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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第一章 Ordeal of Rookie

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第十二話 猫のお茶会

昨日の一章第十一話投稿後はコメント数が過去最高の勢いでした。


( ̄(エ) ̄)<歌い疲れた……


(=ↀωↀ=)<おつかれー


そして週間総合で二位になっていました。

読者の皆様ありがとうございます!

□<ノズ森林> 【聖騎士】レイ・スターリング


 マリーから情報を買った後、ルークとは後でまた会う約束をして俺はネメシスと二人だけで<ノズ森林>……だった(・・・)場所に来ている。


「うわ、これは……」


 北の城門を抜けるとそこには荒地があった。

 荒地しかなかった。

 在ったはずの森は消え去り、炭化した木々が転がっている。

 一人のプレイヤーがここまでマップを様変わりさせるというのは驚きだ。

 それにこの弾痕、破裂痕、未だ残る火薬の匂い。

 【破壊王】の<エンブリオ>が本当に戦艦かは不明だが、少なくともうちの兄と同じく重火器……あるいは兵器型の<エンブリオ>を使うのは間違いない。

 しかし他の三人がPKを識別して攻撃していたのに対し、【破壊王】は無差別にマップごと破壊デストロイしたらしい。

 【破壊王】の面目躍如だが、迷惑もいいところだ。

 <ノズ森林>はこんな風になってしまってはもう狩場としては機能しないし、森林とも呼べない。

 この<Infinite Dendrogram>が都市繁栄SLGならさぞ建築の甲斐があるだろう。着弾の影響で凹凸が激しすぎるので整地するにもブルドーザーが欲しくなる。

 まぁ、<Infinite Dendrogram>は分類としてはRPGなので詮無い話だ。

 名前も顔も知らない【破壊王】よ、PKを倒すためとはいえやりすぎだろう。

 これ、病気に罹った指を腕ごと切り落とすようなものじゃないか。


「……どう考えても今後に悪影響あるよな」

「だのぅ。マップの被害もだが、この惨状でまた人材流出が悪化したらしいからのぅ」


 これは<マスター>ではなくティアンの話。

 昨日の砲爆撃は王都を恐怖に陥れた。

 ドライフ軍の奇襲かと、騎士団も北門から出動したそうだ。

 しかしそのときには砲撃も終わり、後には燃える<ノズ森林>だけが残っていたとのこと。

 不思議と王都まで延焼する気配はなかったが、放っておくわけにもいかない。騎士団はそこから一晩掛けて消火し、その後も処理に追われ、現在は疲労困憊であるらしい。

 ちなみにこれらの情報はリリアーナから得たものだ。

 さっき道でたまたま会った彼女も目の下にクマを作っていた。「レイさんも【聖騎士】になったならちょっと手伝ってください……」と泣き言も言われた。


「砲撃のときは地下にいたにしても、よく気づかなかったよなー、俺達」

「私はゾンビパニックの後遺症でそれどころではなかったからのぅ。御主は御主で疲れて感覚が鈍くなっておったし」


 で、一夜で王都住民の慣れ親しんだ<ノズ森林>が焼失した今回の一件は、ただでさえ緊張状態の市井を混乱させるには十分だった。

 一夜明けた今日、王都脱出は加速中である。

 この急な動きは各方面のPKが駆逐されたのも理由の一つだ。

 PKの主な狙いは<マスター>だが、ティアンも相手次第で襲われる危険はあり、そのせいで交通がストップしていた。

 それが今日になって急に開放されたため、一気に人が動いた訳だ。

 PKはティアンにとっても恐れるべき相手であったらしい。


 考えてみれば、ティアンから見たときには<マスター>とティアンの区別がない。

 <マスター>は<エンブリオ>を使い不死身ではあっても、前提として“自分達と同じ”生きた人間ではあるのだろうから。

 つまりPKはティアンから見れば殺人鬼の類になる。

 ティアンでもお構いなしの相手ならば特に、だ。


「しかし、こうなるとPK問題の解決も一長一短だな」

「狩場も丸々一つ駄目になっておるしのぅ。……ついでに<墓標迷宮>での恐怖体験も割合無駄だったか」


 色々出費もあったのに結局一晩分のアドバンテージだからなぁ。

 フィガロさんと知り合えたのは幸運だったが。


「しかし、あいつ……<超級殺し>は森がなくなるような攻撃から逃げきったわけだ」

「黒グラサンの話が確かならな」


 黒グラサン……兄のクマニーサンといい、ネメシスはたまに変な呼び方するよな。

 さて、マリーが話した<ノズ森林>のPK――<超級殺し>の情報だが、<DIN>がその情報を得たソースは誰であろう彼女自身であった。

 彼女は昨日の事件で遅れながらも現場に取材に向かったそうだ。

 丁度そのタイミングで<超級殺し>は森一つ焼き尽くす砲火の嵐から見事脱出し、逃げおおせたのだと彼女は言う。

 「姿は隠蔽効果のあるスキルか何かを使用していたのでわかりませんけど、使っていた<エンブリオ>の特徴からして間違いありませんよ!」だそうだ。

 尋ねてみると、「弾丸モンスターを発射する拳銃型の<エンブリオ>」と言っていた。合っている。

 <超級殺し>は自分に飛んでくる砲火――幾つかはホーミングさえもしてきた――を弾丸モンスターの連射で相殺していたらしい。

 そうして<超級殺し>は王都の中にまで逃げ込んだそうだ。

 これだけの惨状を作り上げた【破壊王】でも、王都まで爆撃するわけにはいかず、取り逃したらしい。

 こうして考えると、『格上からの撤退戦』……すなわち同じ条件の戦いで俺は敗北し、奴は勝利したとも言える。

 リベンジ相手を横から【破壊王】に持っていかれなかったのはいいが、複雑な気分だ。


「そろそろ戻るとするか。ルークとも約束があるからな」

「そうだのぅ……む?」


 王都の中へと戻ろうとすると、ネメシスが何かに気づいたように景色の一点を注視している。


「どうした?」

「あれは、何だと思う?」


 ネメシスはそう言って指差すが、俺にはその方向に何も見えない。


「俺には見えないが、何かあるのか?」

「暑くもないのに陽炎がある。いや、あれは……空間の歪み(・・)か?」


 ネメシスはそう言って自分が指した方へと歩いていき――消えた。


「……ッ!? ネメシス!」


 俺はネメシスが消えた場所へと駆け出し……“見えないカーテン”を潜り抜けた。

 カーテンと感じたのは、それが遮っているようでありながら抵抗が非常に柔らかかったからだ。

 本当にカーテンを潜るのと同じくらいの力でそれを通り抜けた俺は……。


「……!?」


 明るくも暗くもない、更に言えば上下もない不可思議な空間に放り出されていた。

 その空間には青く透明なウィンドウが無数に浮かび、そのウィンドウに紛れ見覚えのある人物が“二人”いた。


「マスター、ここは……」


 一人は無事なまま俺を見返すネメシス。

 もう一人は……いや、“一匹”は。


「……あれー? 何でここにプレイヤーが入ってこれるのー?」


 器用に両手を動かしてウィンドウを操作していた猫――俺が<Infinite Dendrogram>を始めたときに会った管理AIのチェシャがそこにいた。


 ◇


 見えないカーテンを潜り、謎の空間に入ってしまってから数分後。

 俺とネメシスはチェシャが出した椅子に座り、チェシャの淹れたお茶を飲んでいた。

 何がどうなっているかわからない俺達に、「説明するけど立ち話もなんだからー」と言ってチェシャが用意したのだ。

 ウィンドウ以外は何も無かったはずのこの空間だが、チェシャは何でもないようにポケットから椅子とテーブルとティーセットとお茶請けを取り出していた。

 その様子はまるで幼少期から見ている某超長寿猫型ロボットアニメのようだった。チェシャは耳あるけど。

 あのポケットは恐らく俺も持っているカバンと同じ原理のアイテムボックスなのだろう。ポケット型はカバン型よりコンパクトだし便利そうだ。


「ポケット型は人気なんだよ。ドラ○もんの影響でポケット型のボックスが欲しいって言う子供は多いねー。大人もだけどー」


 やっぱり意識していたかドラ○もん。

 まぁ、あれは子供の夢の一つだからな。

 俺はひみつ道具の中では無難だがタケ○プターが欲しかった。

 兄はも○もボックスが欲しいと言っていたな。「も○もボックスで「ひみつ道具全部持っている世界」って言えば総取りじゃないか」だそうだ。

 閑話休題。


「本題だけれど、管理AIがここで何していたんだ?」

「環境整備の下準備かなー。本作業は3号と5号……モンスター担当や環境担当の管理AIの役目だけどねー。この空間は即席の作業部屋みたいなものさー」


 工事のとき現場に建てるプレハブみたいなものか。


「普通は僕たち以外には見えないし入れないんだけどねー。でもそっちの<エンブリオ>ちゃんはメイデンみたいだし、そういうこともあるかなー。レイくんは<エンブリオ>ちゃんに引っ張られたんだねー」

「メイデンだと何か違うのか?」

「色々と僕ら寄りだからねー。■■■機能も残ってるしー」


 ん?


「今なんて言ったんだ?」

「あ、ごめーん。こっちじゃ言語化できない情報だったー。大したことないから忘れてー」


 俺の質問に答えているのか答えていないのか。

 不明瞭な答えではあったが運営の守秘義務か何かに引っかかるのかもしれない。今だって舞台裏を見ているようなものだ。

 他にも聞きたいことはあるし、この話はここまでにしよう。


「それはそうとこのエリア、直すんだな。てっきりリアルさを優先して直さないのかと思ったが」


 実際、昆虫モンスターに占領された<旧果樹園>などはそのままだった。

 けれど初心者狩場である<ノズ森林>は例外なのか……と思っての発言だったが、チェシャは首を振った。


「直さないよー。今回の件で失われた<ノズ森林>の直接再生はしない。けど、似たような環境が形成されやすいように要因を配することは出来るからねー。僕の仕事はその準備ー」


 チェシャは言葉を区切り、紅茶を一口啜ってから言葉を続ける。

 どうでもいいが猫舌ではないらしい。


「この世界は自由だからねー。プレイヤーでもティアンでもモンスターでも、この世界に対して行った自由の結果に対して、管理AIは巻き戻しを行わないよー。自由の結果で何が起きようと僕らは関知しないからねー。……けど、たまに例外もあるかな。罰則用管理AIもいるしねー」

「罰則? PKもお咎めなしなら、何に対して?」

「んー、国から指名手配されたときかなー。ほら、この世界でも大抵の国には法律があるけど、プレイヤーは捕まってもログアウトなり死に戻りなりで牢屋の外に脱出できちゃうよねー。プレイヤーのログアウト、死に戻りを防ぐ技術なんてこっちの警察や騎士団は持ってないからー。だからプレイヤー用の牢屋、通称“監獄”は管理AIが担当してるよー。国から指名手配されたときにセーブポイントが使えなくなる処理もねー」


 ……なるほど、何度捕まってもデスペナルティ以外にデメリット無しだと犯罪を繰り返せるからな。


「ちなみに、これはこの世界の設定に含まれているよー。『罪を犯し、セーブポイントに戻れない状態で倒された<マスター>は“監獄”へと転送される』ってねー。だからなるべく多くの国でセーブポイント登録しておいたほうがいいよー」

「それ以前に指名手配されるような真似しないからな?」


 しかし“監獄”か……本当、お世話にならないように気をつけよう。


「それもいいかもねー。まー、指名手配されても倒されなければ送られないんだけどねー」


 ……強い犯罪者は野放しにならないかそれ。


「ふむ、罰則専用の管理AIまでいるとなると……猫は何の担当なのだ?」

「僕は管理AIの中でも雑用担当だからー」


 雑用?


「AIにも向き不向きがあってねー。僕はシステム管理の作業苦手なんだー。特に環境系は全然駄目―」

「今やってる作業は違うのか?」

「これはあくまで下準備だよ。オブジェクト置いているだけだからー。本格的な環境シミュレーションだと雲の粒子のエントロピーまで制御しなきゃだしー」

「…………」


 人間の演算能力では考えただけで頭痛がしてくる。だが、それをできる存在が管理AIなのだろう。

 このチェシャは出来ないらしいが。


「僕が一番やっている仕事が何かって言ったらチュートリアルの案内役かなー。あれって演算リソースに空きがある管理AIの仕事だからー。ここに来るプレイヤーの半分は僕が受付してたよー」


 半分って相当な数だよな、それ。


「あ、ちなみにこうしている今もちゃんとチュートリアルのお仕事もしてるんだよー。こんな感じでー」


 そう言うと、チェシャは五匹に分裂した。

 五匹全てがカチャカチャとウィンドウを操作しながら話す。


「こんな感じー」

「でもここで分身しても意味ないよねー」

「五人になっても作業スピード変化なしー」

「ここの作業に使っている演算容量変わらないからねー」

「むしろ演算の手間増えてちょっと遅くなるよねー」


 そう言って五匹は一匹に戻った。


「何と言うか……」


 演算云々の話でここがゲームサーバーの中であることを、久しぶりに思い出した。

 初めてサイバーテクノロジーな部分を見たかもしれん。


「僕はこういう分割処理が得意なほうだから雑用に回されるのさー」

「なるほど。ところで半分は担当ってことはもう半分は別のAIが受け付けるんだよな?」

「そうだよー。その時々で演算に余裕があるAIが担当するからねー。中には無愛想で、キャラメイクとかで一度決定したらやり直しさせてくれないAIもいたり?」


 それはやり直させてやれよ。

 そういえば兄がキャラメイクをしくじっていたが、ひょっとするとその管理AIに当たったのかもしれない。


 ◇


 二○分ほどお茶と茶菓子を味わいながらチェシャと世間話をして、俺達はお暇することにした。


「この姿のまま受付以外で人に会うのは久々だったよー。おみやげに記念品でもあげたいけどー。運営がそれやるとエコヒイキでアウトになっちゃうからー」

「別にいいよ。お茶とお菓子だけで十分だ。ありがとう」

「うむ。美味であったのぅ」


 妙に美味かったし……ネメシスが山のように食っていたから既にアウトなんじゃないかと内心ハラハラしている。


「いやー、そう言って貰えると作った甲斐があるよー」


 手作りだったのか、あのクッキー。意外だ。

 ……いや、待て。その猫ハンドでどうやってクッキー作った。


「あのクッキー、市販してもいいのではないかのぅ」

「考えとくー。あ、そうそう。レイくんってこれからギデオンに向かうんだっけ?」


 お茶のときにそういう話も少しした。


「ああ、そうだけど」

「……“気をつけてねー”」


 意味深に、チェシャはそう言った。

 それは何とも気の毒そうで、何かのフラグが立ち始めたとしか思えない雰囲気だ。


「おい、何かあるのか?」

「あると言えばあるけどー……」


 何だか言い辛そうだ。言うと何かエコヒイキになってアウトなのだろうか。


「じゃあ差し障りない範囲で言うけどー、“鬼の心臓は腹の中”」

「?」

「そんだけー。必ずしも遭うとは限らないけどー」


 チェシャはなぞなぞか、もしくはミステリー小説のヒントみたいな言葉を俺に伝えた。

 何か意味があるのだろうか、とりあえずメモウィンドウに記述して覚えておこう。


「それじゃ会う機会があるかはわからないけれど、また縁があったらー」

「ああ、またな」


 俺達はチェシャの作った出口を通り、元のマップへと帰還した。


 ◇


 出口を抜けるとそこは元いた<ノズ森林>の跡地だった。ネメシスに聞くと、今はもうチェシャの仕事場への入り口の痕跡は見当たらないらしい。

 時間を見るとあの空間の内外で時間の流れが違うといったことはないらしく、今はちょうど午後三時過ぎだ。

 ルークとの合流予定時間は四時なので間に合うだろう。

 俺とネメシスは合流予定場所に指定した施設――冒険者ギルドへと向かった。


 To be continued


次は明日の21:00更新です。


(=ↀωↀ=)<久しぶりに本編登場だよー


( ̄(エ) ̄)<チュートリアル飛ばしたから初めて見たって人もいるかもしれんクマー


(=ↀωↀ=)<……僕が説明担当しているチュートリアルもよろしくー

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― 新着の感想 ―
鬼の心臓は腹の中、ねぇ…そう言えば、東の国でもないのにいるんですね、鬼。
[一言] これって破壊王お兄さんなのでは?
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