表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩篇 二ページ目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

274/716

地獄と殺人と冥王 その六

 □【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス


 師匠との通信の後も、私達はあの二人……【殺人姫】とその仲間を捜していた。

 指名手配されている【殺人姫】のことは私も知っている。

 カルディナを訪れる前、<叡智の三角>に身を置いていたときでさえ何度も耳にした。

 正直に言って、あの子がその【殺人姫】であるかについては半信半疑だ。

 あの子は少し幼いけれど、普通の子供に見えたから。

 けれど、行動はしなければならない。

 万が一にも彼女が【殺人姫】であったのなら、取り返しのつかない事態になりかねないのだから。


「キューコ、何か感じる?」

「んー。ちかくにはいない」


 キューコは自分の周囲……《地獄門》の展開可能範囲にいる生物の同族討伐数を、感覚的に窺い知ることができる。

 だから、姿とステータスを変えているだろうあの子を捜すにはうってつけなのだけど、そもそもこのコルタナがとても広い。

 中央に大きな湖があるからドーナツ状の街並みだけど、それを踏まえても面積が広い。

 キューコの探知範囲も、この街の広さと比べれば点のようなものだ。


「このまちにくらべれば……わたしのちからは、ちいさい」


 あ……。少し落ち込んでいる。


「まるで、リアルのユーゴーのむねのように」


 だけど毒舌を吐く元気は残っていたらしい。

 ……ちっちゃくないもん。これから大きくなるだけだもん。


「兎に角、今は虱潰しに捜すしかない。何か起こってからでは遅いからね」

「うん。ユーゴーも、むこうからしかけてくることもこうりょしておいて」

「……たしかに」


 向こうは私と師匠の顔を見ている。

 師匠が<セフィロト>の一員であると気づいたならば、あちらから奇襲を仕掛けてくる可能性もある。

 街中だから【ホワイト・ローズ】を乗り回すわけには行かないけど、《即時放出》のアイテムボックスから出す準備だけはしておこう。


 ◇


 そうして街中での捜索を続行してさらに数十分。

 私達は人々が路面に絨毯を敷きながら商いをするバザールに入り込んだ。

 見れば大型の商品を扱っている人達もいて、遠くには大きな檻に入ったモンスターの姿も見える。

 人の波に流されないよう、人通りの少なめな路地に移動した。

 そんなとき、


「むむ? どこかで見たメイデンがいるな」

「?」


 誰かに声をかけられた。

 周囲を見回してみるが、どこにもこちらを向いている人物はいなかった。


「……誰が?」


 メイデンと言うからには恐らくキューコのことだけど、一つ疑問がある。

 今のキューコは【殺人姫】側への情報対処として、レイに初めて会ったときのように《紋章偽装》を施している。

 その上でキューコをメイデンと言っている。

 『どこかで見たメイデン』という言葉と合わせて考えれば、知り合いなのだろうか。

 しかし、周囲を見回しても見覚えのある人物などどこにも……。


「……この素で気づいておらぬリアクションには、妾も傷心するぞ?」

「ユーゴー、した」

「え?」


 言われて、視線を下げる。

 すると、今の私の鳩尾よりも下の位置に紫色の髪が見えた。

 どうやら、声をかけた人物の背が低くて、視界に入らなかったらしい。

 ……このアバター、身長をリアルよりも随分高く設定したから視線も高いんだよね。


「見知った相手に声をかけてみれば、まさか暗に『ドチビ』と貶されようとは……。妾は悲しい……」


 紫色の髪をしたキューコよりも小さな少女は、そう言って顔を覆った。

 そのせいで顔が見えず、小さな体躯と肩を出した古代ギリシャ風ドレスしか見えない。ドレスも髪と同じ紫色だ。

 けれど、その『紫』という一事で……過去の記憶が掘り返された。


「……君は、ペルセポネ?」

「おお? 妾のこと、思い出してくれたか? <叡智の三角>では会議や実験場で顔は合わせても直接話したことはなかったゆえ、実はちょっぴり不安だったのだが……、其方は記憶力がいいな!」


 そう言って彼女は――背伸びをして――ポンポンと私の肩を褒めるように叩いた。


「まぁ、妾達の方はフランクリンめから其方を『期待の新人で、旦那様と同じメイデンの<マスター>』と色々聞かされていたのだがな! 名前はユーゴーとクーコでよかったか?」

「……わたしはキューコ」

「間違えた! すまぬな!」

「いい。むらさきいろのカラーヒヨコみたいだから、きっときおくりょくもとりあたまだっただけ。ゆるす」

「其方と話すのは初めてだが毒舌過ぎぬか!?」


 ……キューコの毒舌は置いといて、彼女のことは知っている。

 彼女の名前はペルセポネ、キューコと同じくメイデンの<エンブリオ>だ。

 そして彼女が旦那様と呼ぶのは……彼女の<マスター>。

 かつて姉さんと共同研究をしていた【冥王】ベネトナシュだ。


「<叡智の三角>の御主がカルディナにおるということは、旅でもしているのか?」

「そんなところだけど……君がいるということは」

「うむ。無論、旦那様もこの街にいるとも。おお、今は市長邸で<マジンギア>乗りと交戦中らしい。蒼い機体と戦っているようだな」

「……!?」


 彼女は片目を閉じて、気軽そうにそんなことを言った。

 彼女の言が本当ならば、今は師匠が【冥王】ベネトナシュと交戦中ということになる。

 どういう経緯でそんなことになってしまったのかと考えて、師匠がカフェで話していた事柄に思い至る。


「このコルタナには……珠を得るために?」

「よく知っているな。いや? もしや其方達も旦那様と同じくアレが目当てなのか? 奇遇だな!」


 師匠が言っていた、『珠を求めて動く<超級>』。

 まさか、その一人があの【冥王】だったなんて……。


「なぜ、コルタナの珠を……?」

「ああ。それは旦那様のプライベートというもの。詳細は語れぬ。だが、概要は教えよう」

「え?」

「言ってしまえば叶わぬもの探しだ。旦那様がやろうとしている無理難題をどうにか(・・・・)できるものを探しておるのだ。もっとも、一番の候補は妾自身が次の位階に上がることだがな」

「…………」


 ペルセポネの言葉は抽象的で、詳細は分からない。

 けれど、一つ分かることもある。

 ペルセポネは第七形態、<超級エンブリオ>だ。

 それが次の位階……存在すら確認されていない第八形態にならなければできないだろうことを、【冥王】ベネトナシュはしようとしている。

 このコルタナの『新たなる永遠の生を与える』珠でそれができるかもしれないから、今は師匠と奪い合っている最中ということだ。


「妾としてはそんな徒労でしかない寄り道ではなく、本命に集中して欲しいのだが……。それにもしもそちらで叶ってしまったら、妾の立つ瀬がないではないか」

「……ああ。それでなんだね」


 ペルセポネの言葉に、キューコは何かを得心したようにそう言った。

 

「だから、AR・I・CAとのたたかいに、さんかしてないんだね」

「と言うよりも珠探しという行為そのものだ。妾は絶賛ボイコット中なのだ!」


 ……どうやら、ペルセポネは珠探しそのものがお気に召さず、珠探しに尽力する<マスター>を放置して独りで出歩いているらしい。

 概要とはいえ自分の<マスター>の目的を話したのも、その一環。

 メイデンや人に近いガードナーは自分の意思で動くとは言うけれど、このペルセポネは奔放すぎないだろうか。


「そういえば、旦那様が戦っている相手は<マジンギア>乗りであったな。其方達の仲間か?」

「……そうだと言ったら」

「旦那様から珠を奪ってくれることを祈る! あんなもの邪魔であるし、気持ちが悪いから旦那様の傍に置いておきたくもないのだ!」


 ……自分の<マスター>の敗北を祈る<エンブリオ>を初めて見た。

 しかし、気持ちが悪いとはどういうことだろう?


「という訳で、妾はあちらの戦いに関知せぬ。……だから妾には手を出すでないぞ!」


 ……うん?


「『仲間の援護』などと言って妾を倒したりせぬように!」


 ああ、たしかに私達がそういう行動に出る可能性もあるのか。

 ペルセポネは【冥王】ベネトナシュの<エンブリオ>なのだし、今は助力してないとしても彼がデスペナルティ寸前にまで追い込まれたときもそうだとは限らない。

 『師匠の勝率を上げるために倒しておく』という選択肢はたしかにある。


「な、何だ、その目は! 言っておくが、妾は弱いぞ! 戦闘力など下級ガードナーに泣かされるくらい低いぞ! だから攻撃などせぬように! その『……何を言ってるんだ、この<超級エンブリオ>』、みたいな目もやめるのだ!?」


 ……何を言ってるんだ、この<超級エンブリオ>。


「<超級エンブリオ>が全部強いとか幻想なのだ! 特に妾など一芸特化過ぎて弱い! 其方のクランオーナーであるフランクリンのパンデモニウムみたいな、『モンスター製造工場だよ! だけどでっかいから踏み潰すだけでもわりと強いよ! あと光学迷彩できるよ!』なんて欲張り仕様ではないのだ!」


 ……必死に「自分は弱いですよ」アピールで無害を主張する<超級エンブリオ>に、何とも言えない気持ちになった。

 何かもう、放っておいていい気すらしてくる。

 ともあれ、【冥王】ベネトナシュが師匠と交戦中となると、放置も出来ない。

 けど【殺人姫】の捜索もあるし、どうしたものか……。


『ところでユーゴー』


 何かな、キューコ。


『ペルセポネ。ちょっとネメシスににてるね。ネメシスよりもちっちゃいけど』


 ……ああ、それは私も少し思っていた。

 容姿や言動が、一致ではなく類似点が多いという程度に似ている。

 その理由までは、分からないけれど。


 ◇◆◇


 □■商業都市コルタナ・市長邸


 ユーゴーが思わぬ相手との遭遇を果たしていた頃、市長邸では<超級>同士の戦いが継続していた。

 超音速でありながら宙を軽やかに舞う【ブルー・オペラ】。

 空から降り注ぐ砲弾と爆弾は、既に市長邸の庭園を戦場跡に変貌させていた。

 だが、ベネトナシュは健在だ。


「《ネクロ・オーラ》、《ネクロ・リペア》」

『これで三度目……本っ当にかったいなー!』


 元竜王であり、STRとENDに特化したアラゴルンに守られている。

 【冥王】ベネトナシュの戦闘スタイルは典型的なタンク・アンド・ウィザード。

 アラゴルンをはじめとした屈強なアンデッドを前衛とし、ベネトナシュ本人が後方からアンデッド専用バフや相手へのデバフ、攻撃魔法を使用する防御主体の陣形。

 その守りは堅固であり、<超級>の中でも攻撃力は低い部類であるAR・I・CAにとっては難敵である。

 攻撃を繰り返しても、アラゴルンのHPは微々たる量しか削ることが出来ない。

 そのダメージも持続回復型のバフである《ネクロ・リペア》で癒えており、現時点でノーダメージだ。


 しかし逆に、ベネトナシュとアラゴルンは一切の攻撃を行うことが出来なかった。


『ええい、鬱陶しい攻撃だ。……我が友よ、刃が届かぬ』

「私の魔法も射程外ですね……」


 アラゴルンの攻撃は己の骨格を用いた物理攻撃オンリー。

 跳躍等はできるが、空を自在に飛翔する【ブルー・オペラ】に、ましてカサンドラによる未来危険予知を行うAR・I・CAに当てられるはずがない。

 それどころか、攻撃に転じた隙にベネトナシュをデスペナルティされることだろう。

 そしてベネトナシュも、攻撃が届かない。

 少なくとも呪怨系状態異常魔法の類は射程距離外。

 それ以外にベネトナシュの使える手としては、【大死霊】の奥義である《デッドリー・ミキサー》と対になる【高位霊術師】の奥義、怨念を爆発燃焼させる《デッドリー・エクスプロード》もある。

 それならば届くかもしれないが、やはり回避される可能性が高い。

 それどころか、あの市長があまりにもこの市長邸に怨念を溜めすぎていたために、この市長邸自体が火薬庫同然。使えば確実に邸宅が丸ごと吹き飛ぶ状態になっている。

 逆に、それだけの爆発力があれば当てられるかもしれない。

 しかし多くの人間を殺害し、既に人間をやめかけている市長の命は考慮しないとしても、珠の回収や市長邸内の使用人などの生命を考えればベネトナシュにその手は使えなかった。


「まぁ、ここは怨念が集まり過ぎてしまっているので……結局は後で燃やさないといけないのですが」

『そうだな。異常なまでに濃密な怨念だ。我が怨念式のアンデッドであれば、影響を受けていたことだろう』


 アラゴルンはアンデッドではあるが、怨念では動いていない。それは、アンデッドとしての作り方の問題だ。

 死霊術師系統は怨念か自身の魔力を使ってアンデッドを任意で作成する。

 かつてユーゴーが相対した<ゴゥズメイズ山賊団>の【大死霊】メイズは怨念を使った前者であり、ベネトナシュは魔力を使う後者である。

 前者は術者の負担が少ない代わりに、理性的なアンデッドが作れず、暴走の危険もある。

 後者は術者の負担が多い代わりに、アラゴルンのように魂の意思をそのまま宿したアンデッドを作成できる。

 後者は自由意志を有するので従うか従わないかも魂次第という欠点が存在するが、アラゴルンをはじめとしたベネトナシュのアンデッドは信頼関係を築いており、その心配はない。

 ベネトナシュの仲間とも言うべきアンデッド軍団は、高い戦闘技術も含めて有力だ。

 しかし、それらのアンデッドの中に……今ここで【ブルー・オペラ】に対抗できるものはいない。


「やっぱり、空を飛べる方もメンバーにすべきだったでしょうか……。でも天竜の方々はアンデッドとなると飛行能力が著しく落ちますからね……。【ドラゴンスピリット】は別ですけど、乗れませんし」


 なお、怪鳥はアンデッドになってもそのままの飛行能力で飛べるが、手持ちにはいない。

 理由はアラゴルンが毛嫌いしているからだ。

 地竜の怪鳥嫌いは死んでも治らないらしい。


「ペルセポネと別行動でなければ、まだ手の打ちようもあるのだけど……」


 コルタナに着いた後、『珠探しなんて誰がするものかー! 浮気者ー!』と言って別行動を始めた自身の<エンブリオ>を思い出し、ベネトナシュは息を吐いた。

 戦況は完全に膠着している。

 AR・I・CAの攻撃はアラゴルンに阻まれて届かない。

 ベネトナシュの攻撃も上空の【ブルー・オペラ】に届かない。

 その状況に、【ブルー・オペラ】のコクピットでAR・I・CAはため息を吐く。


(千日手って奴かなー? カルルのチート防御よりはマシだろうけどね)


 お互いに本当に相手を突破する手札がないわけではない。

 AR・I・CAには【轟雷堅獣 ダンガイ】の雷電の防御を破った必殺スキルがある。

 対して、ベネトナシュ側も<超級エンブリオ>であるペルセポネが不在でもAR・I・CAを倒しうる切り札は持っている。

 しかし、どちらもその切り札はまだ切らない。

 理由は二つ。

 第一に、お互いに切り札には莫大なコストを支払う必要があり、軽々に切れないこと。

 第二に、さらに敵が増えることを警戒しなければならないことだ。

 既に珠を求めて【冥王】と【撃墜王】という巨大戦力がこの市長邸宅に襲来している。

 そんな状況で「これ以上は争奪戦への参加者もいないはずだ」などという楽観的な未来予想ができるほど、両者共に馬鹿ではなかった。

 まして、AR・I・CAは既に【殺人姫】の存在を知っているのだから。


(さて……どうしよっかなー?)


 このまま続ければ、分があるのはベネトナシュの方だ。

 <マジンギア>はその仕様上、戦闘行動でMPを消耗し続ける。

 まして、高性能機である【ブルー・オペラ】に搭乗し、さらに各種スキルも発動中のAR・I・CAの消耗は大きい。

 如何に操縦士系統超級職【撃墜王】として莫大なMPを有するAR・I・CAといえど、戦闘時間には限界がある。

 対して、ベネトナシュの戦力であるアラゴルンはアンデッドであり、体力的な限界は存在しない。スキルに使用するMPもAR・I・CAよりは余程少ないだろう。

 ゆえに、一時間、二時間と戦い続ければ戦況は自然にベネトナシュ有利となる。


(こっちが力尽きるまで耐え切る構えだね。ま、実際にそれができるだけの頑丈さがあるけど。あれは……古代伝説級あたりの竜王が素材元かな。……フーちゃんもああいうの作ってそうだなー。中身は女の子なのに、恐竜とか爬虫類が好きだったっけ)


 親友との思い出を懐かしみながら、AR・I・CAはフッと笑って……。


(しゃあない。このままじゃジリ貧だし、……お届け物だけど使っちゃおうかな!)


 そう考えて、上着からあるものを取り出した。


 それは――ヘルマイネで張葬奇から回収した【轟雷堅獣 ダンガイ】の珠だった。


 新たな所有者の意を受けて、雷光を自在に操る<UBM>はその力を行使する。

 【ブルー・オペラ】の蒼い装甲の表面を雷光が走るが、それは【ブルー・オペラ】自身は一切傷つけない。

 やがて雷光は【ブルー・オペラ】の構えたライフルに集中し、


『BANG!』

 砲弾の射出と共に、莫大な量の雷光をその弾に纏わせた。


 雷光を纏った弾丸が、空間を裂いてアラゴルンへと着弾する。


「……!!」

『こ、れは……!!』


 雷光砲弾の直撃を受け、アラゴルンの肋骨の一本が砕け散った。

 【轟雷堅獣 ダンガイ】の力は、鎧にも武器にもなる精密動作可能の雷光。

 AR・I・CAはその雷光を放つ銃弾に纏わせ、威力の底上げを目論んだのだ。

 その威力は桁違いに上がっており、先刻までは銃弾を弾いていたアラゴルンの強固な骨格にも明確な傷をつけていく。

 その雷光は、アラゴルンにとっては非常に有効だった。

 アラゴルンはアンデッドとなって強力な物理防御力と無尽蔵の体力を獲得しているが、代わりに生前持っていた《竜王気》などの防御スキル、そしてドラゴンが有する属性耐性の類もなくしている。

 ゆえに、雷光を織り交ぜた弾丸の嵐は、ただの弾丸よりも遥かに早いペースでアラゴルンのHPを削り、それは明らかに《ネクロ・リペア》での回復量を上回っている。

 加えて、その雷光は珠の中の【ダンガイ】によるものであり、AR・I・CA自身に雷光での消耗はないのだ。


『弱ってはいるが古代伝説級(同格)の気配をあちらに感じる。友よ、すまぬが敵手の魔力切れを待つわけにはいかぬようだ』


 アラゴルンは冷静に状況を分析し、AR・I・CAのガス欠よりも先に自身のHPが尽きることをベネトナシュに伝えた。

 その言葉に対し、ベネトナシュは少しの思案の後に……頷く。


「……分かった、私が何とかする」


 膠着状態が崩れたことで、彼はAR・I・CAよりも先に自身の切り札を切る覚悟を決めていた。


「ペルセポネの必殺スキルは使えないから……これを使う」


 ベネトナシュは首にかけたペンダントを服の内から引っ張り出す。

 それはまるで下半身だけの悪魔像(ガーゴイル)のような造形だったが、奇妙な金属で出来ている。

 銀に近いように見えるが、しかし絶妙に異なる不可解な光沢の金属だ。


『……起こすのか?』

「これなら彼女の攻撃を、確実に耐え切れる。私のガードをこちらに移せば、君が攻勢に転じることもできる」

『しかし、我が刃は……』

「彼女への攻勢じゃない。市長を追って、珠を確保してほしい。君が戻ったら市長邸から撤退、街中でペルセポネと合流してコルタナを脱出する」

『なるほど。承諾した』

「じゃあ……始めるよ。――目覚めよ、《地に立つ(グレイ)


 ベネトナシュが切り札の一枚を切ろうとした時、


「…………え? ペルセポネ?」

『……? ユーちゃん?』


 彼らは同時に同行者からの念話を受け取り、


 ――直後、コルタナのどこかで悲鳴が沸き起こった。


 To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ