第十八話 戦い終わって
( ̄(エ) ̄)<総合評価20000ポイント突破クマー!
(=ↀωↀ=)<ありがとー!
読者の皆様ありがとうございます。
次は30000ポイントを目標にこれからも頑張ります!
□<ネクス平原> 【聖騎士】レイ・スターリング
《復讐するは我にあり》が直撃した瞬間、【ガルドランダ】の腹部は木っ端微塵に爆砕し、その体は上下に分かたれた。
その死体が地に音を立てて倒れたときには、他のモンスターの末路と同じように光の粒子になって消滅していた。
そして【ガルドランダ】が消えると、立ち込めていた瘴気もまた失せる。
三メートル先も碌に見えない瘴気の濃霧が、そうあるのが自然とばかりに陽光の中に消えていく。
【<UBM>【大瘴鬼 ガルドランダ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【レイ・スターリング】がMVPに選出されました】
【【レイ・スターリング】にMVP特典【瘴焔手甲 ガルドランダ】を贈与します】
瘴気の消失と今のメッセージが俺に戦闘の終了を告げている。
俺はアナウンスするウィンドウを、地面に倒れこんだまま見ていた。
『勝った、か』
「まだだ……!」
まだルークが上空で【クリムズン・ロックバード】と戦っている。
早く、救援に行かないと……。
『しかしマスター! 御主はまだ状態異常が……』
ステータスウィンドウを見れば瘴気こそ消えたが三重状態異常は残っている。
【猛毒】でHPが削れていくし、MPとSPも既に枯渇している。
だが、どうにかして回復し、ルークの救援に行かなければ……。
上空の【ロックバード】に加え、【ガルドランダ】を撃破する直前のあの攻撃。
あれは間違いなく……。
「レイさーん! 大丈夫ですかー!」
声に応じて振り向くと俺に【快癒万能霊薬】を渡した後は姿が見えなかったマリーが駆け寄ってくるところだった。
瘴気が消えたから近づいてきたのだろう。
「状態異常表示ひどいですね。ちょっと待っていてください」
パーティの簡易ウィンドウで確認したのか、マリーはそう言ってアイテムボックス――俺のカバン型やチェシャの使っていたポケット型とは違うリストバンド型――の中から薬瓶を何本か取り出した。
俺が使っていたのと同じ種類のHP回復ポーション。加えてMP、SPとラベルの貼ってある薬瓶だ。
「ひとまず応急処置でHP・MP・SPを回復しましょう。【解毒薬】があればいいんですけど、今しがた使い切ってしまったもので。【酩酊】や【衰弱】用の薬は元々【快癒万能霊薬】しか持っていませんでしたし……」
言葉と共にマリーが見たのは、俺同様に瘴気を食らった馬車の人達だ。
護衛も含めて全員が【酩酊】と【衰弱】のため倒れているようだが、【猛毒】で死んだ人はいないようだ。
言葉から察すると、マリーが手当てしていたらしい。
「結構持っていたんですけどねー。護衛、商人、その家族。全部合わせて十二人もいるものだから使い切っちゃいましたよ」
薬を飲ませて回るのは【薬師】になった気分でしたよー、とマリーは笑う。
マリーはずっと馬車の人々……ティアンが死なないように尽力していたらしい。
「…………」
「何です? ニマニマしちゃって。レイさんが中年なら訴えられてますよ」
ニマニマ……そんな風に笑った覚えないぞ。
「いや、優しいんだな、と思って」
「優しいとかじゃないですよ。だって嫌じゃないですか」
「嫌?」
「プレイヤーは殺してもデスペナだけなのでOKですけど、ティアンは生き返りませんからねー。永久ロストはちょっと嫌なのでNGです」
「……そうだな」
俺が後味の悪さを感じるのと同じか。
しかしプレイヤーは殺してもOKね、つい最近殺されたばかりの俺としては……あ。
「そうだ、マリー。さっきこの辺りにアイツ……<超級殺し>がいなかったか?」
「ああ、そうです! それもありました!」
マリーはポンと手を打ち合わせる。
「ボク見たんですよ! あの<ノズ森林>で見たのと同じ、<超級殺し>の男が【ガルドランダ】の左肩に<エンブリオ>を撃つのを!」
やっぱりあれは<超級殺し>の<エンブリオ>だったか……。
しかしなぜあいつは左肩だけ撃ったのか。
<UBM>である【ガルドランダ】を倒すのが目的なら、左肩だけでなく他の場所も撃ちまくって仕留めればいい。そうすればMVPはあいつだった。
これではまるで俺の助太刀をしたかのようだ。
「発砲してから<超級殺し>は去っていきました。方向からすると彼もギデオンに向かっているみたいですね」
「そうか……」
なら、また遭遇することになるかもしれないな。
「あ、回復しました?」
「ああ」
話す間もポーションでの回復は行っていた。HPは【猛毒】で減少中だが、MPとSPは戻った。
ネメシスが黒旗斧槍に変形する。
しかし先刻と違い、《逆転は翻る旗の如く》が発動しない。
『状態異常の元凶である【ガルドランダ】を倒したからかのぅ……』
《逆転は翻る旗の如く》は敵対者から受けた状態異常・デバフ効果を逆転させるスキル。
どうやら状態異常の発生源にして敵対者である【ガルドランダ】がいなくなった今、スキルは発動できないようだ。
……中々使い勝手が難しいな。
これ、敵を倒した後に状態異常でジワジワ死ぬ可能性もあるんじゃ……。
「まぁ、仕方ない。《逆転は翻る旗の如く》は抜きだ。基礎ステータスも上がっているのだから、やってみるさ」
先の戦闘で俺のレベルは3つ上がって23になっている。
相手が亜竜相当のモンスターでもやってやれないことは……。
『ところでマスター。回復したのはいいが』
ネメシスは斧槍の穂先をツイッと上に向けて。
『どうやって空中戦に乱入する気かのぅ?』
そんな、完全に失念していたことを思い出させた。
「…………」
『…………』
「…………」
これではさすがにやってやれない。
考えてなかった。
助けに行くどころか手も足も出ないじゃねーか。
「えーっと、石でも投げます?」
「さすがにあんな高さまで届かんわ……」
巨大な翼を持つ【ロックバード】さえも点に見えるほどの高さだ。
ルークとバビは点でも見えない……あ。
「降りてきましたね」
点のようだった【ロックバード】が下降してくる。
それを見た俺とマリーは身構える。
が、様子がおかしい。
俺を襲撃したときの高速急降下ではなく、ゆったりと高度を下げている。
やがて【ロックバード】の様子が細かに見えるようになったときに気づいた。
【ロックバード】の背中に、戦っていたはずのルークが乗っている。
【ロックバード】はゆっくりと着地し、ルークを地面に下ろした。
「レイさん! マリーさん! 大丈夫でしたか!?」
「ああ、こっちは大丈夫だが……ルークの方は? バビが見当たらないけど」
「バビは戦闘で疲れてしまって僕の中に戻ってます」
ルークはそう言って左手の紋章を見せる。
「そうか。……で、その【クリムズン・ロックバード】は?」
「オードリーです!」
『KIIIEAAA!』
大鳥?
ああ、オードリーか。
『名前をつけているということはもしや……』
「はい! 魅了したらテイム出来ました!」
そういやルークの《雄性の魅了》の効果に低確率テイムもあったか。
……ってことは、こいつも♀なんだ。
見た目でわかんないなホント。
「いや、ちょっと待て……この鳥、【ガルドランダ】の騎獣だったはずだが」
「最初は魅了も効きづらいしテイムもできそうになかったんですけど、下の瘴気が晴れた頃に急に効くようになりました」
瘴気が晴れた頃とは、イコールで俺が【ガルドランダ】を倒したタイミングだ。
主である【ガルドランダ】が死んで騎獣でなくなり、魅了とテイムの難易度が下がった、ということか。
見れば【クリムズン・ロックバード】……オードリーはルークの背に翼を擦りつけている。
求愛行動か何かだろうか? ルークによく懐いているようだ。
それとオードリーという名前もマリリンよりは似合っている気がする。オードリー・ヘップバーンが草葉の陰からどう思うかは知らん。
「瘴気が濃過ぎてレイさん達の様子がわからないから心配してました」
「ああ、勝ったよ。ルークとマリーのお陰だ」
『そして私のお陰だ!』
「知ってるよ。ありがとな、ネメシス」
『……う、うん。知っておるなら、いいがの……』
ん?
何か妙な反応だな。
「これで全部片付いたってことですねー」
「そうだな」
最後の<超級殺し>の事は気がかりだったが、もうこの場にいない以上はどうしようもない。
ひとまず奴のことは棚に置き、今は俺と【ジュエル】に入っているマリリンの回復を優先することにした。
俺の回復魔法やマリーの薬でHPを回復させながら一緒に状態異常が抜けるのを待った。
◇
元凶である瘴気が消失していたためか、10分もすると状態異常はすべて消えた。
そのころには馬車隊の人々も回復していた。
彼らのリーダーである商人――アレハンドロさんというらしい――は俺達にいたく感謝していた。
アレハンドロさんはどことなくラテン系の褐色でダンディな三十代男性だったのだが、「貴方達がいなければ私も家族も死んでいた」、「命の恩人だ」、「感謝してもしきれない」と涙ながらにお礼を言われ、俺もルークも照れてしまった。
アレハンドロさん達は引き続きギデオンを目指すらしいので、俺達も同道することにした。
先の戦闘で護衛を数人亡くし、残っている人も万全ではないため心配だったのもある。
アレハンドロさんは俺達の提案を是非にと快諾してくれた。
出発するために馬車を引き起こしていると、商会の人達や護衛の生き残りの人達が、死んだ人達の懐から何かを取り出していた。
見ると、それは箱型のアイテムボックスのようだった。
彼らはそれに、死んだ人達の遺体を、一つずつ収納していた。
各々の遺体が所持していたアイテムボックスに、一つずつだ。
マリーに尋ねると、あれは街々を行き来するティアンの人達の“棺桶”であるらしい。
モンスターもいる危険な道行きであるから、死の危険は常にある。
だが、命を落としたときに生き残った仲間がいれば、ああして遺体を“棺桶”に入れて、腐敗することなく家族や故郷に送り届けられるのだという。
だから、ティアンの商人や冒険者はみんな自分が入るためのアイテムボックスを持っているそうだ。
それは、モンスターなど死の危険が身近にあるティアンの人達の死生観をわずかに感じさせた。
「…………棺桶、か」
<Infinite Dendrogram>以外のゲームでNPCが死んでも特別に思ったことはないが、今は違った。
少しだけ、息がつまる。
ここがゲームだと分かっていても、俺はこっちで人が死ぬのには慣れそうもない。
それは<Infinite Dendrogram>があまりにもリアルだからかもしれない。
あるいは……。
「まぁ……今は、いいか」
俺はその思考を中断して、馬車を起こす作業に戻った。
◇
再出発して半日ほどマリリンの竜車に揺られ、日が傾いた頃。
俺達は決闘都市ギデオンに到着した。
To be continued
次は本日の22:00に投稿です。
(=ↀωↀ=)<一章のエピローグだよー




