地獄と殺人と その一
(=ↀωↀ=)<蒼白Ⅱ始まるよー
(=ↀωↀ=)<時期的には五章と六章の間くらいかなー
( ̄(エ) ̄)<……サブタイが血生臭すぎる
□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス
師匠である【撃墜王】AR・I・CAのクエスト、宝物獣の珠探しに巻き込まれてから三週間。
砂漠を越えたり、<遺跡>に潜ったり、【高位操縦士】がカンストしたので【装甲操縦士】に転職したりと色々なことがあった。
そして今、私達は一つ目の珠を回収したヘルマイネから、二つ目の珠があるらしい商業都市コルタナにその身を移していた。
このコルタナは街中に様々な商店やバザールが立ち並ぶ商いの街であり、カルディナの中でも最も富が集中している。
決闘都市ギデオンの四番街の雰囲気を街全体に広げた雰囲気だ。
「こういう街になら、あの珠のような不可思議な物品の一つや二つ流れ込んでも……不思議はないのだろうけど。……厄介事も増えそうだな」
私はカフェのテラスからコルタナの街並みを眺めて、心中の懸念を呟いた。
<Infinite Dendrogram>の中で、厄介事と無縁でいられる場所など多くはないだろうが。
「ユーゴー、ごはんたべないの?」
「ああ。食べるよ。少し考え事をしていただけだから」
今の私達は午前中に買い物を済ませ、師匠との待ち合わせを兼ねた昼時の小休止。
私に食事を促したキューコはバニラのアイスクリーム……だったものを食べている。
砂漠地域の暑さでアイスは即座に溶けていく。
彼女も最初は溶け切る前に食べようとしていたが、結局諦めてシェイクのようになったアイスをチャプチャプと掬って食べていた。
でも本人は満足そうだ。白ければそれでいいのかもしれない。
「よかったね。しゅうりのパーツかえて」
口の周りを白くしながら、キューコは私にそう言った。
彼女が言っているのは、先ほど商店で購入した<マジンギア>のパーツについてだ。
私の【ホワイト・ローズ】と師匠の【ブルー・オペラ】、姉さんがオーダーメイドで手がけた<マジンギア>には大別して二種の部品がある。
一つは姉さんが【ホワイト・ローズ】専用に作成した新機軸のパーツ。コストが重大である代わりに、オリジナルの煌玉馬のようにある程度の自動修復能力がある。
もう一つは既製品のパーツ。こちらは【マーシャルⅡ】と同じものが使われていて、後からパーツを交換してメンテナンスする仕様。
全てを自動修復にしなかったのは、技術的な障害といったところだろう。
リアルとこちらの知識を融合してロボットを作成する<叡智の三角>でも、先々期文明にいたという名工フラグマンの領域にはまだ到達していないということだ。
そういった事情で消耗品のパーツは買わなきゃいけないけれど、ドライフから遠く離れたカルディナでは入手難易度が上がる。
しかし幸いにして、師匠から学んだ知識の中で三つだけある有益な知識の一つが『カルディナでの<マジンギア>の良品質パーツを置く店の見分け方』だったので、無事に入手できた。(なお、残りの二つは『操縦のコツ』と『カルディナ内で操縦士系統に転職可能なクリスタルが置かれた<遺跡>の所在地』だった)
<ゴゥズメイズ山賊団>討伐の時のお金も残っていたから、パーツ自体は問題なく購入できたのだけど……。
「……皇国軍に卸した純正品のパーツがカルディナの商店に並んでいるのは、問題だよ」
一体どこからどうやって流れたのか。
これだからカルディナという国の流通経路は恐ろしい。
皇国に限らず、他の国も同感だろう。
「それにしても、おそいね」
「……ああ」
私達がこの店を選んだのは、師匠の指示だ。
師匠は昨晩、「珠の在り処を探ってくるね!」と言い残してこのコルタナの市長の邸宅に向かった。
そして昨晩のうちに戻れなければ、朝か昼にこの店で落ち合うという約束をしていた。
しかし、私達が朝に訪れた時にはまだ師匠は来ていなかったので、パーツの購入を先に済ませることにした。
再度店を訪れた今もやはりいなかったが。
「イタリア人である師匠の時間感覚がルーズなのか、それとも何かあったのか」
「んー、はんはん?」
だよね。師匠だもんね。
トラブルよりも「女の子と遊んでて遅れちゃったよー」って確率の方が高いよね。
「やっほー。ユーちゃんにキューちゃん、おまたせー♪」
「師匠! …………あ」
などと考えていると、師匠が店内に入ってきて私達のテーブルについた。
けれど……。
「いやー、調査に手間取ってさー」
「そうですか。ところで師匠」
「なーにー?」
「首筋」
私に指摘されて、師匠は首筋を手で押さえて誤魔化すように笑った。
それはどう見ても、キスマーク。
「市長のところでは随分と楽しかったようですね」
「スタイルが良くて童顔のメイドさんがいてねー。口説いて朝までおしゃべりしてた!」
そうですね。随分とおしゃべりが楽しかったみたいですね。
「しねばいいのに」
「キューちゃんは手厳しいね! でもちゃんと掴んできたよ!」
メイドと一晩おしゃべりしていた師匠は、それでも仕事はしていたらしい。
「それで師匠。シロですか、クロですか?」
師匠は「珠の在り処を探ってくる」と言って市長のところに出向いた。
最初は市長に協力を取り付けるためかと思ったけれど、師匠がいない間に違うと気づいた。
あのカジノの一件のように、こういうときの師匠は既に情報を掴んでいる。
だからきっと、最初からそこ――市長の邸宅が「珠の在り処」だと想定して出向いたのだろう。
「ふっふっふ。中々にアタシのことが分かってきたねー。ちなみにクロだね! あいつ、絶対に珠を隠匿してるよ。じゃなきゃ、こっちの隙を窺って暗殺の機会を狙ったり、メイドさんに毒盛らせたりしないさ」
師匠の発言に、少し驚いた。
「……毒、盛られたんですか?」
「うん。だけど飲まずに済ませて口説いて落とした。超エロ可愛かった!」
「この師匠は本当にもう……」
毒殺されそうになったことをそんなあっさりと……。
師匠のカサンドラに見えるのは『未来』ではなく『危険』だから、毒殺というのは師匠に対して最も無意味な暗殺方法と言える。
……しかし考えてみれば、師匠でなくても毒殺ならば【快癒万能霊薬】で回避できる。
そうなると……毒殺未遂はその市長からの警告のようなものだったのだろうか。
「市長が珠を隠匿するのは分かるよ。前評判通りなら、ここにある珠は金と権力を持っている連中が一番欲しいものだからね!」
「珠の……<UBM>の能力が調査済みなんですか?」
「そう。出回っている珠の内の幾つかは能力の情報まで流れてるの。ここにあるはずの珠もその一つ。『使用者に健やかな生を与え、更には新たなる永遠の生を与える』だって」
健やかな生と、新たなる永遠の生。
たしかに富と権力を手にした者は、今度は死を恐れる。
死によって、老いによって、病によって、持っていたものが失われるのを恐れる。
ならば、一番欲しいもの、というのも過言ではないだろう。
「実際、効果はありそうだよ。ていうかあの市長、自分で使ってるね!」
「?」
「これが資料として持ってきた市長の写真」
写真には、目の下の隈や黄疸、荒れた皮膚など不健康が形になった肥満体の男性が写っている。
「で、これが昨晩に隠し撮りした市長。ちなみに御年は七十歳」
「……、は!?」
写真に写っていたのは、高めに見ても四十歳前後と思われる中年男性。
溌剌としており、肌艶はよく、とても健康的だ。
とても同一人物とは思えない。若返っている、どころじゃない。
「それは珠に関して知らぬ存ぜぬするよねー。手放したら戻っちゃうかもしれないし」
「……でも、師匠は<セフィロト>ですよね? それなのに、知らない振りを?」
<セフィロト>。カルディナに属する九人の<超級>が結集した<Infinite Dendrogram>でも最強に位置するクラン。
そして同時に、カルディナという国自体がバックについたカルディナ議会直下の最高戦力でもある。
都市国家連合カルディナは議会……カルディナの各都市の市長による合議制で運営されている。
師匠によれば、今回の珠など国際問題にもなりかねないクエストを<セフィロト>が行う際は、予めカルディナの議長であるラ・プラス・ファンタズマの裁可を得る必要があるらしい。
そして今回、珠の回収を師匠に依頼をしたのは表向きはとある商会の商会長だけれど、実際はバックに議長がいると聞いている。
一つ目の珠のように外国のマフィアが関わっているケースは別として。今回のように市長……議会の関係者が所有しているならば、このクエスト遂行のために協力してもらえると思ったのだけど。
「あっはっはー。まだユーちゃんはこのカルディナって国が分かってないね?」
師匠はそう言って、カルディナのマップを見せる。
「このカルディナは都市国家の連合だからね。このコルタナみたいに選挙で選ばれることもあれば、世襲制もあるけど。いずれにしてもそれぞれが一国家で、市長は王様なんだよ」
「……だから、カルディナという括りであっても都市ごとに治外法権、ということですか?」
「少し違うね。カルディナという枠組みの中で、ルール違反をすれば当然ペナルティはある。だが、ここの市長は『自分は別だ』とタカをくくっているし、実際それに近いからねー」
「?」
「ユーちゃんはさ、ドライフでスタートしたときにどこにログインした?」
「それは、ヴァンデルヘイムですけど」
国家を選んだ後はその首都でスタートするのが当たり前。
「うんうん。でも、カルディナではこのコルタナがスタート地点なんだよねー」
「え?」
「カルディナの議会所在地にして首都であるドラグノマドはあちこちを移動するからね。都市周辺のモンスターのレベル帯が変わったりするし、初心者のスタート地点に向かないんだよ」
「首都が、移動……?」
それは一体どういう……。
「首都にはどうせ寄るだろうから、詳細はそのときのお楽しみだね。絶対ビックリするけど」
「はあ……」
「ま、そんな訳でこのコルタナはカルディナ第二の都市にして商業の中心地、そして<マスター>のスタート地点。重要度は極めて高いの。それこそ、ペナルティを科すのが難しいほどにね」
「…………」
そんなことをすれば、カルディナという国そのものに大きな影響があるから、か。
「じゃあ、どうするんですか?」
「『あいつ絶対に珠を隠してますよ』って議長への報告で終わらせるのも手だけど、それはちょっと片手落ちだからね。当然、回収するよ!」
「え、でも……」
「いやいやユーちゃん。市長はね、アタシに『珠なんて知らない』、『この街にあるわけがない』と言ったんだよ」
そこで師匠は笑って、
「だからさ、――知らないしあるわけがないものがこの街から無くなっても、文句はないはずだよね♪」
市長からの珠の強奪を宣言した。
「……はぁ」
私の口から溜め息が漏れるのは止められない。
師匠の顔、ヘルマイネで珠を持つ黄河マフィアのカジノに乗り込んだときとそっくりだ。
この師匠は誰よりも危険を察する<エンブリオ>を持っているのに、そのくせスリルや危険が大好物なのだと……ここ暫くの付き合いですっかり理解してしまった。
……事を成す時は安全策や次善の策を何重にも張る姉さんとは真逆だ。
あるいはそういう真逆なところも……二人が親友となった理由なのだろうか。
「おっと。ユーちゃん、もしかしてアタシがスリルでヒャッホーするために手荒なことしようとしてるとか思ってない?」
「……違うんですか?」
「合ってるよ! でもそれだけじゃないんだなー」
「?」
「だって、時間もないからね。報告で済ませると後手に回りそうだし」
時間……後手?
「ユーちゃん。この珠探しのクエストだけど……これってアタシとユーちゃんの二人旅冒険浪漫ってわけじゃないんだよね」
「……元々私は巻き込まれているだけですけど」
「うんうん、そこは諦めて。で、言っちゃうとこのクエストにはライバルがいます」
「ライバル?」
「出回っている珠の内の幾つかは効果まで分かっている、って言ったよね」
「はい」
「世の中には、その効果が喉から手が出るほど欲しい連中もいるんだよ」
「……その、連中というのは?」
「具体的に言うと、『水を土に変える』珠を欲してグランバロアが動き始めているらしいし、『モンスターを《人化》させる』珠を欲して……レジェンダリアの変態が来てるって情報もあるんだよね」
「!」
つまり、この珠探しは争奪戦であり……それは師匠以外の<超級>が出てくることが十二分にありえるということ。
そして師匠が言いたいのは……。
「この街にある珠も……誰かが狙っているんですか?」
「その可能性は十二分だねー」
『使用者に健やかな生を与え、更には新たなる永遠の生を与える』のがこの街にある珠。
その珠を欲する人は……それは多いだろうけれど。
「鬼が出るか、蛇が出るか。それはこれからだけどねー。出来れば会いたくないなー」
どこか愉快そうな声音で放たれたその言葉に……ひどく嫌な予感を覚える。
そしてこの先の未来に……あの夜のギデオンよりも凄惨な戦いが確定してしまった気がした。
Open Episode 【Hell VS Murder VS 】
(σロ-ロ)<そういえば蒼白にエルドリッジ出るって言ってませんでしたっけ?
(=ↀωↀ=)<考えた結果、彼の出番は蒼白Ⅲになりました
(σロ-ロ)<他の王国有力PKは全員が<エンブリオ>公開済みなのに
(σロ-ロ)<彼はまたお預けされたんですね
(=ↀωↀ=)<仕方ないね!




