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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Superior Ⅲ The Glory Selecter / GHDC

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第八話 獅子と竜 前編

 □■???


『王国の<超級>が【グローリア】に接近しつつある』

『そぅれはそぅれは、ようやくぅといったところですナァ』

『ああ。止めるつもりもないが、本当に王都にまで到達されると今後のスケジュールも修正が必要だからな。まぁ、国の一つもなくなった方がカンフル剤になって良いかもしれないが』

『要はどちらでもいいということだな? ジャバウォック』

『そのとおりだ、三号(クイーン)。しかし、新たな<超級>が生まれないというケースだけは困る』

『困る、か。フン、お前が困るかどうかは<超級>次第だろう。見物しようではないか。あいつらが目を掛ける王国の<超級>の実力を、な』

『ああ』


『もっとも、どれほど強くともThe Glory Select.E.R……【三極竜 グローリア】は止められないだろうが』


◇◆◇


□■アルター王国・<ノヴェスト峡谷>


 王都の北西にある<ノヴェスト峡谷>は、人があまり立ち入らない地域だ。

 滅んでしまった<城塞都市 クレーミル>から王都に移動する場合も一度南下して<ウェズ海道>から王都に向かう。

 なぜわざわざ回り道をするのか。その理由はこの<ノヴェスト峡谷>は地面に幾つもの亀裂が走っており、それぞれが幅一キロメテル、長さ数キロメテル、深さ数百メテルという極めて巨大なものであるからだ。

 この地形は自然に生じたものではなく、先々期文明末期に起きた戦乱で生じた()であるとも言われている。

 いずれにしろ、巨大な地割れが連続したこの地域で、橋をかけて回るのは大変な労力がいる。加えて、周辺地域よりもレベルの高いモンスターによって破壊される危険性もあった。

 それゆえ他の比較的安全な道に回ることを選択され、この<ノヴェスト峡谷>は交通には使われず、モンスターの生息地となっていた。

 しかし、人が通れない地だとしても、通る者はいる。


 <城塞都市 クレーミル>を滅ぼし、王都に向かう【グローリア】は人間のように迂回はせず、<ノヴェスト峡谷>を直進しながら王都を目指していた。


 己の巨体を隠しきるほどに深く巨大な亀裂の底を【グローリア】は進む。

 その足取りは確かなもの。修復に丸一日をかけた結果として傷口は全て塞がり、心臓も再生していた。

 翼と尾は失われたままであったが、【グローリア】は<峡谷>の亀裂の底をゆっくりと歩みながら、<峡谷>の生物を《絶死結界》で抹殺しながら、王都を目指していた。

 地形も、巣食うモンスターも、生物の限界を超越した存在である【グローリア】の前進を阻めはしない。

 ゆえに【グローリア】を阻めるとすればそれはきっと……同様に限界を超えた存在だけであろう。


 ◇


「……来たね」


 まるで王者の如く亀裂の底を歩いている【グローリア】の気配を感じ取りながら、その人物――【超闘士】フィガロは独り言葉を吐く。


「ああ、これは本当に強そうだ」


 <墓標迷宮>のソロアタックを生業とするフィガロは、深層で幾度も<UBM>を目撃してきた。

 神話級に類する<UBM>とも幾度か遭遇し、打倒したこともある。

 中でも最強の相手はドラゴンの領域をランダムに徘徊していた神話級、【滅竜王 ドラグフィン】であっただろう。

 しかし、そうして強力な<UBM>を見慣れたフィガロであっても、徐々に迫ってくる【グローリア】のプレッシャーはこれまで感じたことがないほどに破格だった。【滅竜王】はあらゆる生物の天敵と言っても過言ではない大魔竜であったが……それでも迫り来る超魔竜には劣る。

 映像で視るよりも、五体で感じたことでその強大さがより理解できた。

 彼我の戦力差は歴然だった。

 こんな相手に独りで挑むのは馬鹿げていると……戦闘狂のフィガロでさえも理解できてしまう。

 しかしそれでも、


「それでも……まずは僕が一人でやる」


 フィガロは独りで戦う。

 それは彼の欠点も理由であったが、しかし今回に限ってはそれがなかったとしても彼は独りで戦っただろう。

 加えて、フィガロは自身の得手とする戦法の一つを封じている。

 フィガロの<超級エンブリオ>が有するパッシブスキル《生命の舞踏》は、戦闘時間に比例して装備を強化する。

 それゆえに、決戦に挑むならば事前にある程度戦闘を行なってウォーミングアップをしておけば、フィガロは彼我の戦力差をある程度埋めて有利に戦えるはずだった。

 だが、フィガロはそれを望まず……選ばなかった。

 独りで戦い、事前にフライングもしない。


 それはひとえにこの戦いが彼にとって――フォルテスラ(・・・・・・)との決闘(・・・・)だからだ。


 フィガロとフォルテスラは、同時期に決闘ランキングを駆けあがっていた。

 勝利し、敗北し、追い越し、追い越される……互角の好敵手だった。

 二人は決闘を通じた親友でもあった。それは同じく親友であるシュウとの友情とは異なる、同じ土俵で競い合う者の間にしか生じない戦いの友情だった。

 しかし当時の決闘王者であったトム・キャットにフィガロが勝利したことで、両者はランキングを賭けた決闘で戦うことができなくなった。決闘の王者には二位しか挑戦できず、フォルテスラはトム・キャットとは相性が悪く二位に上がれなかったからだ。

 しかし、フィガロはフォルテスラならばいずれ上がってくるだろうと考えていた。

フィガロが<超級>となったことで両者の差は開いたように思われていたが、フィガロ自身はそう考えていなかった。

 フォルテスラは、今も自分と互角の存在なのだと。

 自分が王座を守って腕を磨く間に、彼もさらに成長する。

 いずれトム・キャットをも超えて、自分と決闘王者の座をかけて戦う日が来るのだと。

 フィガロはそう信じていたし……実際に二人で誓い合いもした。

 しかし、二人が直接矛を交えるその日はもう訪れない。

 フォルテスラを、彼の心を支えていたものがあの城塞都市と共に喪われてしまったから。

 彼はもうこの世界に戻ってこないのだと、フィガロも知っているから……。


 ゆえに、これは――彼らの最後の決闘となるだろう。


「やろうか。【グローリア】(フォルテスラ)


 やがて、【グローリア】が姿を現したときに、フィガロはそう言った。

 フィガロは、眼前の【グローリア】を敵とは見ていない。

 ただ……決闘競技のターゲット(・・・・・)と認識していた。

 討伐までの時間を競う決闘競技(タイムアタック)のように、【グローリア】を通して……彼の好敵手を見ていた。


「始めよう。君の戦績は敗退ゆえタイムアタックは記録なし。評価点として翼と尾と心臓、それと右目の破壊がある。だから僕は、君に勝つためにその上を行く」


 モンスター討伐の決闘競技の勝敗を決めるのはタイムアタックだが、途中で負けたとしても加点はある。

 そして、心臓までも破壊したフォルテスラの上を往くならば、破壊すべきはたった一つ。


「――コアを砕く」


 コアを有するモンスターを対象とした決闘競技で、最も高得点となる部位の破壊を宣言する。

 そして、フィガロは最初から【グローリア】の三本の首の一本に狙いを定めていた。

 それは一本角の首。

 光熱のブレスを放ち、絶対防衛線を壊滅させた最強の攻撃力を誇る首。

 それはこの首が存在する限り、【グローリア】は必殺の威力を誇るブレスを放ち続けるということ。加えて、ダメージを負う毎に発射口が増えて隙がなくなる。

 【グローリア】攻略を考えれば他の二つの首よりも先に、絶対に倒さなければならない首。

 ゆえにフィガロが一本角の首を狙うのも、この首を真っ先に倒さなければならないという戦術上の理由……ではない(・・・・)


「…………」


 フィガロは一本角の首の右目を見る。

 そこでは大きく抉られた傷跡に、融解した神話級金属――元は大剣であったものが瘡蓋のように張り付いている。

 それこそは、フォルテスラがこの首を相手に戦い抜いた証左。

 この首こそ、フォルテスラが倒そうとした首であり、フォルテスラを倒した首。

 それ以外にフィガロが一本角の首を狙い定める理由はなく、それゆえにフィガロが己の全霊を注いで一本角の首を落とすべく戦う。


「――やろうか」


 そうして、フィガロが右手に槍を構え、


『Flulululululu……』


 敵手の姿を認めた【グローリア】が体を起こして二本の肢で大地に立ち、


「――試合開始だ」

『――FLUUUSSSSHHEEAAA!!』


 その一本角の顎を開いて光を照射したとき、【超闘士】フィガロと【三極竜 グローリア】の戦いは始まった。



 ◇◆



 【グローリア】が放ったブレスによって<峡谷>の一部が融解し、その影響で崖崩れを引き起こした。

 その轟音は、<ノヴェスト峡谷>の外にも響き渡っていた。


『……始まったな』


 その音を聞きながらそう呟いたのは、巨大な戦艦に乗った男――【破壊王】シュウ・スターリングだった。

 <峡谷>の外に戦艦型の<超級エンブリオ>であるバルドルを待機させ、ただ静かにその中で座して待っていた。


「ほんまに加勢せんでもえーのー?」


 バルドルの周囲には三十四人もの人間が集合していた。

 それは王国クランランキング一位、<月世の会>が今回の【グローリア】討伐に動員したレベル五〇〇以上のメンバー、総勢三四名である。

 その中には当然、オーナーである【女教皇】扶桑月夜と、サブオーナーである【暗殺王】月影永仕郎も含まれている。


『ああ。むしろ、あいつの戦いが終わるまでは絶対に入るなクマ』

「ソロなんて自殺行為やのにー。ぼっちこじらせてると面倒やねー」


 シュウ、月夜、そしてフィガロ。この王国の三人のトップランカー達は各々が個別に、しかしここしかないという思いで<ノヴェスト峡谷>に集った。

 その中で最も早く辿りついたのはフィガロであり、ソロで【グローリア】と戦うべく独りで<峡谷>の亀裂に飛び込んでいった。

 続いて僅差で到着したのはシュウである。

 彼はフィガロの親友であり、フィガロが独りで向かった意味を……何を思って戦いに臨むかをある程度察していた。

 ゆえに彼ができることは……フィガロの戦いを邪魔しないこと。

 だからこそ、最後に到着した月夜達……<月世の会>を押し留める役目も担っていた。

 無論、それを月夜が聞く理由はなかったし、そのまま突き進もうとしていた。

 だが、それはある取引によって呑ませた。


「で、クマやん。確認するけどあの病弱貴族が一本角を落としたら次はうちらでええんやね?」

『ああ、それでいいクマ』


 それは、討伐の順番だ。

 【グローリア】については、<バビロニア戦闘団>の残したデータによってその性質がある程度把握できている。

 ブレスを放つ一本角、死の結界を張る二本角、そしてHPの低下に伴いステータスを増強する三本角、という風に。

 このうち、最初に落とさなければならないのは傷を負う毎に必殺の範囲を広げる一本角。

 では二番目に落とすべきはどれかと言えば、それは当然HPの低下に伴って強化される三本角だ。傷を負う程に強くなる能力を最後まで残す道理はない。

 そして、一本角と三本角をなくしてしまえば、後に残るのはカンスト以上のレベルの持ち主には効果を発揮しない二本角のみ。

 これが何を意味するかと言えば、一本角と三本角さえ倒せば、二本角はもう取ったも同然ということだ。HP低下による強化の首さえなくなれば、【グローリア】は次第に弱くなるだけなのだから。

 また、【グローリア】は高確率で三本の首それぞれにコアがあるモンスターであり、通常の<UBM>ならばコアの破壊はMVPの選定に大きく関わる。

 先日グランバロアに出現した【モビーディック・ツイン】の一件で、<SUBM>は複数の特典武具を出すことが分かっている。

 頭部ごとにコアがあると予想される【グローリア】ならば、コア一つごとに特典武具が発生するかもしれない。

 つまり、順番次第ではMVP二回分の功績を獲得できる。

 前例が少ないため机上の空論だが、可能性は低くない。

 月夜はそれを狙い、二本角と三本角の討伐を目論んでいた。

 だが、それを果たすには一本角が立ちはだかる。

 必殺のブレスを乱射する一本角の討伐は極めてリスクが高い。それも、<月世の会>のように集団戦で挑むのなら尚更だ。

 そこでシュウが月夜と交わした約束は、一本角を倒した後に二本角と三本角を倒す順番を譲る、というものだ。

 フィガロが一本角を倒して力尽きれば、次は月夜が挑む。

 フィガロが一本角を倒せずに力尽きれば、シュウが全力で一本角を倒して後は月夜に譲る。

 フィガロとシュウ、戦闘特化の<超級>二人ならば首の一つは取れる公算が高いと月夜も考え、この条件を飲んだ。


「せやけど、あの脳筋プリンスが一本角やのーて二本角とか攻撃したらどないするん?」

『それはねーよ。あいつは一本角と戦うさ』


 フィガロと【グローリア】の……<バビロニア戦闘団>を率いていたフォルテスラとの関係を知っているシュウは、欠片もそれを疑っていなかった。

 自身の友人が、どういう人間であるかは分かっていたから。


『むしろ、あいつがそのまま独りで首を三つとも落とす心配したらどうクマ?』

「それはないやろー。できたら、人間ちゃうわ」

『たしかに人間業じゃないクマ。……けどよ』


 月夜の言葉を肯定しながら、


『あいつは――王国最強だぜ?』


 己の親友の力量を信じた言葉を、シュウは口にしたのだった。


 ◇◆


 フィガロと【グローリア】の戦闘は、開幕から必殺のブレスによって幕を開いた。

 【グローリア】は生物をレベルで判定する《絶死結界》を有するためか、対象のレベルを測る力にも優れていた。

 それゆえに、眼前のフィガロが王国に投下されてからこれまでに相対した如何なる生物よりも高いレベルを持っていることを把握していた。

 加えて、フィガロの身につけているモノから数多の莫大なリソース……<UBM>の成れの果てである特典武具の気配も感じている。

 【グローリア】をしても、力を抑える理由が一切存在しない敵対者だった。


『――《OVERDRIVE(終極)》』


 一本角が赤く発光し、ティアンの精鋭を、クレーミルの街を消滅させた最大出力のブレスを振り回す。

 しなる首に合わせて、必滅の光が乱舞する。

 だが、


「それは知っている」


 フィガロは、終極の乱舞を回避しきっている。

 触れれば一巻の終わりとなる光の傍を、超音速で駆け回り、【グローリア】へと肉薄する。

 フィガロの考え――否、思考ではなく戦闘本能での判断は次のようなものだ。


 あのブレスは光速である。

 光速はいかにフィガロといえども回避のしようがない。

 だが、それを振り回す首は……亜音速止まりだ。

 首の動きを見切りさえすれば、超音速の自分ならば当たらない。

 超音速機動の引き伸ばされる体感時間の中で、亜音速で迫る光の乱舞を避けながら突き進むだけでいい(・・・・・)


 触れれば終わりだというのに、その判断を頭の片隅で下しただけで、何も迷わずに【グローリア】へと突き進んでいる。

 それこそが、【超闘士】フィガロという男の――リアルでは病身ゆえに発揮されなかった戦闘センスと直感だった。

 やがて、【グローリア】のブレスが連続照射の限界時間を迎えたとき、


「まずは、一度目。――《■■■■■、■■■》」


 フィガロは何事かを呟くと同時に、己の持っていた槍を【グローリア】へと投擲した。

 その槍は伝説級の特典武具であり、装備品としての性能も高い。

 だが、【グローリア】はそれを恐れはしない。どのようなスキルが備わっていようと、自身に致命的なダメージを与えるほどのものではないと悟っていた。

 それは正しく、【竜鳴槍 ドラグソング】と呼ばれる伝説級の槍は振動波で物体を破砕する能力を有していたが、【グローリア】に対して有効打を与えられるほどではない。

 ゆえに、その槍が一本角の長い首に触れる瞬間にも【グローリア】は笑みすら浮かべていたし、



 ――直後に、首が半ば抉れた(・・・・・・・)瞬間も理解できていなかった。



『Go、a……?』


 首の厚みが半分になり一本角の頭部が前方へと傾く。

 そのまま地面にまで落ちるのではないかというほどに首が前傾していく。

 だが、一本角の三つの目が接近するフィガロの姿を認めたとき、【グローリア】はハッとしたように頭を起こし、迎撃のブレスを吐く。

 フィガロはそれを回避しながら、【瞬間装備】で新たな武器――投げ斧を手に装備する。

 光の乱舞を掻い潜りながら、フィガロは【旋嵐斧 フルゴール】という名の逸話級武具を振りかぶり、再び投擲を敢行する。

 超高速で回転する斧は投擲の最中に嵐の如き風を纏い、楕円に歪曲する軌道で【グローリア】の首へと飛翔する。

 その武器も、本来なら【グローリア】に致命打を与えられる性能ではなかっただろう。

 だが、【グローリア】も感じるエネルギーと威力が見合っていないことは既に学習している。


『FLUUUUUSSSHEEEAAAAAA!!』


 直後、一本角の顎から自身の首に迫る【旋嵐斧】へと光の束を浴びせた。

 その光の中で、【旋嵐斧】は蒸発してこの世から消滅する。


 その瞬間――【グローリア】の巨体を揺らがせるほど桁違いな空気の乱れを巻き起こして。


 風を起こす特典武具が最後に放った莫大な風圧に押されて、【グローリア】がたたらを踏む。

 そうして体勢を崩した先には、


「――《抉り進む廻転竜牙(ドラグスパイラル)》」


 【グローリア】の意識が【旋嵐斧】に向いた間隙に、フィガロは【グローリア】の足元にまで肉薄していた。

 手にした馬上槍(ランス)をグローリアの左の踵に向けて、宣言と共に押し出す。

 その槍の名は【穿竜槍 ドラグスパイラル】。

 かつてフィガロが討伐した古代伝説級の竜王、【穿竜王 ドラグスパイラル】の特典武具。

 その唯一のスキル、《抉り進む廻転竜牙》の効果は――物体貫通。

 ドリルの如き穂先は、強固なはずの【グローリア】の鱗を穿つ。


 その穂先を回転させて肉を弾き飛ばし、骨を砕き――その左後肢を破断させた。


『――FUUUUUUUAAAAA!!』


 あまりにも呆気なく四肢の一つを失った【グローリア】の体が、倒れていく。

 その瞬間に【グローリア】の頭部の一つをよぎった言葉は、「ありえない」であっただろう。

 【グローリア】には<UBM>や特典武具についての知識が、本能に刻み込まれている。

 ゆえに元となった<UBM>のランクを想定すれば、自身にここまでのダメージを与えられるはずがない。

 使い手の力量だとしても、計算が合わない。

 ならば、それを埋めるほどの何か……奇怪な関数を敵手は持っていることになる、と。


 その本能(判断)は、正しい。


 フィガロはこの戦いにおいて、両者の力量差を埋めるある切り札を既に切っている。


 莫大な代償を払う、諸刃の剣の切り札を。


『…………?』


 地へと倒れる瞬間に、【グローリア】は気づく。

 自身の四肢の一つを破断した敵手の槍。


 それが……砕け散っている(・・・・・・・)ことを。


 【グローリア】には、否、<SUBM>にはそれが何であるか理解できた。

 あれは抜け殻である、と。

 特典武具に込められた概念、魂、リソース。

 その全てが、もはや何も残っていないただの抜け殻。

 自動修復も望めないほどに終わってしまった残骸に過ぎない。


 それはまるで――今の一撃に特典武具の全てを使い切ったかのような。


「……ッ」


 同時に、使い手であるフィガロもその体を揺らめかせる。

 これまでの戦いで、フィガロは一度も【グローリア】からのダメージを負っていない。


「やっぱり……痛いな(・・・)


 だというのに、フィガロの全身は熱傷を負ったかのように焼けついている。

 光の外に熱量を漏らさない【グローリア】の光のブレスではありえないそのダメージ。

 しかしてよく見れば、外傷は皆無。

 熱傷は全て、体の内側から生じていた。

 まるで体内を巡る血液が炎にでも変わってしまったかのような……その熱傷。


 砕け散った特典武具と重度の熱傷。

 それこそが、フィガロの切り札の代償。


「三〇秒経過。残ったHP上限からすると……あと二回」


 その痛みは、痛覚を消す設定を使わない彼には、内側から炎で炙られるのと同じことだ。

 それでも、彼に臆する様子はない。

 重傷を負い、痛みを感じ、武器を失いながら――それでもフィガロは両目に戦意を込めて一本角を睨む。


「――これが、二度目だ」


 そして彼は、また諸刃の剣の宣言を繰り返す。


 その宣言こそ、この世界における彼の命の名。


 それこそは――



「《燃え上がれ、我が魂(コル・レオニス)》」


 ――獅子の心臓(コル・レオニス)と名づけられた恒星をモチーフとする、彼の<超級エンブリオ>の名であった。



 To be continued

≡・ェ・≡<獅子の心臓(コル・レオニス)


≡・ェ・≡<心臓型だったこと


≡・ェ・≡<三章でライオン着ぐるみを着ていたこと


≡・ェ・≡<そしてこの顔文字が前振りでした


( ̄(エ) ̄)<一年越しの前振りとか長すぎクマ

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