第四話 合流→衝突→乱入
(=ↀωↀ=)<六章前半パートはほぼ書き溜めてあるので今のところ特に変更ないのだけど
(=ↀωↀ=)<後半のプロットが「シーンと新情報を過積載したい病」によって膨らみ始めた
(=ↀωↀ=)<なんとか前半と後半が書籍換算で一冊ずつに収まるように頑張りたい
(=ↀωↀ=)(なお、三章は収まらなかった模様)
追記:
(=ↀωↀ=)<「あ、ルビ使えばいいじゃん」と気づいて一部ルビ追加
□【煌騎兵】レイ・スターリング
ギデオンまでの道行きはアズライトと先輩の間の空気が険悪であったことと迂闊な山賊の襲撃を除けば、特にこれといった問題もなく完了した。
前方を見ればもはや懐かしいとさえ感じるギデオンの外壁が見えてくる。
まるで祭りの朝のようにポンポンと打ち上げられている花火は、本日の夕方に行われるトムさんとカシミヤの試合に関連してのものだろうか。
既に試合のチケットの取得は兄にお願いしてある。ダフ屋を使うことになるだろうが、割り増し価格でも問題ないくらいには最近の懐は温かい。
元々賞金の残りがあったし、カルチェラタン関係のクエストでも収支はプラスだったからだ。
「王都やカルチェラタンにはガチャもなかったからのぅ。一日十万リルの出費がなくなればそれは貯金も増えるはずだの」
ぐうの音も出ない正論だった。
ギデオンに入ってから、伯爵邸の迎賓館までアズライトとツァンロンを送り届けてクエストは完了。
アズライトからは報酬を受け取る際に「後日また呼ぶかもしれない」と言われた。
そうしてアズライトとツァンロンの姿が迎賓館の中に入った後、先輩が疲れ果てた顔で長く息を吐いていたのが印象的だった。道中は余程気を遣ったらしい
「……先輩、すごく緊張してましたね」
「今回の結果如何で私の立場がどれだけ悪化するか分からなかったのだから、それは緊張くらいしますよ。私はあの【強奪王】と違ってまだこの国にいたいんですから」
どうやら先輩にとっては『指名手配が出るか出ないかの瀬戸際だった』という認識らしい。
だけど、恐らくアズライトの方はそこまでする気もなかっただろう。
アズライトは先輩……というか先輩のような<マスター>を見定めるためにこの依頼、そしてブルースクリーン氏への【黄金之雷霆】の修理依頼を出していた気配がある。
カルチェラタンの事件後、王国は<マスター>に協力を依頼していく方針に切り替えたが、それが上手くいくかは王国のティアンはもちろん、<マスター>にも左右される。
王国の<マスター>の中には世界派と遊戯派がいるし、スタンスも異なる。前回の戦争参加者は世界派の方が多かったという話だ。
だけど、王国が今後の戦争に備えるとすれば、遊戯派の協力も不可欠となる。
その中の一例として、遊戯派で尚且つ王国内でのPKテロも起こした先輩、引いては先輩のように行状がグレーゾーンの遊戯派に王国がクエストを任せられるかを見定めるため、今回の依頼を出したんじゃないかと思う。
多分、竜車云々はこじつけだろう。先輩の竜車ほど桁違いでなくとも、『目立たずに設備の整った頑丈な竜車』くらいなら王国にだってあるだろうから。
まぁ、先輩はPKだしテロもしたし鎧着ると少しガラが悪くなるけれど、それでもまだ良識派なので先輩を参考に遊戯派を測れたとは言えないかもしれない。
しかし、あの【魔将軍】ですら皇国の定めた意向の中で動いていたのだから、ちゃんとした報酬の取り決めが為されていれば遊戯派はむしろ懸命に動くのではないかと予想される。
今回のことは、戦争に際しての王国の指針を詰める一つの要因にはなるかもしれない。
◇
その後、俺と先輩はルーク達との待ち合わせ場所に向かった。
場所は以前にもルークやマリーとの待ち合わせに使ったオープンテラスの店だ。
「レイ君のパーティメンバー、それに【破壊王】との顔合わせですか。少し緊張しますね」
道行く途中、先輩はそんなことを言っていた。
俺としては、今後先輩もパーティに含めて活動していきたいと考えており、それは先輩にも話している。
先輩からも「今はクランも解散していますし、特にすることもないのでレイ君に付き合ってもいいですよ」という色好い返事を頂いている。
何分、現在のパーティはバランスが悪い。
俺がアタッカーとして変則であるし、ルークやマリーもそれは同様だ。
俺達は役割分担という言葉の意味がないほど、全員が色々できてしまって纏まりがない。
俺はシルバーによる空中戦と敵味方の識別できない状態異常攻撃、カウンター、そして威力は申し分ないが使用に難がある切り札ばかり持った変なビルド。
ルークやマリーも似たようなもので、全員が変な形に万能型だ。
嵌れば強いが状況によっては回らない、妙に安定感のない側面がある。
ここにほぼ純粋なタンクである先輩が入れば安定感が増すし、先輩の必殺スキルなども踏まえれば爆発力も上昇するだろう。
ちなみに兄はメンバーには含めていない。
というのも、兄は最近ギデオンから離れたがらず、あまりクエストに同行しないからだ。
それに兄は単独で殲滅も無双もできてしまう人なので、どちらにしてもパーティ向きではない。パーティになると俺達に合わせてもらうことになり、兄の長所を殺しかねない。
兄の戦いについていけそうなフィガロさんはソロ専門であるし、兄が誰かとパーティを組んで戦っていたことなど俺と組んだ最初のクエストくらいしか思い出せない。
兄によるとレイレイさんとは時折パーティを組んでいるらしいが、それもあまり多くはないそうだ。
それにレイレイさんと組むのは二人の息抜きであるため全力は出しておらず、逆にお互いが全力を出す場合はどちらも近づけなくなるらしい。
以前聞いた【グローリア】との戦いの話からすると兄の傍に近づけないのはよく分かるのだが、……レイレイさんにもそれに匹敵する何かがあるのだろうか?
いずれにしろ、あの兄は本気で戦う時は誰ともパーティを組めなくなってしまうらしいのは確かだった。
『もしやクマニーサンはぼっち属性なのか?』
いや、ついていける人がいないだけで、人脈はむしろありすぎるよ。
実家に届いてた年賀状は色々凄かったぞ。グレゴリーさんとかノーベル賞受賞者とかレイチェル・レイミューズとか。
「あ、着いたな」
そんなことを考えながら歩いていると、待ち合わせ場所に到着した。
「レイさん! お久しぶりです!」
「久しぶり、ルーク。それにマリーもな」
店では久方ぶりに見るルークが笑顔で出迎えてくれた。傍にはマリーの姿もある。
思えば、海に行く予定だった日に月影先輩に拉致されてから会っていなかった。
……リアルで一週間、こっちでも三週間くらいなのに、もっと長い時間会ってなかった気がしてくる。
「レイさん……お元気そうで何よりですね」
「マリーも元気……そうじゃないな」
「ええまぁ、色々ありまして、……?」
なぜか分からないが、マリーは疲れている様子だった。
マリーがこうなっている時は大抵【記者】の仕事が忙しいかエリザベート関連だが、トムさん達の試合とエリザベートのお見合いが控えた今はどちらもありそうだ。
加えて、なぜか俺の後ろを怪訝そうな顔で見ている。
振り向いてもそこには先輩しかいないんだが。
「ところでルーク、兄貴の姿がないけど……」
「お兄さんは急用が入ったとのことで街の外に出ています。チケットは預かってますよ」
急用?
リアルじゃなくてこっちでの急用って……何だ?
「ところで、そちらの鎧の方は?」
「ああ、紹介するよ。俺のリアルでの先輩でもあるビースリー先輩。……鎧?」
ルークに尋ねられて、先輩を紹介する。
しかし、今更気づいたがここに来るまでは普段着だった先輩が、なぜか【マグナムコロッサス】を《瞬間装着》していた。
幾度か見た暴力のオーラを漂わせており、どう見ても臨戦態勢だ。
『また会ったなぁ、殺し屋ロール』
「そういう貴女も相変わらずですねぇ、悪役ロール」
先輩とマリーが言葉を交わすが……両者は視線に殺意を込めて睨みあっている。
……あれ? 何だか、滅茶苦茶険悪だぞ?
そういえば、王都封鎖ではマリーも北側で網張って初心者狩り(俺含む)をしていたPKだ。二人の間に面識があっても不思議じゃない。
「二人ともあの王都封鎖での知り合いなのか?」
「『違います』」
あれ? 違う? でも知り合いっぽいし……。
俺が疑問に思っていると、先輩はマリーを指差してこう言った。
『俺がクランを解散した後……ギデオンの事件の少し後くらいの時期にこいつが俺を闇討ちしたんだよ』
……マジで?
俺がランカー勢と模擬戦してる時とかマリーの姿を見ないことも多かったけど、そのとき?
「いやいや、ボクとしてもレイさんのパーティに入ったので、暫くはPK業もお休みしようと思ってたんですけどね? 初心者から『<サウダ山道>でPKされたのでリベンジして欲しい』って依頼が沢山届いてまして」
……ああ。理解した。
しかしPKを頼む相手が北のPKだったマリーなのが何とも言えない。
毒を以って毒を制す、みたいな話か?
あ、でも北のPKが<超級殺し>って情報はあまり広まってないんだっけ?
「えっと、それで先輩はPKされたんですか?」
『されてねえ、凌ぎ切った。が、随分とアクセサリーやアイテムを消費させられた』
「相性悪いんですよねー。通常弾は落とされますし徹りません。デイジーの爆発も属性防御と【身代わり竜鱗】で耐えられましたし。そもそもボクの奇襲に対応して鎧着ないでくださいよ」
『てめえみたいに急に奇襲してくるPKには馴れてんだよ』
『……ケモミミ筋肉ショタコン女のことかの』
何も間違ってないけど、単語の組み合わせひどいからやめてさしあげろ。
『レイがマリーマリー言うから誰のことかと思えば、てめえだったとはお笑い種だ。――レイのパーティに加入する前に白黒つけてやる』
「構いませんよー。こっちもまだ依頼を達成していませんし、こちらも白黒――それと青の三色使用で消しましょう」
先輩が鎧に加えて盾を取り出し、マリーは拳銃と短剣を構える。
既に戦闘準備は万端だが、王国屈指のPK同士の戦いなんて市街地でやっていいものじゃない。
あ、そうだ。折角のギデオンなのだから……。
「闘技場使えばいいのでは?」
「『それだとPKできないでしょう?』」
俺の提案はあっさり蹴られた。
……さっきからハモんなよ! 仲良しか!
『あの二人、因縁以前にキャラ被っておるゆえの同族嫌悪かもしれぬのぅ』
二人とも正体隠したPKで、眼鏡で、普段は丁寧口調で根は優しいだけで…………被ってない、よ?
「あの、レイさん。止めたほうが良いのでは?」
「そうだな。PKは……なんかもう仕方ないにしても街中でやることじゃない」
住民に迷惑がかからないどこかの山の中ですべきではないかと思う。
しかし、二人の間の殺気は先刻よりも高まっており、もはや何を引き金に動き出すかも分からない。もう完全に殺る気満々だ。
……なんていうか、俺の身の回りの女性ってどうしてこう「戦闘スイッチ」みたいなもの持ってる人が多いのだろう。
最たる者は姉だけどさ。
「しかし、どうやって止めれば、……ッ!」
二人の殺し合いをどう止めたものかと考えていた俺は、背後に生じた第三の気配に振り向く。
ネメシスやルークも……そして相対していた二人もまた同様に、そちらを見ていた。
是非もなし。
その第三の気配は明らかに――先輩やマリーの殺気を上回る威圧感を発していた。
その気配の正体は、
「野試合の気配がするのです。天地以外では珍しいのです」
羊毛の如き衣に身を包み、体格に不似合いな大太刀を佩き、眼前で起きようとしている殺し合いに嬉々とした表情を浮かべる少年。
その少年の名は――“断頭台”、【抜刀神】カシミヤ。
「野試合なら混ぜてほしいのです。近頃はこういう形式の試合をしていないのです」
王国屈指のPK達の殺気に釣られてか、王国最強のPKが迷い込んできたのだった。
◇
結論から言えば、先輩とマリーは殺し合いを中断した。
カシミヤが介入した際の不毛な結果を、両者共に思い至ったからである。
両者揃って首のあたりを撫でていたのが印象的だった。
ちなみに、殺し合いを止めたカシミヤ本人はどこか残念そうだった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<合流(約一年ぶり)
( ̄(エ) ̄)<四章冒頭から結構リアルタイムで経過してたクマ




