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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第五章 遺された希望

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206/716

エピローグA 皇国の場合

(=ↀωↀ=)<エピローグは全三話です


(=ↀωↀ=)<…………


(=ↀωↀ=)<気づけば三章くらいのボリュームになってたな、五章


( ̄(エ) ̄)<最初の予定の倍くらいになったクマ

 □【無将軍】ギフテッド・バルバロス


「……、……?」


 瞼を開けて、自身が気絶していたことに気付く。

 一体いつから気絶していたのか。記憶が途切れて判然としない。

 ……いや、天と地の【アクラ・ヴァスター】が彼らによって撃破され、空中戦艦が爆発した瞬間までは覚えている。

 どうやら、そこで意識が限界を迎えたらしい。


「ここは……?」


 最初は王国側に捕まったのかと思ったが違うようだ。

 幽かな振動から、ここが車両……それも内装から戦車の中であると悟る。

 大陸広しと言えど戦車型の<マジンギア>である【ガイスト】を運用しているのは皇国だけだ。

 ゆえにバルバロス領の戦車部隊に回収されでもしたのかと思ったが……違う。

 この戦車は既存の戦車とは内装がまるで違うし、広すぎる。

 この戦車は【ガイスト】ではない。全く違うものだ。

 ならばこれは……、


「おぉ、気づいたかい。元帥閣下」


 疑問に思う俺に、何者かの声が聞こえる。

 見れば、戦車内の車長席に一人の男が座っている。

 軍服と、まるで砂漠で戦争でもするかのようなマント。

 口には細葉巻を加え、顎のラインに沿ってあえて残していると言わんばかりに無精髭が生えている。

 その男を、俺は知っている。


「【車騎王キング・オブ・チャリオッツ】、マードック・マルチネス大佐(・・)か。一ヶ月ぶりか」

「ええ、叙任以来ですぜ。元帥閣下」


 皇国が最近になって雇用した<超級>の一人、【車騎王】。

 彼は雇用の際、金銭の他に「皇国軍の大佐の階級くれませんかね?」という意図の分からない要求をしてきた。

 「軍部は席が空きすぎているので、准将でも構いませんが?」と提案した皇王に対し、「いえいえ、大佐だから格好がいい(・・・・・)んですよ」と奇妙な返答をした男である。


「なぜ、貴官がここに?」

「任務でさぁ。いや、打ち明けて言えば元帥閣下がしくじりそうだから迎えに行ってこいという命令でして」

「なに?」

「【大教授】から【魔将軍】の坊やが負けたって報告が上がりやしてね。『このままだと叔父上の身も危うい。叔父上を失う訳にはいかないから迎えに行ってください』と皇王陛下からダイレクトに依頼があったんでさ」

「……そういうことか」


 情報の早さはあのフランクリンならば納得だ。

 加えて、皇都からここまで一時間足らずで到着していることも、この男なら十分に可能と言える。

 最速にして最強の戦車を駆るこの男ならば。

 車内では僅かな振動しか感じないが……恐らくは音速を遥かに上回る速度で移動しているはずだ。あと数十分もすればこの身は皇都に戻っているだろう。


「…………」


 ふと、後ろ髪を引かれるように戦車の後ろを見る。

 無論、戦車の壁に阻まれて見えるはずもないが……その先にあるであろうカルチェラタンを想った。


「どうしやした? ああ、あの高そうな赤い人形なら見つけたんで積み込んでますぜ」


 どうやら【ファルドリード】も無事回収されているらしい。


「それとも他にも何か忘れ物でも? 戻りますかい?」


 忘れ物、か。

 なるほど、忘れ物といえば……そうかもしれない。


「……いいさ。いずれ、自分で行く」


 全てが終わったら、もう一度……家族を連れて会いに行こう。


「そうですかい。しかしあの街、ちょいとボロボロになってやしたけど、緑が多くていい街ですね。街が元通りになった頃に、今度は観光で行きたいもんです」

「違いない。だが大佐、あの街は野外禁煙だぞ」

「ハハハ、そんときは注意しますわ」


 咥えていた葉巻の火を揺らしながら【車騎王】は笑い、私も……いつか再び故郷を訪れることを思い、微笑していた。



 ◆◆◆



 ■三日後 皇都郊外・<叡智の三角>本拠地


「フランクリンッ!! フランクリンの奴はどこにいるッ!!」


 カルチェラタンの事件から三日目の早朝、クラン<叡智の三角>の本拠地に、大剣を片手に、悪魔の軍団を引き連れた【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトが殴り込んできた。

 その顔は怒りと憎悪に埋め尽くされており、ここに来た理由がフランクリンへの報復であると悟るのは簡単なことだった。

 無論、ローガンが遥か格下のレイに敗北した一部始終をネットに流されたことが怒りの理由である。

 今のローガンは拳銃の引き金に指をかけ、ギリギリまで力を込めているようなもの。何かの拍子に悪魔軍団で<叡智の三角>の本拠地を壊滅させるくらいはやるだろう。

 しかしそんな瀬戸際にある<叡智の三角>のメンバーはと言えば、「あ、閣下だ」、「デスペナ明けたんすね」と特に慌てる様子もない。

 そしてなぜか、全員ひどく眠そうだった。

 早朝だから寝ていたところを起こされたのではなく、今の今まで何かの作業をしていたかのように。


「フランクリンを出せ!!」

「あ、オーナーから閣下が来た時に渡してくれって手紙預かってます」


 クランの事務を担当するティアンはそう言って、ローガンに手紙を渡す。

 手紙には「ここで待つよ」という簡素な一文と、座標が提示されていた。

 一種の果たし状であろう。


「望むところだ!!」


 怒り心頭のローガンはそのまま悪魔の背に乗り、指定の座標へと飛び立っていった。

 しかし<叡智の三角>のアジトを出る時、不意にあることに気付く。


(なんだ? この匂いは)


 しかし、深く気にすることもなく、悪魔に乗って指定されたポイント……<厳冬山脈>に向かった。


 ◆


「おはようございまーす。うわ、いつもより三割増しに惨状だ」


 ローガンが去ったすぐ後、一人のクランメンバーがログインしてきた。

 彼の目には徹夜を重ねて死屍累々となった大勢の同僚の姿が見えている。

 まぁ、三割減なら日常の光景であるのだが。


「ああ、さっきまで色々テストが重なっててなぁ……」

「ああ、また新兵器作ったんですか? ところで、変な匂いしますね? 地引網引っ張りあげた後みたいな匂いがするんですけど」


 それは内陸の都市である皇都では通常嗅ぐはずのない匂い。

 深い潮の匂い(・・・・・・)が、なぜか<叡智の三角>の本拠地に漂っていた。


「……アレ」


 そう言って倒れていたクランメンバーが指差したのは、……表面にフジツボやサンゴが寄生した巨大な何か。

 よくよく見ればシルエットは巨大な爬虫類の手足に見えなくもないが、フジツボとサンゴの隙間から見えるそれは瑠璃色をしていて生物ではないと分かる。


「何ですかこれ、どこから拾ってきたんですか?」

「海だよ、海。大陸北の海域からオーナーがサルベージしてきたんだ」

「え? でもたしか今って皇国が海軍結成して、グランバロアと牽制し合ってるんじゃ……。よく海に出れましたね」


 それは皇都でもニュースになっていることで、海洋進出を目論んでそれまではなかった海軍を結成した皇国と、広大な領海を有するグランバロアの間で摩擦が生じているという話だ。

 一ヶ月ほど前から話題になっていた。


「逆だよ。オーナーがこれをサルベージしたいから、上層部に頼んでハリボテの海軍を作ってもらったんだ」

「…………え?」

「海軍にグランバロアの耳目を集めて、その隙にオーナーが自前の水棲モンスター使って単独サルベージしてきたのさ。グランバロアにバレたら取り合いになってただろうからな」

「ほえー」


 随分と規模の大きいカモフラージュだなぁ、と聞いたメンバーは感心した。


「それでこれ、何なんですか? 表面にフジツボやサンゴがビッシリですけど……」

煌玉竜(・・・)

「……………………は?」


 端的に答えられたその言葉の意味を、<叡智の三角>に属するメンバーは知っていた。

 先々期文明末期に創られたとされる兵器群の一つ。

 神話級の<UBM>に相当する力を持つとされる、幻の兵器の名だ。


「クラウディア殿下の【翡翠之大嵐】が見つかった<遺跡>で、一緒に発見された資料があっただろ。そこに先々期文明末期の戦時中にロストした煌玉竜、【瑠璃之蹂躙ラピスラズリ・トランプル】の墜落予想地点のデータもあったのさ。オーナーはそれをもとにサルベージに行って、こうして見つけてきたわけだ」

「……これ、使えるんですか?」

「使えたみたいだぜ。二千年も海水に浸かってたのに機能は九割生きてた。ま、今はパーツ取りしちまったから駄目みたいだけど」

「パーツ取り?」

「そ。あ、残ってる手足は俺達の研究に使っていいってさ」


 その言葉のとおり、【瑠璃之蹂躙】と呼ばれた兵器は手足しか残っていない。

 まるで、それ以外を何かに食われでもしたかのように……。


 ◆◆◆


 ■<厳冬山脈>


 ドライフの、そして大陸の北部には<厳冬山脈>と呼ばれる地がある。

 標高の高く空気の薄い山脈と、零下四十℃を下回る超極寒地帯。さらには、神造ダンジョンの深層にいるレベルのモンスターが徘徊する超危険地帯でもある。

 あらゆる国の領土ではなく、理屈の上ではそこを通れば大陸の東西まで国を通らず移動できる。

 しかし、人の足で踏破することは不可能とされ、これまでにそこを超えた者も両手の指の数で足りる程度だ。

 今もまた、体を切りつけるような猛吹雪によって人の侵入を阻む。


 そんな極寒地帯の第一の山の中腹に、白衣を着た一人の<マスター>が立っていた。


 耐寒のアクセサリーは装備しているのだろうが、どこか寒々しい装い。

 しかし、その白衣の<マスター>――Mr.フランクリンはどこか楽しげな様子で、吹雪の中を待ちわびていた。


「来たかねぇ」


 フランクリンがそう呟いた直後、吹雪を割って無数の影が山中に降り立った。

 それはローガンと彼の率いる悪魔軍団である。

 もっとも、この自然環境に敗れて相当数が脱落していたが。


「見つけたぞフランクリン! 貴様! どういうつもりだ!!」

「どういうつもりって、何のことかねぇ? 言葉が足りなくて分からないよ、閣下」


 どこか小馬鹿にしたように、フランクリンはローガンにそう尋ね返す。


「あの動画だ! なぜあんなものを流した!! お陰で俺は……!」


 ローガンは思い出す。

 レイとローガンの戦いしか動画になっておらず、ルーキーに一対一で負けたようにしか見えないあの動画。実際にはベルドルベルによって悪魔群団の数を減らされ、【ブローチ】を砕かれていたことが大きかったが、そんなことは視聴者に分かるはずもない。

 よって、動画についたコメントの大半はレイを賞賛するか、ローガンを嘲弄するものだった。

 これは元々神話級悪魔でゴリ押しするスタイルのせいでローガンの人気が決闘王者としてあまり高くなかったこともある。倒された方が喜ばれるヒールのようなものだ。

 だが、理由が何であれ嘲りの対象となったことがローガンには我慢ならない。


「いやいや、私としては憎いレイ・スターリングの弱点でも見えないかと監視していたんだけどねぇ。まさかあんな面白動画になるとは……ククク」


 なお、レイ目当てであったというのは本当であり、その後の【アクラ・ヴァスター】との戦いもしっかりと記録している。

 ただ、動画として流したのはローガンとの戦いのみであり、それには別の理由がある。

 その理由は、これから起こることに関係している。


「貴、様!! 覚悟はできているんだろうな!! 貴様がいつぞやどこぞの雑魚にそうしたように、殺し続けてやるぞ!!」

「ああ。そんなこともあったねぇ。でも閣下にそれは無理じゃないかねぇ」

「抜かせ!! やれ! 悪魔共!!」


 ローガンの号令を受け、悪魔が飛翔し、フランクリンを八つ裂きにせんと迫る。

 その中には伝説級悪魔である【ギーガナイト】も混ざっている。

 <超級>だが非戦闘職のフランクリンではひとたまりもなくデスペナルティになるだろう。

 だが、


「駄目ね、そんな悪魔じゃ――テストにもならない」


 ――フランクリンを殺そうとした悪魔の全てが、一瞬で爆散した。


「……!?」


 その瞬間が、ローガンには見えていた。

 吹雪の向こう、フランクリンの背後から……まるでミサイル(・・・・)のようなものが飛来し、フランクリンに迫る悪魔を撃破せしめたのだと。

 虎の子の【ギーガナイト】も、熱線のような光を浴びて融解している。


「……そうか! 予め改造モンスターを配していたか……卑怯者が!」

「ハハハ。いやいや、むしろどうして警戒していないのかねぇ。私はここで待っていたのだから、そりゃあ置くよねぇ、手駒」


 フランクリンの背後、吹雪で遮られた世界の先に……何かがいる。

 そのシルエットだけを雪景色におぼろげに映しながら、機関音とも鳴き声ともつかない音を漏らす。

 それこそが、ローガンの悪魔軍団を粉砕したフランクリンの手駒だった。


「ところで閣下。動画を投稿した理由の一つなのだけれど……デスペナの直前、既に特典武具を捧げていたよねぇ」

「それがどうした!」

「だから、さ。今なら新たに捧げなくても……呼べるよねぇ、神話級」


 フランクリンの言は正しく、デスペナになろうとも特典武具を捧げた時のポイントは保持されている。

 今ならば、あの戦いでは呼べなかった神話級悪魔を召喚できる。


「貴様なんぞに、神話級を使えというのか!!」

「使いなよ。じゃないと、閣下(笑)はルーキーだけでなく非戦闘職にも完敗した雑魚ってことになるからねぇ。ああ、もちろん今回も録画してるからねぇ?」

「……!! 殺してやる!!」


 そうしてローガンは詠唱を行い、


「――《コール・デヴィル・ゼロオーバー》!!」


 かつて【天騎士】ラングレイを破り、彼を闘技場の頂点へと押し上げた最強の戦力――神話級悪魔を呼び出した。

 それは極めて分かりやすい悪魔の形をしていた。

 山羊の頭に蝙蝠の羽、四本の細い腕を持つモノ。

 されどそれは巨大で、七十メテルものサイズを誇っていた。

 ステータスは全てにおいて【ギーガナイト】を遥かに上回り、LUCを除くステータスは四万オーバーを発揮している。

 さらには、魔法系統超級職の奥義にすら匹敵するほどの魔法を駆使する、万能の悪魔。

 それこそが【ゼロオーバー】、ローガンの切り札である。


「《ブーステッド・デヴィル・ストレングス》!! 《ブーステッド・デヴィル・エンデュランス》!! 《ブーステッド・デヴィル・アジリティィィッィ》!!」


 そこにさらに、ローガンが強化スキルを重ねる。

 その結果、【ゼロオーバー】のステータスはSTR、END、AGIはいずれも十二万以上にまで上昇した。


「どうだ! これこそ、これこそが俺の本当の力だ!! あの雑魚に負けたのは、卑怯にも不意を突かれただけだったんだ!! 俺が最強なんだ!!」

「最強って言われても……」


 フランクリンは苦笑とも嘲笑ともつかない笑みを浮かべる。

 フランクリンの右目は青く光り、《叡智の解析眼》が発動している。

 召喚から今までの時間で解析も完了し、今の【ゼロオーバー】のステータスがフランクリンにはハッキリと見えていたため、


「そのステータス、まだ【獣王】に届いてないよねぇ?」


 数値を判定した結果の、率直な感想を口にした。


「……、殺せぇ!!」


 その言葉が逆鱗に触れたのか、ローガンは自身の最強の手札である【ゼロオーバー】を嗾けた。

 音速の十二倍超。

非戦闘職のフランクリンには決して捉えられぬその動き。

 装備した【ブローチ】があろうと、《ライフリンク》で配下にダメージを移そうと、瞬く間に削りきられてデスペナルティになる。

 それが自然の成り行きというものだった。

 だが、


運動性(AGI)、良し」


 ――【ゼロオーバー】の突撃は異なる巨体によって掴まれ、止められていた。


「……!?」


 ローガンには、その全貌を見ることができなかった。

 それは周囲に吹き荒れる吹雪のせいであり、【ゼロオーバー】を上回る巨体のせいでもある。

 だが、その巨大な異形が竜を模した瑠璃色の頭部を持つこと。

 そして、恐竜――否、怪獣の如き四肢と尾を備えた――機械で出来た怪獣(・・・・・・・・)、としか言いようのないものであることは理解できた。


「なんだ、こいつは……?」


 ローガンの呟きは二重の思いを含んでいる。

 それは正体が分からないゆえの、疑問。

 そして……強化した神話級悪魔と五分の速度と力を発揮した存在に感じる、恐怖。


「――【M(メカニクス)G(・ゴッド・)D(ディラン)】」


 ローガンの口から漏れた言葉に、フランクリンが笑みと共に応える。


「つい先日完成した私の最高傑作。ただ、最高傑作すぎて(・・・)……戦闘テストは丁度いい相手がいなくてねぇ」

「……?」

「元々が対<SUBM>、そして対【獣王】用だから半端な相手じゃ物差しが足りなくてさぁ」

「……! 貴様、まさか……!」


 ローガンは、気づく。

 なぜ、あの動画を投稿したのか。

 なぜ、【ゼロオーバー】を召喚できる状態であることが理由の一つと言ったのか。

 なぜ、挑発して【ゼロオーバー】の召喚を誘ったのか。


 全ては――自分の【ゼロオーバー】をテスト相手にするためだったのだ、と。


「秘密兵器だから、閣下お得意の決闘には出せないしねぇ。いやぁ、本当に良いタイミングで負けてくれて助かったよ。お陰で使う踏ん切りがつきやすかっただろう?」


 その言葉は挑発しているようであり……同時に本心からそう思っているようでもあった。


「やっぱり念には念を入れておかないとだからねぇ。こちらの予想を悉く上回るレイ・スターリングを確実に潰すなら、強化した神話級悪魔を容易く斃せるくらいの完成度は必要だもの」

「…………」


 その言い様に、ローガンは言葉を失う。

 それではまるで、<超級>である自分がルーキーを倒すための試金石扱いではないか、と。

 実際、フランクリンの中ではそのとおりだった。


 そのことに、これまでにないほどの憤怒がローガンの中に湧き上がる。


「舐めるなよ、フランクリン!! そのガラクタをバラバラにして、俺を侮ったことを後悔させてやる!! 俺の【ゼロオーバー】が、貴様のガラクタに劣るはずがない!!」


 意気を高め、ローガンは【ゼロオーバー】に【MGD】の破壊を指示し、二体の怪物が激突する。

 その激突の傍らで、フランクリンは薄く微笑みながら言葉を発する。


「そうね。ステータスは大差ないわ」


 その声は小さく、吹雪と激突音に紛れてローガンには伝わらない。

 だが、


「そんなもの……さして重要でも(・・・・・・・)ないけれど(・・・・・)


 その言葉こそが……勝敗を左右する理由そのものだった。


 ◆


 三十分後、一体の怪物が己の主を乗せて<厳冬山脈>を下山する。

 瑠璃色の頭部の怪物――【MGD】は右腕が脱落していた。

 だが、それだけだ。致命傷は一つも受けていない。

 対して【ゼロオーバー】は……主共々、<厳冬山脈>で光の塵となった。

 ローガンは真正面から己の最強が打ち砕かれるのを見ながら、デスペナルティとなった。


 そして戦場となった<厳冬山脈>には、あたかも墓穴のように――山を貫く大穴(・・・・・・)が空いていた。


「キャンキャン五月蝿い閣下も、たまには役に立つねぇ。【蹂躙砲(・・・)】のテストも出来た」


 今回のテスト結果、【MGD】の右腕を持っていかれたことも含めてフランクリンは満足していた。

 特に【瑠璃之蹂躙】が内蔵していた兵器が、二千年を経ても十全に作動したことが何よりの収穫だった。 


「けど、腕一本持っていかれたということはまだ改良の余地があるということだからねぇ。戦争までには仕上げておかないと」


 改造プランを練りながら、より強化した【MGD】でレイを蹂躙する光景を思い描く。

 そうしてフランクリンは、ひどく愉しげにその瞬間を夢想するのだった。


 To be continued

余談


【ゼロオーバー】:

神話級悪魔。

LUC以外の全ステータスが四万オーバー。(HPに至っては六六六万にも達する)

加えて魔法スキルも攻撃やデバフが充実しており、極めて隙のない強力な存在。

【ギーガナイト】と同じ、いわゆる量産悪魔ではあるが、【魔将軍】の強化も含めれば神話級の<UBM>でも(特殊な防御手段を持つ個体でもない限り)五分に戦える。

【MGD】に敗れた。


(=ↀωↀ=)<南無



【MGD】:

フランクリンの最高傑作。

元々作っていた神話級改造モンスターに、煌玉竜【瑠璃之蹂躙】の頭部や主機関を組み合わせたサイボーグ怪獣。

現時点での能力詳細は不明だが、上記の【ゼロオーバー】を相手に右腕が脱落しただけで勝利している。

現在右腕を中心に更なる改修中。



(=ↀωↀ=)<『フラ』と名がつく奴は厄介なものばっかり創る……


( ̄(エ) ̄)<フラグマンとフランクリンのコラボレーションとか最凶クマ

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― 新着の感想 ―
[一言] メカ○ジラかな?
[良い点] フランクリンて、なんというか、敵なんだけどそのあまりの優秀さに賞賛しか出てこないんだよな
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