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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩篇 二ページ目

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地獄と殺人と その四

(=ↀωↀ=)<前話で『またあのコンビの会話で一話終わってるじゃん!』


(=ↀωↀ=)<と思われた皆様


(=ↀωↀ=)<ご安心ください。不意討ち二話更新です

 □■商業都市コルタナ


 AR・I・CAはカフェを出た後、このコルタナでひときわ華美な豪邸……市長邸の傍にまで移動していた。

 今は市長邸を囲む壁を背に、彼女の指示で人捜し中のユーゴーから連絡を受け取っていた。


【師匠。すみません、見失いました】


 ユーゴーは二人を捜して近辺を走り回ったそうだが、見当たらなかったらしい。

 捜す途中で何かにひどく怯えた男達と擦れ違いはしたが、それ以外は特に何もなかったという。


【ああ。きっと見た目変えたんだよ。多分偽装関係のアクセサリー使ってるねー】


 カフェの時点で指名手配の写真と顔が違ったのだから、その線で間違いないだろうとAR・I・CAは考えた。


【まー、変わるのは姿と見かけのステータスだけだろうから、行動までは変わらないよ。あの子が想定通りの相手なら、必ず何かやらかすね。ユーちゃんは騒動の起きている現場に急行する方向でお願い】

【……分かりました】

【そんじゃま、アタシは市長から珠パクってくるねー。行ってきまーす♪】


 そうして、ユーゴーとの通信は切れた。


(さて、【殺人姫】は一旦ユーちゃん達に任せるにしても、アタシも手早く済ませて合流しないとね)


 既にユーゴーには【テレパシーカフス】を使い、【殺人姫】についての情報は伝えている。

 まだ確実ではないが、用心に越したことはないと彼女は考える。

 かの【殺人姫】の悪名と起こした事件の数々は有名だ。

 <超級>はいないものの数は多いカルディナのクランランキング第二位、<ペンタゴン・キャラバン>のメンバー四六九人を皆殺しにした逸話もある。

 その気になれば街一つ……このカルディナの大都市であるコルタナを潰すことも可能だろう。


(ジョブはともかく、<エンブリオ>の能力が把握し切れてないのが厄介かな)


 ティアンの間で詳細が伝わっていた【殺人姫】と違い、<超級エンブリオ>であるヨナルデパズトリは<セフィロト>の有する情報にも能力詳細がない。

 強いて情報があるとすれば、『大規模破壊能力』ではなく、『多人数との長期戦闘が可能な能力』であるということだ。


(うちのカルルと似たタイプかな? ああいうチート防御なら多人数を順に潰すことはできるし)


 同じクランに所属する長期戦特化ビルドの同僚を思い出し、AR・I・CAは推測を固める。


(だけど……【殺人姫】と相対するタイミングであの子達がいたのは運が良かったね。あのカフェでの反応からしても、嵌りそうだし)


 AR・I・CAには、カフェでキューコが変調を起こした理由が推測できていた。

 それはキューコが他者の同族討伐数を集計し、スキルを行使する<エンブリオ>であるからだ。


 何らかの値を参照してスキルを行使する<エンブリオ>は、その値を感知できる。

 例えばレイ・スターリングのネメシスは、他者が自分に与えたダメージをカウンターという形で実感出来る。

 同様にキューコも他者の同族討伐数を、数値ではないが感覚的に多寡を判定できる。

 ゆえに、【殺人姫】の桁違いの同族討伐数を察知してしまったキューコが、変調を起こしても無理はない。

 しかし、それはつまり……。


(あの子達は多分……【殺人姫】の天敵)


 【殺人姫】は、キューコの《地獄門》が絶大な効果を発揮する相手だということだ。


 《地獄門》は、同族討伐数の確率で対象を【凍結】させる。

 発動さえ出来れば、一〇〇を遥かに超えた同族討伐数を持つ【殺人姫】は確実に【凍結】できる。


(スキルを発動させられれば、それで勝負は決まるはず。そして、【殺人姫】の攻撃を発動まで耐えることは、【ホワイト・ローズ】なら不可能じゃない。……フーちゃんってば【ホワイト・ローズ】を物凄く頑丈に作ったから)


 <叡智の三角>のオーナーであるフランクリンが、妹であるユーゴーのために託した機体、【MGFX-002 ホワイト・ローズ】。

 その防御力の要である多重結界装甲【フルール・ディヴィエール】はスキルによる防御だけでなく、材質も恐ろしく頑丈だ。

 AR・I・CAの見立てが正しければ、表面装甲には神話級金属(ヒヒイロカネ)が使われている。

 色合いが違うのは、自動修復機能を積んだ際に材質に何らかの変化が起きたのか、あるいは白くするために何らかの手を加えたのか。

 いずれにしろ、この世にあれより硬い<マジンギア>は存在しない。

 【ホワイト・ローズ】ならば、【殺人姫】の攻撃でもすぐには破壊されないはずだ。


(多分、オペラよりも数倍コストが掛かってる。それにあの性能。フーちゃんはアタシとの『約束』を守ってくれる気みたいだね)


 AR・I・CAは、かつて<叡智の三角>を脱退する際に親友と交わした約束を思い出し……微笑んだ。


「『約束』を果たすのは、ユーちゃんがもっと育ってからかな」


 そう独り呟いて、AR・I・CAは思考を切り替える。

 これからすべきは、市長邸への潜入。

 危険を感知できるAR・I・CAならば、警備を掻い潜って潜入することも難しくはない。

 それで珠を見つけて回収できれば良し、もしも市長が常に持ち歩いているならば【ブルー・オペラ】で超音速奇襲を仕掛け、奪って撤退。

 流石に殺すとコルタナの運営に支障が出るので、強盗だけで済ませる。

 その後に生じる政治的な問題は、スポンサーである議長に丸投げする気満々だった。


「じゃ、行こうかな! …………あれ?」


 そしてAR・I・CAが意気込み、市長邸の壁を越えて潜入しようとした時……あることに気づいた。

 それは、市長邸の正門の方から微かに聞こえる。


「貴様! ふざけているのか!」

「……………………」


 どうやら話し声らしい。

 しかし一方は大声を出しているのでAR・I・CAの位置でも聞こえるが、それと話しているだろうもう一方の声はAR・I・CAにまで届いていない。


「…………」


 AR・I・CAは思考する。

 正門で何か騒動が起きているならば、注意が逸れて潜入には丁度いい。

 だが、AR・I・CAの直感……カサンドラの告げる危機ではなく、彼女自身の女の勘が告げている。

 ここで確認しておかないと、面倒なことになる、と。

 AR・I・CAは正門の様子を確認するため、一度壁を越え、市長邸の庭園に侵入する。

 そして植え込みの陰を見つからぬように注意しながら、正門付近が見える位置にまで移動した。

 そして、ようやく正門の様子が確認できる。


 正門には十人の男の姿があった。

 正確には一人の男と九人の男、と言うべきだろう。

 九人の男はいずれも屈強な体格をしており、《看破》で確認した限りいずれもレベルが三〇〇を超えている。カルディナのティアンとしては一流と言っていいレベルだ。装備も中々上質なものを着ている。

 九人の男達は市長邸を守る私兵だとAR・I・CAは推測した。

 常勤して警護する兵士には今でも<マスター>でなくティアンが好まれる。<マスター>は不意にいなくなる(ログアウトする)ので、護衛や施設警備の仕事には向かないからだ。


 対して、私兵と相対している男は容姿までも正反対だった。

 痩せた顔と、風が吹けば倒れてしまいそうな細い体。

 ゆったりとしたローブを着ているのに、それでもその体が痩せていることに疑いようがない。

 病み上がりの病人が歩いている、と評しても問題ないほどだ。

 AR・I・CAの《看破》で見えるステータスも、男達とは比べ物にならないほど貧弱であったが……。


(……これ、偽装されてるね)


 AR・I・CAは直感で察した。

 男は弱いのではなく、弱く見せているだけだ、と。


「何なんだ貴様は! さっきから市長に会わせろ、会わなければいけないと繰り返してばかりで……!」

「すみません……。ですが、市長さんにお話があるんです。ただ、私の理由はともかく、市長が私に会わなければいけない理由を貴方達に話すのは……市長さんにも不利益が出ますので」

「そう言ってばかりでは何も分からんだろうが!! そんな怪しい奴を会わせられるか!!」

「そうですよね……。ああ、何と言えばいいのだろう……」


 痩せた男はそう言って、自分のこめかみを左手で押さえて、困ったように俯いた。

 そうする男の左手の甲には“髑髏を抱く女性”の紋章がある。

 男は<マスター>だった。


「ああ。そうだ。これなら、言ってもいいと思うのですが……」

「何だ!」

「市長さんに、『珠を見せてください』、と。それと『このことはフリアさんから聞きました』、とお伝えいただければ……」

「…………」


 私兵の代表は思案した。

 痩せた男が不審人物なのは間違いない。

 だが、相手は<マスター>であり、場合によっては何か大きな理由があるかもしれないと考えている。

 昨日も<超級>の一人が市長邸を訪れており、この男もその関係である可能性があった。


「少し待っていろ!」


 私兵の代表はそう言って邸の中に入る。


 そうして数分後、彼は市長を伴って戻ってきたのだった。


 ◇◆


 コルタナ市長、ダグラス・コインはAR・I・CAが昨日見た血色のいい顔のままだったが……その顔はひどく狼狽しているようだった。


「お前が、あの伝言を寄越した<マスター>か?」

「はい。貴方の持っている<UBM>の珠を、見せてもらいに来ました」

「そんなものは知らん!!」


 そう強い言葉で否定しながら、市長は内心で焦る。


(やはり【デ・ウェルミス】の珠を狙ってきた賊か!)


 市長は古代伝説級の<UBM>、【妖蛆転生 デ・ウェルミス】の珠を秘匿している。

 先日も、その力で自らを若返らせたばかりだ。

 珠には使い道が分からなければ使えないものがあるようだが、【デ・ウェルミス】は違う。

 珠を手にして力を望んだものは、その効果が表れて健康体となる。

 市長も珠に願って一晩眠っただけで健康と若さを獲得している。

 そして、【デ・ウェルミス】は従順な珠だ。

 健康になった翌日から市長の心に語りかけ、もう一つの力……『新たなる永遠の生』を獲得する儀式の方法を教えてくれている。

 市長は今もその準備を進めているところだった。


(あと三日もあれば準備は完了する……。それが済めば私は念願の不老不死だ!)


 カルディナでも屈指の富と権力を手に入れた彼の望みは、やはり多くの先人と同じように不老不死であった。

 そして、彼の心に【デ・ウェルミス】は告げている。

 『新たなる永遠の生』で手に入れる生は死なぬだけでなく、強大な力までも与えてくれる、と。


(そうなってしまえば、カルディナ議会も<超級>も恐れるに足らん! だからこそ、ここで他の奴らに【デ・ウェルミス】を奪われるわけにはいかん!)


 昨晩、AR・I・CAにメイドを通して暗殺を仕掛けたのもそれが理由だ。

 一時的にでも時間を稼げれば、市長の望みである不老不死は達成され、それを咎める者に抗う力までも得られるのだから。

 他者から見れば完全に視野狭窄だったが、不老不死という本来叶うはずのない望みが叶う寸前まで来ている市長自身には分からない。


「しかし……貴方が珠を持っていることはフリアさんが……」


 だが、市長に否定されても、痩せた男は語気こそ弱いものの、市長が珠を持っていることを確信している様子だった。


「……ッ! そうだ! それを聞きに来たのだ! なぜ貴様がフリアのことを……! 貴様との関係を話せ!」


 その言葉を聞いて、市長はなぜか狼狽した。

 私兵も、そして隠れて様子を窺うAR・I・CAにもその理由は分からない。

 だが、痩せた男には分かっていた。


「……話しても、よろしいのでしょうか?」


 男は周囲を窺うように視線を巡らせた。

 それは周りにいる私兵の男達を見ているようであり、隠れているAR・I・CAを見たようでもあった。


「ああ! 話してみるがいい! そもそもフリアが珠のことを話すなど、ありえんのだからな!」

「ありえないと言うのは……。貴方が珠を手に入れたときにはフリアさんは既に亡くなっていたから(・・・・・・・・・)……ですか?」


 市長から許可を得た男は、そう言ってジッと市長を見る。

 いや、違う。


「でも、フリアさんの証言で間違いないのです。そちらにおられる……貴方に弄ばれて殺されたフリアさんが『貴方が珠を手に入れてから若返った』と申しておられますから……」


 彼はそう言って市長の後ろを指差した。


「な、に……?」


 市長は恐る恐る振り返るが、何もいない。

 市長だけでなく、私兵にも、AR・I・CAにも、何も見えない。

 しかし、その場にいる数人が持っている《真偽判定》に反応はなく、男の視線は焦点が合っていた。

 まるで、そこに何かがいるかのように。


「フリアさんは貴方の政敵だった男性の妻で、夫婦共々貶められて殺されたのだとおっしゃっています」

「ま、待て……」

「それと……フリアさん以外にもこのお邸の地下に沢山のご遺体がありますね。ああ……このコルタナにしては浮浪児の死体を見ないと思いましたが、集めていたのですね。……いえ、珠を手に入れてから殺された方々もおりますね……。一九八人……、ですか。多くは奴隷の方々ですね……」

「待て!! お前は、何を言っている!?」


 市長は混乱の中で、叫んでいた。

 男が妄言を繰り返していたからではない。

 男が――数までも正確に(・・・・・・・)市長の地下での所業を把握していたからだ。

 『新たなる永遠の生』を手に入れる儀式のために邸の地下に死体を集め、……それだけでなく奴隷を殺して死体にしていることまでも。

 もっとも、儀式の準備以前に市長が行った罪状についても、痩せた男は把握していたが。


「ああ……すみません。私は《観魂眼》というスキルがありまして……、魂が見えるんです。死んだ方も含めて……ですね。話も出来ますし、交渉も出来ます。今回はフリアさんの頼み事を聞く代わりに……、貴方の行いを教えてもらいました」


 男が抑揚もなく告げたその言葉に、市長は驚愕する。

 そのスキル名を、市長は聞き知っていたからだ。


「《観魂眼》……! そ、それは……死霊術師系統の奥義ではないか……!?」

「……え? ああ……。すみません……申し遅れました」


 男はそう言って自分の胸に手を当てながら、


「私は――ベネトナシュと申します。ジョブは……【冥王キング・オブ・タルタロス】です」


 ――超越者である自身の名を告げた。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<二章の頃から話題だけは出ていた【冥王】


(=ↀωↀ=)<遂に登場

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