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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩篇 二ページ目

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地獄と殺人と その二・五

(=ↀωↀ=)<区切りの都合でちょっと短めー

 ■カルディナ某所


 張がコルタナで“蒼穹歌姫”と遭遇して胃を痛めていた頃。

 彼らを送り出したラスカルは商談のため、彼が所有する一隻の大型船に乗って賭博都市ヘルマイネに向かっていた。

 船は、当然のように砂漠の上を進んでいる。

 このカルディナには各国の技術が流れてきており、砂漠を海の如く進む砂上船もグランバロアの造船技術とドライフの魔法機械、そして黄河のマジックアイテムが組み合わさったものである

 砂上船技術は多様な技術のハイブリッドであり、捉えようによっては最先端とも言うべきものだが、通常はあまり使われない。

 理由としては、この大砂漠を渡る際に機関音によって地中のワームを誘引し、戦闘回数を増やしてしまうからだ。

 亜竜クラス以上の個体も多いワームとの戦闘はティアンならばまず避けるべき事柄であり、通常は昔ながらの竜車を使用する。

 それでも砂上船に乗るとすれば、張達がコルタナに向かう際に使ったような比較的静粛性の高い小型船舶を使うことになるだろう。

 だが、ラスカルが乗る大型船は、そうではない。

 遭遇したワームの全てを……殲滅しながらこの大砂漠を航行している。

 地中にまで伝わる機関音に引かれて顔を出したワームを、船の各所から張り出した砲台が狙い撃ち、その体を光の塵へと変えていく。

 亜竜クラスの【デミドラグワーム】だけでなく、純竜クラスに相当する【ドラグワーム】であっても、その大型船――戦艦の前に姿を現せば砕けて消えるだけだ。

 圧倒的な力で、大砂漠の脅威の象徴であるワームを蹴散らしながら進む船。

 異常とも言える光景だが、それもこの船自体が<IF>の本拠地と聞けば納得する者もいるだろう。

 船の名は、【テトラ・グラマトン】。

 ラスカルが蒐集した数々の先々期文明兵器を搭載した、世界屈指の超戦艦である。


 ◆


「……今日は数が多いな」


 ラスカルは自室の分厚い窓の外を眺めながら、そう呟いた。

 彼から見える風景の中では、船体から伸びた作業用アームがワームが死んだ後に残されたドロップアイテムを回収している。

 しかし、この船に現在乗っている人間はラスカル一人だ。

 【テトラ・グラマトン】は航行と戦闘、回収までも自動化されており、唯一の乗員であるラスカルは自室で商談の準備をしている。

 余談だがこの船には他にも多くの部屋があり、二週間前に張が目を覚ましたのも船内の医務室である。

 他にも収監されている者も含め、メンバーの部屋も用意されている。


「……あのバカ、無駄に火力の高いヤツを撃っているな。あまり派手にやるとカルディナの連中に気づかれる。また徒歩で隠れて砂漠を進むことになるぞ」


 【テトラ・グラマトン】は強力な戦艦ではあったが、それでも【地神】を始めとしたカルディナの<超級>達をラスカル一人で相手取れるほどではない。

 この船自体はラスカルの<超級エンブリオ>のスキルで収納できるため、いざとなれば隠れることやログアウトも出来ることが幸いであった。


「ご主人様! お茶をお持ちしました!」


 そんな時、トレイの上にティーカップとポットを載せて、何者かが彼の部屋に入ってきた。

 ふわふわとした緑色の髪を揺らし、メイド服を着たソレは、十代後半ほどの女性に見えた(・・・)

 しかしよく見れば、ソレが女性……人間ではないと分かる。

 その体は艶やかな皮膚に覆われているが、左腕は肩口から先に皮膚がなく……金属製の中身がむき出しになっている。

 その美しいはずの顔も右目は大きな黒い眼帯に覆われており、額には何かを取り外したような傷の如き痕があった。

 SF小説かライトノベルに出てくるアンドロイドのような姿を隠しもしない彼女の呼び名は、マキナ。

 【器神】ラスカル・ザ・ブラックオニキスの<超級エンブリオ>である。


「……マキナ。ワームの駆除はもう少し音と威力を控えめにやれ」

「了解です! そんなことよりご主人様! エミリーちゃん達も今頃はコルタナについてますか!」


 <マスター>の指示を速攻で「そんなことより」と言ってのけたマキナに溜め息をつきながら、ラスカルは彼女の問いに答える。


「……ああ。途中で他の<超級>や神話級に出くわす事故でもなければ、今頃コルタナだろう。万が一にも事故に遭っていたら……最悪だと張が死ぬだろうが、そのときは張の【契約書】で分かる。そしてアイツらは無事だ」


 その発言はまるで、<超級>や神話級に出くわしてもエミリーの身は心配していない、という風だった。


「良かったです! エミリーちゃんにはいずれオセロ五〇連敗の借りを返さなければなりません!」

「……マキナ。お前、それは流石に負けすぎだろう」

「私の処理能力は諸々の事でいっぱいいっぱいなのです! 勝つための戦略はご主人様頼りなのです! たとえそれがオセロであっても! ご主人様に後ろから指示されないと勝てないのです!」

「……それ、お前がオセロする意味あるのか?」

「最適化を重ねれば、もしかしたら自力で勝てるかもしれません! あと一〇〇戦は要りますね!」

「……そうか」


 ラスカルは疲れたようにそう呟いて、マキナの持って来たお茶を口に運んだ。


「…………」


 そして無言のまま口につけたそれをテーブルの上に置き、


「おいポンコツ。お前、この紅茶淹れるとき……水は何を使った?」

「【快癒万能霊薬】です! ご主人様がお疲れなので五本分たっぷり入れました!」

「そうか……。お前、腕立て伏せ五〇〇回な」

「なにゆえ!?」


 ラスカルはポンコツメイドにそう言い捨ててから、一本一〇万リルの薬品を五本も使った贅沢な……しかしクソ不味い紅茶を、勿体無いので苦い顔をしながら飲み下した。

 煮立ったことで薬効が飛んだのか、疲れはむしろ倍増した心地だった。

 そしてポンコツメイドが腕立て伏せを始める横で、一束の資料に目を通し始める。


「フレームが、フレームが軋むぅ……。あ、ご主人様は何をご覧になっているんですか?」

「昨日寄った街で<DIN>から買ったフリーの<超級>と準<超級>の目撃情報だ。まだ全部は目を通していなかったからな」

「ほへー」

「既に国に属している連中より、そういった連中の方が引き込みやすいからな。まぁ、ゼタは皇国の【魔将軍】を引き込むことに成功したらしいが。黄河から珠を盗んだ件といい、アイツの手際には感心する」


 実際、ラスカルはゼタの手腕を評価している。

 国から手厚い支援を受けていたはずの【魔将軍】を、どうやって<IF>に転ばせたのか。ラスカルにはその手法が見当もつかなかった。

 答えは『闘技場で小学生のメンタルを圧し折った後に美味い話で勧誘した』であったが。


「ご主人様がスカウトしたのはあのガーベラさんでしたね! 同じサブオーナーなのにゼタさんって本当に有能ですね!」


 その発言に、ラスカルは今は獄中にいる問題児のことを思い出して少しだけ胃にダメージを受けた。

 あるいは紅茶という名の熱々薬品が胃にダメージを与え始めたのかもしれない。


「……ガーベラをスカウトした責任はあるかもしれないが、『同じサブオーナーなのに』のくだりは無駄に俺を下に置いてないか?」

「下には置いていませんが反省してくださいね! えっへん!」


 なぜかマキナはそう言って胸を張った。


「そうか……。反省を込めて、俺の<エンブリオ>の腕立て伏せを一〇〇〇回に増加だ」

「うきゃあ!? ご主人様のドS! 他の人には優しいくせに!」

「……お前がポンコツでなければ俺もサドらなくて済むんだが」


 彼の機嫌を損ねる天才であるポンコツメイドに溜め息をつきながら、ラスカルは資料を読み進める。

 しかし、あるページに差し掛かったとき、その指が止まった。


「……そうか。アイツがコルタナの近辺にいるのか。なら、鉢合わせるか」

「ご主人様、アイツって誰ですかー?」

「お前も知っている奴だ。砂漠でやり合って完全回収前の<遺跡>が潰れただろうが」

「わかった! 【撃墜王】ですね!」

「たしかにソイツともそういうことはあったが、フリーの目撃情報だと言っただろう! もう一人の方だ!」

「もう一人……もう一人……あー」


 マキナもラスカルの言った人物に思い至り、腕立て伏せをしながらうんうんと頷く。


「あれ? コルタナって、エミリーちゃん達の向かったところですよね?」

「そうだ。念のため、張達に通信で連絡しておくか。……しかし、面白いな。純粋に一人の<マスター>として、アイツと張達の戦いは観てみたい」

「分かりました! じゃあ船の舵をコルタナに向けますね!」


 マキナがそう言うと、唸るような音がして部屋全体……その部屋を収めた【テトラ・グラマトン】が進路を変えようと揺れはじめる。

 マキナの意思に沿って、巨大な超兵器がその動きを変える。

 しかし、それは不思議ではない。

 【テトラ・グラマトン】が自動化されているのは、ラスカルの<超級エンブリオ>であるマキナがその全てを制御しているからだ。

 ポンコツではあるが、マキナはこの船の操舵士にして――メインコンピュータだった。


「進路は変えなくていい! これから商談だと言っておいただろうが!」

「分かりました! フリですね! 変えるなよ! 絶対変えるなよ! ですね!」

「そうか……そのポンコツ過ぎる耳を取り外して分解清掃してやる!」

「わーい! ご主人様の耳かきだー! ご褒美……いたたたたたた!? 耳引っ張られるの痛い!」


 そんなやりとりで【テトラ・グラマトン】を揺らしながら、彼らは彼らの仕事に向かう。

 張達に騒動の火種となる情報を連絡することを、少しだけ忘れて。


 To be continued

( ̄(エ) ̄)<ほぼラスカルとポンコツのコントだった件について


(=ↀωↀ=)<前振り回ゆえ


(=ↀωↀ=)<それはそれとして、このコンビは会話がポンポコ出てくる


余談:

【テトラ・グラマトン】

原型はグランバロアの三〇〇メテル級戦艦。

完成直後に【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】との遭遇戦で轟沈する。

その後、海溝に沈んでグランバロアでもサルベージ不可能となったが、沈没位置は当時グランバロアの<超級>であったゼタが覚えていた。

その後、<IF>に所属したゼタがラスカルに回収を提案。当時のメンバー三人で協力して海溝まで潜った後、ラスカルのマキナが回収した。

回収後はラスカルが修復と改装を続け、先々期文明のアイテムも組み合わせて陸海を走破する万能超戦艦として再誕。<IF>の当座の本拠地として運用しはじめる。


 人

( ゜ ゜)(うちの本拠地のお披露目、気がつくと気持ちコメディ回)


世界屈指の戦闘力を有する兵器であり、現存する兵器(※)で同格とされるのはドライフ皇国中枢でもある【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】、カルディナ最大クラン<セフィロト>所有の【レインボゥ】、グランバロア最大クラン<GFRS>所有の【新式大和】、グランバロアの総旗艦【グランバロア号】である。

※<エンブリオ>や現時点で未発見の先々期文明兵器を除く。

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