第九話 愛闘祭・前夜
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( ̄(エ) ̄)<ありがとうクマー!
( ꒪|勅|꒪)<全部目は通してるゾ
□【煌騎兵】レイ・スターリング
「そういえば俺がいなかった間、マリーは何してたんだ?」
トムさんとカシミヤの決闘の考察や俺の知らなかった<SUBM>の話を聞いた後、ふと気になってマリーに尋ねた。
試合前には聞けていなかったし、その後はエリザベートショックで話どころではなかったからだ。
ルークに色々あったように、マリーにも何かあったのだろうか。
再会したとき、大分疲れていたようだし。
「ああ……、明日からギデオンで二日間に渡って行われるお祭りに合わせた企画の準備ですよ」
「お祭り?」
「はい。お祭りの方は愛闘祭。それに合わせて『ドキッ! ラブラブカップル誕生! キャハッ♪』という企画を紙面でやる予定です」
「…………」
突っ込みどころは山積みだが、とりあえず『ドキッ!』と『キャハッ♪』は要らないんじゃないかな。特に『キャハッ♪』。
「……まず、愛闘祭って?」
「昔ギデオンで建国王が何かやった名残のお祭りみたいですね。ギデオンでは毎年この時期に二日間に渡って行われます」
何をやったらそんな名前のお祭りが……今度、建国王の子孫に聞いてみよう。
「で、その……企画は何なんだ?」
「ほら、<DIN>って情報屋業ばかり取り沙汰されますけど、一応新聞社でしょう?」
……そういえば大きなニュースや生活のお役立ち情報なんかの記事も作っているとも言ってたな。
「だから、偶にこういうこともするんですよ。今回は企画部のアリスンさんという方がノリノリで企画し、双子社長も乗っかりましたからね」
「双子社長?」
「<DIN>の運営をしているティアンですよ。男女の双子で、見た目は若いですけどレジェンダリア出身者で実は結構高齢って噂です」
どこからともなく重要情報仕入れてくるあの<DIN>、そのトップか。
どんな人達なんだろうな?
「それで、その『ドキキャハ』とやらはどういう企画なのだ?」
ネメシス……そっち残して呼ぶんだ。
「簡単に言えばラブコメレポートですよ。愛闘祭の期間、ギデオン中に特派員を配置して『街中で見かけたラブラブな出来事』を記録するんです。『これは良い』と編集部でセレクトした出来事を紙面に載せて、購読者投票で一番ラブラブな出来事を決めます」
「……それ、晒し者じゃないか?」
「ギデオン各所への魔法カメラの設置とか、事前の準備も大変でしたね」
「だからそれ盗撮にならないか!?」
プライバシーとかどうなってんだろうと思ったが、ここは現代社会じゃなくてファンタジー社会だからセーフなのか?
……いや、やっぱりアウトでは?
「やっぱり恋愛関係のお祭りなので、意中の人とお祭りデートして、そこで告白しようって方は多いんですね。『ラブラブカップル誕生!』もそこに掛かってます」
「あ、デートと言えば、僕も明日は霞さんと回ります」
「へぇ、ルークと霞も……へぇ!?」
いつの間にそういう関係に!?
「先日のガーベラ事件で手伝っていただいたので、その御礼は何がいいかと思っていたのですが、このお祭りを気になさっていたようなので誘いました」
……御礼でデートに誘えるってルークすごい。
「そんなわけで、明日から愛闘祭で街にカップルが溢れるでしょうね」
「ああ、それは目に毒なことになりそうな……」
俺達がそんなことを言っていると、
『それはかなりまずいクマ』
いつの間にかやって来たクマの着ぐるみ--兄が俺達のテーブルについた。
しかしその声と雰囲気から、かなり緊張しているのが分かる。
「兄貴、どうしてここに?」
『お前が今日戻ってくるのは知ってたから、こっちの野暮用が済んでから捜してたクマ。だが、今は積もる話よりも目の前の大問題が優先クマ』
「それで大問題とはなんです? あなたがそこまで焦っているのなら相当の事態でしょうけど」
『……“般若”のハンニャが来てる。と言えばお前なら分かるだろ?』
俺はそれを聞いて『ハンニャハンニャって、なんかロボットみたいな名前だな』というくらいの感想しか持たなかったのだが、マリーはそうではなかった。
非常に緊迫した表情になっている。
先輩も険しい顔だ。
この二人がそういう顔をするということは、熟練者の間では相当やばい事態を意味するのだろう。
「……“監獄”にいるはずでは?」
『つい最近出所したんだよ。元々刑期は長くなかったからな』
「タイミング最悪すぎでしょう……」
マリーは頭を抱えて溜め息を吐いた。
「なぁ、そのハンニャって……どんな人なんだ?」
「<超級>ですよ。それも、指名手配されて“監獄”に入っていた<超級>です。……いえ、正確には“監獄”で<超級>になったそうですが」
「“監獄”……」
度々話には聞くが、“監獄”についての話はあまり聞かない。
強いて言えば、マリーがかつて倒したという【疫病王】や、兄とルークが撃破したガーベラなる<超級>くらいだろう。
ましてや、出てきた人の話など初めて聞いた。
「何をして指名手配されたんだ?」
「器物損壊と傷害罪ですね。それ自体は数年程度の懲役刑ですが……動機の方が問題です」
「動機?」
「……<マスター>のカップルを見る度に無差別攻撃をしていたそうです」
「…………は?」
言っている言葉の意味は分かるが、しかし理解しきれない。
カップルを無差別攻撃って……何で?
『それには深い……か浅いかはともかく事情があってだな。きっかけは2043年のクリスマス、そして2044年のバレンタインデーだ』
それから、兄の口からハンニャ女史の動機、そして兄やフィガロさんとの遭遇時のエピソードが語られはじめた。
◇
「要するに、ハンニャ女史はデンドロの中で彼氏を寝取られた。彼氏と彼氏の今カノをぶっ潰すためにデンドロを始めたが、復讐の旅の中で彼氏達かもしれない<マスター>のカップルを潰して回っていたが見つけられずにいた。そうしている内に兄やフィガロさんと遭遇。兄から彼氏の居所を教えられて復讐を達成するも、それまでの罪で“監獄”に入ることになった。そういった事情に加えて、フィガロさんに対して新たな恋をスタートしているが、フィガロさん側は恋ではなく決闘目当てである、と」
『ああ。その要約グッジョブクマ』
たしかにこれは深いと言うべきか浅いと言うべきか分からない動機と背景だ。
ハンニャ女史当人にとっては重大事だと分かるが、第三者にしてみれば苦笑いするしかない話である。
「でもさ、今はそんなに危なくないんじゃないか? もう復讐は済ませたんだし」
だからカップルを無差別に襲うことはもうないはずで……。
「……いえ、それは違います」
俺の言葉を、神妙な表情の先輩が否定した。
「“監獄”に入所中の野盗クラン……コホン、知り合いから聞いた話なのですが」
やっぱりあるんですね、そういうネットワーク。
「“監獄”にはいくつか暗黙の了解があり、その内の二つが『カップルで表通りを歩いてはいけない』、『【超闘士】フィガロの悪口を言ってはいけない』だそうです」
「……うん?」
「これを破った者は、巨大な両足に踏み潰されてしまう、と……」
「…………」
あ、ダメだこれ。ハンニャ女史、過去話から全く改善してないどころか攻撃対象増えてる。
しかしフィガロさんの悪口はともかく、カップル見かけただけって相当危な……あ。
「……ちょっと待ってくれ。マリー、明日……何があるって言ったっけ?」
「愛闘祭ですね……」
そっかー、カップルを見境なく踏み潰す人の前でカップル作りまくるお祭りかー。
「……危険牌すぎないか!?」
『中と發をポンしてる相手がいるのに生牌の白を切るくらい危険クマ』
危険度役満級……。
「ねー、ルークー。しょんぱいってなーにー?」
「麻雀でまだ一度も場に出ていない牌のことだよ。この場合、相手が既に二つ白を持っている可能性があるのが危ないんだ。相手が中と發を三つずつ揃えているから、ここで自分が切った牌によって、相手が白も三つ揃えてしまうと大三元という役満が成立してしまう。しかもそれが相手の手が完成するのに必要な最後の一つだった場合、ロンになるから生じた点数の全ては白を切った人が払うことになって、一撃で勝敗が決まるほどのダメージを……」
ルーク、麻雀解説は今いいから。
ていうか出来るのかルーク。
「テーブルゲームの類は概ねできますよ」
……久しぶりだな、ルークの読心会話。
初めて見る先輩がなんか怪訝な顔してるぞ。
『俺も気づいてれば対策打てたんだが、ここ最近ガーベラだのあいつだのに気を取られすぎて、愛闘祭のことがすっぽり頭から抜けてたクマ』
「カップルを見たら攻撃する<超級>。カップルが大量発生するお祭り。この組み合わせだけでも危険なのに、あの脳筋……フィガロがハンニャの爆弾に着火する可能性もあるということですね。いずれにしろ、フランクリンの事件の再来……<超級>によるギデオンへの攻撃が発生しかねない……」
「話せばわかってもらえませんか? フランクリンと違って王国やギデオンに敵意と悪意がある訳ではないのでしょう?」
ルークの言葉は正しいように思う。だが……。
「ルーク。愛とか恋とか結婚が掛かると、人間のタガって外れちゃうものだぞ」
「……あの、レイさんはなぜそんな地獄でも見てきたかのような目をしてるんですか? 僕でも思考が読めないくらい沈んだ目なのですけど……」
「…………昔、南米でな」
「南米?」
……怖かったなぁ、婿を求めるアマゾネス。
…………怖かったなぁ、ジャングル破壊しながら大暴れする姉。
『……恐らくフィガロが傍にいればカップルの方は大丈夫だ。昔は復讐だったが、“監獄”以降は「自分の傍にフィガロがいないのに目の前でイチャつきやがって」という嫉妬が動機だからな。フィガロと一緒にデートでもしてれば気にしないはず……クマ』
「フィガロさんが点火しちゃった場合は?」
それこそ、「結婚しよう」という言葉を待っている相手に「決闘しよう」とでも言って、色々台無しにしてしまった場合だ。
『…………』
おい、どうして無言なんだ。まさかどうしようもないのか。
『とりあえず、それとなーくフィガロにもメールで言い含めておくクマ』
「ハッキリ伝えた方が良いんじゃないですか?」
『それはそれでリアルフィガロがショック死するかもしれん』
そんな大袈裟……でもないのか。
フィガロさんの事情は模擬戦の合間に聞いたことがある。
生まれつき心臓に持病があり、心拍数が上がると生命が危ぶまれるという話だった。
だからこそ、この兄もハンニャさん絡みの話を今まで迂闊に触れずにいたわけだ。
『ま、明日はフィガロもいないし、ハンニャもログアウト中だから……何かあるとしても明後日クマ。明日のうちに色々手を講じておくクマ』
「……大変だな」
『大変クマ。ただでさえ既に一人爆弾を……』
「爆弾?」
『何でもないクマ。……そういえば迅羽はこっちにいるクマ?』
「ああ。ツァンロンがギデオンに来てるから一緒だよ」
『そうか。今思いついたが、最悪ハンニャが暴れだした直後にテナガ・アシナガの必殺スキルで心臓ぶち抜いて止めてもらうクマ。俺やフィガ公が真っ当に倒そうとすると、恐らく時間がかかりすぎる』
……提示された解決方法がバイオレンス過ぎる。
しかし、兄やフィガロさんで……時間がかかりすぎる?
ハンニャ女史とは、それほどの相手なのか?
『迅羽なら、それでも迅羽なら何とかしてくれるクマ』
そんな兄の言葉に、
「事情は知らねえけど……あまり過度な期待されても困るゾ?」
「迅羽!?」
迅羽本人が答えていた。
いつ店に入ったか分からなかったが、噂をすれば影である。
「迅羽。こんな時間に一体どうしたんだ? ……あれ?」
よく見れば迅羽の長い体の影にもう一人、少女の姿があった。
「エリちゃん?」
「うぅ……うわぁーん! マリー!」
もう一人の少女――第二王女エリザベートは、名前を呼んだマリーの胸元に泣きながら飛び込んだ。
明らかに何かあった様子で、その何かはすぐに彼女の口から語られる。
「あねうえが、ツァンロンとケッコンしてコウガにいけって言うのじゃー! だから家出したのじゃー!」
……トラブルが続々と舞い込んで来るのはどうしてだろう。
To be continued
( ̄(エ) ̄)<今回の話、露骨に「書籍化した時にバレンタインデー話入れますよ」なスペースあったクマ
(=ↀωↀ=)<書籍化作業でエピソード差し込むタイミングに苦労している反省でしょうね
(=ↀωↀ=)<しかし、また書籍になった時の作業ページ数増える
(=ↀωↀ=)(……六章前半は一冊に収めたいんだけどな)




