地獄と殺人と冥王 その八
(=ↀωↀ=)<書き溜めてたのに我慢できなくて連続投稿していた
(=ↀωↀ=)<本日二話目
■商業都市コルタナ・バザール
ユーゴー達が話をしながらエミリー達を捜していたころ、張達もまたバザールにいた。
アクセサリーによって容姿は既に切り替えている。今回は張とエミリーのどちらもティアンに見えるように設定してある。
そして現在、張はバザールの一角で片目を手で押さえながら慄いていた。
(奴が西方の死霊術師の頂点である【冥王】……“不滅”のベネトナシュか)
張は自身が使役する鳥のキョンシーの視界を共有し、市長邸での戦いを監視していた。
【冥王】ベネトナシュがコルタナにいるという情報は、先刻ラスカルから通信で伝えられていた。
ゆえに、予め市長邸にキョンシーを飛ばし、偵察していた。
なお、張のキョンシーは怨念ではなくベネトナシュと同様に魔力式のアンデッドであるが、自由意志は持っていない。【符】という外付けの脳によって動く、機械の如きアンデッドだ。
動作用以外の【符】を足すことで陽光下での行動阻害を軽減することもできる。
欠点として【符】に刻まれた行動パターンしか取れないことがあったが、監視に使う分には特に問題はない。
(少なくとも、アンデッドの質では劣るか。“五星飢龍”が健在であった頃の俺でも厳しいだろう)
アラゴルンを見ながら、張は冷静にそう判断する。
戦うならば“五星飢龍”を使役していた頃の張が命を懸けて相打ちが限界。
生きたまま勝利するには【ダンガイ】の珠を持っていた頃の張が、全力で戦ってようやくという領域だ。そこまでしても、ベネトナシュ本人を倒せる可能性は低い。
(ラスカルさんの思惑通り、強者は集まって来ている……か)
そのことに、張は言い知れぬ不安を抱く。
このコルタナの珠一つに“不滅”と、自分を破った“蒼穹歌姫”が寄って来た。
ならば、今後どれだけの戦力がこのカルディナに集まり、争い合うのか。
(……この街で何が起ころうと、それは序章に過ぎないのかも知れんな)
そんなことを考えながらも、張は気を引き締める。
今の自分がすべきことはエミリーのサポートと、戦力のデータ蒐集だと考え、その仕事に励む。
そのエミリーはと言えば、バザールに置かれた巨大な檻を見上げていた。
内部には角を生やした獅子……【タウラス・レオ】という上位純竜クラスの魔獣が腹這いになっている。
檻からは【タウラス・レオ】の垂れ流した糞尿の匂いが漂うので、避けて通る者も多い。
しかしその檻の前に並ぶ者もいる。
「ちゃんおじしゃん! なんでこのこ、【ジュエル】じゃなくておりにはいってるの?」
檻を指差しながら、エミリーは不思議そうに首を傾げている。
エミリーの言うように、テイムモンスターの販売は【ジュエル】に入った状態で行うのが普通だ。
そうでなければ品質を見せるために外に出しもするが、檻の中ではない。
しかしこうして檻に入ったモンスターが売られているのには理由がある。
「檻の中に入っているモンスターは、まだテイムモンスターではないからだ」
そう、檻の中で眠るモンスターは、まだテイムされていない。
商人側にそのモンスターをテイムできる優秀な【従魔師】がいないなどの都合で、テイムされないまま持ち込まれることはある。
その場合は薬などで動きを抑制し、モンスターのステータスでは破壊できない檻に入れることが義務付けられている。
当然、火を吹くなどのスキルがあればそちらへの対策も必要だ。
『そこまでするくらいならギルドに依頼を出して、テイムしてもらってから売ればいいのに』と思う者もいるだろうが、テイム後の【従魔師】による持ち逃げを警戒して希少なモンスターほどそれをしない業者もいる。
他国にセーブポイントを持ち、デスペナルティも厭わない<マスター>が【契約書】を交わした上でそれを行い、指名手配とデスペナルティになったものの希少なモンスターをまんまと持ち逃げしたケースが過去発生したことも大きい。
「購入者によるテイムも込みで、市場価格よりも安く設定されている。と言うよりも『テイム挑戦権』という名目で売っているんだ」
回数制ではなく『一〇分間だけテイムに挑戦できる』という時間制であることが多い。
「テイムできにゃかったら?」
「金は戻らん」
「ふーん。じゃあおみせのひとはテイムにしっぱいしてほしいんだね」
エミリーの明け透けな言葉に、張は内心で頷く。
檻の横の看板によれば、これまで何週間もテイム成功者が出ていないらしい。
それも当然と張は考えた。動きを抑制するための薬品に加え、テイムを阻害するために精神に干渉するアイテムも使われているのが張には見て取れたからだ。
しかし、今から檻の傍でテイムに挑む【従魔師】はそれに気づいていないようだった。成功を疑っていないのか、【タウラス・レオ】を手に入れた瞬間を夢想して顔も緩んでいる。
「あれは失敗するだろうな」
事実、テイムに繰り返し失敗しているらしく檻の中の【タウラス・レオ】は身じろぎし続け、【従魔師】の顔には焦りが見えてきた。
「じたばたしてるね」
「テイムに失敗したモンスターが暴れることもある。今は檻と薬があるから大丈夫だがな」
「そうなんだ。じゃあ、あぶないね」
「……?」
張がその言葉に疑問を思うと、エミリーは檻の中を指差した。
「くすり、きれてるよ。あれはくすりがきいてるフリだよ」
「……何だと?」
「あとね、みじろぎしてるのは、じゅんび。きっとね、おりにたいあたりするよ」
なぜそこまで分かるのかと張は考えたが、問題はそこではない。
エミリーの言葉の通り、【タウラス・レオ】は身を起こし、檻に体当たりを始めたからだ。
(だが、あのモンスターのステータスでは破れない檻になっているはず……まずい!)
張は体当たりを繰り返された檻の格子が下の方から少しずつ歪み、外れていくのを目撃する。
見れば、外れた格子の株は錆びていた。
加えて、周囲に漂う匂いがその理由を示していた。
(……糞尿か!! 己の尿で檻を劣化させて、脱出の機会を窺っていたのか!)
檻に入れられるモンスターは、《看破》などによってステータスや保有スキルを入念に調べた上で商品となる。
だが、それらのスキルでも……モンスターの知性までは測れない。
薬が効いている振りと、少しずつ檻を劣化させる作業。
さらに商人側がテイム阻害のアイテムを使っていたことで、【タウラス・レオ】には長期間に渡って檻を劣化させる時間が与えられていた。
『BUUUUULUGAAAAAAAAAAA!!』
そして今、【タウラス・レオ】が檻を破り、雄叫びと共にバザールへと飛び出した。
手始めに檻の前にいた【従魔師】を食い殺し、次いで近くにいた『テイム挑戦権』を販売していた店の従業員達を手にかける。
これまで閉じ込められていた鬱憤を晴らすかのような暴れ方だった。
(……どうする? 街の外に待機させている【ドラグワーム・キョンシー】を使えば制圧できるが、ここで目立てば“蒼穹歌姫”とその仲間にも……)
張が思考する間に、【タウラス・レオ】は近くにいた従業員を食い殺し終えた。
周囲を血の海に変えた後、次の獲物に狙いを定める。
それは張とエミリー……ではない。
その場から逃げ出そうとしている小さな少女とその両親、親子連れであった。
『BUUUGAAAAAAA!!』
【タウラス・レオ】は吼え猛りながら、次の獲物へと駆けていく。
瞬く間に人間を三人、血肉に変えようとして。
女の子は泣いていた。
両親は、せめて娘だけでも守ろうと娘をその身で庇う。
しかし、人の肉の壁など【タウラス・レオ】には無意味のはずで、親子は瞬く間に肉塊となる……はずだった。
けれどその直前、【タウラス・レオ】の進路に小さな人影が割り込んだ。
その姿に、張は驚いた。
自分の隣にいたはずのエミリーが……超音速機動でそこに立っていたからだ。
『BUUUUUOOOOAAAAAA!!』
【タウラス・レオ】はエミリーも当然獲物として攻撃しようとし、
「――マイナス」
自動殺戮モードに移行したエミリーによって、一瞬で四肢と首を裂断されて息絶えた。
【タウラス・レオ】は即死。損壊の激しさもあって一瞬で光の塵となり、その場にドロップアイテムだけを遺して消え失せた。
後には、【タウラス・レオ】の返り血に濡れるエミリーだけが立っていた。
「……エミリー」
張には分からなかった。
なぜあのとき、エミリーが飛び出したのか。
飛び出した時点でのエミリーは、まだ敵を殺す状態ではなかった。
ならばあれは元のエミリーのまま、親子を助けようとしたということだ。
なぜ見も知らぬ親子を助けようとしたのか。
それは、張には分からなかった。
エミリーの自動殺戮モードが解けるのを待ち、それを尋ねようと考えた。
しかし、それよりも先に、
「おい! お前がうちのモンスターを殺したのか!」
衣服にジャラジャラと宝石をつけた、よく言えば恰幅のいい、悪く言えばひどく肥満した男が現れた。背後には屈強な男達を何人も引き連れている。
肥満した男はどうやら【タウラス・レオ】の『テイム挑戦権』を売っていた商人らしい。
しかし、その態度は騒動を収めたエミリーに感謝している、というものではなかった。
「よくもうちの商品を台無しにしてくれたな! 耳を揃えて弁償してもらおうか!」
張も、周囲で見ていた他の者達も「こいつは何を言っているんだ?」という共通の感想を抱いた。
檻の管理や薬、テイム阻害などの件を含めて全ての責は商人側にあると言っていい。
だと言うのに、商人は被害を抑えたエミリーに弁償を求めているのだ。
「待ってくれ。それは横暴というものだろう。今回の件は」
「お前がコイツの親か! 親ならば責任とって払ってもらおうか! 九〇〇〇万リルだ!」
張が話しかけると、商人はそう捲くし立てた。
この商人も張とエミリーの正体を知っていればここまで強気には出なかっただろうが、今の二人は偽装により、ただのティアンに見えている。
「私の後ろにはダグラス・コイン市長がついているんだぞ! お前らを逮捕して奴隷にしてやってもいいんだ!」
その言葉を聞いて、張は辟易した。
数年をカルディナの一都市であるヘルマイネで暮らした張は熟知していたが、カルディナにはこういった手合いが多い。
物事の多くが金で決まるから資産家には傲慢な者が多く、あの路地のチンピラのように非合法な手段で金を得ようとする者もいる。
自浄作用を持った街ならばいいが、今のコルタナは市長自身が極めつけの俗物だ。
市長がバックについていると豪語するこの商人も、これまで権力と財力で他者を押さえつけてきたのだろう。
(こうもあからさまな腐敗では選挙で落とされそうなものだが。……いや、たしか五年前の市長選挙では現市長以外の候補者が全員脱落したのだったか)
明らかに裏があるが、市長の権力が司法や憲兵にまで根を下ろしたこの街では誰もそれを弾劾できないのだろう。
(俺がいたヘルマイネは多くの国の組織がカジノに出資していた分、逆にバランスが取れて政治形態はクリーンだったんだがな。……まぁ、カジノを潰すと喧伝した候補が勝つことだけはなかったが)
皮肉な話もあるものだと張は嘆息したが、その態度が商人は気に食わなかったらしい。
「チッ! どうせ金など持っていないのだろう! おい! こいつらを捕まえろ!」
背後に控えていた屈強な護衛に、二人の捕縛を命じる。
「おい! ちょっと待てよ!」
「その子はあんたのモンスターが暴れるのを止めたんだぞ!」
「そうだ! 人だって死んでるんだぞ!」
あまりにもあまりな商人の言動に周囲にいた市民が抗議の声を上げる。
「ああん? 死んだのはうちの従業員と事前に『何が起きても責任を追及しません』と【契約書】を交わした客だけだ。だったらここでの問題はうちのモンスターが殺されたことだけなんだよ。何だったらお前らの中に代わりに払う奴がいるかぁ?」
そう言われて、市民も二の句を継げなくなる。
その間も張は思考する。
(九〇〇〇万リルは大金だからな……随分と水増ししているのだろうが。さて、どうするか。ここはラスカルさんから預かった活動資金で弁償してしまった方が話は早いか? それとも強行突破で脱出を……)
今は“蒼穹歌姫”と“不滅”が戦闘中だが、それもいつまで続くかは分からない。
鳥のキョンシーを介した視界では、なぜか攻撃の手を止めている。
万が一にもこちらに来る前に、この場を去りたいというのが張の本音だ。
しかし、ここで張は一つの思い違いをしていた。
彼が考えていたタイムリミットは、二人の<超級>のいずれかがここに到着するまでだったが。
実際のタイムリミットは、――彼の傍にいたのである。
「さっさと捕まえろ!」
商人の指示に従い、護衛が張とエミリーの捕縛に動く。
「待て。金は……」
「――マイナス」
「払……なに?」
自分の言葉の間に挟まった自分以外の言葉に、張は隣を見た。
そこには誰もおらず、
「……こひゅ?」
張とエミリーを捕縛しようとしていた護衛の一人が、喉から胸にかけてを斧で断ち割られていた。
やったのは……言うまでもなくエミリーである。
護衛の男が自分の状態を不思議そうに確認しようとすると、エミリーはもう一本の斧を振るい、脳天から頭部を叩き割った
男が斧――ヨナルデパズトリに何かを食われて光の塵になったときには、エミリーはもう一人の護衛の腰に斧を叩きつけ、上半身と下半身を両断していた。
二度の惨劇を終えたところで、周囲はようやく異常事態に脳の状況認識が追いついた。
「うわぁああああああああ!?」
「さ、殺人だああああああああ!?」
周囲に集っていた人々は、悲鳴を上げて逃げ惑う。
バザールは檻のモンスターが暴れていた時と同じか、それ以上の混乱に包まれる。
「ば、バケモノめ! おい! さっさとあいつを殺してしまえ!」
商人の男がそう言って、
「――マイナス」
エミリーが投げた斧で男はたるんだ頬から頭部を輪切りにされて、息絶えた。
残る護衛の男達も武器を向けていたが、それらも同様に容易く殺傷されていく。
そうして、商人と護衛達は皆殺しとなった。
「ッ…………」
その惨状に、張は言葉をなくす。
(迂闊だった。エミリーが敵と認識する可能性を低く見積もっていた。武器を向ける、殺意を発言する……だけではないということか?)
どちらにせよ、状況は張達にとってまずい方向に転がった。
騒ぎが大きくなりすぎたため、一刻も早くこの場を離れなければならない。
しかしそんなとき、三人の<マスター>がエミリーの傍に駆け寄ってくる。
「そこまでよ。武器を捨てて、冷静になって!」
「事情は見ていた。あんた達が抵抗したのも理解できる。だが、どうか矛を収めてくれ」
「憲兵には俺達からも証言するから、ここは穏便に……」
どうやら事態を収拾するために善意で動いた<マスター>であるらしい。
張はどうやって彼女達から逃げるかを考えたが、
「――マイナス、マイナス、マイナス」
エミリーは、斧を三度振るった。
二撃は二人の<マスター>のHPを全損させ、一撃は残る一人の【救命のブローチ】を発動させていた。
「え?」
「…………」
困惑する女性の<マスター>に、エミリーは無言のまま幾度も両手の斧を振り下ろした。
「な、やめ、やめて……!」
彼女が懇願してもエミリーは攻撃をやめず、【救命のブローチ】は破壊され、女性は肉塊になるまで叩き潰されてデスペナルティになった。
「……どういう、ことだ?」
その光景に、張は困惑する。
それは<マスター>へのエミリーの行動にある。
彼らは善意で動いていた。
明らかな敵対行動もとっていない。
だというのに、エミリーは敵と認識し……彼らを殺傷したのである。
そもそも捕縛のために動き出した護衛を殺傷した時点で少しおかしかった。
チンピラの時は「殺す」という発言と共に武器を向けられていた。
【タウラス・レオ】の時も相手の殺意ある攻撃を受ける寸前だった。
それに比べて、護衛や<マスター>を殺傷する際のハードルが……明らかに低い。
「……まさか」
張は背中に氷柱が刺さるような嫌な悪寒を感じた。
そうしている間に、騒動は拡大していく。
「あの少女を止めろ!」
「《看破》で見えるステータスは偽装だ! 正体が別にある!」
今しがたの三人以外にも多数の<マスター>が集まり、エミリーに対処せんとしている。
それを視界に収めたエミリーは、
「――マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス」
口からそんな言葉を、吐き続けていた。
◆
普段のエミリーは純真無垢な少女である。
基本的に人懐っこく、人を嫌いになるより好きになることが多い少女だ。
それゆえに彼女が敵と認識して自動殺戮モードに切り替わるのは、相手にそれ相応の理由がある場合に限られる。
だが、一度切り替わった後はそうではない。
自動殺戮モード中のエミリーは、味方でない相手に対する敵認識のハードルが普段のエミリーより遥かに低い。
彼女を捕縛しようとするもの、彼女の武器を捨てさせようとする者、そして強い力を持ちながら彼女に近寄る者。
張や<IF>のような切り替え前から味方と認識している相手でない限り、自動殺戮モードは近づく全てを敵と看做す。
彼女を止めようとすれば、止めようとした者達も彼女にとっての敵となる。
そして、彼女にとっての“敵”は……増え続ける。
それはラスカルをはじめとしたメンバーには“連鎖”と呼ばれるもの。
かつて巨大クラン<ペンタゴン・キャラバン>を壊滅させ、一つの都市の戦闘職を全滅させ、ワームの一種族を滅ぼし尽くした現象。
敵対者が視界から消え失せるまで止まらない、殺戮の暴走。
それは今、このコルタナで発動した。
◆
エミリーを迎え撃たんと集まる<マスター>の一角へ、エミリーは跳んだ。
その一歩の踏み込みで五〇メテルの距離を踏破し、着地と同時に斧を交差させながら払う。
直後、<マスター>の一人の首は吹き飛んだ。
「ッ! 超音速機動だと!?」
「シィアアア!! 《ストーム・スティンガー》!!」
<マスター>の一人が犠牲になった直後、近くにいた【疾風槍士】の<マスター>がエミリーに奥義を放った。
奥義の効果で加速し、超音速で放たれる【疾風槍士】の一撃は完全にエミリーの隙を突き、
「…………」
――エミリーの、皮膚の防御力だけで受け止められる。
槍の穂先は、エミリーの体にわずかに刺さっただけだった。
「馬鹿……ぬぁ!?」
直後に、エミリーの攻撃で【疾風槍士】はデスペナルティとなった。
その間に【銃士】の<マスター>が銃弾を乱射したが、それは体表で弾かれてエミリーにまともなダメージを与えてはくれなかった。
「何なんだ、コイツ!?」
「異常なまでの物理耐性……こいつはティアンじゃない! 恐らくは物理防御に特化した<エンブリオ>の<マスター>だ!」
「だったら俺の出番だぜ!!」
即座にエミリーの正体を分析し始めた<マスター>に応じ、ローブを着た【紅蓮術師】の<マスター>が前に出る。
エミリーはそれに対応して【紅蓮術師】へと向かうが、
「《ゼロ・チャージ》! 《クリムゾン・スフィア》!!」
魔法の高速発動に特化した<エンブリオ>を有するその【紅蓮術師】は、超音速で襲い来るエミリーにも対応し、奥義である魔法を発動させた。
一瞬にしてエミリーの視界が紅蓮に染まり、その全身が炎に包まれる。
「やった……………………ゼ?」
その直後、炎の球体を突き破ってきたエミリーの小さな手が【紅蓮術師】の首を掴み……枯れ木のように砕き折った。
効果時間が終わって炎は消え去り、そこには五体満足のエミリーが立っていた。
だが、装備品はそうではない。
耐火性能を持たされたオーダーメイドのドレスは燃えていなかったが、ラスカルから渡された偽装用のアクセサリーは熱量に耐え切れず融解していた。
ゆえに、今そこに立つエミリーは偽装容姿ではなく……彼女自身の姿だった。
指名手配されたその容貌も。
「……嘘、だろ?」
――そのステータスまでも。
エミリー・キリングストン
職業:【殺人姫】
レベル:528(合計レベル:928)
HP:8056(+36550)
MP:350(+36550)
SP:1980(+36550)
STR:3050(+36550)
AGI:4356(+36550)
END:1680(+36550)
DEX:687(+36550)
LUC:100(+36550)
エミリーの名に、そのレベルと比較して低く……そして高いステータスに、周囲が動揺する。
「エミリー……【殺人姫】エミリーだと!?」
「なんだ、このステータス……なんなんだよ!」
異常なステータスであった。
元の値は超級職としてはあまりに低く、修正後の値は恐ろしく高い。
しかし、それは当然なのだ。
その数値修正こそが、【殺人姫】の真骨頂なのだから。
そのパッシブスキルの名は、彼女の二つ名の由来でもある《屍山血河》。
【殺人姫】の奥義にして、【殺人姫】が【殺人姫】である由縁。
全ステータスに――『人間の討伐数と同値のステータス修正を適用する』スキル。
エミリーがこれまで殺してきたティアンと<マスター>合わせて……三六五五〇人。
その全てが、彼女のステータスとなって顕れている。
殺せば殺すほど――エミリーは強くなり続ける。
To be continued
(=ↀωↀ=)<久しぶりのステータス列記(やらなきゃいけない時しかやらない模様)
(=ↀωↀ=)<HP~SP以外の全ステータスが
(=ↀωↀ=)<同レベル体のまともなステータス特化超級職と同等以上と考えると
(=ↀωↀ=)<バケモノです
( ̄(エ) ̄)<?
(=ↀωↀ=)<常識外のSTRお化け【破壊王】と比較しないでください
(=ↀωↀ=)<それにステータス合計ならクマニーサン超えてますよ
( ̄(エ) ̄)つ「《無双ノ戦神》」
(=ↀωↀ=)<常識忘れたステータスの巨大ロボと比較しないでください




