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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第一章 Ordeal of Rookie

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20/724

第十一話 アルター王国の<超級>

(=ↀωↀ=)つ「ブックマーク7000件突破」


皆様ありがとうございます。

段々と評価される緊張に対して胃も慣れてきました。

これからも頑張ります!

□アルター王国<嵐牛亭> 【聖騎士】レイ・スターリング


 ひどい残虐ファイトを見た。

 俺とルークはマリーが卓上に置いた水晶に写される映像を見て、正直引いた。

 まず、鎖の直撃であっと言う間にPKの大半がミンチになった。

 映像だけで音は無かったのだが、それが古い映画みたいで逆に怖い。

 <墓標迷宮>で出会いがしらの一撃を防げていなければ、俺もこのPKと同じ末路になっていたであろうことに恐怖を感じる。

 次にPKクランのリーダーらしきデカイ鎧とフィガロさんが相対し、二人が何事かの話をした後に鎧がフィガロさんの隙をついて攻撃した。

 マリーの解説によると鎧は中々名を知られたプレイヤーで、特に防御力と近接からカウンター気味に放たれる必殺技の威力は抜群だという。

 その解説で少しだけ鎧に親近感が湧いてしまったのだが、直後に惨殺された。

 まず必殺の連打を回避される。

 次に鎖でカメラに映らない高さまで持ち上げられ、落ちてきたところをチェーンソーで血飛沫と肉片を撒き散らしながら……どっかのサメ映画みたいに真っ二つだ。

 チェーンソーであんなことが可能なのかと疑問に思ったが、出来ている以上は仕方ない。

 そのグロ画像は、俺とフィガロさんが戦った場合の未来予想図にも思えた。


「かくして、南に陣取っていた<凶城>は全滅です。復帰してきてもここにはもう手は出さないでしょうね」


 そうだろう。

 南の交通を遮断すれば、またフィガロさんが出張るだろうし。


「今度決闘都市って街に行ったらフィガロさんに御礼を言わないとな」

「そうだの」


 俺はネメシスに話を振ったが、なぜか不貞腐れている。

 ネメシスは、最初から興味なさそうなバビと一緒に食事をしていた。

 食べる量はいつも通り。

 しかしどこか自棄食いのようにも見える。

 なぜだろうか?


「じゃあ次ですね」


 マリーが次に映したのは見覚えのある場所だった。

 俺が始めてレベル上げに使った狩場、<イースター平原>だ。

 そこにもやはりPK集団がいた。

 彼らはカメラにこそ映ってしまっているが、プレイヤーには見えぬように隠れながら獲物を待っている。

 すると王都の方から別の集団が現れた。

 集団の正確な数はわからないが少なくとも数百人はいて、一塊に行進している。

 彼らは一様に“三日月と閉じた目”の模様が描かれた衣服を身につけていた。

 その模様に見覚えがある気がしたのだが、思い出せない。

 突如現れた集団にPK集団は隠れたまま動揺していた。

 すると“三日月と閉じた目”の集団の中から、一人の女性が歩み出てきた。

 夜闇を思わせる黒髪を膝裏ほどの長さまで伸ばし、十二単のような着物を身につけている。

 御伽噺のかぐや姫を連想する美女だった。

 彼女はスッと右手を上げた。

 すると、世界が暗転した。

 寸前までは確かに太陽が昇っていたはずなのに、“夜”になっている。

 突如出現した“夜”には、現実はおろかこの世界でも在り得ない蒼い満月が浮かんでいた。

 直後、蒼い月光に照らされたPK集団が喉を押さえて苦しみだし、動けなくなる。

 すると“三日月と閉じた目”の集団が動き出し、苦しんでいるPKを見つけては次々に殺していく。

 それはもう作業だった。

 何も出来ないPK達を数百人の集団が殺していく。

 しかしそこに例外が現れる。

 月光に晒されても動けるPKがいた。

 狼に似た耳と尾を生やした獣人型の女性プレイヤーだ。

 マリーの解説によればこの狼女がPKクラン<K&R>の二人いるリーダー格の一人であるらしい。

 狼女は猛然と爪牙を振るい、“三日月と閉じた目”の集団を薙ぎ倒しながらかぐや姫に向かう。

 しかしそれは届かない。

 数百という数の差に圧殺され、最後には槍衾になって死んだ。

 かぐや姫を思わせる美女はその光景を見ながら、コロコロと笑っていた。


「この着物の人が<超級>、“月世界”の扶桑月夜ですね。クラン<月世の会>のオーナー……というか教主です」


 教主?

 変な言い方だが、そういえばジョブは【女教皇】だったか。

 いやでも、何か違和感があるような。


「あの、<月世の会>って日本の宗教団体の<月世の会>と何か関係あるんですか?」

「……あ」


 ルークの言葉で思い出した。

 <月世の会>、それは現実に存在する(・・・・・・・)宗教団体の名前だ。


「はい。クラン<月世の会>は宗教団体<月世の会>の一部……いえ今では本部です」

「……何でゲームに宗教団体が進出してるんだよ」

「<月世の会>の教義が「枷に囚われた肉体より離れ、真なる魂の世界に赴く」ですからね。この<Infinite Dendrogram>をその真なる魂の世界だと考えたんじゃないですか?」


 ……この世界のリアルさは俺も分かる。

 五感も、触れ合うティアンの人々も本物同然だ。

 けど……そこまで行き着くか?

 宗教団体に常識を求めても仕方ないのかもしれないけど。


「シンナルタマシイノセカイとやらに赴くのが目的で、<Infinite Dendrogram>に入ったことでそれが成ったと考えているなら……こいつらは今ここで何をしているんだ?」

「ああ、ここだと二つ目の教義がメインですね。たしか「自由なる世界で、己の魂の赴くままに自由を謳歌せよ」とかなんとか」


 おい、どっかの暗黒神みたいな教義だな。


「<月世の会>はプレイヤーの間でも恐れられていますねー。ただでさえ千人を超す破格のクラン規模に加え、現実の宗教団体が基盤であるため「現実でも何かされるかもしれない」って怖さを感じる人は多いです」


 たしかにそれは怖い。

 いきなり拉致されるかもしれないし、俺も関わりたくはない。


「ちなみに今回、東の討伐に赴いた理由は「信徒が<イースター平原>で初心者狩りに遭ったから」らしいです。それで団体総出で殺しに来るんですから怖すぎますよねー」


 ……アルター王国から<マスター>が他国に流出するのって、戦争だけじゃなくてこいつらのせいでもあるんじゃないのか?


 マリーは続いて西の映像を映した。

 そこに映っていたのは初日の宴会にも参加していたチャイナドレスの女性、レイレイさんだ。

 ちなみにこの人、チャイナドレスだけれど顔は北欧系である。兄から聞いた話によれば、どうやらリアルでもそっちの人らしい。

 フィガロさんや扶桑月夜という人も含め「アルター王国の<超級>って衣装が騎士の国らしくないよな」と思わないでもない。

 閑話休題。

 レイレイさんの戦闘はシンプルだった。

 空まで持ち上げて落としてチェーンソーで真っ二つでも、苦しめてから集団で串刺しにするわけでもない。

 近づいて殴る、それだけ。

 一人一人、隠れているPKに近づいては殴る。それだけ。

 ただし結果がおかしい。

 フィガロさんの鎖でミンチになっていたが、こっちはそれどころではない。

 完全に液体・・に変えてしまう。

 あれは人ではなく人の形をした水風船ではないかと思うほど、あっさりと人体が破裂する。

 肉はレイレイさんが触れた瞬間に全て潰れ、残るは血と臓物の色をしたグロ液体とそれが流れ出た皮ばかり。

 皮は吹き飛んで木にぶら下がっている。

 そこかしこに人の皮が張り付いた木が量産される。

 すぐにデスペナルティでログアウトされるので皮は消えるが、一目それを見たらしばらく忘れられない。

 “酒池肉林”のうち、“肉林”の意味は非常によくわかった。“酒池”もあのグロ液体が流れる様を“酒池”と言うのなら納得しよう。怖すぎるけど。

 あの宴会のときは陽気そうな人だったが、戦闘スタイルが本気で怖い。

 ちなみにレイレイさんがなぜ西のPKを殲滅したかは分からないそうだ。

 また、攻撃自体が敵味方を識別していたフィガロさんや扶桑月夜は兎も角、明らかに素手で襲撃しているレイレイさんがどうやってPKを見分けているのかも不明らしい。


 南、東、西と終わって、残すは北の<ノズ森林>のみ。

 俺としては一番気になっている場所だ。

 何せ自分が殺された場所なのだから。


「最後は北ですけど……」


 マリーは何事か悩んでいる。

 これから流す映像に何かあるのだろうか?


「とりあえず再生しますね」


 マリーが操作すると水晶にはあの森林の光景が映し出される。

 時刻は夜間、時系列を考えるとここが一番目だったらしい。

 俺はまだ<墓標迷宮>に潜っていた頃だ。

 しかしPKの姿は見当たらない。

 夜の森林という障害の多い条件ではあるが、それにしても見つからない。

 俺達が水晶越しにPKを探していると――カメラの映像が途切れた。

 すぐに別の映像に切り替わるがそこの映像もすぐ途切れる。

 次のカメラは森の中ではなく、俯瞰で見下ろすような角度。

恐らく城壁に設置されたカメラの映像だろう。

 それは森で何が起きているかを伝えてくれた。

 <ノズ森林>は次々と飛来する砲弾によって爆裂し、降り注ぐ“焼夷弾”によって炎上している。

 まるで戦争映画から切り取ったような光景。

 そのまま誰の姿も映ることなく、森が焼け落ちていく光景だけで映像は終わった。


「あの、これって……何でしょう?」


 ルークが尋ねると、マリーは困ったように笑いながら答える。


「あはは……“正体不明”【破壊王】と、同じく正体不明のPK――通称<超級殺し>――の戦闘映像、です……」


 マリーは自分で口にした言葉に自信がなさそうだ。

 それはそうだろう。PKの姿は映っていないし、それを殲滅する【破壊王】の姿もない。これではただの環境破壊だ。


「……姿が見えないならこれをやったのが【破壊王】とも限らないんじゃないか? PKも姿が見えないから、その<超級殺し>じゃないかもしれないし」

「そうなんですよね。<超級殺し>は得た情報からほぼ確定なのですけど、【破壊王】には決定的な確証がありません。破壊の規模から【破壊王】と推定してるんですけど。そもそもこの【破壊王】自体が情報露出の少ない人でー……」


 ああ、戦争参加拒否の理由も「目立ちたくないから」だったらしいからな。

 森一つ燃やしておいて「目立ちたくない」も何もあったものじゃないとは思うが。


「あ、でも【破壊王】は“戦艦”の<エンブリオ>を使うって噂があってですね。ここ! ここ見て下さい!」


 そう言ってマリーは映像を停止した水晶の一箇所を指差した。

 燃える森林の向こうに、夜闇にまぎれて巨大な黒い影があるように見える。

 それは山にしては稜線が鋭角で、見ようによっては巨大な戦艦にも見える。


「戦艦の<エンブリオ>なんてあるんですね」


 ルークはそっちに驚いていた。

 俺は兄の戦車という前例を知っているのでそういうケースも想定内だ。

 むしろ扶桑月夜の<エンブリオ>に驚いた。あれは多分、“夜”が<エンブリオ>だ。


「しかし、これだけ大規模にやらかしたら、北のPK……<超級殺し>以外にも被害出たんじゃないか?」


 これで関係ないプレイヤーがデスペナになったりティアンが死んでいたら……。


「ああ、それは大丈夫でしょう。PKが出るので往来もほとんどなかったそうですし……、そもそも【破壊王】だって他者を巻き込まないのを確認したからこれだけ派手にやったんだと思いますよ」

「なるほど」


 あるいは、誰も巻き込まないのではなく、誰も見つからなかったから森ごと燃やしたのかもしれない。

 ネットを見る限り、<超級殺し>とやらは俺以外誰も目撃していないほど隠れるのが上手いらしいし。

 そういえば<DIN>はどうやって北のPKが<超級殺し>だと断定できる情報を掴んだのだろう。


「ちなみに、【破壊王】が<超級殺し>を襲撃した理由は?」

「それがさっぱりなんですよねー」


 マリーはまたお手上げの姿勢をとる。


「【破壊王】は元々各国で事件の中心になることが多いプレイヤーですが、その正体や事件に関わった理由は殆ど知られていません」

「それで“正体不明”なんですね」

「はい。今回の件にしても何であんな大破壊をやったのかがもう全く不明で……」


 ……何か気に食わないことでもあったんだろうか、【破壊王】。


「でもこれだと北の情報ってわからないことが多すぎますよね? 他の場所と比べて情報としてどうなんでしょう?」


 ルークの言葉に俺も同意する。

 一律600リルだったが、ここの情報もっと安いんじゃないだろうか。


「うっ!? そう言われると……あ! でもここの情報はちょっと違うんですよ!」

「と言うと?」

「驚きの追加情報があってですね……なんと<超級殺し>はこの砲火の中から生還しているんですよ!」


 その言葉に、


「――ほぅ?」


 これまであまり水晶に興味を持たず、バビと一緒に飯を食っていたネメシスが反応した。

 俺は、ネメシスがなぜここにだけ反応したのか分かる気がした。

 むしろさっきまでネメシスがあんな態度を取っていた理由も理解できた。

 PKが全滅したと聞いて悔しかったのだろう。

 倒すと誓った相手を、横から掻っ攫われたのが気に食わなかったのだろう。

 俺もその気持ちはあった。

 だが……。


「それは朗報だのぅ」


 奴は生きていた。


 To be continued


次の投稿は明日の21:00です。


(=ↀωↀ=)<世の中には迷惑な<マスター>がいるねー


( ̄(エ) ̄)<PKはメイワクだクマー

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― 新着の感想 ―
ふーん…破壊王とやらは、何故森を燃やしてまで超級殺しを潰そうとしたのでしょう…理由がよく分からんのですよねぇ。もし仮に、破壊王の知り合いがPKされた報復だとしても、所詮はゲームですし…疑問が尽きません…
ウワァ……………。レイレイさんを除き、参加出来るスペリオルが2人だったとしても戦争は騎士国側が防衛して目標達成による勝利で終わってたんじゃね?と思わせてしまう程に圧倒的だな
[良い点] 破壊王、どこのクマニーサンだ...
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