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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第五章 遺された希望

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第三十九話 誓いの飛翔

□【無将軍】ギフテッド・バルバロス


 ――エミリオのこともあるし、私も同行した方がいいのかしら?

 ――ミーナは竜車が苦手デショウ?

 ――それに伯爵家としてのお仕事がありマスシ


 それが走馬灯なのだと、すぐに理解した。

 死に瀕した脳は、朦朧とした意識に過去を回想して映し出す。

 それは俺にとっては幾度も通ってきた道だ。

 特務兵として未熟だった時、幼い【衝神】と共に強力な<UBM>と戦った時、そして皇王継承戦で他の特務兵と殺しあった時。

 今挙げたものの数倍は死に掛けている。

 思えば、三十一年の人生でよくもそこまで死線を彷徨ってきたものだ。


 ――それはそうなのだけど……。重ねて聞くけれど、危険はないんですね?

 ――もちろんデス。一ヶ月もしないうちに帰ってきマスよ

 ――きっとその頃にはミーナのクッキーが恋しくなっているデショウから


 そうして死線を越えるとき、時折だが過去を夢に見る。

 これまで見てきたのは過去の記憶にある光景、バルバロス辺境伯家での生活のものが多かった。

 だが今、俺の脳が見せている光景は……。


 ――エミリオ、クッキーが食べたいのデスカ?

 ――駄目ですよ、エミリオ

 ――まだ歯も生え揃っていないのですから。クッキーはまだ早いわ


 いつのことだったかと思い出そうとしても記憶はおぼろげだ。

 だが、この走馬灯は鮮明に二人の人間の姿を見せる。


 ――ハハハ、エミリオ。あと半年もしないうちに食べられるようになりマスよ

 ――いやいや、ひょっとしたら皇国から帰ってきたころには

 ――食べられるようになっているかもしれマセン


 鏡で見る自分に少し似ている男性と、


 ――まあ、そしたら腕によりをかけて作らないといけないわね


 彼の右目と同じ色の右目と、綺麗な緑色の左目で俺を見る、優しげな……。


 ――エミリオ


 ◇


「……ぁさん」


 死の淵で見た幻は、喉が息とも言葉ともつかない音を漏らしたときに、雲散霧消した。


「……まだ生きている、な」


 目を覚まし、すぐに自分の状態を確認する。

 ウィンドウで見るHPは一〇%を切っている。

 さらに複数の【骨折】や【出血】の状態異常が並び、あのまま数分もまどろんでいれば取り返しのつかないところだった。

 すぐに折れた腕を動かし、アイテムボックスから【ポーション】や、HPを持続的に回復して傷痍系状態異常の治癒を早める薬品を服用する。

 継続していたHPの減少が止まり、緩やかに増え始める。

 薬効による回復を待ちながら、何が起きたかを倒れながら考え始めた。

 それは、自身がなぜ生きているか、だ。

 衝撃波の時点で重傷を負っていた。

 【ブローチ】や超級職として鍛え上げたステータスゆえに即死はしなかったが、あの状態、そしてあの高さから地面に叩きつけられて生きているのは、解せない。


「この植え込み……か?」


 見れば、うつ伏せになった俺が下敷きにしているのはどこかの庭園の植え込みだ。

 だが、それだけで命を留めるほどのクッションになったとは考えにくい。

 他にも何かあったのだろうかと、寝返りを打って情報を見て……。


「――――」


 そこに、巨木を見た。

 枝葉が青々と茂るその巨木は、枝の何本かが圧し折れている。

 まるで空から降ってきた何かを受け止めたように。

 ただ、そうした観察以上に、……仰向けになってその木を見上げることに強いデジャブを感じた。

 まるで、ずっと昔にもそうしていたことがあったような……。


「奥様! 屋内の結界に避難していただかないと……!」

「ええ、けれど……あの人の木のあたりで何か……。少し様子を見てくるから、貴女達は避難してきた皆さんの手当てをお願いね」

「…………!」


 自らの記憶を掘り起こそうとしていると、そんな声が聞こえてきた。

 声の一方に聞き覚えはない。

 だが、もう一方の声は、なぜか深く心を揺さぶった。

 そして、声でここがどこであるかも気づいてしまった。

 ここはカルチェラタン伯爵邸の庭園だ。

 空中から墜落した際に、偶然この庭園に落ちてしまったのだ。


「動ける……な」


 自身の傷が継続回復で多少は動けるようになったことを悟り、潰れた植え込みから懸命に体を起こす。

 伯爵夫人に会うわけにはいかない。

 俺は皇国の元帥であり、既に過去にこのカルチェラタンに……母の待つこの家に帰る道を否定した男。

 だから、ここで会うわけにはいかない。


「貴方は……」


 それに……、会ったところで不審者として扱われるのが関の山だろう。

 俺がここにいたのは赤子のころだ。既に三十年も経った。

 ……唯一家族であると証明しうるオッドアイは、赤子の頃に【エデルバルサ】に摩り替わってしまっている。

 今の自分は、ただ傷だらけで庭に落ちてきた不審な男でしかないのだから、顔を合わせるだけ伯爵夫人の心労を増やすだけだろう。

 そう考えて、俺は折れた右足で外への門を目指して歩き出し……。



「エミリオ?」

 ――その言葉に、足を止めた。



「……………………どうして」


 分かるはずがない。

 顔も見られていない。

 身長も体格も、赤子だったときから変わりすぎている。

 それに、彼女の元にいた頃の自分は、こんな血と硝煙の匂いが染み付いた男ではなかった。

 それなのになぜ……その言葉が出てくるのか。


「エミリオ、なのね?」

「…………」


 「そうです」も「違う」も俺の口からは発することができず、ただ立ち止まったまま伯爵夫人の言葉を背中で受けている。


「……どうしてかしらね、会える気がしたの。昨日からかしら、昔の……貴方やあの人がいたころのような気持ちがしていたの」


 昨日……たしかにこの伯爵邸に立ち寄っていた。

 だが、それで分かるわけがない。

 分かるわけがない、はずだ……。


「それはある青年に貰った言葉のお陰かもしれないけれど、それだけとも思えなかった」

「…………」

「それに、今日……夢であの人に会ったわ。『エミリオが帰ってきマスヨ』、って。昔みたいに、あの変わったイントネーションで話しかけてくれる夢」


 それはまるで、俺がマリオを名乗って活動する時のような言葉遣い。

 そういえば……どうして俺は、そんな言葉遣いにしていたのだろうか……?


「そしたら、今日は朝から街中が大変なことになってしまって……。そんなときに、あの人の植えた木が揺れたものだから、気になって出てきたら……貴方に会えたわ。あの人の、巡り合わせね」


 そうか、あの人とは……俺の実父のことか。

 ……ああ、そうか。

 この木に見覚えがあると思ったが……、これは俺が赤子の頃からこの庭にあったものか……。

 それに命を救われるとは、奇妙なことも起きる日だ……。

 そして、そんなことが起きる日なら……、母に俺がエミリオであると悟られることもありえるのだろう。


「ねえ、エミリオ。顔を……見せてもらえないかしら?」


 伯爵夫人の、……母の願いに俺は……。


「……できません」

 首を振った。

 

 今の自分は、皇国元帥ギフテッド・バルバロス。

 王国のエミリオ・カルチェラタンではないし、エミリオとしての人生を選ばなかった。

 ましてや俺は、皇国のためにこのカルチェラタンが滅びることも辞さなかった男だ。

 そんな人間が……どんな顔で母と対面すればいい?

 少なくとも……。


「今は……できません」


 この事件の、そして王国と皇国の全てに決着がつかない限り、俺には母と会う資格などない。


「……わかったわ」


 そんな俺の身勝手な返答を、母は何も問い詰めず、了承してくれた。


「エミリオが、決意してそう言っていることは伝わってきたもの……何か、理由があるのでしょう?」

「…………はい」

「それなら、今日は貴方が生きていると分かっただけで……十分よ」


 そう言う母の声は、涙が混ざっているのか、震えていた。

 振り返りたくなる衝動を抑え……、俺は、ある約束を口にする。

 

「……いつか、もう一度……会いに来ます」


 その声は、母同様に、涙で震えていたが……それでも、言葉を続ける。


「……妻と、娘もいます。いつか必ず、一緒に……会いに来ます」

「ええ、待っているわ……エミリオ」

「はい……、それまでどうか……お元気で」


 そう言って、俺は止まっていた足を再び動かし、歩き出す。


「いってらっしゃい、エミリオ」

「……いってきます」


 いつかここに帰ってくると母に誓い、俺はカルチェラタンの邸を後にした。



 ◇


「戦況は……交戦中か」


 辛うじて動く【ファルドリード】が、外縁部での多脚戦車と……王国の第一王女の戦いを視界に映している。

 やはり、あの仮面の人物は第一王女であったらしい。あまりにあからさまでブラフかと思ったが、使っているのが王国の最秘宝である【アルター】である以上は、本物なのだろう。

 ……今回、皇王からの指示はない。彼女のことは、今の俺の任務には関係ない。

 地上の様子に続き、空を肉眼で見る。

 そこでは、あの煌玉馬に乗った“不屈”がゆっくりと空中戦艦に降下している様子が見えた。

 レーザーが集中しているが、それを何らかの手段で防いでいる。


「……だが、あれではもつまいな」


 あのままでは、限界は近いだろう。

 恐らくは地上の【アルター】同様、空中に上がった“不屈”にもあの空中戦艦を倒す手立てがある。

 しかしこのままでは、それは実現しない。


「MPとSPは残り僅か……、加えて落下による脳へのダメージは未知数、か」


 俺は自身の状態を把握し……。


「問題は、ない」


 ――《マリオネット・スコードロン・クリエイション》を連続起動する。


 街中に数多ある樹木を使い、飛行人形の大量生産。

 ただでさえ脳の計算力を多用する飛行人形に、このコンディションと生産数。


「……ッ」


 脳が悲鳴をあげ、【エデルバルサ】を収めた左の眼窩から血が零れるが……構わない。

 あのまま“不屈”が敗れ、空中戦艦がヒレをばら撒けばカルチェラタンは終わりだ。

 それは、先刻の誓いが許さない。


「限界起動……全機、“不屈”を援護せよ……!」


 そうして、百を超える飛行人形が空へと飛び立つ。


 母への誓いを、未来へと繋げる可能性を守るために――飛翔した。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<明日投稿できるかはまだ分かりませぬがー


(=ↀωↀ=)<次回も近日投稿ですー



( ̄(エ) ̄)<しかしこの元帥、前の「やったか!」といいフラグ立てすぎて


( ̄(エ) ̄)<「お前の方がフラグマンだよ!」とか言われかねないクマ


(=ↀωↀ=)<ひどい

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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍化もアニメ化もしてるし面白い作品なんだろうな!と思い読み始めて、最初は面白かったけど段々面白くなくなってきたけど、なんとか今現在の更新分560話を読み切りました!ツッコミどころ多すぎやし…
[良い点] 果たして…戻ってこれるのか… [気になる点] だいじょうぶ…かなぁ… BlackflagHalberdでなんとかフラグを反転…flagHalberd…お前もフラグか… [一言] お前の方が…
[一言] フラグ立ち過ぎてフラグマンになったわね
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