キューコの場合
□某月某日 カルディナのとあるレストラン
「おなかすいた」
その日、ユーゴー、キューコ、AR・I・CAの三人はレストランで昼食をとっていた。
「おなかすいた」
しかしその食卓では、同行者二人をジトっとした目で睨みながらキューコが同じ言葉を繰り返している。
普段から据わっている目が、三割増しに据わっていた。
「おなかすいた」
キューコはそう言うが、目の前の食卓には多くの料理が並べられている。
ユーゴーは肉の入っていないパスタ料理を食べているし、AR・I・CAは特にこだわりもなく色々な物を注文して食べている。
キューコだけご飯抜き……というわけではない。
単に、彼女の食べられるものがないだけだ。
「店員に聞いてみたけど一つもなかったから……」
「この辺りは香辛料をふんだんに使った料理ばかりだからね!」
ユーゴー達が言うように、食卓の上の料理はどれも香辛料によって黄色や赤、黒で彩られている。
それがキューコにとってネックだった。
「しろいたべものがない……」
人に近い<エンブリオ>の食性は、大なり小なり偏っている。
例えばネメシス等は『大食い』であるし、バビは『辛いもの』を……より正確には『甘いものを辛くしたもの』を好む。
そしてこのキューコの食性は『白いもの』である。
量でも味でも栄養価でも材料でもなく、色で食べられるか食べられないかが決まるという何とも変わった食性だった。
「うちのオーナーのところもそうだけど、人型は本当に食事スタイル変わってるね!」
「オーナーって、<セフィロト>の?」
「そうだよ。オーナーのところはみんなオーナーの手作り料理しか食べないのさ」
「…………」
それはそれで大変そう、とユーゴーは真剣に思った。
「ま、うちのオーナーはレストランやってるからそれでも問題ないんだけどね! 時間停止型のアイテムボックスに作り置きも出来るしさ」
「なるほど……、って<セフィロト>のオーナーがレストランを?」
「そう! しかもオーナーのお店は首都ドラグノマドでも屈指の人気店なのさ! ……一回アタシ達のせいで全壊したけど」
幸か不幸か、AR・I・CAがボソリと付け足した言葉はユーゴーの耳には届かなかった。
「<超級>ばかり集めた最強クランのオーナーが飲食店経営……。そんな冗談みたいな話は他にはないでしょうね」
「探せばデンドロのどこかにはそういうところもあるかもしれないよユーちゃん!」
「さすがにそれはないかと……」
AR・I・CAの返答に、『そもそも<超級>ばかりのクランも<セフィロト>くらいですし……ありえないですよ』と思ったユーゴーだった。
ちなみに“監獄”までいけばある。
「はなしがそれたけど、わたしのごはんは?」
と、気がつけばキューコがうらめしげな視線をユーゴーに送っていた。
実際、彼女の食事問題は全く解決していない。
ユーゴーは食料用のアイテムボックスに入れてあった白い食材を思い出し、キューコに提示した。
「……あとでウドン茹でてあげるから」
さっきからパスタを食べるユーゴーをうらめしげに見ていたので、麺類を選択した。
ちなみにうどんそのものは天地ではよく食べられるものの西方ではあまり見ない。
しかし以前、ユーゴーの姉であるフランクリンがキューコ用に白い食べ物を色々と試作しており、そのときに作ったものの残りが件のうどん玉である。なお、時間停止型のアイテムボックスに入っているので賞味期限の心配はない。
その提案はキューコもお気に召したらしく、目つきがいつもの据わり方に戻った。
「かまあげうどん(つゆなし)ばんざーい。はやくたべおわって」
そうして、キューコは諸手をあげながら二人の食事をせっつくのだった。
Episode End
(=ↀωↀ=)<新情報混ぜたパターンの特典SSはこんな感じですねー
( ̄(エ) ̄)<そのうち本編でも回収される情報を先出しってところクマ