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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第六章 アイのカタチ

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264/717

裏話 管理AI達の答え合わせ

(=ↀωↀ=)<本日二話目ー


(=ↀωↀ=)<まだの方は前話からー


追記:

一部表現修正

(=ↀωↀ=)<ググッた。変えた

 □■<DIN>ギデオン支部屋上


 <ネクス平原>から双塔(サンダルフォン)が消えていく光景を、双子は沈黙したまま見ていた。

 彼らの計算ではこうはならないはずだった。

 ハンニャはギデオンで暴れ狂い、それを止めるために<マスター>が奮戦し、状況の乱数次第で進化もあると計算していた。

 だが、その計算と実際の結果はかけ離れている。

 ハンニャによる被害は微々たるものであり、あまつさえフィガロ独りで……プロポーズという予想だにしない形で鎮圧してしまった。

 そもそも、双子はフィガロの参戦を重視していなかった。周囲に『味方』がいる環境で、彼の戦力が著しく低下することは彼らも知っている。

 その彼が、他者から遠く離れた<ネクス平原>にログインしたことがまず予想外。

 そして、彼自身の恋心も計算に入っていない。

 前提の数値に二箇所も大きな差異があったための、計算破綻。

 だが、後者はともかく……前者は間違うはずがなかったものだ。

 なぜなら、フィガロのログイン地点はギデオンの中だと……双子は聞いていた(・・・・・)のだから。


「そうか」

「そうだったのか~」


 そして、そこまで再検証を行った時点で神算鬼謀の管理AIは、


「「――我々に偽の値を打ち込んだか、アリス」」


 声を揃えて、自らの計算が間違っていた原因を述べたのだった。

 彼らが同時に屋上へと繋がる出入り口に振り返ると、そこには一人の人物が立っていた。

 年齢は十代のようにも見えるが、その身からは暖かな母性のようなものも垣間見え、年齢は定かではない。

 彼女の名前はアリスン。

 <DIN>の企画部に所属する女性であり、その正体は管理AI一号アリスのアバターである。


「はいはい。これで企みはお終いよー。お仕事に戻ってくださいね。色々とやることはあるでしょう?」


 彼女はニコニコと微笑んだまま、双子……<DIN>の社長に業務への復帰を促した。


「承知した。しかしまさかな」

「アリスの企画を利用したつもりでこっちが利用されてたか~」

「やはり、年の功には敵わないか」

「あれを除けば私達の中でも一番お婆ちゃんだもんね~。いっぱいくわされた~」

「もー。お婆ちゃん呼ばわりはよしてほしいわー」


 頬に手を当てて穏やかに怒る素振りをするアリスに背を向けて、双子は社屋の中へと入っていった。

 彼らは既に切り替えている。

 達成の確率が彼らの許容値を下回った企みには一切固執することなく、自分達のサブワークである社長としての業務を優先した。

 そうして、屋上にはアリスと……彼女にアバターを制止させられたままだったチェシャだけが残された。


「……とりあえず、自由を返して欲しいのだけど」

「はいはい」


 アリスがそう言うと、唐突にチェシャが使っているトム・キャットのアバターに自由が戻った。

 手を握り開いて感覚を戻しながら、チェシャはアリスに問いかけた。


「アリス。君はこうなることを……フィガロがハンニャに告白することを想定していたでしょ?」

「そうよー」


 チェシャの問いにアリスは何でもないことのように答えた。

 そもそも、このアリスが双子の企みに与している時点でチェシャは疑問を覚えていた。

 このアリスは、役割よりも自身の主義を……正確には自身の主義によってその役割を担っている。

 彼女の主義は、言ってしまえば<マスター>至上主義。

 <マスター>であるプレイヤー達を尊び、守ることを自身の在り方と位置づけている。

 その彼女がこんな企みに手を貸すこと自体がおかしかった。

 <SUBM>の投下などの大規模計画ならばともかく、これは双子が臨時で考えただけの計画なのだから。


「さっき、トゥイードルが利用したとか利用されたとか言っていたけれど」

「ええ。お膳立てをしてもらったの。フィガロ君がハンニャさんに思いのたけをぶつけられるようにね」


 管理AIにおいて演算能力が最も高いのは双子であるが、全てのアバターを把握して状態を監督するアリスは彼らに準じた演算能力を持っている。

 双子ほどではないが状況からの結果予測が可能であり……こと自分が保護を担当する<マスター>についての予測は部分的に双子を上回る。

 ゆえに、彼女は双子――<DIN>の社長という権限も持つ彼らに今回の状況をお膳立てさせるため、彼らがフィガロの情報を求めた際にログアウト位置と彼の想いを誤ったまま伝えていたのだ。

 それらの情報が抜けた場合に彼らがどのような計算をして、どのような策を採るのかも彼女には分かっていたから。


「……何でそんな回りくどい真似を?」


 フィガロにハンニャへの告白をさせる、という目的が彼女自身の主義によるものか、あるいは何か別の目的があったのかは分からない。

 しかし、それならば放置しておけば全て丸く収まったのではないか、という思いがチェシャにはあった。

 それをアリスは否定した。


「アバターの状態も本人の思考も、私はずっと視て(モニターして)いるから。このままだとフィガロ君が一歩を踏み出せるか怪しかったもの。だから、少し背中を押したのよー。それに、フィガロ君から踏み出さないと、擦れ違ったまま不幸になる恐れもあったわー」


 「やはり理由はお節介か」と内心で思いながら、チェシャは少しだけ納得した。

 フィガロのことはチェシャも知っている。その彼が異性に告白するという光景は、目撃したばかりでも中々信じられないものだった。あるいは本人もそうであったかもしれず、背中を押さなければ不幸な結果になっていたことも確かに考えられた。

 ゆえに、チェシャはその疑問については終了させ、次の疑問を尋ねる。


「告白のタイミングで《ラスト・バーサーク》の暴走がなりを潜めていたのは、アリスの仕業?」


 【狂王】の最終奥義、《ラスト・バーサーク》の効果はチェシャも知っている。今のようにアバターで活動していた時分に、自身を対象として使われたことがある。

 ゆえに、ターゲットを前にして止まるスキルではないと思っていたのだが、結果はプロポーズが終わるまでハンニャは動かなかった。

 それはトムのアバターに施していたように彼女が制止処理を行っていたのではないか、というのがチェシャの推測だ。

 しかし、その最も可能性が高そうな答えをアリスは否定する。


「あれは彼女自身の意思の力よ。私の作ったアバターはスキルによる精神への影響は抑えているけれど、その逆はないもの。自分の意思でスキルの暴走を止めようとすることは妨げていないわ」


 それはまるでどこかの物語のように、愛のために自らの狂気と暴走を抑え、留めていたということ。

 精神に影響を及ぼすスキルであるがゆえに、精神からの影響も受ける。

 それを聞いたチェシャは「ありえなくはない」という肯定と、「最終奥義を止めるほどの意思の力が彼女にあったのか?」という否定を考えた。

 その答えが真実であるか否かを把握しているのはアリスだけだろうが、彼女はそれ以外の答えを提示することはないだろうと考えて……その疑問もそこで終了した。


「そしてフィガロ君の告白も彼女達自身の意志の力よ。お膳立てをしたところで、心の結果まで決められるほど私達は万能ではないわ」

「……そうだね」


 チェシャを止めたのは、言ってしまえば告白の邪魔をさせないためだったのだろう。分身の人海戦術で《天死領域》の外に出て、万が一にもフィガロと接触などされた場合を恐れたのだ。そうなったとき、『味方』がいるためにフィガロが全力を尽くせず、サンダルフォンに潰されて終わっていたかもしれないのだから。

 ハッピーエンドのために屋上に縛り付けられていたということだ。


「……でもさ、これって下手するとギデオンにも結構な被害が出ていたよね」


 この形に落着したのが彼ら自身の意志の力によるものならば、そうはならない可能性もあったのだ。

 その場合、被害は双子の計算に近いものとなっていただろう。

 しかし、それに対するアリスの答えは……首をかしげるというものだった。


「それがどうかしたの?」

「…………まぁ、君はそういう<エンブリオ>だよね」


 彼女が尊重しているのは<マスター>のみ。ティアンは彼女の愛の範囲外であり、先々期文明との戦争では“冒涜の化身”として一等恐れられた存在でもある。

 チェシャにとって、バンダースナッチや双子とは別な意味で注意が必要な同僚であった。


「二人は結ばれたことだし、めでたしめでたしでいいんじゃないかしらー」

「そうだね。けれどこれ……ラブストーリーじゃなくて喜劇だよ。あの二人と君以外は、誰も彼も空回ってばかりだったからね」


 事前にフィガロとハンニャのことで気を揉んでいたレイ達も、策謀を企てたつもりがプロポーズのお膳立て作りだった双子も、突然迷宮に放り込まれて右往左往していた住民も、流された写真からスクープのつもりで記事を書いてしまった不幸な新聞社も。

 色々と大変だったはずなのだが、その結末が童話か少女マンガのように愛し合う二人のキスシーンだったので非常に空回っていたと言える。

 喜劇である。


「……ああ、そうだった」


 そこまで考えて、「そういえば『フィガロの結婚』って喜劇だったっけ」とチェシャ……元文化流布担当の管理AIは思い出したのだった。

 

 To be continued

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― 新着の感想 ―
終わり方最高かよ。 思わず「おぉ」って言ってもた
いい落とし方で唸ってしまった……
[良い点] オチが秀逸すぎる
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