扶桑月夜とビースリーの場合
□【盾巨人】バルバロイ・バッド・バーン
「ビーちゃんやーん。ええところでおうたわー」
「……会長」
その日、私ことバルバロイ・バッド・バーンは、リアルの知り合いでもある扶桑月夜に捕まった。
彼女とは実家にいたころからの知り合いであるが、私の中で過去から現在までずっと知人以上友人未満といった立ち位置にいる。
そんな彼女だが、デンドロをやっていることを知ったときは本当に驚いた。
当時は視界選択をCGにしていたので王都で見かけても、「似ている」と思ったくらいだった。しかし、すぐ後にランキング上の名前などから彼女本人であると発覚した。
加えて、その少し後に私が通い始めたT大にも当然のように彼女はいた。
リアルでもデンドロでも私の行く先々に彼女がいて、半ば怪奇現象を味わった心地だった。
きっと同じ思いをする人は今後も現れるだろう。
そんな半ば妖怪のような彼女だが、私は「会長」と呼んでいる。
つい先日、T大で彼女が運営するサークル、<CID>に入会したからだ。
情報提供を始めとするメリットに心傾いた結果の入会ではあるが、目の前で妖怪の如く笑う彼女を見ていると後悔の念が生じる。
「……珍しいですね。お一人ですか」
今日の彼女には、いつもセットになっている副会長……月影さんの姿がなかった。
「そうなんよー。ちょっとリアルの方で用事ができてなー。今日のお昼はうち一人なんよー」
「……それで私に昼食をご一緒しろと誘いに来たわけですね?」
「ビーちゃんは察しがええなあ」
嫌な予感をそのまま口にしただけである。
けれど、仕方ないと諦める。
妖怪みたいな人だが旧知の仲であり、先輩であり、サークルの会長。
昼食に付き合うくらいは……。
「でもちょっと違うんよ」
「違う?」
「うん。今日はうちの作ったお昼ご飯を食べてほし」
――私は即座にログアウト処理を選択した。
「あかんよー?」
だが、遅かった。
周囲は既に“夜”に包まれている。
これこそは彼女の誇る<超級エンブリオ>、カグヤの《月面除算結界》……!
私の力は削減され、さらに彼女のスキル効果圏に囚われたことでログアウト処理も中断になる。
「……街中でそれを使いますか?」
「大丈夫やって。範囲しぼっとるからビーちゃんと……ちょっと不幸な<マスター>しか巻き込まれてへんし」
なお、周囲は逃げ惑う人で大騒ぎになりかけている。
「それにしても、いきなり逃げるなんてひどいわあ。うちはご飯食べて欲しいだけやのに」
「……メニューをお聞きしても?」
「【キング・バジリスク】のステーキ」
……私が知っている【キング・バジリスク】は強力な毒で環境破壊を引き起こす危険な純竜クラスモンスターだ。
あまりに危険なため、<UBM>でもないのに種族単位で常時懸賞金がかかっている。
当然、食用肉ではない。
「なぜ、わざわざそんなもので料理を?」
「んー、ちょっとした対抗心やなあ。ほら、きっとうちも上手く作れるはずやし!」
彼女が何に対抗心を燃やしているのかは知らないが、その自信に根拠がないことだけは十二分に理解できた。
「犠牲者は、まず副会長の役割では……あ」
私は副会長を売ろうとして、今日は不在であると言っていたことを思い出した。
「影やんは駄目やって。うちが料理しようとすると『私が作りますから』って譲ってくれへんし」
……どうやら副会長は犠牲者以前に防波堤であったらしい。
あるいは妖怪の封印だ。
「くっ!」
私は必死に彼女の腕から抜け出そうとしたが、六分の一になったステータスでは支援職とはいえ超級職の彼女に抗えなかった。
ジョブを取り直してレベルを上げている最中だったのが完全に裏目に出ている。
「そんなにこわがらんでも大丈夫やって。毒性は六分の一になっとるから」
「…………毒性を含んでいる時点でそれは料理と呼べるものではありません。それとスキルでどうこうするのなら病毒系を無効化する《ホーリー・ゾーン・ホライゾン》の方で…………」
「ええからええからー」
抵抗空しく、私はそのままズルズルと伏魔殿とも言うべき<月世の会>の本拠地――その食堂へと連行されたのだった。
なお、味については…………態々述べるまでもないだろう。
Episode End
(=ↀωↀ=)<別名「特典で唯一はぶられた王国<超級>の場合」
(=ↀωↀ=)<一巻のおまけには出来ないのでこちらで投稿
(=`ω´=)b
(=ↀωↀ=)<なお、これ含めて<超級>四人のSSは狙ってとある共通点を作っています