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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩篇 二ページ目

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280/716

地獄と殺人と冥王 その一二

(=ↀωↀ=)<二話連続更新の二話目です


(=ↀωↀ=)<しかし先に言っておこう


(=ↀωↀ=)<『※グロテスク・ショッキングなシーンがあります』


( ꒪|勅|꒪)<何で四巻発売記念連続更新にそんな回持ってきたんだヨ


(=ↀωↀ=)<自然にそうなってしまったのです

 ■商業都市コルタナ・市長邸


「ひぃ……ひぃ……!?」


 コルタナ市長、ダグラス・コインは一心不乱に自らの邸宅の中を走っていた。


「旦那様、一体何が……きゃああああああ!?」


 市長の姿……アラゴルンに切り飛ばされた両足に代わって無数の蛆が足を形作っている姿に、市長邸のメイドが正気を失ったように叫ぶ。

 だが市長はそれには構わず……それどころか自分の両足の状態にも気づかぬまま、目的の場所へと向かっていた。

 市長が向かったのは、市長邸の地下。

 数多の浮浪者と奴隷を運び込み、遺体へと変えた場所。儀式のための死体置き場だ。


「ぎぃ、儀式を、ギシキさえすればぁ……!!」


 死が迫る恐怖に正気をなくしかけながら、死にたくない一心で市長は地下を目指す。

 死にたくない。

 それこそが市長の原動力であり、【デ・ウェルミス】の珠による儀式を行おうとした理由。

 理由そのものは、市長が珠を手に入れるよりも前から存在した。


 ◆


 市長が全身に病を患ったのは、もう一年も前になる。

 老化による衰えと長年の享楽生活による内臓の疾患によって、市長の体はボロボロになっていた。

 日常生活にも難儀し始め、明確に『死』という言葉が脳裏をよぎるようになった。

 死に近づいたためか、夜の寝床では自分がこれまでの人生で虐げて殺してきた者の幻覚すらも見るようになっていた。

 自分が死ねばこれまで得てきたものは全て失い、死後はどうなるか定かでもない。

 他者の怨みを買いすぎた者は死後も苦しみ続けると、多くの昔話でも語られていることだ。(それは死霊術師の観測結果に基づく事実でもある)

 市長はそういった話を鼻で笑っていたが、自分に死が近づいてからはそれを恐れるようになった。


 病を患ってからの市長は、毎晩ベッドの上で羽毛布団を被って恐怖で噛み合わない歯を鳴らしていた。

 布団を被っているのは、顔を出していると見えないはずの、見たくはないものを見てしまうからだ。

 それは窓ガラスに映る……病によって死相が見える自らの顔。

 そして、数年前の市長選挙の際に無実の罪を被せて貶めた男の妻、フリアである。

 自らが奴隷として引き取り、殺したはずの女の顔が、夜になると見えるのだ。

 まるで、市長が死ぬのを待っているかのように。

 彼女と夫の一件だけでなく、商人として、政治家として、彼は数多の悪事を行ってきた。

 最近も王国との国境で活動する<ゴゥズメイズ山賊団>から多額の金銭を受け取り、対価として王国軍を牽制する軍の演習やマジックアイテムの提供で援助をしていた。

 そのために多くの子供や、子供を救おうとした者達が死んだが、彼は懐に入る金が増えることを喜ぶだけだった。

 そんなことを、何十年も前から繰り返している。

 しかし死に瀕した今になって、死ねばそれらの報いを受けるのではないかと……身勝手に恐怖を感じていたのであった。

 

 そんな日々が続いた、数週間前のある日。


「嫌だ……死にたくない……嫌だ……嫌だぁ……」


 まるで子供のように涙を浮かべながら、その夜も市長は明確に迫る死に恐怖していた。

 自分が死んだ後にどうするかという部下や使用人の話も、耳を澄ませば聞こえてくる気がした。


「わ、私は……まだ死にたくない……死にたくないんだよぉ……!!」


 商人から身を起て、政治家として活動し、カルディナ第二の……見方によっては第一の都市の市長にまで上り詰めた。

 議会での発言力も、議長に次ぐ第二位にまでなっている。

 カルディナという連合国家の、副王と言ってもいい存在だ。

 しかし彼がそこまで積み重ねた富も、名誉も、権力も……じきに彼の死と共に消えてなくなる。

 そして死の先には、彼が欲のために殺してきた者達が、怨みと共に待っているのだ。


「うあぉあぁあああ……、……あぁ?」


 自身の未来を悲観し、魘されるように泣いていると……不意に何かが市長の被った羽毛布団を柔らかく揺らした。

 それは、窓から吹き込む風であった。

 いつの間にか市長の寝室の窓が開いており、そこから風が吹き込んできたのだ。


「…………くっ」


 一瞬、市長は使用人を呼んで閉めさせようかと思ったが、寸前まで泣き腫らした顔を見せることを嫌い、仕方なく自分の手で閉めることにした。

 痛む体と震える手足で杖を突きながら、それでも窓まで近づいた時。

 床に……奇妙なものが置いてあった。


「……なんだ、これは?」


 それは、まるで水晶のような珠だった。

 珠の下には一枚の置き手紙が敷かれており、そこには『進呈。これが貴方の求めるものです。珠を枕元に置いて、健康と若さを願えば叶います』と書かれている。

 市長は胡散臭げに珠を見ながら、窓を閉めて……その珠を拾い上げた。

 なぜ胡散臭いと思いながら拾い上げてしまったのか。

 それは、市長には無視できない奇妙な誘惑が、その珠と置き手紙にはあったからだ。

 明確な侵入者の痕跡と奇怪な珠であったが、市長はそうするのが正しいという風に珠を手にベッドまで戻り、それから珠を枕元に置き、


「健康な体と、若さを……私に……。ふふ、私は、こんな珠に何を……」


 自嘲気味に呟きながら、しかし珠をベッドから下ろすことはせずに就寝した。


 そして翌朝に目が覚めたとき――彼は見違えるほどに健康な体を手に入れていた。


 死相の見えていた顔は若返ったかのように溌剌とした顔つきになり、体の痛みも手足の震えも微塵もなかった。

 市長は久方ぶりの……それこそ何十年と味わっていなかったような解放感を覚えた。


「は、ははは。これは……これは、一体……!」

『キミ ノ カラダ ヲ、カタチ ヲ タモッタ ママ シュウゼン シタ』

「!?」


 不意に、市長の脳内に聞き知らぬ声が聞こえた。

 それは幻聴ではなく、近くにいる誰かが語りかけてくるようだった。


「だ、誰だ……どこにいる!」

『ワタシ ハ 【デ・ウェルミス】。キミ ノ テ ニ イレタ タマ ニ フウジラレタ モノ』

「なに……?」


 それから、【デ・ウェルミス】は自らについて語った。

 自らが<UBM>であること。

 六〇〇年以上前に【龍帝】によって珠へと封印されたこと。

 そして、何者かによって黄河から持ち出されて市長の邸宅へと持ち込まれたこと。

 その内容に市長は困惑すると共に、珠と共に置かれていた紙を見る。

 一体何者が、黄河の国宝とも言うべきものを彼に譲ったのか。

 その狙いが何かを考えて、カルディナの有力者である自分に渡すことで黄河との戦争を誘発する狙いがあるのでは、と推測して市長は震える。

 珠を黄河に戻した方がいいのではないかと考えた市長に、【デ・ウェルミス】は告げた。

 珠を手放せば、体の修繕を維持できない。

 病と老いに溢れた体に戻るだろう、と。

 それを聞いてしまえば、【デ・ウェルミス】の力で健康となる前の恐怖を思い出した市長に、その選択は選べなかった。

 結局、市長は【デ・ウェルミス】の珠を秘匿することを決めた。


 その後は、家中の者に市長だと思われず誰何され、証明に手間取ったが最終的に『特別なアイテムが効いた』という、嘘ではない内容で納得させるという一幕もあった。

 そうして時間を置いてから、【デ・ウェルミス】は再び話し始めた。


『ジツ ハ キミ ニ ホドコシタ シュウゼン ハ ワタシ ノ チカラ ノ スベテ デハ ナイ』

「なに……?」

『ワタシ ノ チカラ ハ キミ タチ ガ “フロウフシ” ト ヨブ モノ ダ』

「なんだと!?」


 それから【デ・ウェルミス】は不老不死となるための儀式の手順を伝えた。

 まず、『一〇〇人から二〇〇人の死体が必要である』、と。

 そして『殺害後、一定の期間安置しなければならない』、と。

 そうした下準備を経て、『不老不死の体を得る儀式』の準備が整う。

 それは多くの人命を損なうものであったが、市長の富と権力であれば事を隠したまま実行することは容易い。対象を浮浪者や奴隷に絞れば容易ですらあっただろう。


『キミ ノ キョウリョク ガ アレバ ギシキ ヲ オコナエル ト オモウ。キョウリョク シテ モラエ ナイ ダロウ カ』

「…………その儀式を行えば」

『キミ モ “フロウフシ” ニ ナル』


 魔法や死霊術が存在するこの<Infinite Dendrogram>においても、それはあまりに黒く、妖しい誘いだった。

 しかし、市長はその誘いに乗った。

 それは【デ・ウェルミス】がその力を先払いし、市長の体を健康体に変えていたことも大きかっただろう。


「不老不死……不老不死になれば……」


 不老不死となれば、金輪際あの死に迫っていく恐怖、死後の恐怖とは無縁になる。

 市長にとって、それ以上に望むものは何もなかった。

 そして市長は【デ・ウェルミス】の誘いに乗り、不老不死を得るために動き始めたのだった。


 ◆


 そして今、市長は儀式の場である地下室へと辿りついていた。


「ひぃ、ひぃ……着いたぞ!! 逃げ切って、ここまで辿りついた!」


 地下室にはこれまで殺した二百人近い人間の死体が重ねられている。

 奇妙なことに、死体を満載しているのに少しも腐臭がしなかった。

 死体はいずれも瑞々しく、殺すためにつけた傷さえも、綺麗に整えられた穴になっている。


 市長は懐に隠していた【デ・ウェルミス】の珠を取り出した。


「さあ! 儀式を始めろ!」

『ソウシヨウ』


 市長が【デ・ウェルミス】に命じた直後、


 市長の右手は――彼の意志と無関係に【デ・ウェルミス】の珠を石床に叩きつけた。


「……………………はぇ?」


 市長にはそんなことをするつもりはなかった。

 だが、まるで体が内側から動かされたように……珠を叩きつけていたのだ。

 先々代【龍帝】の秘術により、<UBM>を封じた珠。

 封じられた<UBM>の力を駆使できる秘宝であるが、強度はそう高いわけではない。

 数年前にも王国のとある場所で珠が砕け、内部に封印された<UBM>が解放されたことがある。

 ゆえに今も、石床に叩きつけられた珠はあっさりと砕け……<UBM>が解放される。


 それは小さな蝿だった。

 決して<UBM>……隔絶した力を持つ怪物には思えないほどに、卑小な存在。

 だが、紛れもなくその蝿こそが――<古代伝説級UBM>、【妖蛆転生 デ・ウェルミス】である。


『こうして顔を合わせるのは、初めてだね。ダグラス』


 それまで市長に語りかけてきた声とは比べ物にならないくらいに滑らかに、【デ・ウェルミス】は話しかけてきた。

 対して、話しかけられた市長は動けない。

 動転と、そして恐怖によって。


「ひ、ひぃ……!」


 市長がこれまで【デ・ウェルミス】とやり取りができていたのは、『珠に封じられているからコントロールできる』という前提があったからだ。

 しかし今は、珠から開放されている。

 何の制約もない<UBM>と向き合うことは、ティアンにとっては死と等しいことだ。

 自分が解放のために利用されていたのだと思い至り、市長は絶望しかけた。

 だが、


『そんなに怯えないでほしい。私には君を害するつもりなどないのだから』


 怯える市長に、【デ・ウェルミス】は優しく語りかけた。


「な、に……?」

『言っただろう。不老不死の儀式をすると。もちろん、友である君も一緒だ。私と共に永遠を生きよう』


 その声には、悪意や相手を騙そうという意思が何もなかった。

 本心から市長を友だと思い、不老不死を与えようとしている。

 そのことは市長にも伝わり、彼は安堵した。


「そ、そうか! ならばあの【冥王】が来る前に儀式を済ませよう」

『その方がいいだろう。では始めよう』


 【デ・ウェルミス】がそう述べた直後――室内に安置された死体の群れが動き出した。

 ダグラスが私兵に命じて殺させた奴隷や浮浪者の死体が、死人とは思えないはずの瑞々しい体で動き始めている。


「死体が……!」

『死体ではない。生きているから』

「……なに?」

『ああ、そうだ。まずはそこから話さなければならないか。君の体を修繕した時に形成した分体(・・)は、発声能力に限度があって伝えられる情報に限りがあったから。丁度いい。不老不死の体を作る間に、それを話そう』


 その言葉の内容にはいくらか市長が問いただしたいものがあったが、それよりも【デ・ウェルミス】が自身の能力を話し始めるのが先だった。


『私の能力は《賦活転生》。負傷や病で悪質化した生物の肉や骨、臓器を、私の分体に置換する(・・・・・・・・・)スキルだ』

「……? ……?」

『分体は置換した元の臓器と同じ働きをするし、血液なども循環の際に良質化する。加えて、活力を補う力もあるため、肉体の一部を分体に置換されたものは以前よりも健康化する。賦活は永続し、経年劣化もないため、永遠に生きることが出来る。そして体の九九%が損壊・焼却しようと、そうして傷ついた悪質細胞を使って再び置換できる。ああ、ダグラスは全身が悪質化していたから、分体の置換範囲も広かったために効果も強まり、見た目も若返ったのだろうけれど』

「待て、お前が何を言っているのか、私には……」

『簡単に言えば、“体の悪い部分を材料に、体を健康にする私の分体を作る”のだよ』


 そこまで噛み砕かれて、市長もようやく理解できた。

 だが、そこで市長は気に掛かる。


「分体とは、どのようなものだ?」


 その問いに対し、最も直接的な答えは市長の両足――両足の代わりに生えた蛆の足であっただろう。

 だが、【デ・ウェルミス】はそれを示さず、代わりに動き出した死体へと目を向けた。


 【デ・ウェルミス】が生きていると言った死体達は、一つところに集まり……倒れこんでいく。

 骨や関節といったものを無視して、グニャグニャ(・・・・・・)になって崩れ落ちる人々。


 その目から、口から、体のありとあらゆる穴から――数え切れぬほどの白い蛆が這い出した。


『あれが私の分体だ』

「――――」


 市長は死体から溢れ出す蛆を見て、そして自分の蛆の両足に気づいて、言葉を失う。

 しかしそんな市長を気にした様子もなく、【デ・ウェルミス】は言葉を続ける。


『心肺停止により死へと向かう人の体は、私の分体を作る上で最適のものだ。致命の負傷部位を、死滅していく脳細胞を、腐敗する全身を、順次分体へと置き換えることができる』


 何もおかしなことは言っていないという風に、【デ・ウェルミス】は語り続ける。


『できればもう幾日間かは置換によって数を増やしたかったが、私の力を君から奪おうとする者が現れた以上は今が限度ということだろう』


 体から溢れた蛆は、自らの宿主であった死体の置換していない部位――まだ死んでいない細胞を、食い散らかしたゴミのように置き去りにして結集していく。

 人体を材料に置換して生まれた蛆は、人の細胞で出来ていると言えるかも知れない。

 けれど、それは明らかに人ではない。

 元は数多の死体の体であった蛆は元のカタチを忘れ、結集して別の形に組み変わる。

 ある死体から生まれた蛆は、手の指に。

 ある死体から生まれた蛆は、足の指に。

 ある死体から生まれた蛆は、そして多くの蛆は、そのまま蛆虫の形に集まる。

 二〇〇人近い死体の体積と同程度の大きさのそれは、蛆に人の手足を幾つも生やしたような……人間には正視できない姿だった。

 あるいは作り物であればまだ正気を失わずに済むかもしれないが、しかしそれは生きている。

 一体となって脈打っている。

 死体から生まれた蛆は、新しいカタチに……新しい生命(・・・・・)になっていた。

 あまりにもおぞましい光景。

 死の先に待つ光景としては、地獄すら下回る最悪。

 あるいはこの誕生の瞬間に、レイ・スターリングやユーゴー・レセップスが居合わせれば……怨霊の顕現である【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】を想起しただろう。

 しかしあれとこれとはまるで違う。

 むしろ正反対だ。

 あの【ゴゥズメイズ】が怨念によって死体を動かすアンデッドならば。

 これは生物の細胞を蛆へと変えて賦活し、生かし続ける(・・・・・・)怪物だ。


 やがて、【デ・ウェルミス】の本体である小さな蝿が、その一塊の蛆へと近づく。

 蛆の塊は自らの父を受け入れ、体の全てを明け渡す。

 今や二〇〇人分の蛆で構成された巨体こそが、【デ・ウェルミス】の体だった。


「……あ、ああ……あぁ?」


 市長は眼前の異常な光景から目を逸らせぬ中、耳にくすぐったさを感じて手をやった。

 耳の中に指を入れると――指先には一匹の蛆虫が付着していた。


「……あ? ……!? あああああああ!?」


 そうして彼は知った。

 これまで彼に囁いていた【デ・ウェルミス】の声は、彼の心に直接語りかけていたわけではなく。


 ――彼の頭蓋の中で、分体である蛆が鼓膜に囁いていたのだと。


『君の体は、私の分体で馴染ませておいた』


 生理的な嫌悪感で石床を転げまわる市長に対し、【デ・ウェルミス】は静かに語りかける。


『他の肉とは違い、細胞の最後の一片になるまで、君は私と共に生きるだろう。君のお陰で私は再び外に出られたし、すぐに体を作ることも出来た。本当に感謝しているんだ』


 そして誇らしげに、自慢げに、そして安心させるように、


『だから、――共に永遠を生きよう(・・・・・・・・・)

 ――【デ・ウェルミス】は再びそう言った。


「そ、それは……まさか……」


 市長にとって最も恐ろしいことは、【デ・ウェルミス】の言葉が一〇〇%の善意と感謝で発せられていることだ。

 本当に良かれと思って市長と共に永遠の生命を得ようとしている。

 しかし【デ・ウェルミス】にとっての生は、人が考える生と全く異なる。

 【デ・ウェルミス】の生とは、人の体細胞を蛆へと転生させて永遠に活かすことだ。

 それゆえに【妖蛆転生 デ・ウェルミス】の能力に偽りもない。

 『使用者に健やかな生を与え、更には新たなる永遠の生を与える』ことは間違いではない。

 そう、ここに新たな生は与えられる。


 ――蛆虫としての新たなる永遠の生が。


「うあああ、ひぃぃいあああああああ!?」


 市長は理解してしまう。

 今から生み出されるのは、死体繋ぎアンデッド(フレッシュゴーレム)ですらない(・・・・・)

 死ぬことすら許されない、蛆虫の固まりだ。


『安心して欲しい。痛みなどは感じないから。最初は戸惑うかもしれないが、きっと君にも喜んでもらえる』


 本心から、【デ・ウェルミス】はそう述べた。

 だが、市長は首を振って泣き喚く。


「違う! こんなのは、違うんだぁ……!?」


 生者とアンデッドの生が違うように。

 多細胞生物と単細胞生物の生が違うように。

 与えられる不老不死が、自分の望んだそれとは全く違う可能性を、市長は考えていなかった。

 永遠に死ねない体の一部として取り込まれたとき、魂はどこへ行ってしまうのか。

 どこへも行けないまま、永遠に閉じ込められるのかもしれなかった。

 せめての救いを求めて蛆虫の塊を見つめても、人間から作られた蛆虫には人の意思など見えるはずもない。ただうぞうぞと蠢くだけだ。

 それは市長の未来でもあった。


「嫌だぁぁああぁああ!!」


 それを理解してしまった市長は正気をなくし、泣き喚きながら、地下から地上に逃げ出そうとする。

 こんなものに取り込まれるくらいなら、裁きを受けて死刑になったほうがマシだと考えたからだ。

 けれど、もう遅い。

 【デ・ウェルミス】は市長の体内のほとんどを置換した蛆を動かし、逃げようとしていた市長は逆に蛆の塊へと歩んでいく。

 指先から蛆の塊に取り込まれ、少しずつ分解されて組み込まれていく。


「嫌だ、いやだあああああああああぁぁぁぁぁ!?」


 絶望を抱き、何度も泣き叫びながら……市長は【デ・ウェルミス】に呑み込まれていく。

 そんな彼の最期の言葉は、


「殺して、ころ、し、てく…………れぇ………………――――」


 死を恐れて生に執着した老人の最後の言葉としては、ひどく皮肉なものだった。


 ◆


 そうして、市長を迎え入れて体を完成させた【妖蛆転生 デ・ウェルミス】は――窮屈な地下の天井を破り、地上へと進出し始めた。

 予定より早く作り上げた分、未だ体積に不足のある()を補うために。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<はい。こっちが蒼白Ⅱのボスキャラです


( ̄(エ) ̄)<度々思うが巨大ボス登場率の高い作品だよな、デンドロ


(=ↀωↀ=)<章ボスが巨大じゃないパターンの方がレアではあるよね


( ꒪|勅|꒪)(……しかしこれ、書籍でイラスト見たくない奴の筆頭だな)

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