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レイとネメシスの場合

(=ↀωↀ=)<第一巻未登場キャラではないけれど


(=ↀωↀ=)<発売記念SSの締めはやっぱりこの二人

 □【聖騎士】レイ・スターリング


「レイの手料理を食べてみたい」


 フランクリンの事件が片付いて少しした頃のこと。

 『今日の夕飯は何にする?』とネメシスに聞くと、そう答えられた。


「急にどうしたんだ?」

「うむ。私が孵化してレイと出会って以来、一度もレイの手料理を食べていないと気づいたのだ」


 たしかに、そうだったかもしれない。

 王都やギデオンは食事所も多いし、数少ない調理の機会だったギデオンに来る途中の野営での夕食は…………いや、思い出さないでおこう。


「そうは言うが、俺の料理の腕前なんてごく普通なものだぞ?」


 ネメシスが孵化してからこれまで食べてきたプロの料理には及ばず、もちろん兄みたいな規格外でもない。

 ごく普通の、一人暮らしを始めたばかりの男子大学生の腕前だ。


「構わぬ。大切なのは味ではない」

「……そうか、量だな」

「違う!? ……でも多い方が…………否! 一番はそれではない!」


 ネメシスは何か迷いを振り切るようにそう言って、俺を指差す。


「一番大切なのは誰が作ったか、だ! そして<マスター>と<エンブリオ>として、私はレイの料理を一度食べておくべきだと思うのだ!」

「そういうものか?」

「そういうものだ!」


 ……まぁ、いいか。


「分かった。今日の夕飯は俺が作るよ」

「うむ! 楽しみにしておる!」


 さて、そうなると食材の買出しをしないと。

 調理場は……兄がポップコーンの試作のために借りてるキッチン付きの部屋があるから、あそこを使わせてもらおう。


 ◇


 兄は留守にしていたが、リアルで電話して聞くとキッチンは使ってもいいという返答をもらったので部屋に入った。

 兄のポップコーン作りの味の調整に付き合っていたこともあり、合鍵は貰っているしどこに何があるかも分かっている。

 食材についても来る途中で買い物を済ませている。

 何を作れば良いかと少し考えたが、ミートソースのスパゲッティとツナサラダ、あとはコンソメスープを作ることにした。既製品だが、デザートにアイスも買ってある。


「さてと」


 食材を並べ、順を追って調理を進める。

 今回はパスタも茹でるだけでいい乾燥パスタを使うのでそこまで手間は掛からない。小麦粉から作った方が本格的なのだが、兄ならともかく俺は一からパスタを作れるほど芸達者ではないので仕方ない。

 今回の調理で一番手間が掛かったのはミートソース作りだった。リアルのように缶入りのミートソースなどないので、自分で材料から作らなければならない。

 それでもリアルで何度か作ったこともあるので、特に問題なく調理を進めることができた。

 そうして夕飯時になり、


「できたぞ」

「うむ!」


 食卓の上に料理を並べて、ネメシスと席につく。

 ちなみに料理は四人前だ。うん、俺が一人前で、ネメシスが三人前。

 ネメシスには足りないかもしれないが、それ以上は鍋のサイズの問題で茹でられなかった。


「物足りないか?」

「そんなことはない。言ったであろう、一番大切なのは量ではない……のだ」


 最後に少し迷いが見えたが、並んだ料理に満足はしているらしい。


「今は、御主の料理を食べられることが嬉しい」

「……そっか」


 それなら、いい。


 俺とネメシスは手を合わせて「いただきます」と言い、夕食を食べ始めた。

 料理の味は自分でも普通だった。

 良くもなく、悪くもない。

 美味すぎるわけでも、あるいは食べるのが困難なわけでもない。

 極々普通の、ただの夕食。

 そんな俺の料理を、ネメシスは嬉しそうな顔で食べ進めている。

 それを見ていると『作って良かったな』という小さな喜びを覚える。


「モグモグ。ところでレイ。御主はミートソース系の料理が好きなのか?」

「ん? そうか?」

「うむ、レストランでもよくこういう味付けの料理を食べておる」

「……そうかもな」


 今回作ったのはミートソースのスパゲッティであるし、言われて思い返してみれば普段も何となくこういう料理を注文することが多いかもしれない。

 自分でも意識してやっていたわけではなかったが。


「よく気づいたな、ネメシス」

「私は御主をちゃんと見ておるからのぅ」


 ネメシスはそう言って、どこか誇らしげに胸を張るのだった。

 その仕草は、少し可愛らしかった。


「スープ、おかわりいるか?」

「うむ!」


 元気よく答えるネメシスから器を受け取って、おかわりをよそった。


 そうして俺とネメシスは夕食の時間を和やかに過ごす。

 それはトラブルとトラブルの間にある、穏やかな日常の思い出だった。


 Episode End

(=ↀωↀ=)<以上で六話連続の発売記念SS完了です!


(=ↀωↀ=)<書籍版<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-の発売日は


(=ↀωↀ=)<いよいよ明日! 11月1日です!


(=ↀωↀ=)<皆様、何卒よろしくおねがいします!


( ̄(エ) ̄)<今後もデンドロをよろしくお願いしますクマー!

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― 新着の感想 ―
[一言] このほのぼのとした雰囲気も良くかんじる
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