あなたも知っているように、<超級>に絞れば皇国と王国の戦力はほぼ互角になりました。

 とはいえ、人格を考慮した連携を含めるとあちらの方が幾分マシかもしれません。

 私が言えた義理でもないですが、皇国の<超級>は誰もが人格面に問題を抱えていますから。

 自身の天才性を過信した者。

 他者との交友を最初から否定した者。

 マードックは比較的真っ当ですが、あれも自分の浪漫に行動を乗せすぎています。

 ゼタ? 彼女は厳密には我が国の<超級>ではありません。

 獅子身中の虫どころではないのでしょうが、代わりにとある仕事だけは果たしてくれると思っています。それは構いません。考慮済みです。

 え? ああ、フランクリンは……彼女(・・)は小心者ですよ。

 そして、小心者でありながら自身の望みと信念、……『作りたい』、『負けたくない』という願いにブレーキを掛けられない破綻者でもあります。

 だから、あんなにも過剰に策謀を重ねる。

 自分で自分を止められないのに誰かとぶつかって敗れるのが恐ろしく、そして許容できない。

 だから、眼前に現れた障害物全てをなくしてしまおうとしているのでしょう。

 それが上手くいかないと、いよいよ手段を選ばなくなる。

 だからレイ・スターリングという存在は、彼女にとって最大の障害物であり、最も忌まわしいものです。

 強大さは彼の兄である【破壊王】シュウ・スターリングが遥かに上ですが、力の強弱なんて関係ない。

 レイ・スターリング個人を忌まわしく思っているのだから、強かろうと弱かろうとフランクリンは彼の存在を許容できない。

 けれど、先も言ったように小心者だから……再び接触することも恐れている。

 間接的に危害を加えることすら及び腰になる。

 だから「これなら本当に大丈夫だ」という準備を終えるまで、彼女はレイ・スターリングに手を出さないつもりでしょう。

 きっと本人に聞けば、あの道化染みた振る舞いで誤魔化してくれるのでしょうけど。


 どうしてそこまで何もかも分かったように分析できるのか、ですか?

 機械弄りと同じようなものです。

 先々期文明の機械の回路を弄ることと、人が持つ心という回路の動きを見ることは私には然程変わりがありません。

 ……専門家にこんなことを言うのは、畏れ多い気もしますが。

 それと何か言いたそうですが、何を言いたいかは分かっていますよ。

 『そんなに分かっているのに、どうしてお前は彼女(・・)に絡んだことだけはまるで理解できていないのか』ということでしょう?

 仕方ないことです。

 彼女に対する思いは私の内にある回路を過剰に動かし、人格というプログラムに重大なバグを生じさせる。

 この脳髄か……あるいは魂が抱えたバグ。

 そして私自身はそのバグを愛おしく思っています。

 彼女への愛に関する何事についても、脳という名の演算装置は正しく値を算出しない。

 だから、彼女を得ることを理由の一つとして戦争を引き起こしたことも、彼女の父親をその中で死なせたことも、正しくない値だとは自覚している。

 自覚しても、否定はしません。

 その通り、自分でも狂っていることは自覚しています。

 冷静に分析する私と、彼女の愛に狂った私が、肉体というマシンの中で並列に起動しているようなものです。

 他者から見れば、狂人よりも性質が悪いでしょうね。

 けれど私は、このままでいいと考えています。

 この身が彼女への愛に狂っていることはもう仕方がないことです。

 さて、私からもあなたに一つお尋ねしたいことがあります。


 あなたが誘導した(・・・・・・・・)今回の戦争が、何を目的としたものかについて、です。


 ……ふふ。やはり答えてはくれませんか。

 あなたはあなたの理由で動いているのでしょうからね。

 今回の訪問も、私がここで戦争を止めるつもりだったならば、新たな火種を作るつもりで来られたのでしょう?

 ご安心を。戦争は起きますよ。

 それが王国を相手としたものとは限りませんが、問題はないでしょう。

 あなたが必要なのは戦争という事象であって、その内容は問題ではないのでしょうから。

 戦争とは、<マスター>の言う一大イベントであり……管理者にとっても重大事。

 かつて、【覇王】と【龍帝】という二大強者の戦いに、異常な力の<エンブリオ>を用いる【猫神】が介入したように。

 戦争が起きれば、管理者は何らかのアクションを起こす。


 だからこそ、あなたは敵である管理者を探るために戦争を引き起こしたかったのでしょう?


 そう驚かないでください。

 見透かす者は、あなたやカルディナの議長だけではありませんよ。

 いずれにしろ、皇国の戦争は再び起きます。

 だから、こちらはご心配なく。暗躍するなら他国でどうぞ。

 ああ、けれどクラウディアから一つだけご忠告があります。


「――アルティミアの暗殺を謀れば、地の果てに逃げてもブチ殺しますわ」


 だ、そうです。

 ええ、それだけはお忘れなきように。

 では、おさらばです。また縁があれば会いましょう。

 ああ、言い忘れていましたが。



 その姿はよくお似合いですよ――【大賢者】殿。



 Re Open Episode 【(アイ)のカタチ】

追記:

( ꒪|勅|꒪)<最後のパートの人称キャラ名は伏せ過ぎだロ


(=ↀωↀ=)<理由あってそうしているので悪しからず


(=ↀωↀ=)<でもジョブ名だけは解放しておくね

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