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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Superior Ⅲ The Glory Selecter / GHDC

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223/716

第四話 クレーミル絶対防衛線 中編②

(=ↀωↀ=)<本日分割更新ですので


(=ↀωↀ=)<まだの方は前話からー

 □■<城塞都市 クレーミル>周辺


「やったな……」

「ええ! 我々の完全勝利ですよ! 大隊長!」


 百年前に使われたきりの超兵器が、伝承どおりの威力を発揮してくれたことに安堵する大隊長と、無邪気に喜ぶ若い運転手。

 他の乗員や、他の車輌からも似たような言葉が聞こえてくる。

 彼らだけでなく、【大賢者】の徒弟達も同様に喜んでいる。国教の聖職者達は【気絶】したままだがその顔は安らかなものであり、自分たちの勝利を確信してそれを夢に見ているのだろう。


「……ふふ、これで一安心だな」


 あれほどの大怪物に勝った。勝ったのだ。

 それが齎す安堵と喜びは、極めて大きい。

 大隊長はこの戦いの勝利。そして今後の両国の友好と、皇国の未来が救われたことを実感し、静かに笑った。

 だが、


「これで大隊長は超級武具を持つ者になるのですね!」


 運転手の無邪気な言葉に、大隊長は頷き……疑問を覚えた。


「……? 特典武具を得たならば、それと分かるはずだが」


 自分ではなく、砲手の方にいったのかと大隊長は少しだけ残念に思う。

 しかしそうだとしても、構わない。

 今はこの任務を達成したことこそが大隊長にとって何よりの報酬に、


 ――なるはずだった(・・・・・・・)


「だ、大隊長……」


 先刻まで陽気にしていた運転手が、何かに怯えたように震える声で大隊長を振り返っている。


「どうした?」

「…………」


 彼は言葉も出せないようで、彼の目の前にある運転手用の窓を指差している。

 大隊長はその仕草に何かを感じ取り、すぐさまガイストのハッチを開けて車外の様子を見た。

 双眼鏡を取り出して確認するのは、圧縮消滅によって生じた大穴。

 大隊長は【グローリア】が屍も残さず消え去ったはずの大穴を見て、



 大穴から顔を出す――三本の首と目が合った。



「馬鹿な……」


 大隊長は双眼鏡を落としながら、『信じられない』、『信じたくない』という感情を声にして漏らす。


「全てを圧縮消滅させる【超重砲弾】だぞ……!? 生存できるわけがない……!」


 しかしその言葉も空しく、【グローリア】には傷一つない。

 破れてすらいない翼を、悠々と広げている。

 そうして浮遊しながら、大地が半球状に消滅したことで出来た深さ一キロメテルの大穴から抜け出した。

 そう、【グローリア】は消滅したのではなかった。


 半径一キロの空間が圧縮消滅してしまったために、一キロ下まで落下してしまっただけだった。


 そして【グローリア】自身はその圧縮消滅など何も関係なかった、とでも言わんばかりに……【グローリア】は余裕を見せながらゆっくりと浮遊していた。


「こ、皇国最大の兵器だぞ!? それを受けて、無傷……!?」

「あ、あああ……」


 神話級を抹殺した伝説すらある超兵器からも生還し、何事もなかったかのように着地した【グローリア】に対し、第二機甲大隊の隊員達が動揺を強めたのも無理はない。

 生存できる生物を想像する方が難しいほど、【超重砲弾】は強力だった。

 そう、【超重砲弾】は確かに極めて強力な兵器だった。

 しかし、【グローリア】には効かない。

 【超重砲弾】だけでなく、合体魔法と天罰儀式の併せ技も強力だった。

 それでも、【グローリア】には効かない。


 なぜなら……彼らが【グローリア】攻略の一歩目から間違えていた(・・・・・・)から。


「……全車攻撃開始! 通常火力での撃破を行なう!」


 大隊長は五体満足の【グローリア】を目撃したことで、第二機甲大隊の戦線が崩壊しかねないほどのショックを受けていることを悟った。


「奴は【超重砲弾】によって体内に大きなダメージを受けている。今ならば通常火力で勝てる!」


 だからこそ、自らも信じていない希望的観測を口にしてでも、戦線の崩壊を避けなければならなかった。


「りょ、了解!」

『了解!』


 周囲の車輌が大隊長の指示に従い、【グローリア】への砲撃を開始する。

 同時に、<バビロニア戦闘団>からの遠距離攻撃も再開された。

 【大賢者】の徒弟達による遠距離攻撃魔法も加わり、最初の攻撃に倍するほどの火力が【グローリア】に集中する。


「……!」


 だが、大隊長は気づいた。

 気づいてしまった。


「……聞こえるか?」

「な、何がですか!?」


 大隊長は運転手に声をかけるが、震える彼には大隊長が気づいたことに気づく様子がない。


「あの【グローリア】にこっちの砲弾が命中する音だ……」

「聞こえません!!」


 ひっきりなしに続く砲撃音と魔法の爆撃音で、そんな些細な音を聞き取ることは不可能だ。

 だが、最も高レベルであり、聴覚系のセンススキルも有していた大隊長は、より深く理解していた。


「ああ! 聞こえないんだ(・・・・・・・)! 命中音が聞こえない! まるで、当たっていないかのようにな!!」


 着弾音がまるで聞こえない。

 溜弾の爆発音や魔法の炸裂音はあるが、徹甲弾などの命中音はまるで聞こえない。

 それこそは【グローリア】の防御能力の秘密に迫る、大きなヒントだった。

 だがそれに関する考察は、このときばかりは不要だったかもしれない。

 なぜなら、ひたすらに攻撃を受け続けてきた【グローリア】が、


『対象の頭部に変化あり!!』



 ――今この瞬間、攻勢に移ろうとしていたからだ。



「噂の死の結界か! 距離を確認しろ!」

「距離、いまだ三千八百メテル! 結界射程の三・八倍の距離です!」

「何……?」


 死の呪いの範囲は一キロメテルと判明している。

 ゆえに、その外部には攻撃手段を持たない。

 少なくともこれまでは使ってこなかった。

 だが、


『動いているのは二本角じゃありません! 一本角(・・・)です!』

「何!?」


 他の車輌からの通信に、大隊長は双眼鏡で向かって左にある一本角の首を確認する。

 それは、正に最初の報告のとおりに変化(・・)していた。

 三つあった目は、全てが移動した甲殻のフェイスカバーによって覆い隠されている。

 更に、額の一本角が青白く発光しはじめていた。

 加えて……ゆっくりとその口を開き始めている。

 明らかに、何かを起こそうとしていた。


「……一本角の口内に叩き込め!!」


 自身の悪寒を信じ、大隊長は攻撃の指示を出す。

 幾十の砲弾が、そして他の集団からの攻撃魔法が頭部に命中する。

 その内のいくつかは一本角の口腔でも爆裂を起こした。

 だが、【グローリア】にはまるで堪えた様子がない。


『FLULULULULULULULU――』


 やがて、一本角は唸り声を上げて、


『――LUSSSHHEEEEWWWWW!!』


 その口腔から膨大な光の束を吐き出した。


「ッ!?」


 放たれた光に大隊長は甚大な被害と己の死を覚悟した。









「…………?」


 だが、何も起きない。

 一本角の口から発せられた光を浴びたものには、何の変調もない(・・・・・・・)

 死ぬわけでも、高温で焼けるわけでもない。

 本当に、ただ懐中電灯のように光を浴びているだけだ。


「何、だ? 何が、起きている?」


 わからぬまま、どうすべきかを考えた大隊長は、


「……光の中から急速離脱!!」

「え?」


 即座の離脱を、運転手と各車輌に指示した。


「動き回るだけで生物を皆殺すあの怪物の行動が、無害な訳がないだろう!!」

「は、はい!!」


 運転手は跳ねるように動き、他の車輌にぶつからぬように全速力で光からの離脱を試みる。

 機甲大隊全てが光に覆われているのでどこが光の外かは分かりづらかったが、それでも幽かに見える他車輌の陰影を頼りに外部へと走っていく。

 やがて彼らの車両は光から脱出した。


「だ、脱出しました!」

「よし! このまま距離をとれ……っ?」


 大隊長は、光を抜け出したことであることに気づいた。

 ただ照らすだけの光線を放つ【グローリア】の頭部。

 その頭部にある一本角が徐々に……変色していた(・・・・・・)


「何だ? 何が、起こる?」


 青白かったその角が、赤へと染まっていく。

 そうして完全に赤へと変わった瞬間、



『――《OVERDRIVE(終極)》』


 今も光の中にあった三十七輌の【ガイスト】が――蒸発(・・)した。



 一瞬だけ、人も金属もまとめて煙になる(・・・・)瞬間が見えて……その後には何も残っていなかった。

 あまりにも静かな、音すらもない完全消滅。

 驚異的であるのは、光の外でそれを見る者達が一切の熱を感じなかったこと。

 金属を一瞬で気化させる超々高温を発しながら、あれはそのエントロピーを完全に制御し、全ての熱を光の中に閉じ込めていた。


「なん、ということを、……バケモノめ!!」


 一瞬で自らの大隊の半数以上が死亡したことに大隊長は嘆くが、そこで終わりではなかった。

恐ろしいことが起きた。


『SHAAAAAAIIINNEEE!!』


 【グローリア】の雄叫びと共に、光の奔流がゆっくりと動き出した(・・・・・)

 それこそ、懐中電灯で照らすような気軽さで――あらゆるものを蒸発させる恒星の如き熱量が振り回される。


 阿鼻叫喚。

 生き残った機甲大隊も、【大賢者】の徒弟達も、諸共に阿鼻叫喚。

 クレーミルの結界など、あってなきが如し。

 光が透れば、そこには一瞬の煙の後に何も残らない。

 後退しながら飲み込まれた戦車があった。

 陣地の影に祈りながら隠れ、陣地ごと蒸発した徒弟がいた。

 光が右半身を通り過ぎ、残った左半身で訳もわからず這ってすぐに死ぬ者がいた。

 聖職者達は全て、気絶したまま光に呑み込まれた。


 阿鼻叫喚の中、光は大隊長の乗った車輌にも迫った。


「大隊長! 大隊長、どこに、どこに……!」

「誰が、光から逃げられるものかよ……」


 逃げ場所を探して狼狽する運転手に諦めたように大隊長が応える。

 彼は、既に自分の生を諦めていた。

 家族もなく、手塩にかけた部下達もこの車輌以外は光に呑まれた。

 もはや、彼にはなにもない。


「…………」


 ただ、自分達が全滅するこの事件が、後に王国と皇国の間に禍根を残さないかだけを最後に気にかけた。


「……どうか、この後に、二つの国が残り」


 最後の祈るような言葉の途中で、大隊長は蒸発して空気に混ざった。



 ◇◆


 四集団の中で、唯一光の直撃を免れたのは結界の外に陣取っていた<バビロニア戦闘団>だけだった。

 もはや、彼ら以外の王国戦力は全滅している。


「団長! これは危険です。撤退しなければ……!」


 メンバーの進言にオーナーであるフォルテスラはゆっくりと首を振る。


「どこに退く?」

「どこって、あいつの光や結界が届かないところですよ! そうだ、ログアウトすれば……!」

「俺達はそれが出来る。だが、俺達のホームであるクレーミルには……ティアンには出来ない」


 今もまだ、クレーミルには多くのティアンが残されている。

 今の光は城壁の外の結界に陣取った三集団を薙ぎ払い、街にまでは及んでいない。

 だが、このまま放置すれば確実にクレーミルは全滅する。

 ここで防衛線である彼らまで消えてしまえば、クレーミルの住人達の明暗はそこで決する。

 それを、フォルテスラは許容しない。


「……レベルカンストとそれに準ずるレベルの団員はついて来い。接近戦で奴を討つ」

「ですが、結界が……!?」

「考えがある。まずは……俺が行こう」

「お、オーナー!!」


 フォルテスラはそう言って、先陣を切って超音速機動で【グローリア】へと接近する。

 音速以上の速度を発揮したフォルテスラは、ものの数秒で【グローリア】の即死の結界の外縁に到達する。


「往くぞ、ネイ」

『OK! 団長!』


 瞬時に長剣と化したネイリングを片手に、フォルテスラはその枯死の領域に一歩踏み込む。

 もしも即死と判定され、【ブローチ】が作動するようならば飛び退く。

 その瞬間の動作をイメージしてフォルテスラは踏み込み、




 ――彼の身には何も起きなかった。




「思ったとおりだ」


 そのまま数歩を踏み込むが、フォルテスラに死の気配はない。

 ゆえに、彼は声を張り上げる。


「聞け! こいつの結界はレベルで判定している! 高レベルならば、即死は効かん!」


 それは、彼が<DIN>から得た情報を精査したもの。

 彼と同じく超級職の者やレベルカンストの者は、【グローリア】に近づいても死んではいなかった。

 逆に、<エンブリオ>の補正でどれほどステータスが高くても死んでいる者がいた。

 それこそ、神話級の<UBM>さえも死んでいる。

 この即死を判定するものは純粋な強弱ではない。


 ただ、レベルが足りて(・・・・・・・)いるかどうかの(・・・・・・・)判定(・・)だけなのだと、フォルテスラは直感した。


「【ブローチ】が発動したものは退避しろ! それ以外は奴に勝負をかける!」


 後続のメンバーが結界に差し掛かるのを横目に、フォルテスラ自身は【グローリア】の足元にまで疾走する。

 そして、


「《サンダー・スラッシュ》!!」


 フォルテスラは超音速機動で駆け抜けながら、【グローリア】の後肢を剣士系統の攻撃スキルで斬りつけた。


「…………」


 フォルテスラにとって、息を呑む数秒。

 直後――黄金の鱗が断ち切られ、線のような傷から血を流す。

 それは、【グローリア】がこの戦場で、初めて傷を負った(・・・・・・・・)瞬間だった。


「……やはり、そういうことか」


 超重力の圧縮消滅ですら無傷だった【グローリア】の防御能力。

 それは単純なダメージ量では徹らないことを示していた。

 同時に……あれだけ多種多様のスキル攻撃や物理攻撃を受けても一切傷を負わなかったことから、属性の限定による防御でもないと分かる。

 純粋な防御力でも属性でもないのなら、【グローリア】はある法則によって攻撃を防いでいるとフォルテスラは判断した。

 そして、この戦場で数多の攻撃を退けたその法則とは、


「こいつは……結界の内側で放った(・・・・・・・・・)攻撃しか効かない(・・・・・・・・)


 即死の結界の外からの攻撃、即ち結界を避けなければならない弱者の攻撃(・・・・・)は一切受け付けない。

 即死の結界でも死なない(レベル)を持つ者しか、結界内に入ることも、内側で【グローリア】に傷をつけることも出来ない。


 即死の結界の役割は……闘う資格のある者の選別(・・)である。


「お前の手品のタネは割れた」


 後続の<バビロニア戦闘団>メンバーが続々と結界内に突入し、【グローリア】に攻撃を仕掛けている。

 その最中に、フォルテスラは【グローリア】の首……多くの人間を蒸発させた一本角の首に長剣のネイリングを突きつける。

 そして彼は、宣言する。



「――ここからが、人間(俺達)とお前の本当の戦いだ」



 To be continued

(=ↀωↀ=)<【グローリア】の初見殺しギミック其の一はこんな感じー


①《絶死結界》第一の効果で結界内のレベル四九九以下(モンスターは九九以下)は即死


②《絶死結界》第二の効果で結界の外の相手が発動した攻撃を威力に関わらず完全無効


③総合すると『レベル五〇〇以上』が『結界内』で戦わない限り絶対に倒せない


(=ↀωↀ=)<なお無酸素状態などは有効そうに見えますが


(=ↀωↀ=)<【グローリア】は単独で宇宙空間に放り出しても大丈夫なバケモノなので


(=ↀωↀ=)<あまり意味がありません


( ꒪|勅|꒪)<この時点で分割した【スーリン】よりひどいナ


(=ↀωↀ=)<うん。だから僕達の最初の予定ではもっと後


(=ↀωↀ=)<それこそ本編(五章)よりもさらに後の時期に投入されるはずでした


( ꒪|勅|꒪)<だろうナ


( ꒪|勅|꒪)<……ン?


( ꒪|勅|꒪)<其の一?


(=ↀωↀ=)<其の二は追々ー



(=ↀωↀ=)<第五話『クレーミル絶対防衛線 後編』は


(=ↀωↀ=)<最長一週間後の更新予定ですー

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[良い点] 団長…なにやってんだよ!団長!(幻視) [気になる点] 無理ゲーやなぁ [一言] 最後…あとがたり?に新メンバー!? 口調からして迅羽か?
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