第三十七話 刃の意味
(=ↀωↀ=)<二百話目ですー!
( ̄(エ) ̄)<今後ともデンドロをよろしくクマー!
■ある名工について
名工フラグマン。
今も先々期文明の物品の多くに遺された彼の名は、先々期文明が隆盛であった頃は大陸全土に知れ渡っていた。
彼の知識と発想は卓越していた。先期文明と接触する直前、先々期文明末期の隆盛は技術革命を引き起こしたフラグマンがいてこそとも言われている。
まるで別の世界から突如としてもたらされたような彼の技術を、どこの国も欲したが、彼は一国の下につくことはなかった。
飼われて作るのでも、請われて作るのでもない。
彼は「自分が研究したいもの」に資金や資材、労働力を提供した国に、その都度研究の産物を提供していた。
戦争で彼の兵器同士が戦うこともよくあった。
各国はそんな彼を独占、あるいはこれ以上新たな兵器を作られる前に暗殺しようとも考えていたが、それは叶わなかった。
むしろ、ツヴァイアー皇国をはじめとした“彼に好意的に接した国”には、彼が作りたいものでなく「その国に必要と思われるもの」を研究して提供していた。
彼が兵器の類でなく、環境改善の設備を作ったのもツヴァイアー皇国が初めてのケースだった。
それゆえ、内心はどうあれ各国は彼と敵対しない方向で付き合っていくことを決めた。
そうして、フラグマンを中心に大陸が回り始めて四半世紀、先期文明の“異大陸船”と十三体の“化身”が出現した。
接触した各国はフラグマンの兵器による先制攻撃を行う。
だが、彼らの文明最大の兵器をもってしても、“化身”には太刀打ちできなかった。
その状況に際し、フラグマンはこれまでとは一線を画す兵器群の開発を決意し、各国は残る力の全てでその製造に着手した。
その理由は大陸の危機ということもあるが、純粋な対抗心が主なものだった。
誰よりも優れた技術を持ち、開発を続けてきた自分。
その自分が作った兵器を鎧袖一触で蹴散らす存在に、勝利したいと考えたのだ。
そうして作られたのが煌玉竜、玉座といった先々期文明最後の兵器群。
それらは間違いなく最強で、“化身”との戦いの前に作られていれば歴史を大きく変えていただろう。
しかし、それでも“化身”には敵わない。
煌玉竜は“化身”との戦いに敗れ、玉座はエネルギーラインの寸断により起動できないというトラブルによって稼働しなかった。
かくして、先々期文明は“化身”との戦いで滅びを迎える。
だが、最後の兵器が敗れた後……文明が滅んだ後に作られ続けた兵器が存在する。
それが対“化身”用決戦兵器。
コンセプトに沿って“化身”の能力を解析し、再現・搭載することで“化身”に対抗する兵器である。
ただし、これらは基礎設計と製造システムこそフラグマンが手掛けたが、あとは自動開発だった。
なぜなら、“化身”の猛攻を前にフラグマン自身も死ぬことを覚悟したからである。
ゆえに、自分が死んだ後にも開発を続ける兵器を遺した。
いつの日か、“化身”を倒すために。
元ツヴァイアー皇国の領土に眠る、決戦兵器三号【アクラ・ヴァスター】もその一つ。
基礎設計とコンセプト、中途までの解析、そして名付けはフラグマン自身が行い、あとは彼の自動機械が作成した。
そこまでは他の決戦兵器と同様だが、この【アクラ・ヴァスター】には一つだけ特徴がある。
それは、ある特定の“化身”への対抗策に特化して設計されたこと。
対象は――“獣の化身”。
異端児……世界の異物と言っても過言でないフラグマンを遇し、大陸の国家で誰よりもフラグマンの才能を認め、彼と本心から家族のように接してくれた最大の親友、ヴォルフガング皇王の仇である“化身”。
【アクラ・ヴァスター】にだけは、“化身”への対抗心と未来の希望だけでなく、人間としてのフラグマンの情感が乗っていた。
◇◆◇
□■カルチェラタン・都市部外縁
下山を終えた【アクラ】は、今は通常の移動速度で南進を続けていた。
上空には【アクラ】の半身たる【ヴァスター】が追随している。
移動速度では空中戦艦である【ヴァスター】の方が遥かに速いはずだが、両機の移動速度に変わりはない。
それは二機一対の性質ゆえに【ヴァスター】が歩調を合わせているからだ。
なお、三百倍に拡大した空間を移動するがゆえに、【ヴァスター】自身も三百倍を移動しなければならないかといえば、そうではない。
《空間希釈》は【ヴァスター】を中心に行われているため、【ヴァスター】の移動は《空間希釈》の前後で変わりない。
また、平時ならば、山中から出撃した時とは逆の合体形態、【ヴァスター】が移動を担当して【アクラ】がそれにしがみつく形で遠距離を移動する。
しかし今は微小とはいえ“化身”の反応が多々あり、《空間希釈》の解除もできないため、戦闘時のフォーメーションのまま移動している。
『――“化身”反応、検知』
そんなとき、【ヴァスター】が自身に接近する“化身”の反応を捉えた。
カルチェラタンからギデオンまでも容易に探査する【ヴァスター】の索敵能力は、三十万メテルの《空間希釈》を通しても相手を探知できる。
そもそも、そうでなければレーザー砲を迎撃兵器として使用することができない。索敵能力の高さは必然だった。
反面、レーザー砲と索敵装置、そして《相互補完修復機能》と《空間希釈》に出力とペイロードの殆どを持っていかれたため、レーザー砲以外の兵器は積めず、本体の防御性能も高くはない。
単独の空中戦艦として見れば強度が脆弱な欠陥機であるが、問題はない。
いくら破壊されようと、【アクラ】が在る限り【ヴァスター】もまた不滅なのだから。
『――目標、高速で接近』
【ヴァスター】の索敵システムは正確に接近する敵の位置を捉え続ける。
その敵手が襲来してきた方向は――。
◇◇◇
□十分前 【煌騎兵】レイ・スターリング
地上の兜蟹をアズライトが、空中の鯨を俺が倒すと誓い合い、俺達は分かれた。
トムさんもアズライトのサポートに回るらしいので、今残っているのは俺とネメシス、それとシルバーだけだ。
「それでレイ。御主の考えておる倒す手段というのは、【黒纏套】のあのスキルであろう?」
「ああ」
ネメシスの問いに頷き、俺は【黒纏套】を翻す。
《光吸収》で光を呑み、そのエネルギーを蓄積する【黒纏套】。
そして、貯め込んだエネルギーを放つのは、元になった<UBM>【黒天空亡 モノクローム】の使ったあのスキル……極大のレーザー光線だろう。
あれならば、恐らくは鯨を落とせる。
「ふむ、たしかに相性は良いな。未だ足りぬ分はあのレーザーを撃たせて吸い、溜めればいい。そして御主の言っておったように、レーザーは距離で威力が減衰せぬから、あやつがいくら距離を広げていても問題ないというわけだな」
「それは違う。あいつに近づく必要はある」
「なんだと?」
俺はネメシスの発言の中で、最も重要な部分を訂正した。
「あいつとの距離は恐ろしく開いてるんだ。ちょっとでもズレれば全く見当違いの方向に飛んで行ってしまう。だから……少なくともあいつが見える位置にまで近づかないと」
体験したトムさんの話では、鯨の周囲は異空間のようになっていて、地上を見ても空を見ても遥かに遠くなっていたという。
トムさんの概算でも、数十万メートルもの距離。
そこまで距離の狂った空間を、あいつに接近するのが最初の課題だ。
「真空には予めシルバーで《風蹄》で空気を圧縮して対処する。【紫怨走甲】のMPも風蹄爆弾や《瘴焔姫》を運用するほどにはないが、相当量の空気を圧縮しておくことはできる」
言うなれば宇宙服のようなものだ。
「真空よりもむしろ、迎撃のレーザーを【黒纏套】と黒円盾でカバーし切れるかの方が問題だ」
「それもそうだが。レイ、御主の案には欠点がある」
「欠点?」
「予めシルバーに空気を圧縮させておくというが、それも有限だ。移動に使えばそれもすぐに底を突いてしまう。真空状態ではまともにシルバーの空中走行は機能せんぞ。【モノクローム】の時も、途中で走れなくなったではないか」
「ああ。だから走らせない」
「ぬぅ?」
俺の考えに、ネメシスが難しい顔をする。
「いいか、ネメシス。今回は、【モノクローム】との戦いのように超音速で上昇し続ける相手を追いかける戦いじゃない」
あの時の障害は、相手が遥か高みにまで移動し続けていたこと。
対して、あの鯨はどうか?
「あいつとの間にはたしかに数十万メートルの真空があるかもしれない。それでも、あいつは千メートル前後の高さにいる」
「数十万メートルが千メートル?」
「距離が狂っているのはあいつの周囲の結界だけで、その外には影響を及ぼしていない」
通常の法則では理解しがたい状態だが、あいつの高度は数十万メートルであると同時に、千メートルでしかない。
だから、【モノクローム】のときには使えなかった手が使える。
「……レイ、御主何をする気だ?」
半ば答えに勘付いたのであろうネメシスの引きつった笑みに、俺も笑みで返す。
そう、俺の答えは簡単だ。
ひどく簡単な方法で、シルバーの移動に空気を消耗せず、かつそれよりも遥かに速く鯨に辿り着ける。
その方法は――、
「――あいつの真上から数十万メートル自由落下すればいい」
鯨の攻撃手段と全く同じなのだから。
◆◇◆
□■カルチェラタン・都市部外縁・上空
『――敵手、直上より急降下』
【ヴァスター】の索敵システム、そして光学センサーは真上から落下してくる黒い塊――レイとシルバーを捉えていた。
『――迎撃』
真空状態での自由落下により徐々に加速していくレイ達に対し、【ヴァスター】は上部のレーザー砲を起動し、狙い撃つ。
索敵システムによって完全に位置を捉えられているレイ達は避けられない。
だが、
『――効果、認められず』
全てのレーザーは黒色――シルバーを覆う【黒纏套】によって呑み込まれる。
幾十ものレーザーが、何の威力も発揮せずに吸収されている。
上方を取られることは、当然【ヴァスター】の死角として想定されていた。
本来は副兵装でその死角をカバーするはずだったが……生憎と開発時間が千年ほど足りていなかった。
しかしそれがなくとも、通常ならレーザーの集中砲火で撃墜できるはずだった。
問題は、レーザーが効かなかった場合。
現実に起きてしまったケースに対処するために、【ヴァスター】の人工知能が演算を開始したとき……。
――敵手、出現
地上の【アクラ】から、そんな情報共有がなされた。
◆◇◆
□■カルチェラタン・都市部外縁・
『――敵手、出現』
南進を続けていた【アクラ】の前方に、九人の人間が立っていた。
「本当に一人でやるのかい? それと、仮面まで外しちゃって大丈夫?」
「……ええ、もう決めたことだもの。それにこの顔について……アナタは気づいていたのでしょう?」
「そりゃあねー。……ていうか気づかないレイ君が変なんだよ?」
「ふふっ、それは本当にそう思うわ」
その内の八人は、【アクラ】も既に交戦経験があるトム。
彼らはトムではない一人を残し、バラバラに散開した。
そうして残った最後の一人は、【アクラ】のログにはデータがなかった。
『――“化身”反応、なし』
最後の一人は化身ではない。
しかし、既に【アクラ・ヴァスター】は人的被害を問わずに“化身”を討つことを定めている。
ゆえに、ただの人間であろうと関係なく、前進を阻むならば蹴散らす以外に選択はない。
『――速度を維持したまま、前進』
ただ、進む。
それこそが【アクラ】唯一にして絶対の武器。
《空間固定》によって得た絶対防御力は、そのまま“ぶつかっても決して砕けぬ”体と同意義だ。
如何なるものであろうと、この強度を越えることはできない。
死を呼ぶ【アクラ】の突進を前に、アズライトは一歩も動かない。
ただ、掌中に【ジョブクリスタル】を握りこみ、
「ジョブチェンジ――【■■■】」
言葉と共に、水晶を砕く。
そうして、【アクラ】の捻じれた棘の如き脚が地を駆け、進路上にあったアズライトの細い体を巻き込んで引き裂く――
「《抜剣》」
――かに思われた。
『――?』
【アクラ】の巨体が過ぎ去った後に、アズライトは立ち続けている。
今しがた絶対強度の脚に巻き込まれたようだったのに、その髪すらも乱れていない。
彼女の違いは、ただの一点。
手にした蒼剣が――輝いている。
『――再攻撃、……エラー』
自身の攻撃失敗を悟った【アクラ】が、その軌道を変更してアズライトに向き直る。
だが、それは達成できない。
反転しようとした瞬間に……数本の脚が断面を晒してその体から剥がれ落ち、転倒する。
『――損傷確認、修復開始』
機械である【アクラ】は、“絶対に破られない”防御が破られたことにも動揺はない。
ただ機械的に、《相互補完修復機能》をもってその足を直すだけだ。
しかしそれは……。
『――修復、不可能』
二度と叶わないことだった。
「その傷は“始まり”」
《空間固定》に守られて破壊不可能のはずの脚が断たれ、万全に修復するはずの修復機能が作動しない【アクラ】に背を向けたまま、アズライトは静かに述べる。
「その傷はアナタを欠けさせたのではなく、足の欠けたアナタこそが“始まり”のアナタになった」
だからもう直らない、と。
修復機能は【アクラ】ではなく【ヴァスター】にあるはずなのに、それすらも超越して傷を刻む……否、「“始まり”を刻み直した」とアズライトは言う。
「この蒼刃に断てぬものなし。
その斬傷に癒えるものなし。
これこそは不可避の“始まり”を刻む刃、……そう」
アズライトが言葉を述べながらゆっくりと剣を振ると、剣閃に合わせて何もないはずの空間が裂けていく。
その常識の埒外の切れ味こそが、アズライトの刃の正体。
即ち、
「――【元始聖剣 アルター】はアナタの全てを斬り刻む」
アルター王国の最秘宝にして、ドライフの【皇玉座】と並ぶ規格外の遺物。
アルター王国の初代国王が振るったとされる、建国伝説の最強剣。
剣にして――<イレギュラー>。
『――【元始聖剣 アルター】、データあり。
――使用者、データなし』
先々期文明から引き継いだデータベースにも、【アルター】の記録はある。
しかし、当然ながら当代の使用者のデータはない。
ゆえに【アクラ】は疑問に似た音声を発し、アズライトはそれに答える。
「私は【元始聖剣 アルター】を手に、彼らと共に先頭に立ち、王国を脅かす力に抗う者」
その言葉は、彼女の意思と決意の表明。
続く言葉は、彼女がこの地上で唯一【アルター】を振るうに足る存在であることの証明。
「私はアルター王国第一王女――【聖剣姫】アルティミア・A・アルター」
それこそは【アルター】を――その名を冠したアルター王国を継ぐ者の名。
アズライト――【聖剣姫】アルティミアは、もはや仮面で隠されていない双眸で、【アクラ】を見る。
残る脚で立ち上がる【アクラ】に向かい合いながら、言葉を発する。
「この名と責務、私の意志は、王国の民を傷つけるものを許しはしない」
蒼刃の切っ先を【アクラ】に向けながら――彼女は不敵な笑みで宣言する。
「――御覚悟はよろしくて?」
To be continued
(=ↀωↀ=)<アズライトは第一王女だったんだよ!
( ̄(エ) ̄)≡・ェ・≡(=`ω´=)<な、なんだってー!?(棒)




