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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第六章 アイのカタチ

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第十七話 愛闘祭の一幕 衣替えと爆弾

追記

(=ↀωↀ=)<うっかり初期設定のまま書いてた部分があったので修正


(=ↀωↀ=)<《瞬間装備》は<エンブリオ>由来ではありません

 □【煌騎兵】レイ・スターリング


「やはり服ではないかのぅ」

「でも今後を考えると防具の方がいいんじゃないか?」


 ネメシスの発案で俺の普段着を買うことになったので、俺達は商店の並ぶ四番街に訪れていた。

 しかし、いざ服を選んで購入という段になって一つ問題があった。

 それは防具として買うか、服として買うかという問題だ。

 デンドロではリアルとは違い、服はファッションだけでなく戦闘において命を守る防具としての役割も担っている。

 そうした類の防具は、モンスターのドロップなどから生産した装備補正の高いものとなっている。ただし、その利点ゆえに無骨気味な服が多い。

 反面、ファッションとしての服もあり、そちらはオシャレなバリエーションも豊富だ。ただし、防具としては使い辛いものがほとんどだ。

 つまり今後服を着て戦うことも考えるなら防具、あくまで街中でのファッションに絞るなら服という選択になる。

 クエストやダンジョンなど最初から戦いに赴くときは従来の装備で良いが、不意に街中で戦闘に突入するというケースもありえるのが悩みどころだ。


「……それならやっぱりこのままでもいいんじゃないだろうか?」

「御免被る。御主とて街中での反応くらい覚えておろうが」


 たしかにそれを言われると否定もしづらい。今朝方も衛兵に呼び止められたし。

 どうしたものかと悩んでいると……。


「あ、レイさん。おはようございます!」

「あれ? ルーク?」


 通りの向こうから今日は霞とデートをしているはずのルークが姿を現した。

 はて、まだ待ち合い時間ではないのだろうか?


「ルーク。霞とのデートは?」

「それが……明日に延期になりました」

「延期?」


 話を聞いてみると、霞がリアルで風邪を引いてしまい、寝込んでいる最中なのだとか。

 実際には数日前から罹っていたそうだが、何とかデートまでに治そうと頑張ったけれど駄目だったらしい。

 けれど少しずつ容態は良くなっているので、こちらの時間での明日……リアルで半日ほど経って具合が良くなっていればデートをすることになったそうだ。それでも治っていなければ、また延期である。

 まぁ、こういうこともあるだろう。リアルにはこっちみたいに状態異常をポンと直せるアイテムや魔法はないのだから。

 あれ? でも昔、姉が誰かと……まぁ、きっと気のせいだろう。


「それで予定が空いてしまったので、久しぶりに四番街のお店や女衒ギルドに顔を出そうと思っていたんです。レイさん達は?」

「ああ。昨日の件についての話は済んだよ。今は普通に買い物だ」

「レイの服選びだの」


 アズライトとの一件は国家機密らしい情報も絡んでいるので、往来では話せない。兄や先輩も交えてまたの機会になるだろう。

 そしてルークの方もそれは理解していたのか、ここでは聞いてこない。


「服選びですか、なるほど!」


 今の「なるほど!」はどういう意味だろう。


「納得しただけですから他意はありません」

「そうか……。だけど、その服選びでちょっと悩んでいてな」


 俺はルークに服の購入に際して行き当たった『性能を優先するか、デザインを優先するか、あるいはこのままでいいんじゃないか』問題について話した。

 するとルークは首を傾げてこう言った。


「普通の服を買って、《着衣交換》スキルが付いたアクセサリーを使えばいいのでは?」

「《着衣交換》?」


 初めて聞くスキルの名前だったので、ルークに鸚鵡返しに尋ねた。

 ルークによると、《着衣交換》とは現在装備してあるものとアイテムボックス内のアイテムを紐付けし、装備を付け替えることが出来るスキルらしい。

 《瞬間装着》や《瞬間装備》と似通っているが、あれがアイテムボックスのものを即座に選択して装備できるのに対し、こちらは紐つけしてペアとなった装備同士の装備交換となる。

 ペアになった装備を一括で交換できるが、代わりにその場に合わせた装備変更はできないという感じだ。

 また、《瞬間装着》と違い、数秒程度の待機時間が生じるらしい。

 ゆえに戦闘中に必要に応じた装備変更をするなら《瞬間装着》、戦闘に備えて非戦闘用の装備から戦闘用に切り替える場合は《着衣交換》が好まれるらしい。

 余談だが、兄の着ぐるみや先輩の【撃鉄鎧】のように全身一括装備の場合は《瞬間装着》でも変わらない。


「演劇の衣装替えなどでもよく使われているそうですよ」

「へー」


 ヒーローショーとかで使えそうだな。

 ともあれ、ルークのお陰で悩み事は解決した。

 《着衣交換》で装備を切り替えることにして、普通に服を購入しよう。

 装備変更までのタイムラグが気になったが、《カウンターアブソープション》や【ブローチ】でそのくらいの時間は稼げるだろう。

 俺達は服屋に買い物に行くことにして、女衒ギルドに挨拶に行くというルークと別れた。


 ◇


 さて、服屋に来てみたが店内の様子はリアルの服屋と然程変わらない。

 魔法式の灯りがあって店内は明るいし、多くの服がハンガーにかかって吊るされている。

 バリエーションも豊富だ。これなら自由に服を選ぶ楽しみもあるだろう。


「のう。自由に選べるのに、何故黒系や赤系ばかりピックアップしておるのだ?」

「……無意識だった」


 気がつくとそういったカラーの衣服を選択している。好みなのかもしれない。

 だがあまりそっち系の色でまとめると今の格好と色合いが大差ないものになってしまう。


「そういえば、手甲はどうする? ペアにする装備が必要だが」

「手袋か何かを装備して紐つけしようかな。こんな感じで」

「……御主。今、ナチュラルに指ぬきグローブ取ったな」

「…………無意識だった」


 結局、衣服についてはネメシスが選んだ服にした。

 センスは良いが奇抜過ぎず、普段使いするにも丁度良さそうなものだ。

 店内で服と一緒に《着衣交換》スキルのアクセサリーも売っていたので合わせて購入する。

紐つけも行ったので、戦闘に突入すればすぐに元の格好にも戻れるだろう。

 そうして、俺の衣替えは完了した。


「まともな格好だの。うん、実にまともだ。まともだ……」

「ネメシス。何でお前は今にも泣きそうな顔で『まとも』を連呼してるんだ?」

「御主には絶対に分からぬ。御主がどんな格好でも傍らに立つ私の気持ちはな!」


 前のも少し黒くて怖くて格好良いだけで変な格好ではなかっただろうに。


「……レイ。自分がケモミミ女装眼鏡になった光景を想像してみろ」

「何で俺の嫌いな服装トップ3をくっつけてるんだ。想像するだけで胃が痛くなるぞ」

「ベクトルは違うが私の心労も似たようなものだ」

「それほど!?」


 なぜそこまで精神的に追い詰められているんだネメシス……、ん?


「あれは……」


 会話の最中、通りに面した店の一つから見覚えのある装いの人物が姿を現した。

 それはまるでライオンのような着ぐるみ。

 かつて一度だけ中央大闘技場の控え室で見たそれは、フィガロさんのお忍びの格好だ。

 そう、その店――アクセサリーショップから出てきたのはフィガロさんだった。

 どうやら買い物の後であるらしい。


「何でもうログインしてるんだろう。それに、アクセサリーショップ?」


 そのアクセサリーショップをよく見ると、店頭の張り紙には「【救命のブローチ】特価480万リル。限定一〇個」と書かれている。

 なるほど、装備の補充に来たのか。

 ログイン予定は明日だったはずだけど、何かで予定が早まることもあるだろう。さっきの霞の話の逆だ。


『おや、レイ君』

「どうも、ご無沙汰しています」


 と、俺が見ていることに気づいたのか、フィガロさんが振り向いて話しかけてくれた。


『ギデオンに戻ってきていたんだね。その格好は……お忍びかな? 君も有名になったからね』

「あはは、まぁ……そんなところです」


 装備を変えた後、確かに向けられる視線は減った気がする。

 しかし着ぐるみを着てまでお忍びしている人に「お忍びかな?」と言われても、若干反応に困ってしまう。


「……えっと、フィガロさんはどうしてここに?」

『ああ。少し準備するものがあってね』


 やっぱり特売の【ブローチ】かな?

 俺も買っておこうかな。必須アイテムだし、幸い昨日臨時収入もあったし

 と、今はそんなことより……。


「あの、兄貴からは明日までログインできないって聞いてたんですけど」


 兄の方もフィガロさんと件のハンニャ女史のログインが明日だと考えて、被害を抑える準備をしているはずなのだが……。


『ああ。予定よりも大分早く検査が終わったから、明日の準備をしようと思ってね。明日の朝でも良かったのだけど、直前にあれこれと準備するのも考え物だからね。っと、そういえばシュウからハンニャの話は聞いてるかな?』


 フィガロさんの問いかけに頷く。


「はい。えっと……ハンニャという人がギデオンにやって来ていて、明日会うことになっている、と」

『うん。僕がしているのもその準備だよ』


 致死ダメージを無効化する【ブローチ】の購入が、準備?

 少し考えて、納得した。

 兄の話では、フィガロさんはハンニャ女史との決闘をとても楽しみにしているらしい。

 しかし、兄が目撃したハンニャ女史の<超級エンブリオ>は全長一キロにも達する超巨大なもの。フィガロさんが決闘しようと思っていても、闘技場に入るわけがない。

 ならばどうするかと言えば、『屋外で【ブローチ】をつけて壊れたら負け』というような天地式の野良試合に近い決闘しか出来ないのではないだろうか。

 ……フィガロさんの方は完全に明日の“決闘”のための準備を進めている。

 そんなことを“結婚”するつもりで来ているだろう相手に話せば……血の海は避けられないだろう。

 ああ、もう……明日までに兄が何か解決策を講じてくれることを期待するしか……。


「――フィガロ?」


 そんな風に考えていた俺の後ろから、声がした。

 耳に届くその声に――なぜか寒気と共に背筋が震えた。

 振り返れば、そこにいたのは……普通の女性だった。

 少し癖のついたダークブラウンの髪に、和風の顔立ち、既製品の衣服装備。

 特に目立った特徴がない、むしろ<マスター>の中では地味な範疇だ。

 隣にいる金髪で天使のような容貌の少年の方がよほど目立つ。

 だが、感じる。

 かつて闘技場で迅羽相手に感じたような威圧が、そして昨日カシミヤ相手に感じたような悪寒が……その人物にはあった。

 半ば確信する。


 彼女こそ、兄が問題視していたハンニャ女史であろう、と。


 ああ、考えてみれば当然か。

 フィガロさんが早めにログインすることがあるなら……それは相手だって同じことになる可能性はあったのだろうから。

 ……それにしたってどうしてここで鉢合わせるんだよ!!


『この状況……まずいのではないかの?』


 ネメシスの言葉に内心で同調するが、身動きは取れない。


「やあ、ハンニャ。ギデオンへようこそ、やっと会えたね」


 そうしている間に、フィガロさんが装備を普段のものに変えて挨拶した。

 お忍び用の装備なのに、あっさりとそれを外してしまった。

 ……そういえば、着ぐるみを着ていたのになぜハンニャ女史にはわかったのだろう。

 まさか、フィガロさんの声で分かったのか?

 兄の話ではコミュニケーションは文通オンリーで、直接会話したのは出会ったときに一度だけ。

 しかも、こちらの時間で三年以上前に一度だけなのに?

 ……また背筋が震えた。


「フィガロ! 会いたかったわ!」


 ハンニャ女史はそう言って、フィガロさんに抱きついた。

 あまりにも直接的な求愛表現だが、フィガロさんに慌てる様子はなく抱き返している。

 ああ、そっか。欧米の人だもんな、フィガロさん。ハグくらい普通だったわ。


「直接顔を合わせるのは三年ぶりくらいかな?」

「本当、もうこちらではもうそんなに経つのね。ふふふ、お互い顔は変わってないわね」


 フィガロさんは嬉しそうだ。

 そして、ハンニャ女史も微笑んでいる。

 それ自体はとても心温まる光景だが、俺の心中は警鐘が鳴り響いてそれどころではない。

 兄よ、早く来てくれ!

 それか迅羽……いっそ女化生先輩でもいい!


『よっぽどだの』


 よっぽどだよ!

 時限爆弾の前から避難できないみたいな状況だぞ!


「レイ君、紹介するよ。彼女が僕のガールフレンドのハンニャとその<エンブリオ>のサンダルフォンだ。ハンニャ、彼はシュウの弟で、僕の決闘仲間のレイ。隣にいるのは彼の<エンブリオ>のネメシスだ」

「まあ、あの着ぐるみの。お兄さんにはお世話になったわ。ハンニャよ、こっちは」

「はじめまして。ぼく、サンダルフォンです」

「……どうも、レイ・スターリングです」


 逃げるタイミングもないまま紹介されてしまったので、挨拶を返した。

 ……それ以前に、もしもこの場で二人の戦いが始まってしまうのなら、周囲の被害を抑えるために動かなければならないから、どの道逃げられないか。

 被害拡大するとアズライトとギデオン伯爵の胃に穴が空きそうだし。


「私はネメシスだ。メイデンの男性版とは珍しいのぅ」

「ええ。ぼくも女性版のアポストルは珍しいと思います」

「…………」

「…………」


 ネメシスよ、何でそこで「対抗してます」みたいな空気出してるんだ。


「フィガロ。今日はこれから時間あるかしら?」 


 自己紹介が済んだ後、ハンニャ女史がフィガロさんを食事に誘った。

 彼女のアプローチに対しフィガロさんは……首を振った。


「今日は……ごめん。この後に行くところがあるんだ」


 その回答にヒヤリとする。

 それが引き鉄になってしまうという俺の懸念は、


「そう。夕食を一緒にしようと思ったけれど、仕方ないわね」


 すんなりと引いたハンニャ女史によって払拭された。

 ハンニャ女史が激高する様子は欠片もない。

 あれ、想定より落ち着いた人だな……。


「でも明日は時間があれば一緒にお祭りを回りたいわ。式場の下見もあるし」


 ……何の下見って言った?

 だが、その言葉が聞こえなかったのか、あるいは聞いていても気に留めなかったのか、フィガロさんは笑顔で頷いた。


「いいよ。明日のお昼前から一緒に回ろう。元々、ギデオンを案内するつもりだったしね」

「ありがとう! 今から楽しみにしているわ」


 二人の間の空気はとても良い。フィガロさんがアプローチを回避し続けているが、ハンニャ女史が気を悪くした様子もない。

 このまま、今は何事も起きずに終わって欲しい。


「喜んでもらえて嬉しいよ。ああ、そうだ。ハンニャ」


 などと、俺が考えた時……。


「何かしら?」

「明日、僕と決闘してほしい」


 フィガロさんは明るい声音で――言葉の爆弾を投下した。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<おや? 平和の様子が……


( ̄(エ) ̄)<♪~(ポケモン進化のBGM)

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