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第十三話 愛闘祭の一幕 白球の対決

(=ↀωↀ=)<第三巻は公式では4月1日発売ですが


(=ↀωↀ=)<土曜日なので明日発売のところも多いようです


(=ↀωↀ=)<もう売っているところもある模様


(=ↀωↀ=)<今回の特典SSは下記の五店舗様とツイッターキャンペーンです


アニメイト様

TSUTAYA様

とらのあな様

BOOK☆WALKER様

メロンブックス様


(=ↀωↀ=)<各店舗の特典SSは作者も分かっておりませぬ


※上記店舗様の他、WonderGOO様ではポストカードがもらえるようです


(=ↀωↀ=)<ツイッターキャンペーンのSSは「あぶれがき編」


(=ↀωↀ=)<その中身は皆様の目でお確かめください(ダイレクト)

 □第三闘技場


 ギデオン全体で開かれている愛闘祭。

 この大祭に合わせ、<マスター>達も各自で出店を開いている。

 【料理人】や職人は言わずもがなのかき入れ時であるし、生産系以外の<マスター>も様々な催し物を開いている。

 例えば、第三闘技場で行われている決闘ランカーとのふれあいイベントもその一つだ。

 この第三闘技場、地面が石畳ではなく土という特殊な環境なのだが、それを活かしてとあるイベントが開かれていた。

 それは決闘ランカーを相手取った――ベースボールの一打席対決である。


「我こそはと思う者はバッターボックスに立ってくれ! ルールは看板に書いてあるとおりだ!」


 マウンドに立つピッチャーが、そう言って声を張り上げる。

 野球などのスポーツは若干の変形がなされるものはあるが、この<Infinite Dendrogram>の世界にも存在する。

 この大陸の野球は、数百年前に当時の【猫神】チーム・キャットが作ったものだ。

 チーム・キャットは集団スポーツの創始者であり、自ら分身して実演して見せることで様々な競技をこの大陸に広めた偉人である。


 <マスター>もティアンも知る由もないことだが、スポーツに限らず歴代の【猫神】……管理AI十三号チェシャのアバターは文化の流布を担当していた。

 これは後に訪れる<マスター>による技術の大規模ブレイクスルーの予防と、<マスター>達の住環境の充実が目的である。

 五感がリアルと同様であるこの<Infinite Dendrogram>で、不快さや不便さがあれば際立つ。だからインフラ設備や娯楽等の文化を予めチェシャのアバターが広めていたのであった。

 そして文化流布担当であったチェシャはそれらの作業が終えた後、雑用担当として他の管理AIのサポートに回ったのである。


 話を第三闘技場での一打席対決に戻そう。

 この競技では挑戦者はバッターとなり、三回ストライクを取られる前にヒットを打てば勝利となる。

 ヒットの基準は『一塁、二塁、三塁の内側でキャッチされない』、『外野にノーバウンドでキャッチされない』の二つ。

 つまり、『一塁、二塁、三塁の外側で地面に落ちればヒット』、『内側であったとしてもそのまま転がって外側まで行けばヒット』という形だ。

 外側でもファールボールはヒットにならない。また、内野安打もない。

 ホームランはもちろん無条件勝利だし、フォアボールでも無条件勝利である。

 ヒットを打つと、挑戦時に賭けた金額が一〇万リルまでの範囲なら十倍返し。

 そして、特殊挑戦の二〇万リルを賭けた上で達成すれば、なんと五〇〇万リル相当の指輪が貰える。

 しかし、「これは美味しい。なんと挑戦者に有利な条件」……などと考えたらその時点で負けたも同然である。


 この勝負、一点だけ挑戦者に不利な点がある。

 それは、『挑戦者はスキルを使用してはならない』というもの。

 スキルを使うと感知される仕組みになっており、スキル無しで挑む必要がある。

 まぁ、そのくらいなら……と考えてはいけない。

 『挑戦者は~』と明記するということは……開催者側は自由にスキルを使うのである。


 まずセカンド。海賊帽子の少女が滝のような水を吹き上がらせている。その方向に飛んだボールは漏れなく内野に弾き飛ばされるだろう。


 続いてセンター方面。なぜか野球なのにセンターが八人いた。しかも当たり前のように「元は一人ですが何か?」といった顔をしている。


 ライト方面。背中に翼生やしたゴシックな装いの超級職が超音速機動で飛び回っている。あれならキャッチできない球はあるまい。


 レフト方面。バイクに乗った仮面のライダーが縦横無尽に駆け巡っている。


 そしてピッチャー。全身を焔に変えた熱い漢が、文字通りの燃える魔球を投じていた。


 なお、お分かりと思うが【大海賊】チェルシー、【猫神】トム・キャット、【堕天騎士】ジュリエット、【疾風騎兵】マスクド・ライザー、そして【強力士】ビシュマルというラインナップである。

 他のポジションは九位以下のランカーで手の空いていた者が担当しているが、それでもひどすぎる布陣だ。

 バッター側のプラス要素があるとすれば、「フィガロとカシミヤと狼桜がいないだけまだ有情」くらいのものだろう。


「どこのトンデモ野球漫画だよ……」

「勝たせる気皆無すぎるんじゃないか」


 という声がイベントを見守る観客の口から零れるのも無理からぬことである。

 ちなみにイベントの賞金はギデオンの街から出ているが、指輪だけは別口だ。

 あれはピッチャーを務めるビシュマルからの提供である。

 このイベントに参加する前、ビシュマルは指輪を取り出しながらこう言ったという。


「この指輪こそ俺の悲しみの結晶。ミミカちゃんに振られた俺のプロボーズの残滓だ!」


 それを聞いた他のランカーは一様に「うわぁ……」という顔をした。

 そして、「失敗したプロポーズの指輪を自分で持っているのが辛く、さりとて売るのも気が引けたために賞品として提供したのだろう」と考えた。

 実際には「報酬につられたカップル全て、この一球で粉砕してくれる!」と、己の失恋の憂さを他のカップルを破ることで晴らそうとしてるだけだった。

 なお、当然ながら粉砕デッドボールしたら負けである。


 さて、布陣も賞品の背景もひどいイベントであるが、それでもリターンの豪華さもあって挑戦者は多い。

 入り口横にはこれまでの挑戦者の数がカウントされており、三桁に余裕で達していた。

 そして、それは三桁以上の人数が挑戦して一人もクリアできていないことも示していた。

 これは防御布陣のひどさもあるが、ピッチャーのビシュマルの技量も大きい。

 誰がピッチャーをやるかという話になったときに真っ先に名乗り出たのがビシュマルだった。

 彼はランカー達を前にしてこう言ったのだ。


「俺はリアルの学生時代、甲子園に出場した事があるぜ!」

『初耳だぞビシュマル!?』

「ちょ!? それ本当なの!?」

「もちろん本当だ! キャッチャーをやってたぜ!」

「『ピッチャーじゃないんだ!?』」


 しかし、いずれにしても野球に熟練した人間が、リアルとは比較にならない身体能力とデンドロ特有の奇想天外なスキルで投げる球。

 そうそう打てるものではない。

 次第に挑戦を断念する者が多くなり、段々と一打席勝負の間隔が空きはじめている。

 死屍累々と積み重なる挑戦者のカウントを見ながら、センターのトムの一人がぼそりと呟いた。


「こんなのクリアできる人いるのかなー?」

「比類なき力持つ破壊と熊の化身チャイルドマウンテンならば、一筋の希望なりえるか?」

「えーっと、……ああ、うん。【破壊王】ならいけるかもしれないよね。桁外れだし」


 自分の呟きに答えたジュリエットの言葉を、何とか解読しながらトムはそう言った。

 同時に、「彼がバット持ったところを想像すると……どこかで見たような構図になるよね。そう、一〇〇エーカーの森でホームランダービーでもしていそうな……いや、これ以上はやめておこう」と益体もないことを考えた。


「……ん?」


 そんなとき、挑戦者入り口周辺からざわめきが聞こえた。

 それは挑戦者の列に並んだある人物への周囲の驚きであり、その人物は……一度見たら忘れられない見た目をしていた。


『フッフッフ。かなりの難関のようクマ』


 それはクマの着ぐるみ――【破壊王】シュウ・スターリングである。

 噂をすれば影と言わんばかりに、そこにはシュウの姿があった。

 しかし彼は一人ではない。


「ベースボールですか。面白そうですね」

 ――ヤマアラシを抱えた美女と並んで歩いていた。


 シュウの登場と同行者の存在に、周囲がざわめいている。


「子供山さんに春が来た!?」

「嘘だろ!? あんなクールそうな美人と!?」

「いや、多分あの美女が連れてるペットのヤマアラシがお相手なんだ!」

「なるほど!」


 中の人がいることをちゃんと周知されているのにこの内容である。


「おっと! そこにいるのは【破壊王】か! しかもカップルか……粉砕してやるからバッターボックスに立ちな!」


 ビシュマルがボールを握った右手をシュウへと向ける。

 その挑戦に対してシュウは、


『いいだろうクマ』


 受付に挑戦料の二〇万リルを渡し、その挑戦を受けた。

 周囲のざわめきが緊迫へと変わる。

 急遽行われることとなった最大のパワーを持つ<超級>と決闘ランカーによる、一打席対決。

 会場のボルテージは一気に高まり、その瞬間を見物人達は待ち望む。

 ……だが。


『ほいクマ』

「え?」


 シュウはそのバットを……隣にいた者に手渡してしまった。

 受け取ったのはシュウと一緒にここへやってきた女性……ではなくその腕の中のヤマアラシだった。


『KK(OK)』


 何やら頷いたヤマアラシは、器用にバットを持ってバッターボックスに立った。

 ある意味で、シュウがやる以上にシュールな光景だ。

 しかし、観客とランカー達は思う。「これでは到底あの布陣を超えられない」、と。

 そもそもバットが振れるようにも見えない。

 ビシュマルも困惑した表情だったが、相手がバッターボックスに立った以上は勝負をする。

 そうしてビシュマルは投球フォームに入ろうとして、


「あ」


 ……その動きを止めた。

 会場中がその停止を疑問に思う。

 ビシュマルが苦渋の表情で顔から脂汗を流し、自身の炎で蒸発させる。

 一体何事が起きているかを会場の人間は考え、そして野球に詳しい者から順にその答えに思い至った。

 シュウはそんな空気に応えるように『フッフッフ』と含み笑いをしながら言葉を述べ始める。


『たしか――フォアボールも、無条件勝利クマ?』


 その発言で、会場中が彼の意図を理解した。

 公認野球規則では、ストライクゾーンを「打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間」と定めている。

 ストライクゾーンとは、要するにそこに入らなければストライクにはならない範囲。

 そこに入らなければ全てボールとなり、四回でフォアボールとなる。

 この<Infinite Dendrogram>の野球でもそれは同じ。


 つまり、ヤマアラシの場合は……地面スレスレにボール一個分あるかないかというストライクゾーンになる。


 シュウはそれこそが狙いだった。

 ヤマアラシからストライクを取ろうとすれば、地面に接触しないように地面ギリギリのボール一個分あるかどうかという空間を通す神業が必要だ。

 プロ野球の投手でも至難の業だろう(そもそもプロ野球の投手は地面ギリギリにボール投げたりしない)。

 観客は「子供山さんまじやべえ」と驚愕した。

 トムは「ハンプティが言ってたけど本当に勝つために手段選ばないんだ」と内心で引いていた。加えて、「そもそも彼女にやらせるのが二重にえげつない」、とも。

 ビシュマルは投球を行うも、燃える魔球は二球連続でボールとなってしまう。

 だが、


「舐めるなぁ!!」


 地面にボールを投げるという行為に慣れ始めたのか、あるいは執念によるものか。

 ビシュマルの燃える剛速球は地面スレスレのストライクゾーンを正確に捉えていた。

 神業である。甲子園球児(※キャッチャー)の意地である。

 彼の魔球は間違いなくストライクゾーンを射抜く。


「……あ」


 しかし、その瞬間に彼は気づいてしまった。

 繰り返しになるが、ヤマアラシのストライクゾーンはボール一つあるかないかの狭い範囲であり、そこに通すのは至難の業だ。

 逆に言おう。


 ストライクになる球は全て――ボール一つ分の高さに収束される。

 ゆえに、タイミングを合わせてバットを振れば――必ず当たる。


GGグッドゲーム


 ヤマアラシは自分よりも大きなバットを、唸るほどの速度で振り回した。

 直後、第三闘技場には真芯を捉えたバットの快音が鳴り響く。

 弾丸ライナー。地を擦るような超低空&超音速で水平に飛んだ打球が、あっさりと一塁と二塁の間の空間を突破し……ヒットとなった。


 決着の後、そこには指輪をゲットして喜ぶヤマアラシの姿と、地面に膝をついて泣きながら土を拾い始めるビシュマルの姿があったのだった。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<お祭りの開幕は決闘ランカー編


(=ↀωↀ=)<なお、クマニーサン編は別にある模様


( ꒪|勅|꒪)(今回、特典SSみたいなネタ豊富そうだな)

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― 新着の感想 ―
[一言] これベヘモットが打ったボールが足に当たったら足持っていかれそうだよね。
[一言] そりゃぁうてるよな······獣王だもの(笑)
[一言] さすがクマニーサン( ̄(エ) ̄)クマ
感想一覧
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