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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第六章 アイのカタチ

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第二話 アズライトの依頼

(=ↀωↀ=)<次回投稿は一週間後


(=ↀωↀ=)<の予定だったけどちょっと前倒し投稿

 □【煌騎兵】レイ・スターリング


 俺は大学から帰宅してすぐデンドロにログインした。

 降り立ったのはもはや見慣れた王都の噴水だ。

 カルチェラタンの事件後はしばらく現地であれこれとクエストを受けていた。

 しかし、後はもう生産系や調査系のジョブがメインの仕事ばかりになったため、昨日には王都に帰還していた。

 明日からはまた土日の連休となるのでしばらくログインしていられる。今回のログインでようやくホームタウンであるギデオンにも戻れるはずだ。


「戻ったか。レイ」


 ログインするとすぐにネメシスが左手の紋章から現れる。

 それ自体はいつものことだが、


「あ。レイ・スターリングとネメシス」

「生の“不屈”だ」

「……こわい」


 周囲の反応がカルチェラタンから戻る前と随分違う。特に小さい子供の反応が顕著だ。

 いや、昨日ログアウトする前もそうだったけどさ……。


「この空気はネットとやらに流れていた動画のせいかの?」

「ああ」


 元からフランクリンが起こしたギデオンでの事件によって、俺の顔と名前、そしてビルドはそれなりに知られていた。

 しかし今回、【魔将軍】の動画で再び知られてしまった。

 おまけに……今回はどちらかと言えば怖がられている。

 というのも、あの戦いの動画……その内容が問題だったからだ。

 ネット上であの戦いの動画は、戦いの一部始終を収めたフル版とシーン毎に分けた分割版がある。

 分割版で最も視聴回数が多いのは【魔将軍】をデスペナルティするシーンだ。

 次に多いのはガルドランダと【ギーガナイト】の戦い。特典武具による召喚が珍しがられているのがその理由だ(あるいはガルドランダの見た目もあるかもしれないが)。

 と、この二つの動画は視聴回数が多いのも当然と言えば当然。

 だから、それらはまだわかる。

 問題は、俺が怖がられる原因となっている……三番目に視聴回数が多い動画。

 それは戦闘開始直後、悪魔軍団を突っ切って【魔将軍】に切りかかったシーン。


 即ち、瘴気撒いて、悪魔を噛み千切って、口から血を滴らせながら走る動画である。


 ……俺も観てみたが、なんともベストすぎるアングルで撮影されており、『これどこのホラームービー?』と自分で言ってしまう有様だった。

 なぜか音声がフランス語だったのもそれに拍車をかけている。

 以来、カルチェラタンの街中で俺に気づいた<マスター>が「ヒッ!?」と驚いて飛び退いたり、子供の<マスター>が泣きながら「食べられるー!?」と逃げることがたまに起きていた。

 そこまで怖がられると流石にへこんだ。


「やっぱり噛み千切るのはまずかったか」

「……格好も一役買っておったしのぅ」


 格好か……動画のタグに『暗黒騎士』とか付いていたのは黒かったからだろうか?


 ◇


 さて、リアルでは夕飯時だったがこちらでは丁度昼食時である。

 俺達は悪目立ちするのを避ける意味でも適当な飲食店に入って食事をとった。

 なお、選んだのは個室のある飲食店だ。

 最近はどういう訳かネメシスが飯を食うところを見に来てカメラに撮る層がいる。

 フランクリンや【魔将軍】の件で俺が変に有名になってしまったので、連動してネメシスの知名度も上がってしまっている。

 中でも食事量はよく話題になり、「“不屈”の強さの秘密はネメシスのエンゲル係数だったんだよ!」「な、なんだってー!?」「そ、そうか! 取り込んだ質量をエネルギーに……!」みたいなやりとりを掲示板で見かけたときはどんな顔をしていいか分からなかった。


「うむ。エンゲル係数は食事量ではなく、収入に対する生活費の割合だからの。我々の場合は例のゴゥズメイズ山賊団の件で手に入れた金銭があるゆえ、むしろ低いはずなのだ」

「いや、俺が気にしたのはそこじゃない」


 あと、これまでの通算で軽く一〇〇万リルは食っているからそこまで低くはないぞ。

 ……まぁ、そんな訳でカメラを持って食事中のネメシスの周りをうろうろする者達が現れ始めた。

 何らかの調査活動なのか、あるいはパンダが笹を食う場面を撮るのと似た理屈なのかは不明だが。

 しかし、そんな状態がまだ続くのなら若干の窮屈さも覚える。


「まぁ、人の噂も七十五日と言うし、そのうち飽きて放置されるだろうけどな」


 どっちの時間で七十五日かは分からないが。


「七十五日もあるならあと何回大事件に巻き込まれるかの。その度に再燃していたら、いつまでも終わらないのではないか?」


 経験に基づく不穏な未来予測は聞かなかったことにしよう。


 昼食を終えた後、ギデオンに向かうため王都の南門へと歩いていく。

 シルバーは街中では目立ちすぎるので乗るのは王都を出てからだ。

 ……カルチェラタンの量産型が普及してオリジナルが目立たなくなると、街中でも乗りやすくなるんだけどな。


「……いや? 結局乗っておるのが御主では目立ちすぎるのではないかの? 特に格好」


 カルチェラタンでその件について話したときからずっと思っているが、ネメシスはいくらなんでも俺の格好を大袈裟に捉えすぎではないだろうか。


「そうかのぅ……。【ストームフェイス】の件もあるし、私は既に『次に装備が変わったらどんな見た目になってしまうのだ』と不安で一杯なのだが、……?」


 そのとき、ネメシスは何かに気づいたように路地の先を見た。

 俺もそちらを見るが、視線の先には機械仕掛けの馬に乗った見覚えのある人物がいた。


「レイさん、ネメシスさん。お久しぶりです」

「リリアーナさん、お久しぶりです」


 機械仕掛けの馬――量産型の白い煌玉馬に乗っていたのはリリアーナだった。

 アズライトと同道していたこともあり、王都に着いたタイミングで一度再会していたが、どうやらその後にカルチェラタンで煌玉馬への機種転換を済ませてきたようだ。


「煌玉馬に切り替えたんですか?」

「ええ。元々の愛騎がそろそろ引退の年齢でしたから。カルチェラタンに赴いて拝領してきました」


 王国騎士への配備は進んでいるということだろう。

 カルチェラタンの量産型――通称【セカンドモデル】は、それまでに出土したレプリカよりも全体的にスペックが高い。

 加えて、従来のレプリカにはなかったバリアと飛行機能を持っているので、場合によっては亜竜クラスの騎馬モンスターより騎士の乗騎に向いている。

 難点はバリアと飛行機能の使用に《煌玉権限》レベル一の所有が前提となっていることだ。

 性能を発揮するためには本人が直接あの巨大クリスタルに触れて【煌騎兵】のジョブを取らなければなければならない。

 俺自身も【煌騎兵】であるが、そのあたりの仕様は謎だ。

 仕様そのものではなく、それをした理由が謎と言うべきか。

 シルバーを含めたオリジナルは、別段【煌騎兵】のジョブがなくても飛べるしバリアを張れる。シルバー以外の煌玉馬は上級職奥義相当かそれ以上の攻撃だってできるらしい。

 だと言うのに、量産型では飛行とバリアに《煌玉権限》を必須としている。

 そもそもこのスキル、煌玉馬のスキル使用に関係しているがそれも『スキルによって発動できます』と言うよりは、『スキルがあるから制限を外しています』と言うのが近い。

 もう一つのスキルである《煌玉獣強化》とは異なり、それこそ『権限』のようなスキル。

 カルチェラタンでどうしてそんな仕様なのかと話していたとき、ビースリー先輩は『まるで【煌騎兵】に就けない人には使わせないための制限ですね』と言っていた。

 しかし、これはどちらかと言うと……。


「レイさん? どうなさいました?」

「あ……、すみません」

「御主は不意に考え込む癖があるのぅ」

「かもしれないな……」


 思考が脇に逸れた上で集中することは度々ある。

 ちなみにルークも自己申告で同じような癖があると言っていた。

 自己申告なのは、ルークの場合は頭の回転が早すぎて、他人からだと考え込んでいたようには見えないからだ。


「リリアーナさん。カルチェラタンに行っていた間って、エリザベート……殿下の護衛は?」


 ギデオンにいる間、彼女はずっとエリザベートの傍にいたか……あるいは脱走したエリザベートを捜していたかのどちらかだった。

 そんな彼女がギデオンを離れている間、あのお転婆姫はどうしているのだろう。


「はい。アルティミア殿下から新しい命令を受けましたから、その間はリンドス卿にお願いしています」


 リンドス卿か……真面目すぎる人だからエリザベートに振り回されて胃をやられていなければいいけど。

 しかし、今の言葉にはもう一つ気になったことがある。


「アズライトからの?」


 エリザベートと違い、俺はアズライトは敬称をつけずに呼んでいる。

 これは元々アズライトから了解を得ているし、リリアーナがいる場でも改めてアズライト自身から「構わないわ」と許可されている。


「アズライトが妹の護衛よりも一時的にとはいえ優先するって、どんな内容なんだ?」

「……すみません。私の一存では口外できません」


 何か機密事項に抵触する話であったらしい。


「けれど、殿下からいただいた命令はもう一つあります。そちらはレイさん達にも伝えていいことですよ」

「俺達に?」

「はい。『今週の内にレイかバルバロイ・バッド・バーンのどちらかを捜して、城まで連れて来て欲しい』、と」

「……え?」


 俺と先輩を、城に?


「それは、どうしてまた?」


 俺だけでなく、先輩でも、というのがよく分からない。

 カルチェラタンで顔合わせは済んでいるけれど、そもそもあの二人は……。


「殿下から二人に依頼したいことがあるそうです」


 そんなリリアーナの言葉の直後に、


『……トラブルの気配がするのぅ』


 ネメシスはいつだか聞いたような言葉を念話で伝えてきたのだった。


 ◇


 リリアーナに連れられて登城した俺達は、すぐに第一王女の執務室へと案内される。

 許可を得て室内に入ると、アズライトは自身のデスクについて仕事をしていた。

 彼女の前に山積みになった資料の数が忙しさを物語っている。

 ……まぁ、現在の王国の政治の中心である第一王女が、暫く王都を留守にしてカルチェラタンに行ってたんだからそれは仕事も溜まるだろう。


「三日ぶりね、レイ」

「ああ。……仕事、大変そうだな」

「ええ。明日からまた王都を留守にするもの。今の内に仕事をしておかないといけないのよ」

「……そうか」


 この仮面剣士様、今度はどこに首を突っ込む気なのだろう。

 まぁ、とは言っても今日のアズライトは剣士風の服装ではなく、どことなく文官風の格好をしている。

 加えて……。


「今日は仮面着けてないんだな」

「……あれは身分を隠すために着けているのだから、王城でつける必要はないでしょう?」


 たしかに。ここでは第一王女であることを隠す方が問題になるな。


「それでどうしたんだよ。依頼があるって話だけど」

「ええ。ギデオンまでの護衛依頼よ。アナタもギデオンに帰るのでしょう?」

「ああ。そのつもりだけど」


 カルチェラタンから王都に帰る間に、俺のホームタウンはギデオンだから王都はすぐに発ってそちらに戻るだろうということは話していた。

 だが、アズライトの護衛依頼というのは……。


「受けることに異論はないけど、アズライトに護衛がいるのか?」


 アズライトは明らかに俺より強い。

 それどころか<超級>に準ずる、あるいは並ぶくらいの強さがある。

 多分、俺が散々シミュレートした【魔将軍】だって、アズライトなら真っ向から勝ち目がある。


「今回ギデオンに向かうのは私だけではなく、同行者がいるのよ。そして同行する相手には<マスター>の護衛がいる。だから相手に合わせてこちらも<マスター>の護衛をつけようと思ったのだけど……」


 アズライトはそこで少し口ごもった。


「私が接触を持った<マスター>なんてアナタとバルバロイ、あの寄生虫、それに向こうの護衛くらいなのよね……」


 まぁ、これまで<マスター>を避けていたのだから、そうもなるだろう。

 ちなみに<マスター>への対応が変わっても女化生先輩は寄生虫呼びで固定らしい。

 どこかから「ひどいわー」という幻聴が聞こえた気がする。


「ああ、そういえば向こうの護衛とアナタは知り合いだって言ってたわね」

「知り合い?」

「【尸解仙】迅羽」


 ああ、迅羽のことか。

 それなら確かに知り合いだし、ギデオンで稽古をつけてもらった一人でもある。


「……ん?」


 迅羽が護衛をしている相手?

 それって……。


「……なぁ、今回の護衛依頼ってさ」

「さっきも言ったように護衛対象は二人。私と――黄河のツァンロン第三皇子よ」


 ……それ、何かあったら思いっきり外交問題になる奴だ。


「さっきも言ったけれど、私は<マスター>には伝手がないわ。そして依頼を出せるほど信頼できる相手も、今のところはアナタくらいなのよ」

「それは……ありがとう?」

「御礼はいいわ。そこでアナタと……あのバルバロイに護衛の依頼を出すわ」


 俺に話が来たのは『他に選択肢がなかったから』ということで分からないでもない。

 でも、先輩は……どうなんだろう?

 だって先輩とアズライトって……。


「連絡、取れるわね? どちらかに伝えれば両方に伝わると思ったから、リリアーナにもどちらかを捜すように言っていたのだけれど」

「できるけど……」


 携帯のアドレスは教えてもらってるし。


「そう、じゃあお願いするわ。こう伝えて欲しいの。『ギデオンまでの護衛依頼。護衛対象は私と黄河の第三皇子。護衛はアナタとレイとリリアーナ、それに【尸解仙】迅羽の四人。アナタの竜車を借りてギデオンに向かう』」


 アズライトはそこで言葉を切って、


「『王都封鎖の一件、忘れていないなら嫌だとは言わせないわ』」


 俺の背筋がゾクリとするような声音で、先輩への伝言を述べた。


 ◇


 結論から言えば、リアルで電話した直後に先輩はログインしてきて……依頼を引き受けたのだった。

 かくして、奇妙なパーティによるギデオンまでの旅が始まる。

 ……クエスト、スタート。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<次回投稿は(最長)一週間後です

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